地下通路はどこまでも続いている。もうかれこれ二時間以上は歩き続けているだろうか?湿っぽい中をひたすら前進していく。
「何かあるか?」
前の方を歩いているラインに声をかける。
「駄目。まったく何もない」
「そうか・・・・」
やはりこれはフェイクだったんだろうか?だがさっきから足跡をいくつか発見している。どうやら俺達以外にもここに侵入してきている連中がいるようだ。
「気をつけろよ。何があるのかわからないんだからな」
「大丈夫だって」
(本当に楽観的な奴だ)
一人苦笑を浮かべる。
「そう言えばジャルって何処に住んでたの?」
いきなり何も関係のないことを聞いてくる。まあ答えない理由もないことだし教えることにする。
「住んでいたところか?さっきの教会の森の外にある村だ」
「ふーん。ねえ、全部終わったらそこ行かない?おもしろそうだし」
ラインが興味津々といった表情で俺のことを見てくる。
「まあ別に何もないがな・・・・」
「決定決定!!さっ、とっととやること終わらせましょ!」
ラインはさらに足を速める。
(まったく、こいつは何のために俺についてきてるんだか・・・)
再び苦笑を浮かべる俺だった。
ANGEL SEARCHER
第四回 どうやら読みは逆のようだ
あれからさらに二時間が経とうとしている。相変わらず目の前に広がるのは人工的に作られた無機的な壁の続く地下通路だけである。
「でもフェイクだとしてもこんな大胆な物は普通は作らないね」
「確かに。資金と労働力を計算してみると相当のものになるからな」
この言葉に嘘偽りはない。もちろん誇張しているわけでもない。ただこれだけの整った道を地下に作るとなると莫大な資金と労働力が必要になることは否定できない。
これは数々の遺跡を発掘してきた者のカンとも言うべきものである。
「んっ?先に何かある?」
ふとラインが足を止める。その先にはうっすらとだが明かりが見える。
「敵さんか?」
俺はラインにランタンの火を消すように合図を送る。ラインは頷き直ぐさま明かりを消す。
それでもまだ先が明るく見えることからどうやら本当に誰かいるようだ。
「盗聴でもしてみる」
「普通はこういう場合盗み聞きというがな」
「どっちでもいいじゃん」
ラインと俺は足音をかみ殺しその明かりの方へ近づいていく。
そして何かを話す声が同時に聞こえてくる。
ある程度会話が聞き取れる位置まで来ると物陰に隠れて盗み聞きを開始する。
「・・・ということはこの先はあの廃墟なんだな?」
図太い男の声がまず初めに聞こえてくる。姿は見えないが声から察するに相当の豪傑であろう。
「ああ。どうやらここはもしもの場合の秘密通路のようなんだ。それであの教会まで通じてる」
今度はか細い声が聞こえる。どうやら頭脳派の人物のようだ。
「となるとメレンゲンの森はその近くにある訳か」
この男はおそらく優男であろう。
そんな想像を勝手に巡らす。
「ああ、おそらく教会の近くだろうな。何せあの教会の周辺は建国以来聖域に指定して死にものぐるいで死守してきたみたいだからな。兵士達をその周りに住まわせて守っていたらしい」
これは初耳だ。
「ねえ、ジャルの住んでたところもその一つじゃないの?」
ラインが小声で聞いてくる。
「ああ。だがこのことは初耳だ」
でも言われてみるとそんな気もする。俺の父親は違ったが兵士らしき人が何十人もあの辺境の地に住んでいたような気がする。
「そんなことまでして何があるのかねえ。人間様にとって利益になりゃあそれだけでいいじゃねえか。わざわざ保護なんてしなくても・・・・」
男達の会話は続く。
「まあ妖精を分捕ってくるだけでも充分じゃねえか。早いとこ妖精をとっつかまえてゴルバ伯爵に差し出しゃあいいんだよ。何なら値段をつり上げていくことも可能だろうな」
「それに集団でいるようならそれを全部とっつかまえればいい」
「で売り飛ばせば俺達は億万長者。その金で権力を握れば一国の王も夢じゃあねえ」
「そうだな。森は馬鹿でかいが範囲は限られてるものな」
男達は豪快に笑い飛ばす。だが俺は彼らの会話を聞いていて不愉快でたまらない。またここにも王という権力の象徴に溺れた奴らがいると思うと、今直ぐにでも切り伏せたい。だがここで飛び出していっても返り討ちに合うだけであろう。声から推測するに三人とも何かしらの達人であることは間違いない。
「ねえジャル。どうするの?このまま引き返すのが一番いい手だと思うけど」
ラインが小声で話しかけてくる。
「そうだな。俺は暗い所は苦手なんだ。とっととこんな所は出よう」
「じゃあ急ごう」
男達が立ち上がる音が聞こえる。
「俺達も引き上げるぞ」
ラインと俺は立ち上がりその場から退いていこうとする。だが、
「誰だ!!」
いきなり一人の男に叫ばれ思わず硬直する。どうやら見つかってしまったようだ。
「どうやら会話は聞いてたようだな。殺しとくべきか?」
「いや、あの女は殺さないでおこう」
男達がなにやら相談を始める。俺はその機会を見逃さずに左股から三本小剣を抜くと一気に男達に投げつける。
「おいライン、逃げるぞ!!」
さらに閃光弾と吸うと毒である煙玉をばらまくとラインの手を取り猛スピードで走り出す。
「どうするの?」
「このままあの教会まで逃げ込む。どうせ奴ら以外にも別行動の奴らがいるだろう」
その予想と通り、後ろの方から数人の声が聞こえてくる。
「ちきしょ!!敵さんも必死だ。そんなに不老不死を手に入れたいもんかねえ」
「奴らの場合は権力でしょ権力。ゴルバ家にこの機会に取り入って表舞台に出ようっと魂胆なんでしょ」
「なるほど」
後ろから聞こえてくる足音の数はだんだんと多くなっていく。四時間近くかけて歩いてきた道のりをそのまま走って引き返そうというのだから体の方には相当こたえる。
「ライン、大丈夫か?」
「大丈夫。ジャルはもう息切れ?」
「そうみたいだな・・・・」
「トレジャーハンターは体力が基本でしょ?」
「すまない。俺は学者タイプなんでな」
「言い訳にもなってない」
「・・・・・・・・」
確かに言い訳にはならない。だがそろそろ本当に体力の方は限界だ。ここ数日只でさえ神経をすり減らしてきたのにここで走り続けるということ自体が不可能なんだ。
「あそこから光が漏れてる」
ラインの指さす先には光が零れている所があった。
「ちょっと待ってろ!」
俺は腰から素早く爆薬を取り出すと天井にセットする。
「離れろ!!」
セットし終わると導火線を持って爆発の被害に合わないであろう位置まで下がる。そしてライターを取り出すと導火線の先に火をつけ身をかがめる。ラインも俺にならい同じような態勢になる。
「耳と目をふさげ!」
怒鳴りつけると同時に辺りに凄まじい爆音が響いた。それと同時に縦揺れが断続的に続く。
しばらくして縦揺れが終わると塞いでいた耳と目を開けラインの肩を叩く。
「このまま抜けるぞ」
「へえ、たまにはやるじゃん」
「俺はいつも真剣だ」
「そう?」
こう言われると返す言葉がなくなってしまう。顔を横に振るとロープを地上に投げしっかり固定されたことを確認するとするすると登っていく。
「ライン、急げ」
さっきまで静かだった地下通路の中にまた何十人もの足音が聞こえ始めた。どうやらすぐ近くまで来てるようだ。
ラインはロープを登り切るとほっと一息つく。そして夜空を見上げると一言こうつぶやいた。
「さて、明日からは森の散策だな」
一息つく。ラインを見ると夜空をずっと見上げていた。
「今日は満月なんだね」
「えっ・・・・?」
いきなりなラインの言葉に俺はある恐怖感を反射的に感じた。
「満月・・・・・・。傭兵達・・・・・・・」
「ジャル、どうしたの?」
いきなりの動揺にラインは戸惑う。
「ライン、木の上に上れ!!そうだ、あの木の上だ!!急げ!!!」
俺の怒鳴り声にラインは驚くが表情が真剣だったのだろう、文句を言わずに直ぐに登り始める。俺もその後木の上まで登ると、ラインに出来るだけ気配を消すように指示する。
「ねえ、いったい何が始まるの?」
「見てればわかる。もし見たくないなら見なくても良い。あと絶対殺意を持つなよ!」
「いったい何のこと?」
まだ意味がわかっていないラインは首を傾げる。その時、ふと遠くの方で狼の叫び声らしきものが聞こえてきた。
「どうやらご登場のようだな・・・・・」
自分の唾を飲む音がその時はっきりと聞き取れたのを俺は覚えている・・・・・・・。
あとがき
第三回終わりました。今回もあまり妖精とは関係のないような・・・・・・。でも次回いろいろと判明すると思います。多分・・・・・・・・。
この小説はこれ以上は主要なキャラクターというものは出てこないと思います。あまり世界観を大きくしないことを目標としてるので。
そして次回、また「彼」が出てきます。多分シュンさんの文章に沿っていると・・・・・。
感想、苦情、改善点などお気づきの点がありましたら掲示板かメールにて。
解説
ジャルの性格、ラインの性格
基本的に二人ともトレジャーハンターという仕事柄どんな状況にも適応できる力は持っている。ただジャルの場合、肉体的のことよりも頭を使う方が好きであり、得意分野でもあるようだ。
それに対しラインの方は全てを行動力でカバーしていくきらいがある。
普段の性格も二人は対照的なのかもしれない。外見上は非常に熱い人に見えるが実際は非常に冷酷なジャルに対し、ラインの方はさばさばしているが実際はすごく熱血漢だったりする。この二人がいろいろとうやっていけてるのはこの対照的な性格のおかげかもしれない・・・・・。
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第五回 俺が知るもう一つの妖精の物語