少年は一人そこに立っていた。
だが彼がただの少年でないことくらい誰にでも状況を見れば察することが出来る。彼の手にはその体とは到底似合わないような大剣が握られている。
それも血塗れになった・・・・。
「ハウリングムーン様が真っ昼間からご登場というのも珍しいな」
苦笑混じりに俺が喋り出す。
だが向こうの方は喋る気などまったくないらしい。だからと言ってこちらを殺す気もないらしい。
その理由がわからない。
「一つ聞く。何故お前は俺達を殺さない。あの時でもそうだ。確実に俺達の存在に気づいていたはずだ。そして今回も・・・・。ハウリングムーン、お前は何を考えている?」
相手に弱みを見せないように虚構を張って何とか立っている。だがこれも長時間は保たないだろう。俺はそんなに精神的に強いわけではないのだから。
奴は黙ったままである。何かを答えようという気はないようだ。
「おそらくお前は戸惑っているはずだ」
たまらず俺は喋り出す。
「そう、俺達には敵意というものがない。おそらく五感が常人の何倍も優れていることにより、人の心の波動というものがお前には読めるはずだ。それによって自分の敵であるかどうかを判断してきたのだろ?」
「どういうこと?」
ラインが聞き返してくる。
「そのままだ」
「・・・・・・」
ラインは無言で俺を睨み付ける。おそらく答えになっていないとでも言いたいのだろう。
奴は相変わらず沈黙を押し通している。
「重ねて聞く。どうして奴らだけを殺した?彼らには敵意があったかもしれない。だが戦う気はないはずだ。どうしてだ?」
「・・・・・・・・」
沈黙が流れる。さきほどより穏やかな風が森の上を吹き抜けており、時々森がざわめく音が聞こえる。だが決してそれは不快なものではない。まったく俺達の状況に合わないこの沈黙に俺は少し苛立ちを感じる。
「・・・・・・・。興味を持ったからだ・・・・・」
奴はいきなりぼそりとこの言葉だけをつぶやく。それを言い終わるとまた沈黙を始める。
「なるほど・・・」
だが俺が理解するにはそれで充分だった。
「どういうこと?」
ラインが勝手に一人で理解してるなと言わんばかりの勢いで聞いてくる。今度の目つきは真剣だ。
「つまり、最初がどうだったかは知らないが気がついたときには彼の周りは敵だらけだった。
人々は彼を見るだけで表面的であれなかれなんだかの敵意のようなものを彼に向けていた。だから彼は人を殺し続けているのだろう。
だが今ここにいる俺とお前からは敵意が感じられない。それで戸惑っているのと同時に興味を抱いたんだろう」
俺が説明し終わるとラインは納得したように頷く。
俺は再び奴に向き直るとそのまま奴に近づいていく。
「何はともあれ再三の危機を救ってくれたことに感謝する。出来れば仲良くしたいんだが・・・・」
俺は手を彼の前に差し出す。俺のいきなりな提案に奴は意表を突かれたらしい。とまどいを感じたのか数歩下がる。
「そんな拒むことはない。せっかくの機会なんだからな」
俺が手をさらに前に差し出すと、彼は戸惑いながらもその手を握って握手した。同じことを後方にいたラインにもする。
「まあ互いに何があるか知らないがな。また会うときにはもっと楽しめればいいな・・」
俺はまた笑顔を見せた。
ANGEL SEARCHER
第七回 終幕とはあっさりしたものだ
今この場には俺とラインしかいない。辺りは既に日が落ち星が輝き始めている。
「ライン、大丈夫なんだな?」
「大丈夫大丈夫」
念を押した俺にラインは軽く答えを返すだけである。それにしても意外だったのがラインがオカリナを吹けるということである。
バリバリのスポーツ派かと思っていたが・・・・・。
「さて、吹くよ」
ラインは一言そう言うと静かにオカリナを吹き始める。
彼女の奏でるオカリナの音に俺は何か神秘的なものに触れたような気がして聞き入ってしまう。周りでざわめく木々の声とぴったりとテンポが合っているのもまた不思議な感じがする。そしてまたこの夕暮れの風景と非常にマッチしているのである。
しばらく曲を吹いていた彼女だが曲が終わると静かに口からオカリナを離す。
「綺麗だな・・・・」
思わず詠嘆の声が出てしまう。それに彼女も頷く。木々はまだその演奏をやめようとはしない。
「妖精にオカリナか・・・・。納得のいく組み合わせかもしれない・・・」
俺は一人そうつぶやく。
木々はまだささやき続けている。だが、そのうちそれとは別の誰かの歌声が聞こえてくる。その美しい歌声の二人ともそのまま聞き入ってしまう。
「もしかしたらだな」
「ええ」
俺達は頷くとその歌声のする方向に向かって歩き出した。
確かにそこには妖精がいた。俺の手に乗るほどの大きさだろうか、見るからに小さな彼女は一人美しい歌声で歌っていた。だが俺達の存在に気がついたのだろう、歌うのを中断する。
「久々だな・・・・・」
俺は妖精に対してそう言う。
「あなたね。昔の少年の時が嘘のようね」
妖精はにっこりと微笑む。その微笑み一つをとっても人間には到底真似の出来るようなものではないだろう。ともかく純粋なのだ。
「ねえ、いったい何なの?もしかしてジャル、知ってたわけ?」
ラインが何か不服そうな顔をする。それも無理ないことかもしれない。今まで真実を黙っていたのだから。
「ああ、前に話しただろう?母親と少年の話を・・・・・」
「それがジャルと?」
「ああ・・・・」
静かに頷く。それを聞いた彼女はどこか釈然としない様子だ。
「まさかこういう形で再会するなんてね」
妖精の方はずっと微笑んだままだ。確かに彼女には微笑みが一番似合う。
「あの時はお礼も言えずにあなたは去っていってしまった。だからせめて会うことだけでもと思って探していた」
「律儀なのね」
また微笑む。
「それにしても今回は何の報酬も戦利品もなしって訳ね」
ラインが多少不満そうな顔を浮かべる。まあ当初よりそれは二人とも了承していたことであろう。だが実際終わってみると、トレジャーハンターの性質なのだろう、どうも戦利品のことに対してうるさくなってしまう。
「あなたのさっきの演奏、久しぶりにあんな美しい旋律を聞かせて貰いました。そのお礼と言っては何なんですが、そのオカリナを代わりに受け取って欲しいんです」
「いいんじゃないか?」
俺達の二人の言葉に初めラインは戸惑っていたが静かに頷く。
俺は再び妖精と向かい合う。
「それにしても本当にありがとう。戦利品はなかったが、その分いろんな経験が出来た。
この世の中、目の前の利益や名声のために人は動きすぎだ。確かに人には尊敬されるかもしれない。だがそれを自分で本当に望んでやっているかということになると疑問が残るな」
「つまり何が言いたいわけ?」
ラインが興味深そうに俺に訊く。少しはこちらのこともいろいろ察してほしいものである。
「ああ、誰しもやりたいことをやればいいじゃないかということだ。それはやらなくてはいけないこともあるかもしれない。だが本当に自分の望むことをするために、無償でもいいからやるべきだ。それが俺の学んだことさ」
「本当に純粋な方なんですね」
妖精がくすりと笑う。その笑顔一つにおいても洗練されたイメージがあるのだから凄い。
「まあ短い時だったがな、また望めば会えるだろうよ」
俺は妖精に笑顔を向ける。ラインは普段見せない俺の笑顔に少々驚いたようだが彼女もまた笑顔を向ける。
「ええ、望めばきっと会えますよ」
妖精はまた微笑んだ・・・・・・。
それから時はどのぐらい経つのだろう?相変わらず世の中は騒然としており、国は戦争をやめようとしない。だがそれはトレジャーハンターである俺にとってはどうでもいいこと。国の繁栄、衰退など関係のないことだ。
まあ個人のことを話すとたくさんあるのだが、俺はあの後ラインと仕事が終わったということで別れた。それ以降彼女がどうなったかは俺の知るところではない。
ハウリングムーン、各国で最重要危険人物として追われているようだが、まだ掴まってないらしい。だが彼がどうなったか知る由はない・・・・・。
そしてゴルバ家、筆頭の死亡によりその繁栄にも陰りが見え始め、最近では商業でも失敗して落ちぶれたようだ。まあ自然消滅するのも時間の問題だろう。
そして俺は、相変わらず自分のやりたいことをやっている。
そよ風が気持ちいい。辺りを緑が覆い始め、春の訪れも近いようだ。こううたた寝をしているとことさらそれを感じる。
「ねえ、向こうの方で綺麗なオカリナを吹く人がいるよ」
「えっ?行ってみよう」
子ども達はそんなやりとりをして向こうの方に走っていく。おそらくどこかの行商人か何かだろう。よくいるものだ。
「ねえお兄さんも行こうよ。綺麗なお姉さんが広場でオカリナを吹いてるの。とっても美しい音色なんだよ」
少女が熱心に俺に話しかけてくる。俺はその子どもの言葉に少し興味を持った。
もしかしたら彼女かもしれないな・・・・。
「そうか。じゃあ案内してくれるか?俺も聞きたい」
「うん、それじゃあ行こう。早く!!」
少女は足早に走り出す。
俺は立ち上がると荷物をまとめ少女を追ってその女性の元へと向かった。
おわり・・・
あとがき
終わりました・・・・・。ともかく、ヴァンザーイ!!!でも、展開がいつの間にか当初予定してたのと全然違うものになりました。何ででしょう・・・・。(苦笑)しかも最後が苦しい展開になってたし・・・。
でもそれなり達成感が伴えたのだけでもよしとして・・・・・・。
次回以降何を書こうかまだ思案中です。他の小説もあるし・・・・・。軽いものと重いもの、どちらがいいでしょうかねえ?
まあそんなことで以上シン・マーシーっすた。ではまたいつか・・・。
ろう・ふぁみりあから一言
過去には事実、現在には真実、
・・・そして未来には果て無き探求!
・・・意味不明な言葉ですいません。
シン・マーシーさんごくろーさまでした。