truth&sincerity
トゥルース&スィンセラティ

 

第四拾七話『迷いは永久に…』

 


  

 

セッドと解れて数十分歩きつづけると目の前の森が開けて……湖が見えた。

「綺麗な湖ね…こんな大きな湖、見るの初めて…」

 

海のような湖、向こう岸がぼやけて見えないほどだった
もうしばらく歩くと…赤い…門みたいな物が見えた。なんだろう?

これこれがセッドの言っていた湖なのでしょうか? 続いて見えたのがこの赤い門。見たことの無いものだった
確かセッドは"やしろ"に行けといったけど…実際のところ私たちは"やしろ"を知らない。もしかして…これが…社?

 

「鳥居。」
「え?……ゼータ?」
「これは"鳥居"って言うんだよシータ。鳥居があるって事は…社ももうすぐか」
「し、知ってるの!?」
「あ、そうらしい…ね」

ゼータが苦笑いをして手を頭の後ろに回した。そうか、ゼータはエターナだもんね…このぐらい知ってて当然か……"鳥居"って"社"の近くにあるものなんだろうか…う〜ん文明の違いって難しいわね。それにしてもこれ、何のためのものなんだろ…

 

「あ、あそこにあった」
「お、おい!待てよ!」

ゼータは一人で小走りに歩いていく。何かを見つけたみたい……

ゼータが向かった先には小さな家の形をした建物。これもやっぱり見たことの無いものだった。白い布をぐるぐる巻きにしたものに鈴をつけて扉の前にぶら下がっており、その下には何か字が書いてあった。読めない字のうえ、ホコリや砂などで原型を留めていない

これを読むと言うのは…この字を知っている人でも難しいと思う…多分

…とりあえず無私ね…うん、もとい無視無視…

 

「これが…"社"?えらくちっちゃいね…」
「社なんて皆こんなもんだよ。」
「そ、そうなのか?…でも、これがもし"社"なんだったら…父さんの母さんは?」

 

そうね……こんなちっちゃい建物の中に人が入るスペースなんて無いし、セッドは何を伝えようとしたのかしら?そもそも、コレは何のために作られたものなのかも知らないし…

 

「コレはね…もともとは神を祭るものなんだ…」
「神…様を?と言う事は…黄龍?」
「そうなるのかな?そこまでは解らないけど……これは違うみたいだ」

「違うって…神様を祭らないの?」

 

ゼータの矛盾した発言。神を奉る為に作られたのではなかったのなら…何を奉ったのでしょう?ふと、扉が目に入った…これって開けれるのかしら?

 

「ゼータ。これって…開けれるの?」
「あぁ、本来ならその場所に"神様"の像とかが有るんだけど…ここは何故か変な感じがする……開けないほうがいいかもしれない」

「…でも、セッドはこれで何を語ろうとしたのか…開けなきゃわかんねぇんじゃねぇのか?」
「確かにそうだけど…」
「あーもう!ハッキリしねぇな!!」

 

だんだんとオレはゼータの煮え切らない態度にイライラしてきた。まぁ、たしかに変な感じがする…"感じ"だけで物事を決めることはオレだって良くあるが…セッドがここだと言った以上。これを開けるしか道は無いんだ。

 

 

 

 

引き返しなさい

 

 

 

 

不意に、ゼータの体がビクリとして背筋がピンと張った。目は驚きで見開いて…頬を汗が伝う。口がパクパクしていて……何かに怯えているとも感じられた。

「ゼータ?」
「引き返せ…」
「???」

ゼータの口からその言葉だけがポツリと呟かれた。

「誰かが…引き返せって言ってる…」
「…?オレには何も聞こえないぞ?…シータは?」

シータにも念のため問うが、シータも黙って首を振るだけだった

「駄目だ…これを開けちゃいけない」
「何言ってるのよゼータ。…そんなに怖がる事は…」
「ど、どうしたんだよ急に…」
「これを開けると恐ろしい事が起こる!俺たちは……っ!!」

「ゼータッ!!」

 

ゼータは完全に取り乱していた。オレはゼータを落ち着かせるために、一度その辺に転がっていた手ごろなサイズの石に腰掛けさせた。ゼータは顔を手で覆っている。……その手からは汗が流れ落ちている……一体何があったんだ?

 

「落ち着いた?」

 

手に水を持った…そこの湖で汲んだのだろう…シータはその水をゼータに渡した。ゼータは一言礼を言うとそれを一気に飲み干した。どうやら少しは落ち着いたようだ。

 

「何があったんだ?」

単刀直入。

「俺にもわからない…だけど、声を聞いたんだ…」
「声?…どんな?」

 

俺の質問にゼータは首を振った……「わからない」か…

 

「ただ一言…「引き返せ」って…」
「セッドが言ってた「生きて帰れない」ってこれの事なのか…?」
「解らないけど、多分そうだと思う」

「だったら関係ねぇじゃねぇか」

 

ふっと顔を上げたゼータを、思いっきり見下ろしてオレは言ってやった。

 

「あの地点で死ぬ覚悟は出来てるんだぜ?オレはな」
「エータ…」
「ゼータ…お前はオレの両親とは関係ない。今ならまだ引き返せる…お前は死ぬ覚悟でオレの親を探す必要なんて無いんだ……辛いんならこなくても良いんだぞ?」

「…………」

 

ゼータは俯いて考え出した…まぁ、命にも関わる事だし…ゆっくり考えて欲しいものだ。一方シータはどうだろうか?…親と言ってもシータだって命は惜しいだろうし…まぁ、オレだって惜しいけどさ。オレはちらっとシータを見た。

 

兄さんが私のほうを向いた…今までの話の内容からして「お前は?」と言う質問でしょうが…聞くまでもない事を…私は口を「笑み」の形に歪めて頷いた。すると、兄さんも頷いてくれた

そのとき、ゼータが顔を上げた。結論は…決まったみたいね。
その表情は…笑み。

 

「俺は約束した…これは、命に代えても守らなくちゃ…いけないことだ」
「本当にいいのか?」
「俺は…もう迷わないっ」

まだ不安はあるが…でも決意は固かった。それだけで…十分。

 

「それじゃぁ、やるか!」
「お父さんと、お母さんに会う為だもんね!」
「嘘吐きは森族の始まりだからなッ」

 

三人の笑顔はとても大きな励ましの贈り物
何回もの決意と何回もの迷い。決意をしても、迷うものは迷っちゃう。誰だって一緒。だから、ゼータも次にいつ迷うか解らない…ゼータだけじゃない。私だって迷うかもしれない…だけど、皆がいれば…どんなに迷っても結論は一緒だと思う…
何回でも迷っていいよ。人間ってそう言う生物だもの。迷って、迷って、そして強くなる
でも、迷って道を完全に失っちゃぁ強くなるどころか弱くなってしまう…だから、みんなの力が必要なんだと…皆がいるから道に迷わないんだ…
何回でも迷っていい…だけど、私たちを失わないで欲しい…願いは…

それだけ

 

「それじゃぁ……開けるよ」
「おうっ!準備は完了だ!」
「ドーンとあけちゃってっ!」

 

 

 

引き返しなさい…じゃないとッ!

 

(すみません…声の人)

(俺、もう決めたから…約束守らなくちゃいけないから)

 

(もう、引き返せない…引き返さないんだ)

 

 

 

 

引き返しなさい!!

 

ガチャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗。何も見えない。立っているのか座っているのかも解らない…風邪で高熱を出した時なんか…良くこんな感じになるな…頭がくらくらしてくる…気持ち悪い…

気持ち悪くって、薄れ行く意識を必死に保って…私は寝ているか座っているか…立っているかの足を意識して踏み出そうとした。

一歩、また一歩

歩く事がこんなに辛かったなんて…。私は意識して歩きつづけた…自分の体が無いんじゃないかと言う感覚にまで囚われかけたが…必死に五感を取り戻し、歩いた

一歩、また一歩

 

歩いているうちに段々なれてきたみたいで…ようやく"自分"という存在が確認できた。意識してなければ私で無くなるこの空間……私は何故ここにいるのかな?

 

記憶を戻してみる。…あ、そうか…私たちはあの社の扉を開けて…それからここに?
と言う事は…私たち…死んじゃったのかな?
兄さんたちは何処に言ったんだろう?

……何も無いところね…

 

「だから引き返してっていったのに…」

 

何も無いこの黒い空間に…声が響いた…誰の声だろう?
何故か…凄く懐かしい………

「シータ…」

 

誰?私の名前を…呼ぶのは…その声の…主は…

声が、その声が心地よい響きだったので…私はつい意識を飛ばしそうになっていた。慌てて今にも浮いてしまいそうだった身体をしっかりと"架空の地面"に足をつけて立った

 

「あなたは…誰ですか?」

「……忘れても…無理ないわね…。私は、貴方の………」

 

 

最低な母親よ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い暗い…この世界。オレはただ走っていた。何を求めるわけでもなく、ただ走りつづける。不思議と疲れは沸いてこない…走るというのを意識でしかしてないからだろうか?

走る、走る、走る

果てが無いのだろうかこの世界には?無限のその世界。気が狂いそうになる頭を、走ることで正常に保っていた。ここは何処だ?

社の扉を開けた瞬間からの記憶が無いと言う事は…ここがあの社の向こうと言う訳か?すごいな、あの社は…あんなちっちゃいのにこんな広い空間がなかにあるなんて。
あんな社、もう一棟あったら嬉しいなとか…ただ、出口は何処だ?

 

「出口なんか無いな」

 

そーかそーか。出口は無いのか…ってなんだと!?出口が無いって事は…わかった!入り口と出口が一緒だって事だな!!……なら入り口は何処だ?

 

「入り口も無いな」

 

そーかそーか………じゃねぇー!!それじゃぁ帰れないじゃねぇか!!

 

「……そうだな、そうとも言うな」

「それじゃぁどうしろと言うんだ!!」

 

いつの間にか足をとめ、そして"声"を出していた…??
よく考えると…オレと話をしていた奴は誰だ? オレはきょろきょろと周りを見渡した。

そこには鏡があった。しかし鏡の向こうのオレはちょっと…いや、かなり老けてて口元に薄いまだ出来たばかりのシワが見える。それでいて…髪の毛の色が少々明るかった。

ん?これって…

 

「ようやく気がついたか………このバカ息子」

「…ッ!?バカはそっちだ!…こんのッッ!!」

 

 

 

 

 

バカオヤジ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレはガンマ=タグフォードと……

 

私はシグマ=タグフォードと…

 

 

最悪な形で再会してしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

第四拾七話 END


作者の後書き

 

ちょっと短いかな?まぁ、キリが良かったのでつなぎ話(ヲイ)でした。
とうとう最終目標である両親に再会しました。いやぁ、エータ君ってばバカですね。マジで。

さて、いろいろ疑問があるでしょうがそれは後に解るのでここではネタバレしないで置きます

いやはや、最近t&s書くペース早いんですよ。何故でしょう?早く終わらせたいんでしょうかね?最後の章なのに全部の謎を消化できるか…………もしや、やばい?
と言うかどんな謎がありましたっけ?いや、もういいや(滅)

と、社の奥はあんな感じになって、んでもってそんななかで両親と再会したんですが、どうなるんでしょうね?いつものとおり想像は皆様にお任せっ!

感動できるように誘導できればいいなぁ…というかこの話つなぎなんでコメントないんですけど;…というかここもしや日記と化してませんか(滝汗)

ま、まぁ…これ以上日記になったら怖いんで後書き終了しますっ!…でも長いな


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