ある、ちょっとした病院の入り口に、人が3人倒れていた。
その病院の・・・それでも、小さい町医者であるが・・・院長はその3人を病室に運び入れ、そして治療を施した。
二人はどうという傷もなく、入院などの処置は無用だったが・・・。
最後のひとりは。
意識・・・等というレベルではない。
自我が完全に崩壊していた。
真
「あの男は不思議な存在だ。狂気と博愛を兼ね備えて、しかもそれが完全に分離されている。
さらに奇妙なことに、極対するその二つの人格は、互いに一つになることを望んでいる」
MISSION FOR IRREGULARS
10「楽を取るか苦を取るか。お前ならどっちだ?」
・・・・
まぶしい。
目が痛かった。それでも彼は目を開けた。なぜなら、そうしないとなにも進まないということが、かれにはわかっていたので。
まず見えたのは、天上だった。
所々シミが見えるが、綺麗なクリーム色を薄めたような、不思議な色。
しばらくは何も考えられなかった。この場所を確かめる、その前に。
彼は大きなあくびをした。どうやら熟睡していたらしい。
真は上半身を起こすと、今度は周りを見た。
まだ意識がぼんやりとしているが、どうやら病室らしい。
この部屋にベッドは一つしかなく、そのベッドは自分が寝ていたので−−−つまるところ、この病室には自分しか居なかった。
開かれたカーテンから太陽の光が射し込んでいて、丁度自分が寝るとき、頭の位置に当たるようになっている。
「・・・病院、ですか」
改めて理解した。
真がどこかのドアを開けたとき・・・そう、魂入霊歌で。
彼は一つの存在を見た。
体の神々しいまでの輝きに、さらに拍車をかける六対の羽。
彼はそう言うモノを信じたことはなったが、今回ばかりは、その美麗な女性を象った存在を信じるを得なかった。
そして、彼女の横に少年が立っていた。真は彼を、木賊をさらった少年と確認したが・・・どうやら違っていた。
さらった少年の、あの不敵な笑みが、彼にはなかったから。
その少年は詰め襟の学生服を着ていた。何故あんな所に学生−−−恐らく高校生−−−がいたのかは不可解だったが、それより。
二人に対峙するように、さらった少年、見知らぬ少女、同少年、そして梓がいた。
彼らは突然の訪問者に顔を向けようとしたが。
あの天使・・・いや神は、手の持った錫杖のような者を振った。
少年が何か叫んだ。その音は爆音で聞こえなかったが、制止だろうか。
ただ、放たれた破壊の波動は止まることはなく−−−
「おきていたか」
その声に、真はドアの方を見た。
小柄な初老の男が立っていた。白衣を着ているところを見ると、この病院の医者だろう。
真は微笑して会釈した。
「無事で何よりだよ。まぁ、君には主立った傷は無かったから当然だろうが」
「はい、見ず知らずの男をすみません」
仕事じゃよ、と老人は笑った。
「ただ疲れが溜まっているようだから、もう少し休んだらいい。そうさな、後半日ほどは」
「あの−−−」
「ん?」
「僕の他にも?」
真が聞くと老人は、
「ああ、女の子を二人、別の病室で寝かせてある」
二人・・・と真は反芻した。
恐らくは−−−自信はないが−−−梓と、木賊。
あの部屋に木賊は確認できなかったが、誰かの背後にいたとしたら、分からなくて当然だ。
「先生」
「ん?」
入ってきた看護婦に、老人は答えた。外見から察するに、老人の妻か、そこらへんだ。
「女の子がひとり、お目覚めです」
「ふむ・・・やはりな」
やはり?
それがどういう意味なのかは真には分からなかった。聞こうとしたがそれより早く、
「丁度良い、君が無事なのを伝えに行こう」
と老人は提案した。
「・・・はぁ」
よく考えれば、自分がここにいるのはおかしい。
何がおかしいかというと、あれだけの衝撃波・・・恐らくはそれを超える物に直撃され、無事でいるコトだ。
老人はいった。主立った外傷はない。
何が起きた?
(どうすればいい・・・?)
彼は今、目的を持たなかった。いやアルにはあったのだが、それが具体的に浮かんでこない。
(梓さん・・・木賊さん。僕。秀吾・・・天使・・・天使?)
天使ではない。違う。いや、天使であるだろうが、この世界に天使など、そう。存在するわけがない。
存在しない物を存在させるためには、作るかそして−−−呼ぶか。
梓は言った。自分は、自分と木賊は在らざる者。もともと存在していない者。
召喚された者。あの天使もそうだとしたら?
・・・イレギュラー。
自分たちと同じ存在なのだろうか? 違うような気もするし、今では少し前のことが全て夢のように思える。
真が目覚めてから2日が経った。梓は精神的なショックが大きかったようで、まだ起きないらしい・・・が心配は無いという。
「呼吸も落ち着いているし、寝返りもしている。そろそろ起きるて」
ただ、と老人はつづけた。
「そっちの嬢ちゃんは、そうさな・・・なんと言えばいいのじゃろうか」
梓の隣のベッドに、木賊が座っていた。座っていた、のだが。
動こうとはしなかった。
「食べ物も食べるし、見たところ用も足している・・・がの」
どうにも辛そうだった。それは真も同様で、木賊がおかしいのは目に見えて分かる。
顔に表情はなく、虚ろな目をし、生きていると確認できるのは一連の行動と、かすかに動いている胸だけだろうか。
「自我というものが完全に崩壊しとる」
腹が減れば食べる。つまり−−−−
「それも違うようじゃ。詳しくはわからんが、本能までも無くなってしまったかのようじゃ」
食べるときも老人の妻が「口を開けて」「噛んで」「飲み込んで」と言わなければ実行しようとしない。
「操り人形・・・と言う言葉が合うかの。違うのは、生きとるということだけじゃ」
その老人の言葉は、真の心の中に嫌に重く響いた。
ここは太田市から三つの駅を渡った馬場という所らしい。
どうして自分たちがこの病院の前で倒れていたかが分からない。
梓が目覚めた。
木賊の事を聞くと独りにして欲しいと言った。真が病室から出ると、中から嗚咽のような者が聞こえた。
それからは−−−梓まで、木賊と同じようになってしまったみたいに、顔から表情という者が抜けた。
暇さえ在れば・・・というか、暇など無いときの方が珍しいが・・・木賊の病室で、座ったままの木賊の隣に居ることが多くなった。
真にできることはなかった。最初は励まそうとしたが、彼の言葉に彼女は無関心だった。
彼もする事がなかったので、消滅した太田市の所に行くことにした。
消滅。話によれば、何の前触れもなく、都市の中心から建物が崩壊していったらしい。
あの天使の仕業? 非常識な程巨大なクレーターが、その病院からそう離れてないところまでできていた。
太田市はもちろん、その馬場に繋がる地域は全て、雑草一つなく『消えた』らしい。まぁ、今真の目の前に広がる光景を見れば信じるなという方がおかしい気もする。
昨日・・・いや、既に三日前になっている・・・まで住んでいた場所が、消えてしまった。独り暮らしだったが、住み慣れた場所と、一緒に暮らしていた物が消えてしまうというのは、やはり虚しい。
心に穴が開くとは、こういう物だろうか。
「・・・・」
声が出ない。綺麗に円を書いて、境目がハッキリしている。これでは一緒に魂入霊歌にいた人間はどうなったか想像もつかない。
いや、まだ疑問にあるが、自分が何故生きているかもわからない。誰が、何を、どうしたのだろう。
「・・・答えのでない問い・・・ですか」
誰に訊けばいい?
木賊
「家をかなぐり捨てて、親にできうる限りの反発をしてきた少女だ。哀しい等とは説明できない
重い過去を持っている。ただし・・・彼女自身、それを受け入れようとしているのがどうにも理解しがたい」
プログラムNo.5 ミッションコード7 了承シマス。
対特殊存在破壊人工生命「AKIHIRO」始動。
対象:覚醒者No. FFC-H5「TOKUSA NIZUASAGI」及ビirreguler「SHIN
HOSHITATSU」
・・・OK。
新聞の一面は四日続けて太田市の消滅だった。原因の究明と、対処できなかった政府へのバッシング。
一緒に消滅した住人の家族の悲しみの声。
誰が信じる、神が消し飛ばしたなどと。
真はバイクを一つ手に入れた。廃棄されていた物だが、悪くない。修理して十分走るようになった。
これでどこに行けばいいのかもよく分からない。ただし、何となくだが『行かなければいけない』所がある。
そこは遠い。遠いために、これが要った。
「梓さん」
真は病室に入った。梓がこちらを振り向く。
依然、呆けたような感じは残っていた。ただ、少し驚いたような表情が。
「どうしたの?」
「いきましょう」
少し、ほんの数瞬、時が止まった。
「・・・どこへ?」
「大分へ」
また、時が止まった。無理もないが・・・在らざる者ではない梓には、自分が感じるような物は無いのだろう。
「何故?」
「わかりません。でも、行かなければこの世界は終わります」
「木賊は?」
「つれていきます」
「・・・連れていくって」
真はトン、と自分の胸を叩いた。
「僕の本分は護衛です」
二人は老医に別れを言い、大型の(真が改造した。これで3人でも楽に運べる)バイクに乗り、走り出した。
「真君」
「はい?」
少し嬉しかった。梓は戻っている、自分に説明していたときの、不敵な口調に。
「そこにアレがいるのね?」
「そうです」
「免許は?」
「17歳です」
「あら」
梓は薄く笑った。
木賊は相変わらず無表情だった。風が髪の毛を波立ててもただじっと−−−つまり真の背中にしがみついて−−−横を見ているだけだった。
あの生意気な(失言)声が聞こえてこないのは少し妙な感じだったがとにかく。
馬場が中部だったおかげで、明日には九州へ入れそうだ。
もちろん他の『イレギュラー』達も、感じているはずだ。そして恐らく、向かっている。
「明日・・・って何日だっけ」
「16日です」
それから少し待ったが、答えは返ってこなかった。
「梓さん?」
「来た!」
「!!」
梓が木賊を抱きしめ、真に捕まる腕の力を強めた。同時に、真は思い切りバイクを傾け、反対車線へ飛び出る。
なかなかの交通量だったため、まず先頭の車が驚いてブレーキをかけ、その後ろに−−−。
と、玉突き事故となる原因を作ってしまったが、この際どうでも良い。止まれなかった車が自分たちにぶつかる前に、真は元の斜線へと戻った。
先ほどまで自分たちの真後ろにした車が、今度は前にいる。収穫はそれで十分だった。
闇葛だ。いや、もしかしたら−−−
真は自分の考えを一時中断し、車の横へと着けた。拳銃を抜き出し(老医は何も言わずに、自分を助けたときに持っていた拳銃を渡してくれた。梓の分も)窓へと、その中にいるであろう人間へと狙いを付けた。それから引き金を絞るまで一瞬の−−−
窓ガラスが割れた。まだ撃ってない。
ひるんだ。手だ!
窓を割った拳は、そのまま拳銃を握る真の腕を掴んだ。
(まずいっ!)
真は引き金を絞った。この距離でどうすれば外れる?
「グラビトン!」
バァン!
撃つと同時に、拳が離れた。前方へと移動する。
ズン
真は後ろを見なかった。当たり前だ。バイクを操っているのだから。
代わりに、梓が見ていた。強力な重力場が発生し、追っ手の乗っていた車がスクラップになるまで潰れたところを。
「・・・あれは?」
「能力です」
梓の不安は、的中した。
真の能力は『尋常ではない』彼の能力は『粒子属性変化』だったはずだ。重力を操るなど。
(まさか・・・ )
覚醒
ガガガガガッ!!
「え!?」
梓が後ろを振り向いた。真がスピードを上げる。
「う、嘘・・・」
『飛んできた』恐らくは、先ほどの追っ手が。しかも十数台の車を宙に巻き上げながら。
梓の背中を寒気が走り抜けた。空を飛ぶ能力? 能力者は団員になったときに『セーブ』を駆けられる。
上層部が、自分たちの実力を超えられるのを恐れるためだ。従って、ある程度までしかセーブできない異端者、そしてそれを『無視』するほどの強大な力を持つ『覚醒者』以外に、この世界のルールを無視する能力など存在しない。
そして異端者はその能力故に上層部が成長させないように−−−つまり、こんな仕事を任せるはずがない。
だから、だから。
梓は拳銃を抜いた。彼女は忘れていた。
『何故命中しているのに傷ひとつついていないのか』答えは簡単だ。
梓が腕を跳ね上げた。鉛が破裂音と共に飛んでいく。
それが追っ手へと命中−−−
破裂。
「え!?」
破裂した。弾が、追っ手に当たる前に、空中で。
その追っ手の顔が歪んだ。いや、空気が波打っていた。弾が破裂した、その場所を中心として。
何だ? 能力、ではない。能力なら今使っているではないか。
ならばどうやって拳銃の弾を防ぐ。
「どうしました!?」
「拳銃が効かない・・・」
言っては見たが、どうやら真には予想がついていたようだ。あのときに死ななかったのだから。
「ところで・・・信号です」
「え?」
追われているときに−−−しかも分が悪いときに、何を言い出す?
「ここを突っ切ればそうですね。警察が追ってきます」
「死ぬよりマシでしょ、ね?」
「そうですか」
真は笑い、赤信号を突っ切った。その数瞬後で、大惨事を表す音が聞こえてきたのは言うまでもないが。
人工生命AKIHIRO−−−章裕の余裕は、まぁ至極当然と言える物だった。
相手は後ろを向きながら戦わなければいけない。しかも対象の中の一番厄介な『覚醒者』はどうやら、反応していない。
パーフェクト。自分が負ける要素は無い。
「余裕がありますね・・・」
「当然と言えば、まぁ当然、ね」
梓はまだ後ろを見ていた。追っ手はどういうつもりか、攻撃してくるそぶりがない。
もしや自分たちの殺害が目的ではない?
・・・そう思ったときだった、彼が攻撃を開始したのは。
追っ手はスピードを爆発的に上げた。すでに140は出しているスピードの上で。
真の真っ正面に降り立った。
「!!」
マシンガン。
真は咄嗟にバイクを滑らせた。追っ手に対し側面を向けるような形で、地面スレスレまで倒す。
その上をいくつもの鉛玉が飛んでいった。
弾の嵐から逃れるように、横へ抜ける。夜の繁華街へと突っ込んだ。
(くっ)
このままではヤバイ。悲鳴が重なる。
真はブレーキをかけた。強く、強く。
タイヤと地面が擦れる音が聞こえる。後十メートル、五メートル。
(止まらない!)
女性を轢いてしまう。
あと一メートル!
あとがき(なにぃッ!?)
はい、今週はここまで(撲殺)
ああそこっ、石投げないで!
つわけで『中編・真1』でした。次はえと、カーチェイス(?)の続きです。
つかカーチェイス違うし。1人飛んでるし(笑)
ええと、何故大分にしたのかというとですね、いちおう地理を知っているからです(爆)
知ってたほうが何かと使いやすいし。
あぁそろそろ勉強せねばねー(滅)
それでは。
ろう・ふぁみりあの危険な投球〜
『さぁ、ピッチャーろう・ふぁみりあ、大きく身を捻って、雄根小太郎を彷彿とさせるようなモーションから第一球』
―――いくですよ、セイさん
―――来い、ろう・ふぁみりあ!
『出るか必殺のウィザード・ドライブ!』
―――打者の頭に向かって・・・・・・ッ
『投げたっ!』
「くっ―――この球はここから変化して・・・ってあれ!?ってぐあああっ!?」
ぱかーん!
『暴投っ! ずべてけ選手の頭にクリーンヒット! これは痛そうだ、ずべてけ選手起き上がれません!』
「うごおおっ!? 頭がぱんちどらんかー!?」
「はい、カウント―――ワン、ツー・・・・」
(ふっふ。これも、あんなところで終わらせる貴方が悪いんですよ)
「スリー! カンカンカーン、ずべてけノックアウトー!」
「イチ、ニ、サン、ダァァァ―――ッ! ・・・です」
「・・・く、がくっ」
・・・・・上の文章はジャンクションであり、ウォルスで某クリ○タルの戦士に乗り移られたろう・ふぁみりあが暴走した挙句に書いてしまったものであり、実際の団体等は関係ありませんが、使い魔の心情を良く表したモノでございます―――ってオイ。
とゆーか、ずべてけさぁぁんのバカァァァ!
「あと1メートル!」―――さぁ、それでどうなる!? とか思って次読んだらいきなしあとがきだしいいっ!?
しくしく。なんかこの頃、ずべてけさんに限らずにこーゆー風に、続きが無茶苦茶気になる終り方が多いような気がするし(某さんとか某さんとか某さんとか)。
嗚呼。皆様、読者を惹き付けるコツが解ってきたとゆーか、反則っていうか卑怯っていうか(おひ)。
いや。
えーと、上手いと思いますよ。物書きとしては、自分も見習いたいです〜。
・・・とゆか、物語の終り方が全然ダメダメだしなー、自分。はぁ・・・
まあ、しかし読者って立場から言わせて貰えば、なんていうか・・・
「早よ続き書かんかいッ」
の一言ですかねー。
・・・とか、ごめんなさいごめんなさいっ。でも、ウチの正直な本音です―(平伏ッ)。
まあ、それはさて置いて。
しかし、のっけから自我崩壊にはビビリましたねー。
つーか、おひっとか思ったし。即座に。
でもって、後は前回から今回にかけての状況説明と・・・・・・・・・続き早く書いてくださいね(まだ言うかよ)。
(注:冒頭の謎なジャンクション(笑)は、サンデーコミックス「キャットルーキー(by丹羽啓介)」のネタです〜)
(2001/06/28)