Rainbow Bird
優
第11章 空
風が頬を撫ぜて吹いてゆく。
眼下には、遥かに広がる大地が見える。
ここはホワイトウィンドの狭く小さな生活空間。
ホワイトウィンドにはあとコックピットとエンジンルームがあるばかりである。
円い窓を斜めに開けば、心地よい風がそこから流れ込んでくる。
「ね、ラレア」
「なあに?」
「あたしさ、ロイが妖精だったなんて知らなかったよ」
「妖精の親戚がいるらしいってことはわかってたんでしょ?」
「そうだけどさ」
レッジはうつむいた。
エンジン音はほとんどしない。生活空間は意外に静かである。
風の妖精なだけあって、ラレアは風を受けて、いつもよりいっそう、輝いて見える。
「妖精って、結局なんなの?」
「『力』を使えたら妖精だ、って私は考えてる。けど、人によっては違うみたいよ。『力』が使えなくても妖精の親戚がいれば妖精だ!って人もいるし」
「わからない」
レッジは頭をふった。長いみつあみが、揺れる。
「『ナイト』とか『特別』とか・・・・。ロイがジジの孫だって時点で気がつけばよかったわね」
ラレアはぽつりとつぶやいた。
「どういうこと?」
「・・・・・・レッジ」
ラレアはなんとも言えない悲しそうな瞳でレッジを見つめた。
「レッジはレインボーバードの羽根を運ぶのよね?」
「うん。お兄ちゃんに!!」
レッジは瞳に決意の色を燃やして答える。
「お兄ちゃんに、渡すのよね。そうよね!!」
ラレアはうなずいた。
「と・こ・ろで!」
レッジは考え込んでしまったラレアに大声で呼びかけた。お得意のオペラ歌手なみの大声で。
「み、耳がいたいわ・・・・」
「フクロウレルってさ、ラレアのおじさんだよね?」
レッジ、ラレアの言葉も気にしない。
「そうよ、フクロウレルおじさまは、私の伯父さまよ」
「んじゃさ、なんの妖精なの?」
ラレアは一瞬眉をひそめた。
「なんで?」
「だってさ、ラレアは風の妖精で、石の『力』に弱いんでしょ?フクロウレルは学院の人たちを石にしてたじゃん?」
「ああ、伯父様はね『愚者』の妖精なのよ」
「へ?」
レッジは思わず間抜けな声を出してしまった。
「伯父様の『力』は普通の妖精の『力』より、よっぽど強いはずよ。女神様よりも強いかもしれないぐらい。なんたってふくろうなんだから」
ラレアは力説する。あの白い偏屈ふくろう、フクロウレルは意外にすごいようだ。
妖精の『力』はレインボーバードの『力』から生まれているという。
そのレインボーバードにより近い形なのだから、『力』もより強力なのだろうか。
「けどね、伯父様は『愚者』だから・・・・・・」
ラレアはうつむく。
「なんなの?」
レッジは陰のかかったラレアの顔を心配そうに覗きこむ。
「なんでも知ってるけれど、何も知らない。・・・・難しいことを考えると、眠っちゃうのよーっ!!」
「はあ?」
「難しいこと、例えば“自分はどうしてここにいるんだろう”とか、“人類はどこからはじまったのだろう”とか。そういうことを考え出すと、もう、『愚者』の『力』は自動で睡眠状態になっちゃうの」
『愚者』じゃなくても眠くなりそうだよ、と、レッジは言いたかったが、ラレアがあまりに真剣に嘆いているので、言うのをやめておいた。
「『愚者』は『運命の輪』を回すんだそうよ。伯父さまはいっつも言ってるわ」
「なんだろうね。それ」
「私もわからないわ。伯父さまのいうことは」
なんとなく納得した、レッジであった。
☆ ☆ ☆
その頃。
ロイとジィンクはコックピットにいた。
「いいべなぁ、ジィンクは飛行艇運転できて。俺なんかは牛車ぐれぇだんべ、運転できんの」
「そうだろ、そうだろ?飛行艇は男の浪漫だよな」
得意げにジィンクは笑う。
「これって、どうゆうしくみで動いてんだ?」
「これはな、まあ、オレの愛情と根性で動いてるんだぜ」
実際、この飛行艇の動力はジィンクの『力』によるところが大きい。
「俺も運転してみてぇなあ。いいべなぁ・・・・・」
ロイはうらやましそうに目を細めた。
コックピットはロイには到底わからない機械類で囲まれている。
目前の幅広い窓からは、真青な空が見えている。
「やってみっか?」
「いいべか?!」
「いいべ、いいべ。やってみー」
ジィンクはいつのまにかロイの言葉がうつりつつある。
ロイはドキドキしながら操縦桿を握り締める。
ズンッと重力がかかったような気がした。まるで、あの幻の剣や盾を出したときのような感覚だ。
「感じるか?それも『力』だ」
ジィンクは低い声で告げる。
「・・・・こ、これも?」
「すごいだろ、意外とさ。使い方によるんだよ、『力』ってさ。少なくとも俺はそう思ってるぜ。そりゃ、『人』も恐れるわけだよな」
「そ、そういうもんだべか?」
「ああ。そうそう、お前は『ナイト』の妖精だから、本当は俺なんか比べ物にならないぐらいの『力』を持ってるんだぜ。ただ、使うチャンスがないだけで」
ロイはあの時のこと―――兵士を殺してしまったときのこと――を思い出して、眉をひそめた。
あんな思いをする『力』なんか、欲しくない。いらない。
そう叫びたかった。ロイの顔色が青くなったのを見とって、ジィンクは運転を変わった。
「わかんねぇもんだよな、『力』ってさ。どこから生まれて、どこへ行くのか、もな」
ジィンクのつぶやきにロイは無言でうなずいた。
ただ、彼にできることはレッジを『守ラナキャ』ということだけだ。
「なんかさ、ほんっと、わからないことだらけだね」
レッジはラレアのいれた紅茶をすする。なかなかに優雅な時間である。
「そうね」
ラレアはうなずく。
―――わたしにさえも、わからないことだらけだわ――――
「これをさ、お兄ちゃんに届けるのはいいけどさ、お兄ちゃんは何に使うんだろう?」
レインボーバードの羽根を取り出して見つめる。七色の輝きはまったく、あせる気配がない。
レッジはハンスが自爆してしまったときのことを思い出していた。
レインボーバードの羽根。これを使うと「力」を集めることができる?
そんな『力』を女神の塔で使ってどうするのか。
「レッジ・・・・・・・」
ラレアは少し複雑な表情をしている。
「もうすぐ、お兄ちゃんのところに着く。そのとき全部がわかるのかな」
すべてを知るときが、もうすぐ来ようとしていた・・・・・・・。
挨拶
さて。『鳥の尾の島』編がはじまってしまいました(爆)
ちょっと短めだったかも・・・(汗)
これから、謎が謎を呼び終結へ〜〜〜?
話が、展開が、すべてが、ここからものすごく急になってまいります。
さらに、ここから、世界が変わる・・・・かも?(爆)
次にゃ、懐かしの人々が登場してきたり、こなかったり・・・・・♪