数日間俺とラインの二人は順調な旅を送っていた。
進路はずっと北の方に取り、例の封印された教会を目指していた。
「それにしてもひどいね・・・・」
ラインは目の前の光景を見て口数が明らかに少なくなっている。普段騒がしいくらい喋りまくるので逆にこちらの方が違和感を覚える。
「ああ。何せ周りの国から一斉攻撃を加えられたからな。理由はよくわからんが多分領土拡大が目的だろうな。商業的にもここの南にある町が重要地点だからな」
廃墟となった町を進みながら俺はラインに説明する。
「ここら辺の地域は紛争が絶えないんだ。特に強い国があるわけでもない。そして各国とも敵の領土を分捕ってやるという野心がある」
「そのターゲットになったのがこの国だった」
「そう言うことだ・・・」
俺は頷くとそのまま地面を見つめる。
「あの時、俺はたまたま用があって町の外で遺跡調査をしていた。まあ正式な国からの依頼でな。夜テントで寝付こうとしたとき、ふと空が赤くなったような気がして町の方角を見ると、火の海だった・・・・」
あの時は凄かった。空そのものが赤く燃えていた。見るも野全てを燃え尽くすような、凄まじい勢いのものだった。それを見た途端、俺は装備を調え町の方角に走っていった。
だが町に着いたときには兵士達は引き上げた後だった。そして町は相変わらず燃え続けていた。「建物」ではない。「町」そのものが・・・・・・・。
町はその後も燃え続け、しまいには辺りの森まで巻き込んで燃えていった。消火活動などまったくなかったので数週間後にようやく沈下し、その後町に繰り出してみたがそこには不思議と死体や骸が見あたらなかった。
「一つも死体がないだろう?町の全員が奴隷としてつれて行かれたそうなんだ。女や子どもは様々な所に売られていき、そこで様々な苦痛を味わっている。その他の奴は今ではどこぞかの場所で強制労働をさせられている。そう言う俺の友達の情報だ」
「酷いものね・・・・・」
「ああ・・・・・」
だがそれに対してとやかく言っても仕方がない。もう終わったことをいちいち言っていても歴史は変わるわけがない。
問題はそれを繰り返さないために今後どうすることかだ。そして、彼らをどうやって救い出すか・・・・・・・。
「さっ、この町を抜けて北に行けば例の教会よ」
「そうだな。先を急ぐか・・・・」
俺達は再び進路を北に取った。
ANGEL SEARCHER
第三回 過去を暴くとは事実を知ること
夕暮れ時にはもう例の教会の近くまできていた。もう日も暮れこれ以上の行動は危険なので今夜は野宿することにした。
たき火を二人で囲んで夕食を食べていた。今夜は雲もなく夜空が澄んで見えそうだ。遠くの方にポツリとl教会も見える。確か「封印されし教会」があの教会の正式名称だったような気がする。
「ほら、男ならどんどん食う!!」
そう言ってラインは俺に焼き鳥を押しつけてくる。たまたま鳥を捕獲することに成功したので、今日の夕食は豪華になっている。
「いや、俺は小食なんだ」
「まったくだから男らしくないんだよ」
ラインはさっきから俺の二倍以上は食っているだろうか?よくもそんなに食べてあんなグラマーな体格を維持できるものである。
「前から男らしくない男らしくないというが、お前は俺に対していろんなことを要求しすぎではないか?男なんて一人一人違うもんだし、そうやって人にある型を押しつけるのはどうかと思うが・・・・・」
「だからそういう言い訳男らしくないと言ってるんだよ!!」
馬の耳に念仏か・・・・・。どうやらラインは相当酔いが回っているようだ。さっきから携帯していた酒をがばがばと飲んでいる。そんなに飲んだら二日酔いになるぞ・・・・・・。まあ昼間のあんな光景を見たらやけ酒でもしたくなるだろうが・・・・・。
「ところで明日はどうするんだ?」
「もちろん探索。あわよくば情報ゲット!」
「そう簡単にいくか?」
「大丈夫大丈夫」
本当にこいつの方が男らしいのではないかと思いたくなる。性別が反対になったらさぞおもしろいことになるだろうなどと思いながら俺はさっき渡された焼き鳥を少しかぶりつく。
「ところで他の連中は大丈夫なの?」
「んっ?ゴルバ家か?」
「そう。そのグルブ家だかゴルフ家だか」
「ああ、奴らのことは気にしないでもいいだろう?いざとなったらそれなりの手段を取ればいいことだしな」
「そうね」
気がついたら半分以上の焼き鳥をラインが食べている。これは相当の大食いだな・・・。
「明日も早いしな。俺は寝る」
「そう?じゃあお休み」
「お休み」
俺は寝袋に潜り込むとそのまま眠りについた。
翌日、俺達は早めに起きて丘の上にある教会に侵入することとなった。野営していた所から約一時間、そろそろ教会が見えてくるだろうが、さっきから何か妙な雰囲気が辺りを包んでいる。
「なあライン。何かおかしくないか?」
「そう思う?何か空気そのものが重くのしかかるような、さっきから息苦しいんだよね」
実際ラインは肩で息をしている。そしてその顔にはこちらから見ても明らかに分かるほど冷汗をかいている。
「前もこうだった・・・。どうする?先に進むか?」
確認を含め俺はラインに訊ねる。
「行くに決まってるでしょ!!こんな所で怖じ気づいた?まああなたは男らしくないからからねえ」
「だから・・・・・」
まったく泣きたくなってくる。ここまで言いまくられるともう反論する気力もない。ただ受け流すのが一番いい方法だろう。
「あれだな・・・・・」
重苦しい空気の中、指さした先には小さな教会がぽつんと立っていた。この辺りは森となっているのでそれを背景として何か童話にでも出てきそうな不思議な雰囲気をその教会は醸し出している。
「早く行こう・・・」
相変わらず肩で息をするラインが教会の入り口の方に近寄る。その後を俺も追って行く。そして正面門の前まできたとき、俺は圧力に絶えきれなくなってがくっと膝を地面についた。周りの重力が全部俺にのしかかったような気分だ。
隣のラインも何かに絶えるようにじっと蹲ったままである。
「いったい何なんだこれは・・・・」
内に次々とは入ってくる訳の解からないこの圧力に絶えながら、俺は正面門を調べ始める。試しに押してみようと思い実行してみると、意外なことに門はさび付いた音をたてながら開いた。
「いったい何なんだこれは?」
あまりにも意外なことに拍子抜けして同じ言葉を繰り返してしまう。ラインも同じように唖然とした顔でドアを見つめている。普通ドアが開いているなどということは絶対ありえないことだ。もう誰かが入っていったのかもしれない。
俺達二人は壁にもたれながら中へと足を進めていった。
「外と内では全然違うね」
さっきまで死にかけていたラインは今ではピンピンしている。それは俺も同じこと。どうやら外では何かしらの理由でとてつもない圧力を感じていたが、中ではそういうことはないようだ。
それにしても中は静かだ。
「厳かな所だね」
辺りを見て回っていたラインがつまらなそうな顔をして言う。確かに中はただ簡素な木製の祭壇と小型のパイプオルガンがあるだけで、他には何もない。
ふと祭壇のの方に目をやると後ろにあるステンドグラスには一人の傭兵のと妖精だろうか、後ろに羽をはやした女性が光を浴びて鮮やかだ。それを見ていると何か神秘的なものに触れた気がして何か喜ばしく思えてくる。
「あやしいと言えばあのステンドグラスなんだけどなあ」
ラインはまじまじとステンドグラスをのぞき込む。
「駄目。特に仕掛けはないみたい」
ラインは諦めて俺の近くまで戻ってくる。
「それにしてもこのステンドグラスって不思議だよね。何か心が落ち着くというか、この世のものとは思えないような気分になるんだ」
「そうだな・・・・・」
確かにこのステンドグラスには理解しがたい落ち着きというものがある。
これを見た者ならどんな者でも必ず穏やかな気持ちになれるだろう。
「ねえ、何か伝説っていうか言い伝えみたいなものはないの?大抵こういうときにはそういうものが役に立つんだから」
「そう言えばそうだな」
ラインに言われて気がつく。遺跡を発掘や財宝を探し出すときよく昔の伝説や言い伝えを参考とすることがある。これはトレジャーハンターの間では常套手段としてよく用いられる。伝説や言い伝えの類はよく暗に意味することが含まれていたりするのだ。
「ああ思い出した。何故か俺の国には各家庭にはそれぞれこれと同じようなものがあった。母親の話によるとこの妖精が守り神なんだって。そして、ここを押すと」
と言って俺は祭壇の妖精の像を押しつける。すると、真ん中あたりの床が沈んでいき階段が見えた。
「まあ普通の仕掛けと言えば普通ね」
ラインは既に階段の半分は下りている。
「おい、ちょっと待て!!先に何があるかわからないんだぞ?変な連中が来ているかもしれないのに」
「気にしない、気にしない。どうせ大した仕掛けなんてないて?別に財宝を隠してる訳じゃあないでしょ?それに敵さんは全部蹴散らせばいいの」
「まあそうだが・・・・」
「なら大丈夫だって」
ラインはそのまま先を歩いて行ってしまった。
(もしかしたらそのままメレンゲンの森まで通じてるかもしれないな)
密かな期待が俺の中からこみ上げてくる。
(過去を暴くこととは事実を知ること。俺がその事実を暴いてみせる!)
一人気合いを入れ直すとラインの後を追うことにした。
あとがき
もう第三回なんですね。何かいろいろと大変です。まあ今回の小説は結構オーソドックスなものになるんじゃないかと・・・・・。
それにしてももう夏なんですね。最近妙にぼやきが増えて・・・・・。ああ、もう自分も歳ですかねえ。
ともかくさっさと書き終えちゃいます。この小説。
解説
滅亡した王国
名前についてはまだ出てきてはいないが少し前までは存在していた王国。だが外部の勢力の激しい攻撃に会い滅亡する。現在ではその栄光をかいま見ることすら出来ないほど国は破壊されている。
その昔妖精に助けられた傭兵が王になったという伝説を持つ。その伝説より妖精を守護神として崇めていた。
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第四回 どうやら読みは逆のようだ