「・・・何でですかっ!?」
「なにが」

そう答える裕二の腕には、先ほど競り落とした品物が三つ。
午前一時三十分。一時間半の間に、不思議なことが最低三回は起こった。

「一千億」

一番最初の壺を競り落とした値段は、これである。








MISSION FOR IRREGULARS

7「イレギュラーとはすなわち、在らざる者」







一つ目はみんなこれでくじけてしまったのか、あっさりと壺は落ちた。
ただ、どうしようもない後悔が翡翠の胸の内をグルグル回っていたのは言うまでもない。

「ど、どーするんですかっ!?」
「取りに行く」
「そんなの当たり前ですっ!!」
「なら問題ないな」
「大ありですっ!」

周りの人々が奇異の目で二人を見ているが、そんなことに翡翠が気づくはずもない。

「お金すっからムグッ! うぁ、うぁいうるううぇううぁー」

翡翠が重大な秘密をばらそうとしたので、裕二は慌てて口をふさいだ。

「らっ! おい」

そして、当たりをチラと見回す。

どうやらかかったようだ。
今の翡翠のセリフで、周りは『ねらっているのは違う物だ』と勘違いした。自分が壺に有り金全部使ったことで、本当にほしい物から意識をそらせる。
裕二がもっとも得意とする分野だ。意表は突けるならば突く方がいい。

「ゆ、裕二さんっ!」

「お前黙ってろ」





「・・・狼及び鼬より兎、一角獣、蝿。伝令」
『・・・兎より狼。受けます』
『一角獣より狼。同上』
『蝿より狼。受けます』
「第二戦闘部隊第二十八チーム『イクリプス』No.3水浅葱 木賊が補足された』
『・・・魂入霊歌に?』
「肯定。『核』から第一戦闘部隊第三チーム及び第十二チームに救出作戦を発令。イクリプスはもう向かっている」
「了解」
「狼、兎、一角獣、蝿はこれより二分後に座標366,285へ集合。詳細は現場で述べる」
『『『了解』』』

返答を待ってから、狼はトランシーバーを切った。

「終了です」

どうにも言葉遣いと外見がマッチしない彼は、本名をしろがね 狼牙。コードを狼。
普段は、というか戦闘でもボーとしてるくせになかなかの強さという、扱う方にとっては真に御しづらい男である。

「よし、そのまま向かうぞ」
「了解。実行に移します」

狼牙はこれまた半分眠っているかのような表情でいう。しゃべり方をどうこう言う筋合いは鼬にはないが、せめて自分で気づいてほしい物である。
あってない、と。





「次はどこかの商社会社の秘蔵LSIチップ! 最低落札価格は27000000000です!」

競売も中盤。翡翠はむっつり顔で過ごしていたが、ここで裕二を見上げた。
三つの内の二つ目が出たからだ。

「どーするんですか?」
「落とすに決まってる」
「どうやって? お金無いんですよ」
「ああ、それか」

すると裕二は胸ポケットから一枚のカードを取り出した。これは先ほど見た・・・

「は・・・反則ですっ!」
「一つとは言ってない」
「うぅ」
「敵をだますにはまず見方からだ。組織はこういうのにかけては金を惜しまないからな。せいぜい使わせて貰う」
「鬼ですかあなたはっ」
「150000000000」

翡翠を無視し、裕二は言い放った。一千億ぐらいまで跳ね上がったときだ。
まわりが息をのんで自分たち二人を凝視するのがわかる。翡翠は反射的に体を縮めた。
横目で見上げると、裕二は至極平然と前を向いている。まったく、敵を多く作るタイプだこの男は。

「い、153000000000っ!」
「170000000000」

意を決した誰かの発言をあっさりと裕二ははねのけた。もう金銭感覚が麻痺してくるのが自分でもわかる。

「170000000000! 他には!?」





簡単に落ちたチップの次に、タペストリー・・・ではない。なにかの絵が描かれている布が出てきた。
あれが三つ目。そして、自分が何かを感じた物。

「最低落札価格は・・・!?」

カンペらしき物を見ていた実況(?)の男が不意に顔を固める。

「・・・最低落札価格は、700000000000です」
『!!』
「なっ、ななせんおく!?」

阿呆か、この値段を付けた人間は。
翡翠はもちろん、この値段におそらくは慣れているであろう周りの男達も、うろたえを隠せない。が。
となりの裕二だけは、平然と品物を見ているのだった。

(いいえ、もしかしたら値段を聞いて固まってるだけかもしれないわ)

と考え、というか自分を納得させて、翡翠は裕二の前で手を振った。すると裕二は不思議そうに、

「・・・なんだ?」

と返してきた。翡翠はなんだか無性に悔しくなって裕二をはたこうとしたが、あっさりと止められる。

「まぁ、あれにしちゃ妥当な値段だな」
「はぁ?」

なにをおっしゃるこの唐変木は。
700000000000といったら今まで出てきた商品の全てを凌駕しているのだ。というかしすぎだ。

「900000000000」

しかし裕二はぬけぬけと言い放った。
翡翠も含め、周りの空気がいっぺんに青く染まった。





ゴトンゴトン

そんな音が聞こえる。車は整備された道路を走っているはずなので、荷が揺れてなる、というのは考えにくい。
恐らく、隣に詰められた翡翠が動く音だろう。
楸達三人は、闇葛本部へと輸送されている途中だった。泰志達の手によって。
一人ずつ別々の箱に詰められているのでわからないが、たまに聞こえる鼻歌で、おそらくは泰志がこの荷台を見張っている。
軽トラックがどこにあったのかは謎だが、そんなことより今、彼らはひじょうにまずい状態に陥っていた。
敵本部に連行。一発逆転のチャンスでもあるが、そのチャンスを生かし切れるほど、自分、そして新人の二人は強くない。





「赤および黒、黄。受けます」

智也の運転の隣で、紅がトランシーバーに口を当てていた。
彼はタバコを吸っていたが、それをきいて窓の外に吹き捨てる。

「・・・了解。向かいます」
「なんだって?」
「覚醒者よ。捕まったって」
「・・・へぇ」
「魂入霊歌本部に乗り込んで対象を回収しろって。他にもイクリプスとサクリファイスが向かってるわ」
「・・・全力投球?」
「さぁ」
「泰志はおいていかないと。気づかれたらやっかいだし」
「自分で言えよ。俺、運転中」
「わかってるわよ」





緑色の中に彼女はいた。
彼らがさらってきた水浅葱 木賊が。
覚醒者が。
特殊な液体の中に入れられているため、必然的に服は脱がせてある。故に男である皓也と濁はいなかった。
芹菜は隣の九牙を、そしてその向こうの女を見る。
いや、いるはずだった女を。そこにはモニタがその女を映し出していた。

「彼女は、マーダーが迎えに行ったわ」
「あら、そう」

濁のいないところでは九牙は喋る。しかし、数が少ないのは確かだった。
サバサバしている濁と皓也はともかく、自分は彼女のプライベートを全く知らない。
こうして仕事をこなすとき以外は普通の女子高生のはずだ。

・・・そういえば、なぜこの組織は大半が若者で構成されているのだろう。

そんな疑問が頭をよぎるが、振り払うように頭をふった。
とりあえず、マーダーがつれてくるはずの彼女がいなければなにもできない。そしてその彼女が帰ってくるのは・・・少なくとも、一時間後である。





「Wデート・・・どこが?」
「行けばわかる」

友紀の疑問はもっともだ。男二人、女一人ではWとはいわない。
さりげなく亨に腕などくんだりしているのだが、彼はどうにも反応を示さなかった。もしかしたら気づいてないのか。

「・・・どこに?」
「遊園地だな」

この近くには、二十四時間営業の遊園地がある。そこにいく・・・ということは。

「・・・まさか」

思い当たった。もしかすると『彼女』を−−−。

「嫌っ!! 絶っっっっ対に嫌っ!! 放してこの腕!」
「自分からひっつけておいてなにいってんだ」
「あの女だけは嫌よ! いいから放してっ!」

先ほどまでの彼女はどこへ行ったか。
まさに一瞬で意見を翻した友紀であった。





「よーし、あがりっ」

濁が、最後の『了』と書いたところでシャープペンシルをおいた。
すでに四百枚近くの原稿用紙が山積みになっているが・・・彼の執筆力はただ者ではない。
所要日数、五日。一日八十枚である。しかも受験勉強と平行(勉強をしっかりやった、という保証はないが)
そして、あまった紙に何事か書き付けると、前言でこちらを向いていた皓也にむかってわたした。

「・・・酢豚つくりモリモリ食ったブス・・・なにこれ?」
「答えがわかったら賞金をやろう」

とたん、皓也は一言も口を利かなくなった。現金なヤツである。
濁は頭の後ろで腕を組んで、鉄製の天井を見上げた。誰が、こんな都市部にいかにも秘密基地です、というような本部を置くだろうか。
と彼は思うが、すぐに否定した。ここは地下であり、地上は普通の商社会社である。
ただし、その地下がミ@リルを凌駕するほどの広さ、設備を持っているのが、濁には妙に滑稽であった。
フン、と鼻で笑う。自分がこんな所にいるのも、端から見れば十分滑稽な理由からだ。
彼女−−−友紀はもう恋愛対象からはずれていたし、そもそも彼女はたった一人以外見えていないのだ。仕方ない。

(・・・これ、何かに使えないかな)

知らず知らずの内にそう考えていた彼は、また嘲笑した。自分を。





しばらくして、二人が出てきた。しかし濁と皓也は反応しない。濁はもともとそういう性格であるし、皓也は濁の問題で頭がいっぱいだ。

「・・・そろそろくるかな」
「しらん・・・そーだな。来てくれたらネタが増えて嬉しいんだけど」
「・・・」

芹菜は無言で皓也の所に行って、紙を取り上げた。

「まーたこんなの書いて。よく思いつくんだから」
「わかったのか?」
「そりゃ、毎日みたいに出されてたらね」

紙を皓也に返す。彼はまだわからないようで、首を傾げていた。

(・・・まぁ、気づかないヤツは気づかないんだけどな。こーいう類の物は)





ホテルの廊下を、翡翠と裕二は歩いていた。服装を元に戻すためそれぞれの部屋・・・高校生風情がスィートの個室というのもどうかと思うが・・・に向かっている最中だ。

「あの単位はおかしいですよ ? まさか0が三つ少ないとかそーいうオチじゃないですよね?」
「その価値があるんだよ。この布には」

裕二が筒をあげた。そのなかに、九千億の布が入っている。

「どこにですか」
「素人にはわからん」

裕二が言い放つ。たまに思うのだが、この男は何故いつも表情がかわらないのだろうか。
そうこうしてる間に、それぞれの部屋の前へとついた。別れて、自分の部屋に入る。
疲れた。いろいろと、主に精神的に。
明日まではこの部屋は使っていいらしい。今日はもう寝よう。
その前に、着替えなければならないが。





魂入霊歌本部。
又の名をアートフィシェル・ライフ・カンパニー。通称ALC。
彼は苦笑した。この名前を付けた社長のセンスに。
黒髪である。目立つ、とても目立つ黒髪。艶を放っているわけでもないし、奇抜な髪型をしているわけでもない。
黒目である。目立つ、とても目立つ黒い瞳。
顔立ちである。目立つ、とても目立つ顔立ち。
『完璧な』男がひとり、そこにいた。容姿、実力共に魂入霊歌No.1。その男、静間 秀吾。
彼は黒い革のジャケット、そしてズボン。シャツに至るまで黒で統一。手には皮のグローブ。
一度手を握りしめた。ギュ、という頼もしい音がする。
今度は彼は苦笑ではなく、笑った。
そして、ホールへと歩いていった。





あとがけば尊し(滅)
僕の小説は作風上、よく背景が黒くなります。
あまりに統一されてるんで、自分のHPを見た友人から「お前妥協してるだろ」的指摘をされました。
わかってくれっ! 自分は黒い小説を書いてるんだっ!
て叫んでみましたが、関係ないですね。

さて、今回は勢力図。



魂入霊歌こんにゅうれいか

とおる
友紀ゆき
裕二ゆうじ
翡翠ひすい
濁(闇腐)だーく(やみふ)
芹菜せりな
九牙きゅうが
皓也こうや
しゅう
しゅん
奇伊奈きいな
悠助ゆうすけ
彼女(謎)かのじょ(なぞ)
秀吾しゅうご

・・・んー(滝汗)



闇葛やみかずら

泰志やすし
くれない
智也ともや
しん
木賊とくさ
あずさ
狼牙(狼)ろうが(おおかみ)
いたち
一角獣いっかくじゅう
うさぎ
はえ

・・・ヲヤ? 前回より人数が異様に増えてる(死)。総勢二十六人か、まだ出てないのが五人ほどいる予定であるからして・・・(脱兎)
(置き手紙)もしも上のが変だったら頑張って読んでください(滅)


ろう・ふぁみりあの勝手な戯言〜


競売。ついに競売。熊本の方に聞きました。「競売っていつ?」「今日ばい」

・・・いや、寒いギャグはさておいといてっ。

未レギュラーズ第七話〜。ついに競売ですね。熊本の人に―――いやいいです、ごめんなさい。
いや面白かったですー。ってゆか「競売」正しい物語の書き方ってコレ以外にあるんだろうか?
つまり、金銭感覚をマヒさせるような圧倒的な金額でポンポン物を買っていく。
張り合うものがいても、どんどん高い金額を提示していって、「これ以上はないだろ―」ってことすら打ち破り、ぼーんと一声「一千億」・・・(笑)。
これが「買い手」ではなく「売り手」が主人公なら、どんどん客をあおって金額を吊り上げていった挙句に、引っ掛けるってのが面白い。例えばガンダム]のガロード君のように「ガンダム、売るよ」。

さて。
もう一方の「Wデート」はどうなることやら。「彼女」って誰だろかなー。

しかし総勢26人。出てないのあわせて30人超えると・・・はー。
うう、オイラじゃ捌ききれない世界だなー。ま、頑張ってくださいねー。どしどし楽しみにしていますんで♪


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