森の奥は神秘的な雰囲気に包まれていた。
何かが俺達を導いているかのような錯覚に囚われる。理由はよくわからないが俺達は気がついたら森の奥のほこらの前に立っていた。
「ここだね」
「ああ。おそらくここだろう」
互いに頷く。まだ妖精そのものが出てくるかはわからないが決定的な手がかりはつかんだ。もう終着点はそこまで来ているのかもしれない。
「ようやく終着点ってわけか」
小さなほこらを見て一人つぶやく。
「さっ、まだ終着点には早いわよ。さっさと調べる」
ラインはほこらの裏側へと回っていった。
ANGEL SEARCHER
第六回 終着点にあるものは・・・
俺とラインの二人は早速調べにかかる。
それにしても小さくて質素なほこらだ。普通なら人間こういう権威を示す物に関してはとんでもない金と労力を注ぎ込むものである。それがいいか悪いかは別として、それがこのほこらはただ小さな石碑がぽつんと立っているだけなのである。
正直言ってこれには驚かされた。
「ねえ、これって怪しくない?」
ラインが手招きする。ラインの近くに寄ってみると、確かに怪しい。小さな扉のようなものがある。だが造りが頑丈で、叩き割ることはまず不可能だろう。だが鍵穴があることからおそらく何かしらの鍵が存在するのであろう。
「ねえどうする?鍵なんて持ってないけど」
「どうするかな・・・・・」
しばらく頭の中で考えてみる。だがどう考えてみても良い案など浮かぶはずもない。腰のポシェットから針金を取り出すと、俺はそれを鍵穴の形に合わせることにした。
「まさかその針金で開けようなんて魂胆じゃあないでしょうね」
「御察しの通り」
「バカじゃない」
いきなりぐさりとくる言葉を浴びせてくる。
そんなに非難がましいことを言わなくてもいいじゃないか。これしか手段がないのだから。
針金を鍵穴に入れると全神経を集中させる。
「本当に開くの?」
ラインは半信半疑のようだ。だが手段はこれしかないんだ。仕方ない。
しばらく鍵を開けることに集中していたが、そのうちカチッという音がしたのを見逃さなかった。
「嘘でしょ?」
ラインはあまりにも意外な展開にあんぐりと口を開けている。
「開いたんだ。中身を調べよう」
とっとと小さな扉を開けると、そこにはオカリナが入っていた。おそらく相当の年期物であるはずなのだがそのオカリナそのものから神秘的なオーラを発している。
見ているだけで気持ちが安らぐ。
「これを吹けば・・・」
ラインが手に取ったとき、俺はふと殺気を感じ、ラインの後頭部を持って一気に地面に押しつけた。俺達が倒れ込むのと同時に頭上を何本もの矢が通り過ぎていく。
「悪運の強い奴らだ」
悪態をつきながら数人の男が姿を現した。先頭に立つ男は見るだけで金持ちとわかるような派手な格好をしている。
よくこんな格好をしていて恥ずかしくないものだ。
その男を取り囲むように傭兵達が数人武器を手にしている。
「なるほど。後をつけていた訳か。ゴルバさん」
あえて嘲笑ってやる。ゴルバはそれに腹を立てたのだろう、じたんだを踏んでいる。
「貴様!!そんなことを言ってもいいと思っているのか?状況を見ろ!!明らかにお前らの方が不利なのだぞ!!」
その小さな小太りの体で怒鳴りつけてくる。
「迫力のない男だねえ。そんなんじゃあ女は寄りつかないよ」
ずばりとラインがゴルバに対して言い放つ。もう彼は顔中の血管が浮き出ている。よくこんなんで生きて来れたもんだ。
「貴様ら!!ええい、こんな二人、ぶち殺してしまえ!!」
ゴルバの声と共に数人の男達が一斉にかかってくる。
「ライン、わかってるな!!」
「了解!」
ラインはウインクしてみせると、そのまま森の奥深くに走っていく。一方俺の方は自家製の手榴弾を数発投げ込むとラインの後を追って走る。
爆音が何発か聞こえたがおそらくは大した傷は負ってないだろう。あの手榴弾はただ逃げるきっかけを作るものであって音の割には殺傷能力が低い武器である。
今はただ逃げるだけである。
「まったく神聖な場所で何手榴弾を投げてるわけ!!」
ラインが半分怒りながら俺の隣を走っている。
「仕方がないだろ。それしか方法がないのだから」
「そりゃそうだけど・・・・」
「見つけたぞ!!」
運が悪いことに前方に待ち伏せがいたようだ。俺達二人は嫌でも足を止めなくてはならない。
「囲め!!」
傭兵達は素早く取り囲む。この行動の迅速さからおそらくはゴルバ家直属の私営団であろう。
「武器を捨てろ!!」
リーダー格の男が剣先を突きつけてくる。じわりと首になま暖かい感触が伝わることからおそらく既に首の表面は切れているであろう。俺は武器や商売道具の入ったポシェットを外し男の前に投げ出す。
「よし!そこの女、こっちに来い!!」
「私?」
ラインがとぼけてみせる。
「ああそうだ。早くしろ!!」
だが相変わらずラインはのろのろと行動する。
「いい加減にしろ!!」
男はついには怒りだし剣先をラインに向ける。それがチャンスだった。俺はすかさず自分のポシェットを拾い上げると直ぐ出せるようになっていた煙玉を一気に全部投げ出す。そして素早く頭にしていたゴーグルをかけると、ラインの腕を取り、一気に駆け出した。
「ちょっとま・・・ゴホッ、ゴホッ・・・・・」
男達はたちまち煙によってせき込んでしまう。その機会を逃さずにもとあったほこらに俺達は戻ることにした。
あまり予想はしたくなかったがほこらには何故かゴルバ達が待ち伏せをしていた。
「さて、渡して貰おうか」
「ふん、誰が渡すか!!お前はトレジャーハンターとしては失格だな。「他人の見つけた物は決して奪わない」、トレジャーハンター界では第一項に当たる物だ」
「だが私はトレジャーハンターじゃない。そんもの知るか」
「くっ」
どうやら奴には善意というものがないようだ。俺は数歩後ろに下がる。もはや手だては残っていない。
「さあ、渡して貰おうか」
いつの間にか囲まれている。
絶体絶命のピンチとはこのことを指すのだろうか?手榴弾や煙玉も全て使い切ったので今ある武器はサバイバルナイフと数本のナイフだけである。こんなんで奴らに太刀打ちなどできるはずもない。
「くっ・・・」
どうすることも出来ずにただ突っ立っているだけである。それは隣のラインも同じようだ。俺はじっと相手のことを睨み付けていたが、それによってどうこうなるわけではない。ただじっと睨み付けていた。
しばらく沈黙が流れていたが、それを破るかのように遠くの方で狼の遠吠えらしきものが聞こえてきた。だが、狼とはまた別種のもののような気がする。
「またか・・・・・・」
俺の中では直ぐに警戒態勢が敷かれるが、体の方が言うことを聞かない。このままこいつらと一緒にいたら殺されるに決まっている。恐怖感にただ硬直するしかない・・・・・。
遠吠えはだんだんと近づいてくる。初めのうちはまったく気にしなかったがそれが近づいてくるにつれて傭兵達の間に動揺が走り始める。
まあ無理もないだろう、ハウリングムーンを知らない傭兵などいるわけがない。
何故こんな真っ昼間に出るかは疑問だが・・・・・。
「俺は・・・・・・、俺は逃げる!!」
そう言い捨てて逃げた傭兵を皮切りに、次々と傭兵達が逃げ出していく。まあ無理もないだろう。「奴」の姿を見た者で生きて帰ってきた者はいないのだから・・・。
「さて、どうするよゴルバさん。ハウリングムーンが来るってよ。まあ状況からしたら逃げた奴も全滅だな」
「くっ・・・・・」
形勢逆転とはこのことを指すのだろうか?さっきまで意味もないほど強気だったゴルバが急に慌て出す。
「でもまだ作戦はあるぞ!!その笛さえ奪ってしまえば!!」
何をとち狂ったのだろう、ゴルバはいきなりラインに向かって走り出す。その手にはさっきまで腰に下げていたいかにも装飾品というような剣が握られている。
「ライン!!下がれ!!」
俺は叫ぶと同時に、懐から数本ナイフを取り出すとゴルバに向かって投げた。投げられたナイフは全てゴルバの顔に命中、いきなりの横からの攻撃にゴルバは倒れ込みもがく。
「ゴルバさん、あんたの執着心はただものじゃあない。だが、人間が不老不死を求めるのは間違っているんだ。
そもそも人は、寿命があるからこそ人生を全うする事が出来る。だけど不老不死を手に入れると、人生を全うしようなどと普通は考えない。そこまでいろんなことに必死になることができないものさ。
それに人生ってのは、その終わりに充実感が伴うものだ。もしかしたら人間はその瞬間のために生きてるのかもしれないな・・・・」
足下でもがき苦しむゴルバを見ながら一人独白する。だが彼はおそらく俺の話を聞いてないだろう。まあそれでも俺は気にしない、もしかしたらこれは自身に言ってるのかもしれないから。
サバイバルナイフを抜くとそれでゴルバの心臓を一気に貫いた。しばらく痙攣していたが、そのうちそれも止まり完全に沈黙する。
「終わったのね・・・」
「いや、最後の処理が残っている・・・」
俺が振り返ると、そこには一人の少年が立っていた・・・・・。
あとがき
はあ、小説を書くのって大変だなあ・・・。(しみじみ)
本当に苦労してます。展開が思いつかなくて・・・・。(ていうか全て思いつきで書いている自分が最近恐ろしくなってくる)気がついたら全然別のものが出来てるんですよねえ。書いてて自分でも恐ろしくなってくる。だって、本当に始め考えてたのと全然違うんですもん。
まあそんなことはいいとして、ラスト一回です。まあ展開は読めると思いますが・・・・・。それにしてもハウリングムーンの使い方が・・・・。
解説
ゴルバ
ゴルバ家の筆頭。名前についてはこの場では明かされていない。最近その勢力を国内外に広げてきた商人。だがその背景には様々な闇に包まれた部分があるようだ。不老不死に異様なほどの執着心を持っていたが、ジャルに呆気なく殺されてしまう。
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第七回 終幕とはあっさりしたものだ