truth&sincerity
トゥルース&スィンセラティ

 

第四拾壱話『意志を貫く者』

 


  

 

「はぁっ!!!」

「くっ!!」

 

剣を持っていないゼータが攻撃をかわす為に持ったもの

それは一本の鉄パイプだった

瓦礫の中からとっさに取り出したのだろう

が、それは一時のしのぎ…強化されていない鉄の塊はあっさりと斬られてしまう

相手が持っているのは短剣だから…長剣よりはまだましだけど

ゼータもそれはわかっているはず…

それにしても…剣は一体何処に??

 

 

「"文明を司る金…クリスティアよ!汝偽りを捨て…我に力を与えよ"」

 

考えている暇など無いと悟った私は呪文を唱える

それは剣を生み出す呪文

 

「ソードプラチナ!!」

「うわっ!」

「なんだ!!」

 

ゼータの持っていた鉄パイプに白い光が絡みつく

やがて光はある形を象って行く

そう…一本の剣

 

鉄パイプを溶媒にして創った金の剣

 

「ゼータ!それを使って頂戴!!」

「あ…あぁ!有り難う!!」

 

一言そう返すとゼータは腕に力を加え、相手の短剣を弾き返し、間合いを開け

光の剣を…いつものあの"刀"を持つように持ち変える

形が違うせいか、少々持ちづらそうにしている…でも、今は文句を言っている暇も無い

 

「へぇ…お嬢さんは精霊術師なのか…こりゃ厄介ねぇ」

 

口で言っている事と表情があっていなかった

彼女は笑っている。楽しそうに…ゼータだけでは相手にならないと言う事だろうか?

それは一種の挑発とも取れる

 

「でも…」

 

そのとき彼女の姿が一瞬ブレた

かと思うと次に現れた場所はゼータの目の前

間髪入れずに彼女が剣を振るった

 

刹那、目の前を深紅が彩る

 

「……ッ!!」

「私のスピードについてこれなきゃ意味無いわよねぇ」

「なっ!?」

 

続いて背後からの奇襲 成す術もなく切り刻まれるゼータ

このままではゼータが殺されるのは目に見えている

 

私は何も出来ない"お嬢さん"じゃない

だから魔法を唱える…が

 

「きゃぁ!!」

「そうやすやすと呪文をとなられてもこっちも困るのよね」

 

彼女は私にも剣を振るってきた

左腕から生温かい液体が流れ出す

その拍子に集中力が途切れ、さっきの呪文は失敗に終わる

ゼータは心配そうに名を呼んでくれるが、彼もそのたびに切り刻まれる

見えない敵……

こんな奴と戦うのならば"見たくない敵"と戦っていた方がまだマシだったかも知れない

 

無意識のうちに私は右手をその傷口に添える

べとべとした紅いモノがべっとりと右手にこびり付いた

 

思ったより傷は浅そうだが…回復している時間もなさそうね

 

私は一息吸うと左腕に添えた右手をズルズルとおろしていった

ふと顔を上げるとゼータがこちらを見ていた

私が自身ありげな顔でこくりと頷くと、ゼータは口元を「笑」の形に歪めた

私は…何かを呟きながら……手を更に下ろして行った

 

 

 

 

槍と剣。

この二つの勝負でははっきり言って剣のほうが不利だ。

剣は槍と比べリーチが短く、槍で突かれたら防御し難い

そう。今の戦況は極めてこちらが不利だ。

 

さらに…

 

「僕の場合。槍の弱点である懐に入っての攻撃は通用しませんよ」

「っ!!」

 

ギリッ

鋭い音が頭に響く。剣を落としそうになるのを必死で押さえ、飛びのいて間合いを開ける

頭から血が流れていた。しかしコレはまだマシなほう。間一髪のところで避けなかったならば、オレの顔のど真ん中には風穴が開いていたことだろう。

足元にはこの傷を作った凶器である氷柱。彼が生み出したものであった。

 

「結氷晶は能力に大なり小なり有るものの誰だって"氷"、"雪"の魔法が使えるんですよ?…知り合いが居ても、そこまでは知らなかったようですね」

 

左手を突き出したまま喋るオミクロン。

知らないわけではない…ただ、その力に個人差があるまでが知らなかっただけであって

結氷晶自体に能力があるというのは知っていたのだ

かつてのマゼス大佐の持っていた氷の魔法剣のように。

 

さて、相手に通常の攻撃は効かない…なら通常じゃなければいいのか?

しかし相手がこちらを知っている以上、きっとオレの技の事も計算済みだろう

とすればどうしたものか…

 

下手に動けば槍の餌食

しかし懐に入ったところで今度は氷の餌食となるだろう

ならば………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗黒に潜みし我が使い魔達よ…契約の元に汝等ここに呼び出さん!!」

「なッ!ちょっと!それ卑怯じゃないの!!」

 

プシーがエプシロンを指差して講義した。

彼女はその呪文の意味を知っていたから

 

「貴方が勝手に言い出したことでしょう?」

 

次の瞬間、彼の前にぽっかりと開いた黒い空間から何十匹もの悪魔が這い出てきた。

負術だった。

 

悪魔、それは獣の形をしており魔物と違うところといえば…

魔法を使うことぐらいだろうか?

 

「"裏切り者"の称号の次は"卑怯者"の称号かぁ!!」

「じゃぁ貴方には"バカ正直"の称号を与えてあげますよ」

「……こん…くっそぅ…」

 

今の彼女の表情は誰がどう見ても引きつっていた。

これだけの数を相手にするのは…並みの体力では絶対無理である。

この勝率を見分けるには…まずプシーの戦力と体力がどれほどあるかで決まってくる

あいにく。オレはプシーの実力は知らない。

 

「〜〜〜ッッ!やってやろうじゃないのよ!!人間の限界を超えてやるわよこん畜生!!」

 

もうヤケになっているようだった。

が、彼女の選択は間違っても居なかったようだった…

 

「なっ!?」

「どけどけどけぇぇ!!」

 

次々と襲ってくる悪魔を片っ端から斬ってゆくプシー

ヤケクソなのはヤケクソなのだが…アレだけの速さで、アレだけの敵を切り倒せるのは並ではなかった…

流石にエプシロンのほうも唖然としていた

 

「覚悟しなさいよ!!」

 

その声ではっとするエプシロン。

そう、彼女はもう目の前まで迫っていたのだった

気がついた時には既にプシーは剣を振り上げ、今にもそれをおろさんとしていた…

 

プシーの勝利は目に見えた

 

 

 

はずだった

 

「――――ッ!!」

 

エプシロンが両手をプシーの身体に向けた瞬間

彼女の身体は大きく後ろへ吹き飛ばされた。

 

「……ぁっ」

 

低い呻き声を上げてプシーは瓦礫の中の"壁の慣れ果て"に思いきりぶつかった

あれだけの勢いでぶつかれば…間違いなく骨の一、二本は折れているだろう…

 

「まさかこの悪魔達を蹴散らして襲ってくるとは思いませんでしたよ…侮れませんね」

『………セシルッ!!』

「白虎…手…を、出すな………」

 

プシーの変わりにエプシロンに飛び掛ろうとした白虎を、声にならない声で静止させるその召喚師。白虎は振り返り、心配そうな瞳でプシーを見つめる。

そこにはさっき操られていた時のようなうつろな瞳ではなかった

 

「…これ…は…命令よ…私の戦いに…手出ししないで」

 

ゆっくりと立ち上がりながら弱々しい声で…それでいて力強い言葉で…

彼女は白虎に"命令"した

 

『…………御意』

『ちょっと白虎!!あんたも薄情もんね!貴方が行かないなら私が…』

『よしなさい朱雀』

『でも!!』

 

『朱雀…彼女は自分のやり方以外で勝っても喜びません…むしろそれは死ぬより辛い事かもしれません……』

『死んだら何もかもオシマイなのよ?私は無駄な人生を送るために生命を与えたんじゃないわ』

『だからといって…彼女の生き方を否定するような真似は許せません。その時は…僕が貴方を生命の冒涜者として消滅させますよ』

『……人間って身勝手よ』

 

 

 

「つくづく貴方には呆れさせられますよ…」

「これが私のやり方なんでね」

 

まだ体中がいたむはずなのに…彼女は剣を構えなおした

目の前には先ほどと同じように悪魔がいる

いや、さっきよりも数が増えているかもしれない。

 

しかし彼女は負けなかった。

悲鳴をあげる身体を無視して剣を振るう。悪魔をなぎ倒す

何故ここまでして一人で頑張るというのだろうか?

助けを求めてもいいんじゃないだろうか?

 

彼女をここまで揺り動かすのは……

 

「自分の言ったことにも責任取れないような奴に…他人の力などいらない…」

「人を騙す事は一番重い罪なのよ…」

「私はずっと私を騙していたのかもしれない」

「ゼータが居なくなった時、もっと早く自分で探しに行けばよかった」

「それなら…私がこんなに寂しい思いを隠さなくてすんだのに…」

「私は私の為に……一人だった罪を消す為に」

 

「一人で戦う!!」

 

先ほどと同じ状況、悪魔を蹴散らし、エプシロンの目の前まで来た!

しかしエプシロンもさっきと同じように手を前に突き出す

 

「何度来ても同じだ!単純な奴め!」

 

プシーは剣を振り上げる…が、さっきとは違う

縦に振るうのではなく、狙うように先端をエプシロンに向け、引き上げた

 

「同じことを二回もする訳無いでしょ!!単純なのはアンタのほうよ!!」

 

そのまま剣を…投げた!

その時先ほどのような強い気圧がプシーを襲うがプシーは姿勢を低くして、瓦礫につかまった。

剣は空気を斬り、そして手を貫く。

その痛みにエプシロンは集中力を失い、呻き声を上げる

勝負は一瞬だった

 

プシーは地面を蹴り、その勢いのままエプシロンの鳩尾に拳を入れた

エプシロンは呻き声を上げることなく地面へと崩れ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

「何処を見ているんですか!!」

 

目の前は槍。突き出してきた槍をオレは剣でなぎ払って避ける。

その槍はそのまま体制を崩すことなく今度は脚払いをかけてきた

軽くジャンプし、それを避けたオレは少し後ろに下がる

 

「後ろに下がっても追い詰められるだけですよ!!」

「んなこったぁ解ってるわ!!」

 

オレは焦ったように見せる。そう、追い詰められているのは自分でも解る

攻撃が出せない以上、かわすしかなかった

が、かわし続けてもいつかは後ろがつかえ、かわせなくなってくる。

相手の疲労を待つという手も有るが…もう壁が後ろに迫っていることからそれは無理だと断定できた

 

「もう後がありませんよ」

 

とん、と背中が壁についた。

完璧に追い詰められている。

が、オレは涼しい顔をしている…そんなつもりは無いのだが、無意識にそうなったようだ

オミクロンはそんな表情には……目もくれていないようだ。

ただこの勝負を終わらせたい。そんな風にも思えたかもしれない

 

「終わりです」

 

オミクロンは槍を突き出した

 

ドスッ!!

 

低い音があたりに響いた。

しかし……そこにはオレの姿は無かった

槍は無情にも壁に突き刺さる

「なっ!?…」

「終わってたまるか!!」

 

オレの居た場所は…頭上

 

「クッ!!」

彼が突き出した槍の柄の部分に足を乗せてジャンプしたのだった

エプシロンは慌てて手を上に上げるが…時は既に遅し

オレはエプシロンの背後に降り立ち、首元に手刀を下ろした

 

「く…パイ…様…」

 

彼はそのままオレのほうに倒れてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろね」

 

傷だらけになったゼータに向かって彼女は言った

ゼータの白かったインナーの服は既に真っ赤に染まっており

倒れこむのも時間の問題だった

 

「んじゃ…辛いのも終わりにしましょうか…」

 

彼女が彼の前に止まり、短剣を振り上げて胸を…心臓を狙った

それが彼女の唯一の汚点で、私達の勝利への道だったでしょう

 

「………死ねェ!!」

「心と体は我が世界に、母体にあり…事、森羅万象の理を現し…決して犯されることの無い理でも有り!!」

 

彼女が今まさにゼータの胸を貫こうとした時

地面が光だし、その光は彼女の足へと…そして体全体へと伝っていき…

 

「な、何だコレは!?」

「………ユグドラシル……木属性の最上級魔法」

 

私の左腕は真っ赤な地で染まっていた

でもただ染まっているだけではなかった
木の紋章である「トライアングル」を幾つも重ね合わせた文字

それは血で書かれていたのだった

 

「決して逃れる事の出来ない木のツル…貴方の動きは完全に封じたわ…」

「ク…」

「動かないほうがいいわよ?いつ枝が飛び出して貴方の心臓を貫くか解らないからね」

 

彼女は沈黙した

 

 

 

 

第四拾壱話 END


作者の後書き

 

怒涛の戦闘の嵐でした〜。いやぁ、一話で戦闘書き終わるのってこれが初めて?

う〜んと…エータ君がかなり成長しているのがこの話で解ると…思います?(何故疑問系?)

プシーさんがかなり無理しちゃってます;;彼女は本当は普通の剣士なんですけどねぇ…一般市民なのに剣士。コレはかなり前から決まっていた設定なんですが…

というか本当はゼーちゃんと二人で戦って欲しかったんだけど…戦線離脱かなぁ?

ちょっとかいてて悲しかったかもしれません;;

さて、邪魔者も片付けたところで最終決戦(?)ですね〜

みーんなファイト♪(人事かい)


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