現在、各地で戦争が頻発している。国は建国され、そして滅亡していく。俺の祖国もつい先日外部勢力の一斉攻撃を受けて滅亡した。
落ち着く場所を亡くした俺は国を離れ旅をしながら情報収集に励んでいる。

「すいません。メレンゲルの森っていう所を知りませんかね?」

俺はすれ違った商人に声をかけてみる。

「あの伝説の森だろ?そんなもんあるわけないじゃないか。それにしても珍しいねえ、そんなもんを探してるのかい?」

「ええ、自分の手でこの伝説を暴いて見せたいんです」

「こんな世の中で夢のあることを言うねえ。そうだ。この先にチャクルという村があるよ。そこの酒場に行けば何かしらの情報を得られるかもしれないね」

「わざわざありがとうございます」

丁寧にお辞儀をすると手を振り歩き出した。

夏もいよいよ本番で暑さは並大抵のものではない。屋外で直射日光に当たっているだけで体力を消費していく。

「さすがに暑いな・・・・・」

この暑さにはさすがにうんざりというところだ。

「さて、先を急ごうかな」

気合いを入れ直して俺は歩幅を広げていった。

















ANGEL SEARCHER

第一回 俺は只のしがないハンター


















村に着くとそこには人がごった返していた。どうやらどこぞかの軍が休憩がてらに居座っているようだ。
何か物騒な感じもしたがだからといって引き下がるわけにもいかなく村の中をズンズンと歩いていく。
すれ違う者は重装備をした傭兵ばかり。どうやら女と遊びが目当てのようだ。近くで戦争を終えてきたのだろうか、鎧の所々には返り血がべっとりとついている。

「ちょっとやめて下さい!!」

どこからそんな声がしてきたような気がした。ああ早速かなどと思いながら振り返ると目線の先で数人の男が一人の女を囲んでいるのが見える。

「だから少し遊ぼうと言ってるだけじゃねえかよ」

男達はどんどんと囲んでいる輪を縮めていく。

「だから私は忙しいんです。ここを通して下さい」

「つれねえ姉ちゃんだなあ。でもここは通さねえ」

男達の方も意地になっているようだ。まあどこかで戦争を終わらせてきたところだからいろいろと欲求不満が溜まっているのだろう。

だが俺はあえて助けに行こうとはしない。ここで助けに行くということは彼らを振り払わなくてはならないということだ。彼らを相手に出来るほど俺には実力というものはない。しかも俺はそんな正義ぶったことをするほど人間できちゃあいない。
何せ本職は只のしがないトレジャーハンターなんだからな・・・・・。

そのまま無視して過ぎ去ろうと思っていた矢先、一人の少年が連中に近づきいきなり一人の男の顔を殴りつけた。図体のでかい男が数メートルも吹っ飛んだところを見ると相当重いパンチを喰らわしたようだ。

ただ者ではないな・・・・・・。

「てめえいきなり何しやがる!!」

いきなりの横槍に男達は戸惑う。だがさすがはプロ、直ぐに武器を手にしてその少年と向かい合う。
少年は黙ったままであるがその目にはあからさまな殺意が感じられた。しかもその殺意というものが尋常なものではない。

(まさかあいつじゃあないよな?)

俺は記憶を辿っていくうちにあるところで聞いた噂を思い出す。その通りの人物だったら直ぐさま逃げた方がいいかもしれない。このままでは俺まで巻き添えを喰らう。
だが恐怖感よりも好奇心の方が大きかった俺は、しばらく遠くから傍観することに決めた。

「あん!!何とか答えたらどうなんだ?」

男達は欲求不満の対象を少年に変更したようだ。その一瞬の隙に女はするすると包囲網を抜け出し周りの人の中に紛れ込む。だが男達は少年と向き合っていてそれどころではない。

「とっとと答えねえと・・・」

男の中の一人が手にしていた棍棒を思いっきり振り下ろす。普通の市販の棍棒の倍近くの大きさはあるだろうか、あれをまともに一発でも喰らったら人間でなくとも即死だろう。そんな棍棒を思いっきり振り下ろしたはいいが、少年は軽々とそれを避ける。当たらなければ意味がないのだ・・・・・。

そして次の瞬間に俺は見た。少年の目が赤く光るのを・・・・・・・。







勝負は一方的だった。男達は次々に殺されていき、しまいには少年は死体を殴りつけて笑っていた。見ているこっちの方がぞっとしてくる。
まったくどうやったらあそこまで残酷な少年に育てられるのだろうとこっちが恐怖する。
だがそれよりも恐ろしいのが少年の腕だ。ナックルを装備しているようだがそれでもあんな堅い鎧をへこませて内蔵に衝撃を与えるというのは普通の人間のやることじゃあない。まさしく猛獣だ・・・・・。

しばらく唸っていた少年だがどうやら落ち着いてきたみたいで、目から殺気が消えていった。
俺はひとまずほっとする。周りにいた人間は少年の人間離れした行動に脅えて直ぐさま家の中に入ってドアをロックしていまった。

つまりこの炎天下の町中にいるのはその少年と俺の二人だけなのである。

「ハウリングムーン・・・・・」

俺の言葉を聞いた少年はあからさまな殺意を今度はこちらに向けてきた。「俺を知る者は全て殺す」とでも言いたいのだろう。

「ちょっと待て。ほら見ろ。俺はどこぞの兵士でもなければ傭兵でもない。単なる財宝を探してさまようしがないトレジャーハンターだ」

両手を上げてそう叫ぶ。俺の言葉を理解したのだろう、奴は武器を外すと懐にしまい込む。
それを見た俺は再び安堵の息をつく。

「ところであんたは何でこんなところにいるんだ?」

「そういうお前は?」

「んっ?俺か?俺は今ある伝説を暴くために旅を続けている?知ってるだろう?妖精と王様の話を」

「聞いたことはある」

「その妖精さんを探しだそうって訳。おもしろいでしょ?」

「ふん。くだらん・・・」

「ちぇっ。つれないなあ」

そこら辺に転がっていた石を蹴飛ばす。奴は俺に対する興味を失ったのか、とぼとぼと村の外の方に向かって歩き出す。

「そう、俺の名前はジャル。これも何かの由縁だ。覚えといてくれ!!」

めいいっぱい叫んだが奴は振り返ってくれなかった。







酒場には傭兵達が溢れていた。俺はこそこそとその中を通り抜けていくとカウンターのマスターの前の席を占領する。

「よう、おやっさん。ウイスキーを。もちろんオン・ザ・ロックでね」

マスターは頷くと後ろの方から氷入りのグラスとウイスキーを一本持ってくる。

「おお、これってあの有名なウイスキーじゃない?こんなん飲ませて貰って良いの?」

「ご自由に。今日は特別サービスだ」

「わるいねえ」

そう言いながらグラス並々にウイスキーを注ぐ。

「ところでおやっさん。メレンゲンの森について何か知らないかねえ?」

それを聞いた途端マスターの顔が曇る。

「メレンゲンの森か?あの伝説の妖精がいる森だろう?最近よく耳にするが位置までは聞かないねえ」

「最近よく聞く?」

その言葉が気になった俺は思わず聞き返す。

「そう。何かどこぞかの貴族だかが大金はたいて探させてるとか」

「その理由は?」

「さあね。でも話によると不老不死の力をその妖精が持っているだの持っていないだの・・・・・」

「うーん・・・」

その話を聞いた俺は思わず唸る。まずそんな話を聞いたことはない。どうやら人々に伝わるにつれていろいろと尾鰭がついたようだ。

あともう一つ伝説と思いこんで誰もこんな話に振り向かないだろうと踏んでいたがどうやら誤算だったようだ。
まあ貴族ともなると戦争をするかそれともくだらんことに金を費やすかそのどちらかをすることが大半である。
だが貴族の経済力というものは半端じゃなく、俺も彼らの富と権力の前に何回も屈してきた。

だが今回だけは譲ることは出来ない。

「マスター、何処の誰かわかるか?」

ウイスキーを飲み干すとマスターに聞いてみる。そろそろ酔いが回ってきたようだ、意識が朦朧としてくる。

「ゴルバ家だよ。あの有名な」

「・・・・・・」

奥歯を噛みしめる。彼らの財力というものは半端じゃあない。金をつぎ込めば1000人近い同業者を集めることができるだろう。そんなことをされては俺の少ない情報源では到底太刀打ちできない。

「へえ、あんたもその伝説を信じるの?」

その時、ふと俺の隣に軽装な女が腰掛けた。

「まあな。だが苦しいな・・・・」

「どう、私と組まない?」

女のいきなりの言葉に俺は硬直した。




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