この男を説明するならば、こうだろう。
“二時間ぐらい頑張って頑張って頑張って家の良さを説明したアルバイトの若者の熱意に負け、家一つ買ってしまう男”
黒い癖っ気のある髪−−−よく言えばバランスがとれているが悪く言えば中途半端な長さだ−−−、そして眼鏡。厚い、という程でも無いが、薄いとも言えなかった。
どこまでも中途半端−−−普通と言っておこう−−−な彼は服装もTシャツにジーンズという、誰が着ても合いそうな服。
ただ、シャツの絵柄だけは違った。文字化けしたような字が規則正しく並べられている、何処か普通ではない絵。
「・・・あなた達は、魂入霊歌の物ですか?」
MISSION FOR IRREGULARS
2「始まりが終わるとするならばそれは−−−」
「ゴメンねぇ」
希伊奈が、ひょっこりと顔を見せる。
それを楸と瞬は、呆れたような視線でにらんだ。
楸の方は無言だったが瞬は−−−
「遅い。遅いぞ」
「だから謝ったでしょう? こーゆう男が居るから世の中が荒むのよね」
「てめぇ・・・言いたい放題言いやがって」
・・・一体なんなんだと言うのだ。組織は自分たちに何をしろというのだ。
楸の目の前にいるのは、ふたり。
短い黒髪の男と、やはり短い茶色い髪の女。どちらも組織の要求の通りに『動きやすい服装』はしているが・・・人間を殺せるような輩じゃない。
更に言えば男は視力が悪いらしく、目つきが悪い。もっとも、それは自分も言えたことではないが・・・。
「・・・おい」
「ん?」
たまらず口を開いた楸に、瞬は疑問符で返す。
「時間がない。さっさと仕事に移るぞ」
「そりゃ無いだろ。まだお互いのこともよくわかってないのに」
「どうせこの仕事だけのチームだ。そんなものは時間の無駄だ」
「「え? そーなの?」」
希伊奈と瞬の声が重なる。楸は少しばかり目を開いて、
「・・・お前ら、経験は?」
「初めて」
「個人のやつを一回ね」
「・・・」
初心者・・・どうしてこんな仕事に回すのだろう。上の方は何を考えているのか・・・。
楸は無言で歩き出した。
「お、おい。待てよ」
「そーよ。あんたみたいなのが居るから世の中がねぇ・・・」
瞬と希伊奈の言葉を背に浴びながら、しかし楸は少しも聴いては居なかった。
「いくぞ」
「待て」
自動ドアをくぐろうとした楸を、瞬が制止する。
「俺は仕事内容を聞かされてないんだ。あんたから聴くように言われてる」
「私も」
「ここで派手に暴れ回るだけだ」
瞬はそれを聴き、この『超高層ビル』の看板を見上げた。
『トゥーラ・コーポレーション』。かなりの大企業である。
ついでに言うならば、ここは都心の中枢部である。この三人は結構目立っていた。
「・・・まだあかりが点いてるぞ」
「当たり前だ。まだ終わってないからな」
「・・・」
「・・・お前らは裏口からいくか、それか勝手に見てろ。どうせ組織もお前らを戦力としてみてないからな」
「「?」」
疑問符を浮かべる二人を後目に、楸は自動ドアを潜った。
「いらっしゃいませ。あの、すみませんがもう見学時間は−−−」
ひとの良さそうな受付の男がペコペコと頭を下げながら寄ってくる。
それを・・・
パンッ
軽い音が響いた。
男の額に、少しばかりの穴があく。
「はっ・・・!?」
瞬が驚きの声を上げた。
男の穴のあいた部分から、赤い液体がほとばしる。
いつの間にか楸の手に収まっていた鈍く光る黒い物体に、二人の目は行き着いた。
楸は、男の眉間を銃で撃っていた。
「なっ! 何してるんだお前!」
「見たとおりだ」
「見たとおり・・って!」
「言っただろう。人間を殺せない坊ちゃんたちは裏口から上れ・・・と」
楸の目が鋭く光った。
「任務遂行の足手まといになるなら・・・殺すぞ」
ビク、と二人の体がふるえた。冗談ではないことが、楸の体から放射されている威圧感からいやがおうにもわかる。
耳をつんざくような激しい警告音。視界が赤く染まった。
「つかまって警察に突き出されるか。俺がここで殺すか。このまま進むか。三沢だ。俺がこのフロアの人間をすべて殺すまでに考えろ」
少年に向かって男が一人走った。
少年は、奇妙な構えをとり、男を迎え撃つ。
足を大きく開き手を腰に添えるようにする。
その動作の間に、男は少年のすぐ近くまで来ていた。心臓を狙い、ナイフを向けてくる。
・・・だが、少年の行動はその時既に完了した。
男の腕をつかみ、つぶやく。
「森羅万象の形を成す原子たち・・・互いを繋ぐ鎖を引きちぎり、その身を解き放て」
その言葉には、少しの同情が見られた。声も幾分か低い。が−−−
次の瞬間、男の体が『消えた』。いや、厳密に言えば消えたのではないがとにかくも男の存在は世界から消え、そしてもう一人の男も、既に勝負はついていた。
少年の手にはいつの間にか拳銃が収まっており、既に狙いは男へと向けられ、そして。
「虚空に散らばる粒子よ、我の元に集い、全てを貫く一筋の閃光に!」
ほんのわずかな、一瞬のタイムラグ。
「ニュートロン!」
バスゥン−−−!
音とともに少年の腕が跳ね上がり−−−男の体の中心を貫いた。
男の体が腹から二つにちぎれ、崩れる。
「・・・すみません」
誰ともなしに謝り・・・少年はいつの間にか手に現れた黒い上着を羽織った。
−−−楸の周りは一面血の海となっていた。
銃で、または体で破壊されたいくつもの肉塊が、三人の周りに広がる。
瞬と希伊奈はもどしそうになったが、中身は既に出ていた。
楸は二人を一瞥すると、奥に向かって歩き出す。
「冗談じゃない・・・こんな事ばっかり俺はしなきゃなんねぇのか・・・?」
瞬が一人ごちる。
「・・・ゴメンねぇ・・・行くわ」
「は?」
「一度足を踏み入れたんだから。もう戻れないってわかってるし・・・ね」
「お前・・」
「じゃね。短かったけど」
そして、希伊奈も奥に走る
「お、おい。待てよ!」
瞬も追いかけた。
一つの不安と、疑問を抱きながら。
「・・・遅いぞ」
携帯の相手に、向かって、泰志は愚痴った。
「早くしろ。急がないとやばいことになるぞ。ここ全部潰れちまう」
「・・・わかったって。今忙しいんだよ」
「あと五分だ! それまでに紅に連絡してここまで来い!」
「りょーかいりょーかい。切るぞ」
茶色の双眸−−−カラーコンタクトだが−−−をぎらつかせて、泰志はエレベーターの出入り口を銃でねらった。
一階は既に全滅したらしい。団員も少し混じっていたが・・・いかんせんサブ・エージェントは分が悪いようだ。
特にサブ・エージェントは躊躇無く殺すので、一般団員では恐怖に映るかもしれない。
「・・・やっかいな仕事を」
これも『異端者』たる扱いか。『闇葛』に『能力者』としてスカウトされたが『団員』としての洗脳が施されてないので、上層部にも扱いづらいのであろう。
紅は裏口に待機している・・・が、どうやら出番はないようだ。敵は真正面から来ている。
とにかく自分は智也と二人で初めて『無敵』に近くなる。そのままでは時期エージェントと言われる楸に勝てるかはわからない。
その焦りもあってか、楸がここにたどり着くまでのじかんが極端に短く思えた。
「その通りだ。こうなった原因は私だからな。自分でつみ取るさ」
「・・本来お前はここにいないだろうに」
「だからこそ、だよ。異世界の住人の分際で現実世界に足を踏み入れた私が悪いのだからな」
「そうだが・・・」
「お前は先に戻っておいてくれ。私の世界も混乱期にある」
「わかったよ・・・だけどな」
「私はこちらのケリをつけてから行く」
「・・・いつもと違うじゃん」
「私は私であって私ではない。向こうの私は今は私だが、この私はここの私であって向こうの私とは別の人間だ」
「言葉遊びはいい。聞き飽きた」
「そうか?」
「なら・・・さっさと片づけろよ」
「わかっているさ」
楸がエレベーターから出ると同時か。
泰志が拳銃を跳ね上がらせた。
楸もそれは予測していたらしく、前に転がってかわす。
無言のまま、泰志は跳んだ。
二つの陰が、今交錯する。
「・・・・そうだ」
「悪の親玉が正義の味方に頼み事かい。珍しいことで」
「そうだな。普通ならありえんことだ。だがこの世界は」
「違うってか。にわかには信じられねぇけど・・・いいぜ。退屈していたところだ」
「ありがとう。礼を言う」
「へぇ」
「・・・以外か?」
「いや。あんたなら何が起こってもおかしくないしな。わかったよ、『導い』てこよう」
あとがき
はい、二つ目です。あ、これ一応R15推奨とか。結構暴力シーンとかありますし?
まあ、十五の書く奴ですしね。
顔見せ顔見せ〜。後は二人ですか? も〜ちょっと待っててくださいね〜。
さてさて・・・人数が多いなぁ。あ、悠助忘れてた(おい)。
でわ
ろう・ふぁみりあの勝手な戯言〜
にゅわ!? R15とゆーと、半径15ミリってワケですね(もしかして工業系の人じゃないとわからないかも)
或いは国道15号線とか(ざーとらしくボケてます)
ま、それは置いといて。
久しぶり〜
よしっ、ついに始動か「みっしょん ふぉー
いれぎゅらーず」・・・ぐあ長すぎ!?
とゆーわけで、これからこの物語は「未レギュラー」と呼称されます。
言い出したのはオイラじゃありません。作者様なので、全然おっけぃです。おっけぃにしといてください(こら)
いきなしはーどぼいるどですねー。ん?ハードボイルドってどいゆ意味だろ(わかんないなら使うなよ)
さてさてまだまだ序盤。謎の断片がその頭だけを見せている状態ッ!
・・・いや、何がいいたいかとゆーと、まだ感想言えるほど理解できないとゆーか(苦笑)
でも、展開はカッコいすぎ!
特に楸! なんか「俺に惚れると死ぬぜ?」ってなキャラっすね(違うし)あと、希伊奈さんとシュンさんもそれぞれ、個性―――てゆーか、心境の個性が出ていて上手いですッ。
次回も楽しみにしてますね〜
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