「・・・手続きは済ませたな?」
「はい」
「名前はなんだ?」
「−−−瞬。瞬です」
「覚悟は?」
「・・・無ければ、ここには居ません」
「いい答えだ。よし、入れ」
「はい」
その男は短い髪をしていた。
黒く、今時の十六歳にしては少し古いような印象を受ける。
「ようこそ−−−魂入霊歌へ」
MISSION FOR IRREGULARS
1「始まりはもう始まっている」
どこにでもいる男だった。
いや、どうなのだろう。
例えば、最近流行のゲーム。
彼はしていない。
例えば、最近流行の映画。
彼は見ていない。
例えば、最近流行の雑誌。
彼は読んでいない。
例えば、最近流行の全ての物。
・・・彼は実行していない。
「・・・・で、君か?」
亨はため息をついた。
「はい?」
「うーん・・・秀吾の変わりはつとまるんだろーか」
亨、友紀、裕二。
彼らの前に、一人の少女が居る。
彼らから見れば二つ下の、翡翠色の髪、瞳を持つ少女。
「名前は?」
「えっと、栗−−−」
「ああ、下だけでいい」
「あ、はい。翡翠です」
「・・・そのまんまか」
「はい?」
明るく、活発な少女。
自己PRではそう書かれていた。
自己・・・のいいところ等、見つけられる物だろうか?
まぁ本人がそういっているのだから、疑うのも失礼だろう。
と、そこにいる『MURDER』の人間達は考えたわけだ。
「ぐぁっ!」
と悲鳴を上げつつ、男は地面に倒れ伏す。
その近くには、同じような男が3人、転がっていた。
「ゴメンねぇ、だってそっちが先にしてきたんでしょ? スケベ」
少女は栗色の髪を撫でながら、悪戯っぽく笑った。
白いシャツの上から物々しい黒のジャケット。
下は黒いズボン。そして黒い運動靴。
黒で統一されている。
それで髪が茶色だから、否応にも目立つ訳だ。
目を付けられたのは不幸だが、それが彼女のストレス解消になったのは言うまでもないかもしれない。
「さて・・・どーしよっかな〜」
彼女が手をクルリと回転させる。
するとまるで手品のように、その手のひらにはサバイバルナイフが収まっていた。
「ひ、ひいっ!」
「ゴメンねぇ、あたしってば容赦ないから」
逆手に構え、男の喉元を狙う。
「特に、こんなか弱い少女を襲おうとしたお兄さんにはねぇ?」
男は恐怖で声も出ない。
「死んで償いなさいっ!」
と、少女はナイフを男の喉元に−−−
ナイフは地面をえぐった。
死を覚悟していた男は、それからほんの少しだけ呆然とし、そして涙を流し始めた。
「・・・いい? あんた達に襲われる少女ってのはみんなそんな気持ちなのよ。これに懲りたら、変な真似はもうやめときなさい」
そういい、少女は立ち去った。
「な、なんだ手前ぇはっ!」
やくざの本拠地とでも言おうか。
とにかくそんなところだ。何処かのビルの最上階。
その場所で、頭と思われる者は恐怖していた。
開け放たれたドアの後ろに、舎弟の死体と、壁を赤く染める鮮血が見えたからだ。
そして、彼に面と向かって対峙しているのは、男。
銀色、いや、どちらかというと白の髪。はっきり言ってやつれ気味だ。
ただ、その光る双眸は、何かの『プロフェッショナル』だということを誇示していた。
「下の奴らはどうした!」
「・・・邪魔だったからな。任務遂行のために」
その男は衣服をどす黒い朱に染めていた。
実際は眩いほどの赤なのだろうが、それを漆黒のコートが濁らせている。
「・・・目的はなんだ? 金ならいくらでもやる」
「知らん」
その一言と共に。
いつ手にあったのだろう。拳銃を男は向けた。
そして、迷いもなく発砲。
意気込みも、怯えも見せずに、ただ無表情に。
鉛玉が跳んでいき、性格にやくざの眉間を貫いた。
魂入霊歌と呼ばれる組織がある。
ある、と言ってもそれは裏の世界の話。
日本全土を支配しているにもかかわらず、一般人でその存在を知る物は少ない。
中心がどういう者なのかは一切不明で、それは数百万人で構成されている。
「悠助。おい、悠助?」
「ん・・・? ああ、佐熊か」
「ああじゃねえだろ。一体こんな所で何してるんだ?」
彼が居たところは・・・ビルの屋上だった。
「って・・・佐熊? お前なんでここに居るんだ?」
「だからそりゃこっち台詞だ。お前が何してるんだ?」
「僕は・・・」
言えないだろう。彼には。
例えば、人殺しをしていたなど。
そこはアクセサリーショップ。
その中で、一人の少女が首飾りを見ていた。
黒のロングヘアー。なのだが、それをポニーテールにしている。
学校帰りなのか、制服のままだ。
「・・・高いよ〜・・・」
そう嘆く。
本気でそう思っているらしく、すこし目の端が潤んでいた。
が、その顔が急に険しくなる。
丸めていた背中を伸ばし、ガラス張りの店内から外をにらんだ。
そこにいたのは、男・・・。
彼女が探し求めていた男。
「・・・いた・・・」
決して恋愛の対象ではない。が、探し求めた男。
いた。
彼女の名前は、紅。
「はい、こちら瞬」
瞬は間延びした返事を受話器の向こうに返した。
『瞬か・・・』
「そりゃ俺にかけてきたんだから、そーでしょーね」
『・・・初任務だ』
「・・・りょーかい」
そして彼は、電話を切った。
携帯でもなく、PHSでもなく。
普通のプッシュホンを。
「任務?」
少女は目の前の男と顔を向き合わせていた。
「ああ・・・そうだ。今から言う時間に、この写真の男達と任務を遂行しろ」
「・・・ゴメンねぇ、その人たち、もう知ってる」
「ほう・・・?」
「だって、町で異様に目立ってるもん」
「なら話は早いな。希伊奈」
「了解っ」
「で、翡翠。今から俺達の説明をしよう」
亨が机に肘をついて言った。
「はい!」
翡翠が同じく椅子に座り、亨を見る。
「よし。まずはだな、えーと・・・どこまで知ってる?」
「えーとですね・・・えっと・・・」
「何が訊きたい?」
「あ、はい。魂入霊歌って、何してるんですか?」
「・・・・おいおい」
目の前のあっけらかんとした少女に、早くも不安を覚え始めた3人だった。
秀吾が姿を消したのは、丁度3ヶ月前。
夏もまっただ中の頃だった。
「・・・あれ?」
紅は辺りを見回した。
自分が探していた男が、また姿を消してしまった。
「せっかく見つけたのに・・・」
「俺をか?」
ポンと肩に手を置かれ、ビクリと振り返る。
黒い髪の男が立っていた。
瞳は茶色だが、どうやらカラーコンタクトのようである。
「・・・泰志?」
「ああ」
「智也は?」
「何処かにいるんじゃないのか?」
そして、辺りを見回す。
「久しぶりだな、ずっと探していたのか?」
「そりゃね。早くしないと期限切れになっちゃうから」
「何がだ?」
「そりゃもちろん」
と言って、紙を一枚出す。
泰志はそれを受け取り、そして読んだ。
「・・・今日じゃねぇか」
「早くしないと」
「・・・仕方ない」
「・・・仕方ない」
瞬はそう呟き、写真を見た。
そこには、栗色の髪の少女。
そして、白髪の青年がうつっている。
「団体行動は苦手なんだけどな・・・」
「指令だ」
「わぁかってるって」
そして、写真を握りつぶす。
「任せとけ」
最強と唄われたエージェントがいる。
名は秀吾。
彼が三ヶ月前に姿を消した直後、彼の捜索指令が魂入霊歌本部より発令された。
だが今に至らずも彼は見つからなかった。魂入霊歌の情報力を持ってしても。
これは、一人の男を巡る物語。
そして、彼ら男女の織りなす複雑怪奇な、しかしいたって単純な物語。
それは始まりを告げた。
いや・・・もう始まっているかもしれない。
あとがき(って、まだプロローグじゃん)
えっと、始まりました、ミッション・イレギュラーズ。
ろ@さんみたいにギャグとシリアスの同時進行などはありません。
とゆーか、前書いたMISSION’(もとはこういう名前。何故かってオリジナルを別の奴が作ってて、断念したのを僕がもらったから)。
要するにr世界のお話を書いていたんで、それを相方が断念したと。別にパクリじゃありません。
で、例えば皆さんの考えたキャラが出演しています。
で、「こりゃいただけんな」とゆー者があれば送って下さい。
んでわ。
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STORY
2「始まりが終わるとするならばそれは−−−」