truth&sincerity
トゥルース&スィンセラティ
第五拾話『最期の願い』
一面に広がる荒野。
戦っていた王も、村も、炎も……オメガも…
何もかも無くなった世界。
あぁ、私はなんてことをしてしまったのだろう…
何も…何もなくなってしまった…
この世界には私しかいない。この二本の剣しかない。
全て私が壊した。消した。亡くした。
全て…全て私が…っ!!
「う…うっ…」
そんな事をしても誰も構ってくれない。何もなりはしない。
何も戻ってこない。
解っていても声と涙は押さえられなかった。
空はそんな私をあざ笑うほど青く…澄んでいた。
カランッ
泣き崩れた私の手に一本の剣があたった。
私の剣…最期の闇
私は何も考えずにその剣を持って立ち上がった
オメガの持っていた剣とは正反対の毒々しい黒い光を放った刀。
そう。私の心を映しているようだった…彼の剣が彼を映したように
オメガ…私も連れて行って…そっちに
こんな世界で一人生きていくなんて辛すぎる…
だから私も…今からそっちに行くわ
かつてのオメガがしたように、私は目を瞑り、自分の剣で自分の身体を貫いた
不思議と痛みは無かった…
痛み無く貴方の元に逝ける…
瞳を開けると、そこはさっきと変わらぬ荒野だった。
とてもじゃないけど自分が死んだとは思えない
どうして…?
ど………し…て…?
私は死ねないの?
「そう、貴女は死ねない」
いや!私は死にたいっ!こんな所に一人で居るのはもう嫌!
「いいえ。貴女は死んではいけない」
どうして!?
「死ぬことは許されません…貴女にはまだ罪を償ってもらわなくてはいけないですから」
死ぬ…こと…すら…許され…ないの………
「それは貴女の我侭です」
どれだけの時間をこの荒野で過ごしたか…
時など既に私の中に流れていない。そう、ここはあの永遠の牢獄と同じ…
『やってくれたわね』
私はこんな場所で何をしてるんだろう…
『人の話聞いてるかしら?』
死にたい…辛い
パンッ!!
乾いた音が荒野に響いた。
誰かが私の頬を叩いた。
でも…私の瞳はまだ虚ろのまま
『こんなんじゃ償いにもならないわね』
冷たい言葉が私に突き刺さる。
と、いきなり視界がぐるりと変わって…私の目の前には灰色の髪の女性が居た
彼女が私の襟を掴んで無理矢理自分のほうへ向かせたのだ
自らの腹心である四神を裏切り、光の民と敵対する闇の民の守護についた神…いいえ、創造神黄龍。
『人の話。聞いてるの?』
「う…ぁ…」
すでに私の声は出なくなっていたけれど…彼女は何を言ったか解ったように襟を放し、あたりを見回した。
『いつかは壊れると思っていた世界だけど…こんなに早く壊れるとはね…予想もつかなかったわ……』
そこまで言って彼女はちらっと私の方を見る。
『貴女は…この世界を元に戻す気はある?それとももう心が死んじゃってる?』
「ぁっ…ッッ!!」
自分では叫んだつもりだったが声は全く出ていなかった。
でも彼女はさっきと同じように何もかもわかった顔をして言った。
『じゃぁ戻しましょう。』
「!?」
そんな事ができるの!?…私は瞳でそういった。
すると彼女は私の刀…最期の闇を持ち出した。
『最期の闇…貴女はこれの本当の意味を知っているわね?』
こくんと私は頷いた。
『ならそれを使いなさい…私が術を使い始めたら………ただし条件があるの』
今度は首を傾ける。
『貴女は…自ら再び永遠の牢獄に入れる?自分の意志で…』
…。
私から向こうは見れても…向こうからはこっちが見れない…。
ただ見てるだけの残酷な世界…だけど。
しばらく間を開けてから…私は首を縦に振った。
すると彼女はふわっと…やさしすぎるぐらいの力で私を抱きしめた。
『ごめんなさい…本当ならこれはあなたのせいではないのに…貴女に何もかも押し付けた……私はあなたたち人間を…暇を持て余す道具にしか見てなかった……。 だから、こんな無責任な事態を起こしてしまった…』
創造主は四神のいる光の民に対し、不利である闇の民を同等の力を与える為にこちらについたという…だがそれは逆に戦乱を引き伸ばせた事になる。
自分の創造物に対する愛。
私には…勿体無いものだった……だから私は彼女の身体を押しのけた。
押しのけられた彼女は嫌な顔も嬉しい顔もしなかった
ただ心の無い笑みだけを浮かべていた。
『………光よ』
ぱぁっと彼女の足元が光った
私はそれを確認すると闇の剣を握った。
息を整え…全身全霊の力を剣に送り…そして…
私が判断を誤った故に世界は一度滅び…そして闇の民は消えた。
私はその罪を償わなくてはいけない。
さっきみたいなくらい気持ちはもう無かった。
私の生み出した心の歪みがここ"永遠の牢獄"
もう二度とここから出れない…だけど不思議とあのときのような『死を願う気持ち』は無かった
永遠に…何も変わらぬこの世界で生きていく…どんなに辛くても…世界が戻って…皆が幸せに居られるならそれでいいと思った…そうよね?…オメガ
でも、その事件。食炎から500年経ったその日。
思いも因らない出来事が起こった。
……永遠に開かれる事の無い牢獄は開かれてしまったのだ…
再びあの人の手によって
「あの人?」
そうよシータ…貴女の知っているあの人
オメガと同じ力と外見を持った…
ガンマ=インセクト=タグフォード
ガンマは突然…大陸の中心にある社の前に現れた。
「あなた…私が見えるの?」
牢獄の中にいる私に向かってそっと微笑むあの人と同じ顔の人。
「出ておいでよ。一人じゃ…寂しいだろう?」
そっと私に手を伸ばす。
そう、私は寂しかった…だからつい手を伸ばしてしまったの…
過ちを償う事も忘れて…
「これで一部始終話したかしら?」
「うん…」
「解った?…貴女の母親は最低なの…そして私はまた罪を犯してしまった…」
「え!?」
「貴女や…エータ…そしてガンマをここにつれてきてしまった事…」
お母さんは目を瞑って顔を下げた。
「黙って家を出ていったのが悪かったのね……でも、私はいつまでもあそこに居てはいけなかったの…私は幸せになってはいけないの…」
「お母さん…」
「幸せになってはいけないのに…今私は娘と再会してしまった…この上なく幸せなの…でも…」
「苦しいほど辛い事…だって…貴方達もここから出れなくなってしまったのだから」
お母さんは顔を上げた…涙を流していた。
「お母さん……」
「ごめんなさい…最後の最後まで迷惑かけて…あなたたちまで私の罪を……」
「違うよお母さん!!」
私はお母さんの肩を掴んだ。娘の私がこんな事をするのは変かもしれないけど…
「私も幸せだよ!会えないで一生を暮らしていくより…会えて死ねなくなるほうがマシ!寂しかったんだもん…お母さん…」
「シータ………ごめんね…置いていって…」
お母さんは優しく私を抱いてくれた…子供をあやすように
「シータ……私の最期のお願い聞いてくれる…?」
「…?」
私は涙で塗れた瞳でお母さんを見つめた
「私を…殺して欲しいの」
「なっ!?」
反論する前にお母さんは私の口に人差し指を当てた
「ここから皆を出すにはこの手しかないの…この最期の闇で私を貫いてくれるだけで言いから…」
お母さんの手にはいつの間にか『最期の闇』が握られていた
『貫いてくれるだけでいい』
それの何処が「だけ」なのだろうか?
そんな事出きる分けない…私は首を振った………横に
「シータ…お願い…」
「駄目だよ…私には…出来ない…」
「私は自分では死ねないの!!だからあなたに頼むしかっ!」
「なら死ななけりゃいいの!ここでずっと生きていればいいの!!」
私の台詞にお母さんはとても驚いた顔をした…
顔を伏せ、何も言わなくなった
少し間を開けてお母さんが顔を上げた
とても怖い顔だった。いたずらをした子供を怒る直前のような顔
「なら仕方ないわね…コレは…言いたくなかったのだけど…」
「…??」
お母さんが不意に横に身体をずらした
さっきまでお母さんの居た所の後ろには…ゼータが虚ろな瞳で立っていた
「ゼータ?…どうしたの??」
肩を掴んで揺すってみるが全く反応が無い
「何をしても無駄よシータ」
「…お母さん?どうしたの…ゼータは…??」
「そう…その子、ゼータって名前だったのね…」
お母さんはゼータの肩に手を置いて…何かを躊躇っているように口をもごもごと動かしていた
それから少したって…ようやくお母さんが声を出してくれた…
「『ゼータ』はね。私が創り出した感情の塊なの」
「……え……??」
「貴方達から離れて…私はここに来たとき、とてつもない寂しさを感じたの…今まではなんとも思わなかったのに……一度優しさに慣れてしまった私には一人でいる事が耐えられなかったの……」
「……………。」
「貴方達に会いたい…そう願ううちに私の感情の一欠けらがこの空間の外に出てしまったらしいの…無意識に使った闇術のせいで…ね」
「そん…な…ゼータが………お母さん?」
「いいえ。彼は私であって私ではないの…彼に私の感情、感覚は無いし…私にも彼の感情や感覚が無い。だけど…効して同じ空間にいると彼の感情は私に吸い取られてしまうらしいの…それで今、こんな状態になっているというわけ」
「………う…そ…」
「嘘なんか言って何になるの?…これは本当よ。
それに…早くしないよゼータの感情が全て私に吸い取られ、二度と『ゼータ』と言う人物とあえなくなるわよ?」
「ど、どうすれば!!」
「そんなの簡単。今すぐ私を殺せばいいの…ここは私の心の歪みから出来たのだから…私が死ねばこの空間は消え、ゼータにも私の感情が全て流れ込み、完全な"人"となる事ができるの…
だから…私を殺しなさい」
そんなの…無理だよ…無茶苦茶だよ
お母さんとゼータのどちらかを選べなんて出来ないよ!
頭の中で葛藤している私に…お母さんは最期の闇を持たせた
とても…とてもおもい刀…今で何度もこの剣を持った事があったのに…
こんなにおもいと思ったのは初めてだった
「シータ……お願い」
「そんな…無理…むりだよぉ…」
ぼろぼろと流れる大粒の涙は果て無き空間へと消えていく
その場から動けないのに刀を握る力だけは徐々に強くなっていった
「解ったわ…シータ…ごめんね…私が悪かったわ」
「お母さん」
「ほん…と…う………に……」
抜き身の剣を持ったままの私を、お母さんは抱きとめた。
私とお母さんの体の間には、生温かい液体が伝ってくる剣の柄とそれをもった両手だった。
「何してるんだよ…おや…じ…」
「見てわからんか?…自殺」
親父はオレの目の前で…『希望の光』を自分の腹に突き刺した。
紅い…紅い液体は白い世界に色を染めることなく吸い込まれていった。
「何で…なんでそんなことするんだよ!!命無駄にしてんじゃねぇ!
年食っててもまだ死ぬような年じゃねぇだろ!!」
「それ…は誉め言葉…と…して受け取って…おこう…ハァ…」
崩れ落ちる親父を支えようと手を伸ばした瞬間。空間がゆがみ始めた。
「な、…なんだ!?」
「やはりな…シグマ…お前も同じことを考えていたか」
「なんだよ!何一人で納得してるんだよ!!」
ゆがんだ空間の中オレは必死に手を伸ばしたが…どうしても後少しと言うところで届かなかった。
「…と…父さん!!」
「いつ死んでも良いとは思ってたが……一つだけ心残りがあるな…」
「何言ってるんだよ!まだシータに回復魔法を頼めば助かるかも…ッッ!!」
「………お前の嫁さんを見てみたかったな…シータの旦那は見たくないけどな」
オレが手を伸ばしても届かなかったのに…父さんの伸ばした手は簡単にオレの頬を撫でた…流れる涙をふき取るように
泣き叫ぶオレとは対照的に…父さんの表情はとても穏やかな笑みを浮かべていた
「……いい嫁さん見つけろよ。父さんが…母さんを……見つけたように…」
たとえ…シグマがオレでは無く…オレの中のオレ
私はずっと悩んでいた
私はずっと止まっていた
私にはとても抱えきれないほどの多過ぎる荷物を持って
ここに立ち止まっていた
『月峰』と言う置物
『闇の民』と言う鎖
『命』と言うビン
『償い』と言う首輪
全部持って進まなくてはいけないのに
それらは重すぎて動けない
蹲って
這いつくばって
その場から退こうとしても
それらは体の自由を奪った
そんな中で…私は『ガンマ』と言う人を見つけた
私の荷物を一緒に持って進んでくれた
共に居てくれた
決してそれは『オメガ』と同じと思ったわけではない
声・格好が似ていても
全くの別人だと言う事はちゃんと認識できていた
だけど私は彼から荷物を奪って彼を突き飛ばした
二度と私の元へ帰ってこないように
二度と"重い思い"をさせないように
大切なものだからこそ大切に扱った
なのに…あなたは帰ってきてしまった
嫌だった
あなたが帰ってきたことに対して
とても…嫌だった
自分が
私は一人でしなければならなかった事を
『オメガ』に対する『償い』を
事もあろうか『オメガ』と同じ顔をした者に背負わせてしまった
私は馬鹿だ
大馬鹿者だ
こんな立場になってさえ
この事態を喜んでいた
心の奥で
私はやめた
歩く事を
背負う事を
全てを放棄した
例え私が煉獄の業火に焼かれようが
地獄に堕ちようが
あの子達の為なら
あの子達が助かるのなら
私はなんだってする
それが自らの"死"であるならば
願ったり叶ったりだ
それが全てを裏切る事になろうが
オメガ
あなたを裏切る事になってしまっても
ガンマ
"こんな私を…もう一度叱って…ね"
―最期の闇
その名の通り闇の力が世界を食らうことがあったときに闇を消滅させる刀
"望み"と言う未来のある光とは対照的に未来を無くしてしまう力
普通ではない闇の力ゆえの能力かもしれない
その剣には記憶操作の力もあり、消えてしまった闇は永遠に『最期』とさせてしまうため
闇に関わった全ての人のその記憶を消してしまう事が出きる
真実と信実の章 第五拾話 END
作者の後書き
…終わりました。
年内終了達成できました…(只今2001/12/12 0:38〜)
バッドEDです。でもこの話はずっと前……三〜四章の時から決まってました…だから弐章とは微妙に辻褄合いません(汗)
ごめんなさい…
あまりここでは多く語りたくありません。
一応総合後書きを用意する予定なので…なかったらなかったのときなんですけどね
それでは一年と半年足らず…このtruth&sincerityをご愛読してくださった皆様。
本当に有り難うございました。
それでは終章に続きます…
水浅葱 木賊