truth&sincerity
トゥルース&スィンセラティ

 

第四拾話『"楽園"の住人』

 


  

「ーッ!!」

 

口を手で覆われているゼータは何かを言おうとしているがこっちまでその声は届かない。

しっかり押さえ込まれていて身動きが取れないようだった

相手は見た目は魔道師系だが…ゼータを押さえられる力があるとすればかなりのものだ

 

「ゼータを離せ!!」

 

オレが言うと同時に後ろから氷の刃が敵へと向かった。

シータが撃った魔法だ。

しかしその氷は隣りにいる女の盗賊らしき者によって砕かれてしまった。

 

「ウプシロン…下がってろ」

「ハッ」

 

攻撃を防いだというのに、こいつはその女盗賊の事が気に食わないのか…そういった感じで台詞を吐いていた。

と、その時だった。

「ッッ!!」

ゼータが思いっきりそいつの手を噛んだのだ。

その拍子に手が緩んだらしく、ゼータは相手のどてっぱらに肘鉄を食らわし、そこから逃げてきた。

 

「ゼータっ!!怪我は無い??」

 

さっき上級魔法を使ったばかりだというのにゼータに回復魔法をかけようとするシータ

幸い外傷は無いらしく…どうやら瓦礫の中で気絶しているところを捕らえられたらしい…

 

「……アイツ…」

「どうしたの?ゼータ……」

 

ゼータの体が震えている

でもそれは"怯え"じゃ無くて……"怒り"

その表情はどこか笑っているようにも見える不思議で怖い表情だった

 

「ひさしぶりなのに無愛想な奴だな…ゼータ=リトゥール」

 

 

 

「俺を……プシーさんから引き離した…」

 

パイ=ラ=エデン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜〜」

「どーしたのぉ?ナヴェ姉」

「マゼスからの伝書がきたのよ〜」

 

「なになにー?なんてかいてるー?」

「え〜っとねぇ…ん?」

「どーしたの?」

「…………………アルファ」

「へ?」

 

「アルファ!!そこに居るんでしょ!!」

「ハッ!何でございましょう姫様!」

「これを御父様に届けて!召集がかかるのも時間の問題よ!」

「な、なにがあったんでしょうか??」

「いいから早く!!」

「な、ナヴェ姉?」

「………間に合えば良いけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「覚えていてくれたか…光栄だな」

「あぁ、忘れたくても忘れられないよ!お前のその顔はな!!」

 

ゼータは相手を睨んだまま構える

でも、その手には武器はなく…どこかで落としたのかな?

とりあえず武器が無いだけに素手で戦うしかない訳で…

私はゼータが剣以外で戦うところなんて見たことない

避けるのはたやすそうだけど…

 

「フンッ…威勢だけは変わってなさそうだな」

 

『パイ』

ゼータにそう呼ばれた彼

ゼータを捕まえた彼

アティックを襲った彼

タウを殺した彼

私の村を燃やした彼

 

始めは実感なんて無かった

こんな、まだ若そうな…そう、20代後半といったところ

そんな彼が多くの人を殺したとは思えなかった

だけど、時間がたつたびに浮かんでくる

憎悪

苦しいほどに湧き上がってくる

恨み

怒り

悔しさ

そして彼の笑みは私の中のそれを増幅させていった

 

彼は歩み寄る

私達のほうに向かって

その時、不思議と恐ろしさは浮かんでこなかった

 

 

奴は止まった

先ほどオレが"焼いた"彼の元で

下を見下ろす

すると彼が目を覚ました

 

ふと、悪寒が走ったような気がした……

 

「パイ…私は………」

「無様だな、ラムダ=メシル=バーリィ
召喚師だから使える奴だと思っていたが…それは私の勘違いだったようだな」

「なっ!?」

 

「消えろ」

 

オレはとっさにイオタを抱きしめてそれが見えないようにした。

 

 

 

 

 

 

 

「あ…ああぁ…」

 

プシーさんの声が聞こえる…

何かの爆発音のようなものが聞こえてきて

 

みんなの悲鳴が聞こえた

そこにはもう紅い"痕"しか残っていなかった

 

私はただ立ちすくむだけ

 

 

「蒼龍!こいつをどこか安全な場所へ!」

『あ…あぁ!』

 

オレは蒼龍にイオタを渡し、見送った

完全にここから見えなくなるまで…

 

「お前…自分の仲間を!!」

「仲間?とんだ勘違いだな…私はこいつを利用していただけ…
利用価値が無くなれば消す。当たり前の事だろう??」

『メシルより腐れ外道が居るとは思いませんでしたね』

『えぇ、もう綺麗に磨きがかかっちゃってるわね』

 

隣りではおちゃらけながらもしっかりと相手への怒りを表す玄と朱の四神二人。

常に警戒を払う白の四神。

そして…

 

「貴様だけは…許さない!!」

 

ゼータ=リトゥール

 

 

 

 

 

 

「エプシロン、ウプシロン、オミクロン」

 

彼が側近の兵士の名を呼ぶと、兵士達は揃って返事の声を上げた

 

「お前らの力を見せ付けてやれ」

 

その一言で兵士達は一斉に構えだした

ウプシロン。さっきシータの魔法を打ち落とした女兵士…手に短剣を持っているところを見るとこいつは力より素早さ重視なのだと言う事がわかる

エプシロン。眼鏡をかけて杖を持っている。その姿はアティックで捕まえた森族に似ている…と言う事はやはりアティックの件はこいつも絡んでいたと言う事か…

最後にオミクロン…こいつは…

 

「結氷晶……??」

 

そう、彼の額には第三の目とも思える青い宝石が埋め込まれていた

……見たことがある。マゼスで………ミュー=ローディという青年を…

 

「僕のことを知っていますか……」

「あぁ、知り合いに同じ種族が居る」

「…そうですか…しかし、だからといって何かが代わるわけではありません。貴方は我々に殺されるのには変わりないのですから」

 

そう言って彼は自分のエモノ…槍の先端をこちらに向けた

どうやらオレの相手はこいつのようだ…

 

「僕はパイ様のために…パイ様の命に従います」

 

 

私とゼータの前に現れたのは女兵士ウプシロン

 

「久しぶりねぇ、ゼータ君」

「俺はお前の事なんて覚えていない」

 

ゼータはそっけない態度で振舞う

あたりまえだ

自分の唯一恨み、憎んでいる相手の部下

その人への思いもまた同一

 

「ほんの半年間で…なんだかたくましくなったように見えるわね」

「関係ないことだ」

「そちらのお嬢さんは彼女か何かかしら?妬けるわね」

 

そこからの会話は…いや、もう会話ではないかな

一方的に喋りつづけるウプシロン、そして無言で睨みつづけるゼータ

だんだん、無言のゼータに嫌気が差してきたのか…

ウプシロンも無駄口をやめて攻撃態勢へと入った

 

「あなたの気持ち。解らなくも無いけど…私も譲れないの…
私は自分の意志で…パイ様に仕えているのだから」

 

 

『と、すると』

『私達の相手は』

「貴方だという訳ね」

「そう言う事になりますね…四神玄武、朱雀、白虎…そしてプシー様」

 

エプシロンはこの場に似合わしくない笑みで答えた

こう言う奴こそ達が悪いのだ

 

「しかし…いくらなんでもこちらが不利ではないでしょうか?四神3人に剣豪プシー様とは…」

「"元高等宮廷魔導師エプシロン"の言う台詞ではないんじゃないの?」

「おやおや?やはり知っていましたか…私のことを…」

「そのうち嫌でも聞かなくちゃいけないんじゃない?"裏切りの魔導師エプシロン"ってね」

 

そのまま二人は無言で笑みをかわした

 

「玄武、朱雀、白虎…貴方達は手を出さないでね」

『!?』

『何を考えているんですかあなたは!』

『そーよそーよ!この際義理人情なんて捨てなさいよ!』

「よってたかってのリンチは好みじゃないんでね」

「おやおや?いいのですか?」

「私にも…一剣士としてのプライドってものがあるんでね」

 

「フッ…まったく、これだから剣士は嫌いなんですよ…

さて、私にも裏切りと言われても良いという言い分があるんでしてね…
私は私のために…パイ様の下に居ます」

 

 

 

 

 

何故だろう…

皆憎むべき相手なのにそれぞれの正義がある

それなのに何故だろう

あの人は笑って私たちを見下ろす

あの人に何の権利があるのだろう?

私たちは何でこんな事をしているのでしょう?

 

私たちが戦うべき相手は…この人達じゃないのに

 

 

 

 

鉄の塊がぶつかり合う音

その音が聞こえてきた時、俺たちの時間は周りだす

 

「楽しませてくれ…そしてゼータ。君の本当の力を…」

 

 

 

 

 

 

第四拾話 END


作者の後書き

 

はいっ!パイさんのご登場でした〜

とりあえず終章までに全部のギリシャ文字な方が出せた様で良かったです〜v

え?κ?…流石に勘弁してくださいよ;;

さてはて、今回の話の味噌(?)私的に玄武と朱雀だったりするんですよねぇ;今までこの二人、裏で書いてる番外とか設定で話させたことなかったから結構レアな組み合わせなんですよ〜;;
割と意気投合している様ですな…五行では玄武のほうが強いのに(苦笑)

そして前からちらほらと出てきている前章な方々も気になるところですよね;でも気にしない♪(!?)

実は兵士三人組は名前と絵だけで性格付けというモノを全くしていませんでした。書くまで;

そんなわけでものすごくぐちゃぐちゃした性格になってるかもしれませんね〜。むぅ、すみません。


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