「っくそ!!」
濁が『蝿』の足払いを避け、毒づいた。
(仲間!? なんで狼牙を狙う必要があるんだ)
「容赦なんてできねぇぞっ!!」
蝿の空振りした足を蹴り上げた。開かれた用になった股に体を滑り込ませ、目の前にある足首の下に肩を入れる。
蝿の体が半円を描き、叩き付けられた。
「つっ!」
「狼牙!」
ゴッ
頭に重い衝撃。
(・・・は?)
「ぐっ」
蝿だった。彼の肘。倒れてたぞ。なんで上から。
下を向かされた。次に見えたのが蝿の爪先。
いてぇ、そう思う暇もなく、濁の体は後方へよろけていた。
蝿が体を捻り、飛び上がる。濁の頬っ面にソバット。
口が切れた。畜生、苦ぇ。
横目で蝿を睨んだ。着地の瞬間に一発・・・下りない!?
飛び上がった蝿の体がそのまま更に回転して、濁の同じ所に踵を叩き込んだ。
(・・・能力)
濁の体がきりもみし、倒れる。
「容赦はしないくていい。もう決まってる」
蝿は冷たい目で濁を見下ろした。
狼牙
「二重人格。つまりはイレギュラーの証明。彼も又、歪んだ世界に生まれた存在の一人。
だが何故だろうな。もう一つの人格は・・・イレギュラーと呼ぶには特殊な存在ではある」
MISSION FOR IRREGULARS
13「人間は弱い。苦をとらねばならぬ事もある」
「あなたは死ななければならない。それが彼の望みであり、私が彼に仕える条件」
「彼・・・?」
風が頬を撫でた。咄嗟に左腕でかばう。
兎の手が、拳が、狼牙の腕を強打した。
「誰だ!?」
「知らなくて良いわ」
ラッシュ。捌く、できるはずがない。兎と、自分の能力の違い。
一瞬で痣が・・・推定七つ・・・できた。
「教えるんだ。必要だ」
「生きて行けるとでも?」
一撃。見える。
狼牙は顔を狙った熊手を、首を捻って避けた。
その勢いで兎を殴−−−
グン。
髪を捕まれた。そのための熊手。
頭が左に振られた。倒れる。痛い、十何本むしられた。
受け身をとって立ち上がった。目の前に兎が立っている。
「行く」
兎は無表情で狼牙を睨んだ。多くの憤り。少しの侮蔑。
自分をどこかに追いやろうとしている者への怒り。
「死んで。私はあなたを許さない」
「やることがある。まだ死ねない」
「大丈夫よ・・・私が殺す」
「貴様は失敗作だ。だが、ある意味では成功した」
「能力者でないにも関わらず、筋肉が非常に発達している」
「お前は能力者として、男として闇葛に仕えよ」
「それがイヤならスクラップだ」
「どうする・・・? まさか、暴走したとは言えない」
「しかし、七人も死者がでた・・・隠し通せない」
「アレの責任で良い。俺達が攻められる筋合いはない、だろ」
「狼、今度君のチームにはいる兎だ」
「初の人工生命である。大切に扱え」
「暴走?」
「私の体の抑制が、少しの間効かなくなるの・・・しばらくの間、彼らが望んだように死を求めて暴れ続ける」
「なんだ、そんなこと」
「そんな・・・・?」
「大丈夫だって。蝿もいるし、羅閃も」
蝿−−−真澄は、どちらかといえば俳優志望だった。どこをどう間違えたのか、今、かつての仲間と殺し合っている。
あくまで自分の意志を表に出さず、狼牙や羅閃(同一人物だが)そしてここにはいない一角獣についていく形で行動していた。だが。
狼は許さない。
「イレギュラーは許さない」
「・・・?」
少し離れ立ち上がった濁が怪訝そうに眉をひそめた。
「どうして狼は連絡を入れないんだ?」
「やっぱり・・・死んだんじゃ」
「じゃ俺達も死んでんだろ」
「でも・・・」
(・・・悲しませるのは許さねぇぞ)
「いた」
「え?」
「普段通り、学校に行ってる」
「・・・・なに?」
「俺達のこと、無視してるようだった」
「狼・・・どうしちゃったのかな」
「知るかよ・・・連絡ぐらい入れてもいいじゃねぇか」
「携帯ずっとオフになってる」
「・・・ったく」
「・・・狼とあった」
「え」
「いや、すれ違った」
「・・・それで?」
「無視だよ。クソ、絶対気づいてる」
「記憶喪失とか」
「『もう一つの人格』までか? んなはずねぇだろ」
「だって」
「くそ・・・一角獣までどっかいっちまうし」
「あなた達ね」
「・・・なんだ、てめぇ」
「狼牙の目的、知りたいでしょ」
「許さねぇっ!」
ボディ。紙一重で濁はかわした。
(早っ)
そう思ったのは、避けたはずの右腕がくの字に折れ、自分の脇腹をえぐった後だった。
強烈な刺激。痛み。
「わけ、わかんねぇょっ!」
それは今の現象についてか、相手のセリフの意味か。
それは自分にもよくわからなかったが(多分、どちらにもだろうが)とにかく彼は体を浮かせて後方に体を滑らせた。
距離を取り、日記帳を開く。
「クソ、テメェなんなんだよっ」
どうしろという。穴をあけるか? 映画とかで見たが、大空に放り出される可能性が高そうだ。かなりやりたくない。
つつ、とペン先を動かす。牽制と言うより相手を威嚇するために。時間稼ぎに。
倒す、倒す。そう、倒す。よけいなことは考えずに、倒す。
消えた。え? 違う、視界いっぱいに広がった。頭を強打される。
通路が見えた。頭がジンジンする。
途端、体が浮いた。妙な浮遊感。ウソだろ、体が逆さまになってんぞ。
これはなんだ。叩き付けられた頭が考えるには少し難しい現象だった。
スープレックスと記憶していた。
「行かせない」
「行く」
「行かせない」
「行く」
「行かせないッ!」
来た、衝撃波。闇腐がスープレックス食らってようがどうでもいい。キレた兎は手に負えない。
ただしそれはこちらが手加減した場合だ。全力を出せばどうにかなりそうだ。
多分。確証がないのが辛い。
「・・・ん?」
目に見えない攻撃をかわしつつ、狼牙は眉をひそめた。
「一角獣は、操縦席かい?」
え? と兎は動きを止める。しばらく立ったまま(闇腐が罵声を浴びせている)二人は相手を見た。
「知ら、ないの?」
「え?」
「・・・狼には連絡取ってると思ったのに・・・」
一角獣がいない。じゃぁ。じゃあ、今飛行機を操縦しているのは誰だ?
「誰だ?」
「・・・・?」
「今、操縦しているのは誰だ?」
「知らないわよ」
そう言って、兎は前にステップした。
「せりなー。芹菜ー」
「−−−ピー、只今外出しております。御用の方は銃撃音の後にメッセージを」
「・・・どーしたかな」
「君、だれ?」
「芹菜さんの従弟ですけど、最近連絡がないもんで」
「あれ? 学校もここんとこ休んでるけど」
「・・・休んでる?」
「うん」
「んー?」
「俺と一緒にいた女知ってるだろ?」
「いや、しんない。つか眠いから眠らせて」
「・・・・」
「主任、主任。プレートリンガ!」
「・・・・」
(・・・アホか。まさかホントに本部の連中が死ぬなんて)
「九牙、おいっ、九牙。きいてんだろ」
「・・・」
「皓也の連絡先教えてくれ。おい、携帯番号だよっ」
「・・・」
「九牙っ!」
「・・・私、貴方とは話したくない」
「ふざけんなっ!」
突如大声を上げた濁の前で、蝿が動きを止めていた。
「ふざけんなふざけんなふざけんなっ!!」
自分が何を言っているかもわからないままわめき散らす。大体、自分の知らないところで何もかもが進んでいる。
何もかもが多分・・・終わりへと向かっている。どうだ、これはまだ始まって殆ど経ってないのに。
「クソっ、俺がなにしたってんだ! 何でこんな飛行機の上で殺しあってんだ! 俺達が勝っても操縦席の奴が飛行機おとしたらシャレにもなんねぇんだろ!」
そうだ。いつも割に合わない出来事だけが自分の周りをうろつく。
全てが自分を睨み付けている。狼牙だって、目の前の男だって女男だってクソクソクソ!
「落とせばいいんだろぉが! やってやるよ!」
「なに?」
なに? じゃねぇよボケ。濁は操縦席のドアに向かって歩き出した。
「止めろっ!」
蝿が叫んで、兎がこちらを向いた。その時にはもう、濁の手はドアをいっぱいに開いていた。
「敵同士だったら、どうなっていたかな」
濁は操縦席の背もたれを掴んだ。嫌な予感はしていたんだ。
「・・・闇葛が、魂入霊歌、と?」
声に、少しふるえが混じっていた。
「もともとは、一見対立にある二つの組織も一つだったのよ」
座っていた芹菜が、濁を向いた。
「魂入霊歌も闇葛も、アフルエントが造った」
「・・・アフルエント?」
「二つの組織は互いに憎み合い、敵対し、戦うようになっていた。だけど」
「存在が歪んでしまった。アフルエントにはもう二つの人格が現れ、存在せざるべき存在が現れた」
「そして、集まりつつあった。自分たちを、アフルエントを消すために、無意識に導かれていた」
「俺達、か?」
「彼は急いだ。覚醒者を使い、イレギュラーを抹消するためのイレギュラーを召還した」
「・・・生贄神?」
狼牙が背後に立っていた。
「都合のいいことに、生贄神は魂入霊歌本部と闇葛本部を消し飛ばしてくれた。段々自分から独立しそうになっていた幹部達が消え、アフルエントはイレギュラーと関係の深いレギュラー達に指示を出した」
「消せ」
「あたしは貴方を取ったわ。他のレギュラーに殺されるよりは自分の手で、ってね」
「わがままだ」
「それしか方法がなかったのよ。貴方に、あたしの立場と考えが推し量れるとでも?」
「わがままだっ!」
「もう、この機体は墜ちるしかないわ」
芹菜は、横にあったコップを手に取った。麦茶が注がれている。
「こうすれば」
操縦部に振りかけた。と同時に抵抗と硬化能力で針のようになった麦茶の粒が無数に突き刺さり、小さな火花をいくつも上げる。
「動かすのは無理」
芹菜は薄く笑って、手を振った。心なしか寂しげにも見えた。
「五人、みんな死ぬわよ」
文句無いわね、と芹菜。
「くそったれ!」
ふざけるなよ。あるにきまってんだろうが!
パンっ
濁の平手が、芹菜の頬を打った。
「・・・な」
「誰も・・・死なない」
そう、もう自分は流されない。
「いいかっ! 誰も死なせない!!」
あとがき
いやー、長いですね。もう一年半以上経って・・・もっと経ってますね(笑)
終わらないとカナーリ困るんで、これからは話を少し削ってでも早く書き上げるようにします。
だめですか(殴)? なかなか次の小説に取りかかれないのがもどかしくて。
よーし決めた。夏休みまでに終わらせるゾっ。まじだー。
・・・で、ベオは大学に入ってから、と(撲殺)。
じょーだん・・・だといいですねぃ。あ、そろそろHP再築するかもしれんです。その時はヨロシク。
それでは。
ろう・ふぁみりあの勝手な戯言〜
ういーっす。HP復活したら、こちらこそよろしくでございます。
さてさてお久しぶりーっ!
え? 一年? 一年半ぶり?
うぐぉっ、前の話を読み返さんとストーリーが掴めぬ〜(吐血)。
んで。
闇葛=魂入霊歌ってぇことで、なんだか色々と収束していく予感っ!
さぁ、クライマックスまで一直線でGO!GO!っすねっ!