あの日、あのとき。
気がつけば濁は部屋にいた。自分の部屋。
上京してきたために独り暮らし(寮)なのだが・・・不思議なことに。
馬場より北に一駅。上沢と言うところが濁の住んでいるところだが・・・なんと自分たちの東、つまり太田から半径三キロほどが巨大なクレーターになっていた。
もちろん、その太田の中心にいた自分が何故無事なのかもよくわからない。
なんにもわからない。しかし、2人だけ自分と同じ境遇の人間がいる。
助かっているなら、だが、芹菜と−−−狼牙。



「・・・人生を悟りきってる? 違うな。あの男ほど暗闇を手探りで生きている奴も珍しい。
濁がそう見えるのは、彼がそうして生きることに恐怖を持たないからだ」







MISSION FOR IRREGULARS

12「そう言うとは思ったよ。だがな」







私立佐野商業高校。通称「SSS」
この高校に行くことを、親と教師はもちろん反対した。
進学校ならともかく商業高校でそんな遠いところに行く必要はない。
そんな感じで。
しかし彼は小説で『大賞』を取っている。さらに自費で出している2冊の本が爆発的な売れ行きを見せ、大手の出版社からスカウトが来ていた。
その会社がある。近くてなかなかいい。
そんな感じで。
彼は福岡から本州へと飛び出してきたわけである。





一年三組 教室
読書中(ヒトに言えるような本ではなかったけれど)の濁の所へ、他クラスの少年がやってきた。

「闇腐」

彼は元々、小説の賞(濁が賞を取った物ではなく、県が主催した全員応募の物)で濁と上位を競った少年で、それからも何かと縁があった。馬が合うことはなかったが。
無視。

「闇腐」

・・・・無視。

「闇腐ッ!」

無視ッ! ・・・とは行かなかった。
少年・・・銀 狼牙が、彼の持っていた文庫本を取り上げたからである。

「・・・ん?」

それで濁は、やっと返事をした。違う本を読んでも良かったのだが、それも取られるとなると。

「気づいてるだろ!? ・・・ってなんじゃこりゃ!」

ズカズカと入り込んで奇声を張り上げる少年を周囲は奇異の目で見ていたが、それに気づいている様子はなく。

「・・・お前、よくこんなの買えたな」
「勉強?」
「なんのだっ!」
「もちろん、表現方法」
「・・・お前、18禁小説書くのか?」
「いや、そいえば18才未満が書く18禁小説ってのは18禁なのか?」
「知るか・・・それより。行くぞ」
「どこに」
「わかってるだろ・・・」

狼牙は深く、ため息をついた。





私立佐野商業高校。通称「SSS」
狼牙がそこに来たのは、結構不純な動機である。
曰く、『進学校と違う意味で高校生活を楽しめる』『比較的女子生徒が多い』の二つ。
まぁ、彼は濁と同じく学校で結構有名にはなっているから、一応は目的はある意味達せられているといえる。
ただ、それ・・・その学校生活があることで崩れたのは、彼の秘密だったのだが。




三ヶ月前
「殴り合いだー!」

その言葉が一学年を行き来した。

「誰と誰が?」
「仙台と、銀」

銀と言う名字は珍しいし、それに前述のような功績もあったので、ほとんどの生徒はそれで分かった。
問題は、それが終わった後の仙台という生徒の状態である。

「銀」

職員室で説教されていた狼牙は、担任のこのセリフで頭が混乱した。

「仙台、首に火傷していたらしいぞ」
「・・・は?」
「お前、ライターとか持ってるか?」
「そんなハズ無いじゃないですか。第一・・・見てた奴がいるんでしょ?」





謹慎。いきなり。
しかし、そのおかげで、家で自分に出た妙な出来事を理解することができた。
水の中に手を突っ込むと、それがだんだん熱くなり。沸騰し。
しかし自分の手は熱くなければ火傷もした形跡がなかった。
何故?
次々と実験してみた。どうやら自分の意志である程度調節でき・・・そして、暖めるだけでなく、冷やすこともできた。
ただ問題点は、それがわかったからといって根本的な解決にはならないことだった。





「君の能力を買い上げる」
「え?」





「九州」
「わかってる」
「なら」
「まぁまぁ」
「ナニがッ!」
「俺が疑問に思ってるのはその『九州に行かなければならない理由』じゃなくて『なんで今ここに生きてるか』て事なんだ」
「は?」
「だってアレだろ? 俺らがいたえぇと、太田町。消えてるし」
「あれ、ああ・・・あれね」

狼牙の態度に、濁は少し疑問を覚えた。

「お前、なんか知ってるのか?」
「ん、知ってるつか・・・なんつーか」
「教えろ」

そのときの狼牙の表情は・・・そうだ。すべてを物語っていたと言って過言は無いだろう。
そのセリフは、闇腐にとっても、いや、誰にとっても明らかに予想しうるモノだった。

「行くか?」





「な・・・何だこいつはっ!」
「私は・・・? 私はダレダ?」





「あー。なんだって今日でなくてもいいもんだろーに」
「善は急げ!」
「急がば回れ」
「・・・」
「果報は寝て待て」
「・・・」

二人がくぐったのは、空港の搭乗ゲート。

「大体チケットがあるってのがおかしいよな」
「定額の三倍出したらキャンセルしてくれた」
「・・・ヲイ」





(私はラセン?)
(情を、常を、浄を司る存在)
(唯一のニンゲン)
(超越者と対等に渡り合える、唯一のニンゲン?)
「君は螺旋」
(違う)
「死を、破壊の螺旋を紡ぐ者」
(違う)
「私は羅閃」
(死を、破壊の螺旋を貫く一つの閃光)





「・・・眠いぞ」

たった今飛び立った飛行機のシートに座り、濁は盛大にあくびをした。

「大体、いつも寝てるだろお前。なんでそんなに張り切ってるんだ?」
「個人的に」
「答えになってねぇ」

半ば自暴自棄気味に。

「個人的に、しなきゃいけないと思うから」

つづきあったのか。
そう思いながら、濁は口を開いた。





「えと、今日は日記をつけ始めた。つづかんだろーが続いてたら一週間後に雨が降るかもしれん」

雨。

「雨が降った。もしかするともしかするかも。ついでに書いてしまえ。俺に宝くじの一等が当たる」





怖くなって、少しの期間やめた。





「しなきゃいけないことを探してたんか」
「そーじゃないな。直感で」
「・・・んー」





「僕の中にいるあんたは?」
「羅閃」





「まぁ・・・そんなこともあるわな」

それより午後の授業どうするんだよ。苦手な化学があんぞ( ゚Д゚)ゴルァ!! とか考えながら、濁は続けた。

「大体、俺って大分行ったこと無いんだわ」

「・・・マヂで?」
「九州ってな。行かないんだよ隣の県は」
「・・・」
「お前は?」
「・・・」
「ないのか」
「・・・」





「最近女が恋しい(滅) 運命の出会いとか無いか?」





(・・・芹菜・・・どうした?)

考えてみればおかしい。一応二人はパートナーであるはずだったし、これまでも芹菜は自分の分からないことを濁に訪ねてきた。
今回もそうに違いない。そう思いこんでいたのだが。

(・・・まさか、あのときに死んでる・・・とか無いよな)

そう考えながら、空港で買ったコーラを口に付けた。

「や・・・やみ・・・ふ・・・?」
「あ?」

気づけば、狼牙が立ち上がっている。トイレに行こうとでも思ったのか、それは分からないがしかし。

「・・・・んだと?」

濁も立ち上がった。そして見た。
肝心なとき、俺はいつも気づかない。
周りは−−−そう、濁と狼牙を覗いては−−−血の海だった。
音もなく彩られていた赤いアート。そして、少し前までは笑ったり、怖がっていたりしたはずのニンゲン。
すべて、動いてはいなかった。

「どうなってやがる!? 俺らが気づかないウチにだぞ、どうやってこんな人数を殺せる!!」
「・・・・」
「・・・・どうした?」
「・・・・もしも」

なに?
まさかこれは、いや・・・まさか。

「僕たちが反逆者になっていたら?」
「嘘だろ。魂入霊歌本部は消し飛んだぞ」
「まだ闇葛がある。それに・・・あぁ、そうだ。鬼と神と王がいる」
「は?」
「光もいる。創造主もいる・・・闇も、当然」
「何・・・言ってる?」
「闇葛だ! 僕たち『イレギュラー』を消しに来た!」

ヴン、と、前の方が動いた。

「馬鹿いうな! お前は闇葛の団員だろ!?」
「知るかよ! でも、でも今だぞ!? 今僕たちを殺しに来てるのは・・・」




「僕と同じチームだった奴だぞ!!」





バゥッ!

空気が膨れた。





「兎いいぃぃぃぃっ!!」

狼牙の周りの空間が、急激に熱を帯び、膨張したためだ。全くの不意だった濁は、後ろによろめく。
と、そこに気配。

「!?」

濁の体が跳ね上がった。さっきまで座っていた座席の、反対側に落ちる。
クソ、椅子のせいで体が変に曲がった!





「どうしてくれんだ・・・よ!」

キュッ

こぼれたコーラを踏んだためか、靴が音を立てた。もったいない。
濁が狭いスペースで、彼を襲った男に足払いを喰らわせた。
普通ならこけるはずだが−−−男は不意打ちにもかかわらず、反射的に座席を掴んで耐えた。
しかし、それで十分。
肌身離さず持つ、あの日記帳をGジャンの懐から取り出すには、その時間で十分。
ある一ページを破り捨てた。

「椅子、全部消えろ」

あらゆる事に対策はしていた。
椅子が全部はじけるように消え、普段はお目にかかれない飛行機の内部ができる。

「狼牙っ!?」

椅子が突然消えたため、バランスを崩して転んだ男を踏みつけ、濁は叫んだ。
飛行機は飛んでる。誰かが操縦していることは間違いない。
狼牙はただ、そこに立っていた。
前に立つ『兎』を見据え。
そして倒れている『蝿』を感じながら。

「・・・なんで僕たちがこの便に乗るって・・・?」
「・・・さぁ・・・しらない」

その声を聞いて、濁は初めて分かった。『兎』は女。女!?
馬鹿な! 異様に美形である顔を覗けば、その体はどう見ても男のそれでしかないぞ。

「彼女は・・実験体だった。人工生命の」

人工生命。現在開発の進められて・・・いた、全くの零から作られたニンゲン。
まだ、それは実験体を作れるレベルではなかったハズだ。

「事実は歪曲して伝えられる。意図的に・・・彼女は間違って、女の顔を持つ男になってしまった」
「それ以上言わないで!」

ズン !

狼牙の体がくの字に曲がった。兎の拳が腹にめり込んでいる。

「・・・がっ」

狼牙が崩れ落ちた。見えなかった? くそ、皓也と同じタイプか!?

「やっていいのか!? 狼牙!」
「あ、当たり・・・前だ! 邪魔する奴は容赦しない!!」





アフルエントは、その、闇の中心で笑みを浮かべていた。

「狼牙・・・殺せるか? お前に」

そして、横にいる生贄神に目配せした。
木賊であるはずの生贄神。彼女がここにいるのは、アフルエントの仕業に間違いないわけだが。
そのアフルエントの顔つきが・・・僅かに。僅かに、王者の風格を持ったそれに変わった。

「我が名において命ずる」






あとがき
・・・うーん。夏休み中には終わりそうもないな(撲殺)
まぁしかし? うん。どうにかなるさ、明日がある、明日がある(やめれ)
んで、狼牙・濁編。
最初は? 学校乗っ取りみたいな感じにする予定だったんですよ。
それが途中からハイジャック(もはやハイジャックでもない)に変更。
次回驚愕の事実が!? そればっか!? ごめんなさい話があんまりまとまってなくて。

そいえば能力の説明もしてなかったような。そこで今回はソレを。

真:粒子属性操作系
その名の通り『粒子』を組み替えたりバラバラにしたりする能力。
初登場の時に敵をバラバラにしたのが後者で、粒子銃と呼ばれる、たびたび真が使うモノが前者。

木賊:なし
覚醒時のみ:血属性具現化系
絵に描いた『モノ』を立体化し、自由に操る能力。
しかし媒体は血でなければならず、そのため普段は血を見るのが嫌いな木賊は能力を発動することができない。

梓:物質属性硬化系
物語中では一度だけ使用。液体のみならず、それが『存在する物』であれば高度10まで固くすることができる。

濁(闇腐):状態属性具現化系
濁が描いた文章を現実にする。
普段彼が書く日記帳では、引力を無視できないなどの様々な制約がある。
濁が大切に思っていればいるほど、強力な効果を生み出す事ができる。が、一度発動した物の存在は消滅する。

狼牙:温度属性操作系
狼牙が触れている物(空気を中継すれば、実際は距離は無限となる)の温度を自由に変えることができる。
低温は絶対零度から高音は狼牙の体力の続く限り、可能。しかし、操作する対象が大きければ大きいほど、変化が大きければ大きいほど、精神力と体力を消耗する。


・・・とりあえず今までの中編登場人物の能力を上げてみました。他の人は順次かきますねぃ。
それでは〜。なんか上の書くだけで妙に疲れてしまいました(笑)


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