空は満天の星空、地上は静寂に包まれていた。

「いいか、気配を完全に殺せ。あと無駄な感情は捨てろ。いいな」

俺は一気にラインを捲したてる。

「ちょっと待った。いったい何が起こるの?」

「緊張するなよ。心の波動の乱れが致命傷になる」

「だから・・・」

俺はこれ以上はまずいと思いラインの口を手で塞ぐ。そして視線を下の方へと向ける。
ちょうど追ってきた奴らが地上にはい上がってきたところだ。

「おい、奴らは何処行った?」

「まだ近くにいるはずだぞ」

「探せ!!」

男達は互いに声を掛け合っている。数はさきほどより増えて20人前後となっている。だが奴の存在にはまだ気がついていないようだ。俺は先ほどからビンビンと感じているが彼らにはそれほどの実力と能力がないようだ。
能力の貧弱さに同情もしたくなるが今はそんな暇はない。

男達はしばらく辺りを見渡していたがそのうち何かが近づく気配に気がついたのだろう、全員が同じ方向を向く。

「何か来るぞ!!」

男は一歩踏み出した。














ANGEL SEARCHER 

第五回 俺が知るもう一つの妖精の物語

















男の一人が一歩踏み出す。だがその瞬間、何かが横をかすめるのを俺は見逃さなかった。

「・・・・・・・!!!!」

首の頸動脈を掻き斬られた男は声もたてずに血を吹き出しながら地面に倒れる。傷の具合から察するに大剣で掻き斬られたようだ。
男達の間に動揺が走る。

(やられたな・・・・・)

俺は密かに一人確信していた。
また一人やられる。

奴は五感が異常なまでに発展しているそうだ。それによって相手に敵意があるか否か、その他諸々相手の行動を心拍数、動向などによって判断しているようだ。
だがこれは単なる噂であり確証というものはない。

「うあああああああ!!!!」

また一人男の悲鳴が上がる。これで何人目だろうか?
ラインの方は既にしっかりと目をふさいでいる。どうやらこの光景に耐えられないようだ。

まあ常人ならラインと同じ反応を示すだろう。何故か数々の修羅場を目にしてきた俺とは違うんだ・・・・・。

再び視線を下に向けたときには男達は全員「処理」されていた。いつの間にか山積みになっている死体の上で奴は遠吠えを上げる。夜の静寂の中で響く遠吠えは何とも不気味なものである。思わず寒気がしてしまう。

奴はしばらくその場に止まっていたがふと西の方角に向かって走り出す。その身のこなし方一つをとっても無駄のない走りである。

(助かったな・・・・・)

密かに安堵の息をもらす。そしてラインの口を塞いでいた右手をそっと離す。
だがラインは目を閉じたままである。

「んっ?どうした?」

俺は思わず顔をのぞき込んだが、彼女からは安らかな寝息が聞こえてくる。俺は思わず全身脱力してしまう。

「まったく良い根性してる。あんな状況で寝るなんて・・・・・」

俺は一人苦笑を浮かべていた。







日も登り、辺りが小鳥の囀りで賑やかになってきた頃、俺はふと目が覚めた。
起き上がると直ぐに隣で寝ていたラインを起こす。

「んっ?もう朝なの?」

まったく良い根性だ。ぐっすりと眠りやがって。あれから彼女はずっと寝たままのはずだ。

「ああ、あの状況でよく寝られたもんだな」

「眠かったしさ。人間何事も素直な方がいいよ」

「状況を察して言え」

「いちいちそんなこと気にしてられるか」

ラインは勢いよく起き上がると背伸びをする。よほど日差しが気持ちいいのだろう。

「でどうするの?ここがメレンゲンの森なんでしょ?」

「ああ、だけど馬鹿でかすぎて妖精のいる位置が限定できない」

「ふむ・・・」

俺の言葉を聞いたラインはしばらく腕を組んで考え込む。だが何かひらめいたらしく組んでいた右手を俺の方に向ける。

「そう、伝説があるってことは情景描写もそれなりに伝わってるってことでしょ?物語のそこら辺のことなかった?」

なるほど。確かに言われてみればあるな。

「ああ、なるほど。そう言えば神秘的な雰囲気がしていたとか母親が言っていたな。そしてそれは導かれた者にしか会えないとも言っていた」

「ちょっと、そうなると全てが運任せってなるんでしょ?」

「そういう結論に至る」

それを聞いた途端ラインが空を仰ぐ。

まあ運任せほど俺達トレジャーハンターにとって嫌なものはない。外的要因が全てを支配する世界、自分達でどうすることもできないもどかしさというのが嫌なんだ。

「でもどうやって導かれるわけ?」

「そこだ・・・・」

俺はラインのことを指さす。

「おそらくは今でも俺達のことをその妖精は見てるだろう。そして問題は妖精が俺達を受け入れるか受け入れないかだ」

「でどうやって受け入れて貰うわけ?」

「・・・・・・・」

俺は無言で首を横に振る。

手段はない・・・・・。

「ただ興味深い話をもうひとつ聞いたことがある」

「どういうの?」

「傭兵が王になった数百年後の話だ。

ある日少年の母親は非常に重い病気にかかったそうだ。それは医者もさじを投げるほどのもので、どうすることも出来ずにただ死を迎えるしかなかった。だが少年は昔から母親がよく語っていた物語を思いだしそれに一図の思いを託して各地を飛び回った。

だが数日後には少年は家の前に立っていた。結局は見つからなかったんだな。そして少年がおそるおそる家の中に入ってみると、そこには元気な姿の母親がいた・・・・・」

「それが妖精の仕業と言いたい訳ね」

「そうだ」

俺は頷く。

「んっ?」

俺はその時、ふとあることに気がついた。

「どうしたのジャル?」

「なるほど、何で今まで気がつかなかったんだろう・・・」

俺は思わず笑い出していた。いきなり笑い出す俺にラインはかなり戸惑った様子である。

「このメレンゲンの森の中におそらくは昔のほこらがあるはずだ。そこに手がかりがあるだろうよ」

「そういうことは早く言え!!本当に頼りない男だね!!」

ラインはその他にも己が知り得る悪態を言い続ける。まあ怒りたくなるのも当然だろう。

「でも行き先は決まった。行こう」

俺がそう言うと、ラインも頷き歩き出した。


どうやらそろそろこの冒険も終わりのようだ。





あとがき

 てなことでシン・マーシーっす。この様子だとあと二回ですね。いつも何の計画もたてずにただ無謀なまでに書き続ける自分にしてはまともなような・・・・・。まああと二回ですね。

 ちなみに今回はハウリングムーンが再登場でしたが、後もう一回出てきます。多分何かしらの重要な役目を担うことになりそうです。(でも気が変わる可能性も高し)

 まああと少しですが、よろしくです。てなことで以上シン・マーシーっすた。




 解説

 ハウリングムーン

 前にも出てきたが、彼には様々な噂がある。だがそのどれもが確認が取れないため確証にかけるものが多い。
そんな中、彼と遭遇した数少ない生存者の話によると、彼は「心の波動」を読むという。少しでも緊張したり殺意を持つだけでも、それを彼は敏感に察知するらしい。つまり彼と出会ったときはその「心の波動」を乱さなければいいのである。だがそれは到底不可能なことである。




 少年の話

 ジャルがラインに語った話。傭兵王の話から数百年後なのでちょうど今前後の話となる。だが彼は場所、時、人物までは限定していない。もしかしたらこの話が鍵なのかもしれない・・・・・。



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第六回 終着点にあるものは・・・