パニック!
シード編・第四章
「イーグ=ファルコム」
E【真流】
朝、俺が目覚めた部屋と同じように、四方を襖と障子で囲まれた部屋。
いや、朝の部屋よりもやや広い。障子の脇にある壁には、棚が設けられて猿やら犬やらの彫刻が幾つか無造作に置いてあった。
通された部屋は、客間かシルヴァ=ファルコムの私室のようだが―――おそらく、前者だろう。個人の部屋にしては、家具が少なすぎる気もする。もっとも、俺が暗殺者だった頃の上司であったアインダー=ラッツのように、特殊な変人であれば答えはまた違ってくるが。
部屋に入って数分。
そんなことを考えながら、素足の裏に畳の奇妙な感触を感受しつつ、俺は立ち上がったまま尋ねる。
「それで? 俺に話ってのはなんだ」
部屋を入ってから物を言わず、どっかりと卓机の向こうに胡座を掻くシルヴァ=ファルコムは、「あー?」と寝ぼけたような声を出すと、やおら面倒そうに顔を上げる。
鋭く俺に視線を投げかけると、苛々と機嫌悪そうに口を尖らせてきた。
「ちょっと待っていろ。貴様に言うことを整理しているんでな。落ち着きないぞ貴様」
「・・・・・・」
とりあえず、黙ってその場に腰を下ろす。
―――ちなみに、一緒についてきたセイはすで俺の後ろで、シルヴァ=ファルコムと同じように胡座を掻いていた。
・・・しかし、昨晩に遭遇したときから貴様貴様と偉そうに言われてるが、不思議と気にならないのは、この男がそういう男だと知っているからだろうか。
ともあれ、俺が腰を落ち着けると、シルヴァ=ファルコムは尊大な態度で胸を反らせて。
「―――貴様は俺の息子なのか?」
「らしいぜ」
―――言いながらも、考えてみれば確証はないように思えた。
親の顔を覚えていないし、唯一の手掛かりは姉さんが教えてくれた―――付けてくれたこの名前だけ。
下手をすれば、姉さんがどこからか攫って来た子供とか―――或いは、ナントカ=ファルコムっていう同姓の別人の息子かもしれない。
・・・なんて、考えて気付いた。自分が目の前の男の息子と言うことを、否定したがっているコトに。
苦笑。
して、シルヴァ=ファルコムは続けた。
気が進まない、というよりは面倒だとでも言うように表情を渋く染め上げて。
「ならば、俺は貴様を殺す」
「・・・ちょっと待てよ」
と、しばらく静観していたセイが声を上げた。
疑問と、やや憤りを声に混ぜて立ちあがる。
「そりゃどういうことだ? ―――俺にゃ事情がわからんけど、いきなり殺すってのは物騒過ぎるぜ」
ごもっとも。てゆか、俺だって事情はよく知らない。
ただ、殺し合う―――殺し合わなければならない宿業のようなものは感じているケド。
二対の瞳が、この館の主に向けられる。
「十五年―――いや、もうすでに十六年前か」
どこか疲れた響きのある声。
そんな声を、俺は確かに聞いた記憶があった。
―――かつて、マスター―――スモレアー=ウォーフマンが過去を語った時と同じ。
誰もが後悔をしている。と、俺は思った。
人は誰もが後悔をしている。年を取るたび後悔を積み重ね、長く生きる程にその後悔は深まっていく。
自分が正しいと信じていても、自分が間違っていると思わされるときが来る。
吐息。
「訂正するよ、シルヴァ=ファルコム。俺はあんたの息子じゃない。シード=ラインフィーって言う、ただのウェイターだ」
「ふン、そうかよ」
ふてぶてしい笑みを浮かべる。その声は、どこか安堵していたように思える。
ま、なんだっていい。今更、俺はこの男を殺すつもりなんかない。殺す気も失せた。
「十六年前―――俺には一人の息子が生まれた」
ぽつり、とシルヴァが呟く。
遠い遠い、遠い昔を思い浮かべるようにして、視線を俺の後ろの壁と天井の合間くらいに持ち上げる。
「二人目の子供で―――初めての息子だった。・・・ふン、ガラにもなくはしゃいだものさ。そいつが “それ” だと気付くまではな」
「それ?」
それ、とは何のことだろうと、シルヴァを見れば、向こうもこちらを見つめ返してきた。
「天空八命星―――それがどういうものか、貴様は知っているか?」
「・・・かつて、遥か昔に存在した最強の暗殺技術」
「ハズレだ。・・・・・そうか、貴様は知らないのだな」
可笑しそうに苦笑する。
・・・なんなんだ? なにか、間違っているのかよ?
「天空八命星とは、遥か昔に存在した種族のこと。時を操る術を持って生まれた、 “強力存在” と呼ばれる人間たちのことだ」
「・・・・・はい?」
ちょっと待て。なんか初耳だぞそれ。
天空八命星って、すっげー昔の伝説的暗殺者が使った技じゃなかったのか?
思わず、ぽかんと口をあけると、さらに愉快そうに男は肩を揺らした。
「天空八命星とは、時を操る術を持って生まれた種族の名。そして、その種族が使った力を天空八命星という。貴様が―――いや、俺の息子もまたその力を持って生まれた」
「時を操る・・・?」
そんな、こと、言われても。
俺は時を操るなんて、そんなことはできない。
・・・あれ、でも、どうして俺はこんな力を使えるんだ?
自分の存在を消して、相手の存在を塵に返る―――そんな技、どうやったら使えるようになった? 使えるようになるんだ!?
―――違うって。初めから使えていたんだよ、シード=ラインフィー。
初めから・・・使えてた?
でも、俺は姉さんに教わって―――
―――姉さんに教わったのは、技じゃない。そういう力が自分にあるってことを教わった。
そう・・・そうだ。
姉さんは、僕に力の使い方を―――――ッ!?
――― “虚無” は自らの存在を “時の流れ” から隠蔽する。 “無音” はその下準備。
だ・・・れだ?
――― “刻見” は過去感知と現在観測から演算された未来予知。 “神眼” はその演算結果。
おまえは・・・だれだ?
――― “空情” は説明するまでもないね。
感情を切り離すだけの―――天空八命星とは関係ない技術。誰だって聞いてるんだよ!?
―――知ってるはずだろシード=ラインフィー。僕が、何者かなんて。
―――君が一番良く知ってる。
・・・おまえは・・・
―――そして、虚空殺。
これは、目標の時間を “永劫” と呼ばれる時間単位まで進めて “終わらせる”。
時を支配し、操る者。
―――そう、それが。
イーグ=ファルコムと呼ばれる強力存在!
「おいっ、シード! どうしたんだよ!」
肩をゆすられて、僕は後ろを振り返る。―――それに連続するように、流れるような動作で俺の身体はセイの懐に、一撃を見舞った!
・・・・・って、あれ? なんだ、俺の身体が勝手に―――!?
「がふっ!?」
脆い。
今の一撃―――たかだか拳の一突きだけで、セイ=ケイリアックという男の身体は吹っ飛んだ。
後方の襖を巻き込みつつ、この部屋と続きになっている部屋へと転がり込む。今の一撃―――貫手の強力な一撃で、セイの肋骨が何本か折れた感触。
・・・自分で身体は動かせないのに、五感は正常に働いてる?
「・・・は」俺が笑う。
嘲るように―――いや、むしろ嘆くように。
「情けないぞセイ=ケイリアック。あの夜は、そんな物じゃなかっただろう?」
ぞくり、嫌な予感が神経を駆け抜ける。
その声は明らかに挑発していた。
明らかに、殺し合いを望んでいる―――
「貴様は、誰だ?」
背後から声。
―――ああ、忘れていた。そう言えば、セイ=ケイリアックよりも最優先で殺すべき男が居たな。
振り返る。降り返った俺の目の先には、立ち上がって鋭くこちらを睨むシルヴァ=ファルコムの姿が在った。
―――貴様は、誰だ? 先刻も聞かれた言葉。
俺ならばシード=ラインフィーと答える。けど “コイツ” は―――
「自己紹介ならしただろう?」
気付いていないとは言わせない。
目の前の男も感じているはずだ。これから始まる殺し合いの予感に。
ぺろりと舌で唇を舐める。興奮で、酷く、乾いている。
「イーグ=ファルコム―――あんたの息子だよ」
「貴様・・・天空八命星かっ!」
「そうとも言うな」
事も無げに応えると、俺の身体―――
いや、イーグ=ファルコムはシルヴァ=ファルコムに向かって1歩を踏み出した。
音が、しない。はっとしたように親父が僕を見る。
―――いや、見ようとした。
しかし、その瞳の焦点が僕を捕らえることはない。すでに僕の存在は、正常な時間軸から僅かにズレた場所に在る。
正常な時間に在って、僕を捉える事は絶対不可能。ヤバイ!
そう、思っても俺はシルヴァ=ファルコムへ警告を発することすらできない。
俺の身体だったはずのものは、俺の意思にまったく反応を示してくれない。
どうしようもなく、意識だけがもがいている間にイーグ=ファルコムは、さらに1歩を踏み出して。
―――駆ける。微妙にズレた時間の中を、テーブルを踏み越えて親父に迫る。
この男を親父と呼ぶのもこれが最後―――そう、思いながら懐のナイフを抜く。
「悠久の時の彼方に―――消えな」
親父が戸惑う間に、すでに目の前に到達した俺は手にした武器を親父の喉に突き立てた―――なにっ!?イーグが振るったナイフの一撃。
しかしそれは、シルヴァ=ファルコムの二本の指にその切っ先を受け止められていた。
昨晩、セイにも回避されたが、こうして客観的に見ると、天空八命星には幾つかの欠点が見えた。・・・このクソ親父・・・
なんて、指の力だ! ナイフを取り上げ様としても―――動きゃしないっ!
「ぢぃっ、お前―――」
「天空八命星を滅ぼす事―――それが、我が真流の使命!」
親父は僅かにナイフごと僕の身体を引く。
直感的に身の危険を感じた僕は、反射的にナイフを離すと、嫌な予感から逃れ様と後方に引く。―――が、遅い。
「かはっ・・・げぼっ!?」
は・・・ぐっ!?
シルヴァ=ファルコムの一撃が、俺の懐に入った。
イーグは、吹っ飛ぶこともなくその場に崩れ落ちる―――テーブルの上に膝をついた。身体の中からバラバラにされるような衝撃。
ごほっ、と咳き込んで吐血する。
くそったれ・・・ “隙” かよ・・・・・・ち・・くそ。
俺だって痛いんだ! あれくらい、ちゃっちゃと避けろよ馬鹿!意識が暗転する―――くそ、結局、俺は・・・・・・・・・・・・・・・・
―――って、ちょっと待てコラぁ!?
なに気を失ってんだお前はッ! 死ぬぞヤバイぞってか殺されるぞおいーっ!
「ふン・・・僅かでも避けようとしたのが災いしたな。素直に食らえば楽に死ねたものを・・・」
シルヴァ=ファルコムの声。
誰が楽を望むか馬鹿野郎。
楽に死にたいって思うなら、もうちょっと楽に生きてるさ!
「・・・まだ、死にたくないんだよ、俺は」
呟いて、また血を吐く。
・・・やばいなーこれ。笑い出したいほど痛いし。
骨がやられてないのがせめてものの救いってトコか。
立ちあがる。
棺桶に片足突っ込んだような状態だが、身体はなんとか言うことを聞いてくれた。
偉いぞ俺の身体―――って、いつのまにか俺が動かしてるし。
俺の中のもう一人のアイツ―――イーグ=ファルコムが気を失ったせいか。
てゆーか、なんだったんだ、あいつは?
「まだ、動けるのか!?」
顔を上げれば、シルヴァの驚いたような顔。
はっはっは、驚け驚け―――くっそ、気分的盛り上げてもシャレにならんほどキツい。
はぁ、死ぬかなー。やっぱりこのまま目の前の親父に殺されちまうかなー。
―――そう、思いながらも絶対に死なない。そんな確信があるのは何でだろう?
「貴様は・・・誰だ?」
シルヴァは俺を見て、何度目かの同じ台詞。
だが、俺が応えるよりも先に質問者は頭を振った。
「いや・・・貴様が何者だろうともはや関係ない。貴様の内に天空八命星があるならば―――」
「俺を殺す・・・か? 無理だね」
額に脂汗がつつーっと落ちる。
嫌な感触だが、それを拭うこともせずに、ちっちっちっ、と指を振ってやる。
にやにやと笑み。
人間、完全にどうしようもなくなると笑い出したくなるものかも知れない。
少なくとも今の俺はそうだ。
「俺は殺せないぜ。だって、俺はシード=ラインフィーだからな!」
全身がバラバラになる感覚。
激痛だけで、死んでしまいそう。
時間が時を刻む度に、自分の魂が削られていく。
いっそのこと、生きることを放棄してしまえばどんなに楽だろうか。
それでも、自分が今こうしてしぶとく生きているのは。
俺が、俺であるから。
シード=ラインフィーであるからで。
それ以外の理由も、意味も、使命もどうでもいい。
「ぐっ・・・」
正常な時と交錯する。その瞬間、激痛が身体の奥底から呼び起こされる。
気力で痛みを無理矢理に捻じ伏せて、前を見る。
テーブルを挟んだその先には、拳を突き出したままのシルヴァ=ファルコムの姿があった。
世界を流れる時間の流れから、僅かに外れた時間の中を動いて、ここまで逃げた。
正常な時間の中を歩む人間は、異なる時間に入った俺に干渉することはできない。
天空八命星―――虚空。
いや、もはや “天空八命星” という一つの理を完全に把握した今、その能力を無意識的に使うことができる。
「貴様・・・逃げるのかっ!」
「当たり前だ馬鹿たれ」
叫びながら腹部を抑える。
・・・あまり意味のない行為。ダメージは身体全体の中から響いてくる。
腹部に手を添えたのは、ただ、腹が抑え易かったというだけのこと。
「逃すと思うなッ!」
揺。
空気が揺らぐ。
見れば、シルヴァの右手が蜃気楼のようにぼやけている。真流 “無天” 砲―――――
片腕に練り上げた気を集中させ、それを打ち出す。
闘術では、もっともポピュラーな飛び道具。自分の中のイーグ=ファルコムの知識が流れこんできた。
・・・お前、もうちょっと寝てろよ。お前じゃヤツには勝てないんだからな。
―――勿論、俺も勝てるつもりはない。とゆーか、闘うつもりもナイし。
「覇ァァァァァァァァッ!」
気のチャージは終わったのか、右腕を腰に引く。
・・・やれやれ、背中向けたら容赦なく撃たれるだろうしな。白旗揚げちゃ駄目だろか。
投げやりに考えつつ、俺も右手に拳を作る。
手に力を入れるだけで、全身にヒビが入ったような激痛。
もはや痛みを痛みと正常に認識できない。それほどまでに、さっきの “隙” は効いていた。―――ったく、脆い脆いって手前ェの身体が一番脆いじゃねーかよ!
・・・そういえば、セイのヤツはどうしたかな。まさか、あの一撃でくたばったとは思わないけど。
「真流 “無天” ―――砲!」
打ち出す。
シルヴァの拳から、衝撃波が飛んでくるのを “感じた”。
―――キンクフォートに来る前に、アバリチアでスモレアーのマスターに見せてもらった “ブラスト” と似たような衝撃波。
もっとも、あっちは斬撃で、こっちは打撃という違いはあるが。
打撃の方が衝撃力は高そうだが、斬撃の方が速い。余裕で捉えられる。
俺は正確に、迫り来る衝撃の中心に拳を放つ。
「天空八命星―――虚空殺」
拳の触れた衝撃の時間を加速させ、 “無” よりも確実な “終わり” へと導く。
物理法則もそのあらゆる関連をも無視した、 “終わり” という結果に全ては無に帰る。
「ふン」
自分のその一撃には大して期待をしていなかったのか、 “砲” が霧散すると同時に、シルヴァ=ファルコムは無造作にテーブルを乗り越えると、俺に向かって跳躍してくる。
蹴り。
鎌を凪ぐような、回し蹴りを身を伏せて回避。すると、続いて別の足の踵が落ちてくる。
「チィッ!」
舌打ちしつつ無理な体勢のまま、横に飛ぶ。
受身を取る暇もなく、床に転がって全身から痛みの形で非難が飛んできた。
ともすれば意識を失ってしまいそうなほどの激痛の中、己の時間軸をずらして隙を作り、その間に立ちあがる。
「ふン。意外と動ける」
ずぼっ、と畳にめり込ませた自分の踵を引きぬきながらシルヴァ。
ああ、自分でも結構意外だ。限界限界って思ってて、ここまで動けるって人間の生命力は素晴らしい。
ごほっ、と咳き込む。口元に手をやると、手にぬるりと生暖かいもの―――うあ血だ。
くそ、洒落ぬきで内臓が潰れてるんだろうか。よく生きてるな俺。
「――――ッ! だぁっ!」
ん?
背後で気配。
振りかえるとヤツがいた。
「おいシードッ! お前、いきなりナニしやがんだっ! 思わず気絶しちゃってたじゃねえかっ!」
先程、イーグ=ファルコムに別の部屋へと強制ご招待されたセイが、戻ってきていた。
おお、ナイス。我が友よ。俺を窮地から助けに馳せ参じてきてくたのか―――なんて言おうとして、また吐血。
うっわー、死ぬな。これ死ぬー。
げほげほっ、と身体を折って咳き込む。低くした頭の上を掠め、シルヴァの蹴りが飛んできた。
「げっ!?」
「ちぃっ!?」
くそったれっ、人が吐血で苦しんでる所を狙ったかのように―――
マズイな、早く逃げないと―――
「天空八命星! 貴様に、この奥義が受けきれるかっ!?」
「受けるつもりなんざねェ」
自分の意見を主張する俺の言葉を無視して、シルヴァはその場で反復横跳びの要領で左右に繰り返し跳ぶ。
な、なんだ・・・? 奥義って反復横跳びかよ?真流 “無天” ―――奥義・流星乱舞
残像すら生み出す、究極の超々高速連撃。超々高速連撃だぁ?
ワケわかんねーって、おいっ!
・・・って、あ、あれ? 目の錯覚か?
なんか、馬鹿みたいに横跳びを繰り返すシルヴァの身体が増えて―――
ぎんっ!
「・・・っ。な、なんだ? 耳鳴り? ――――って、おわぁっ!?」
気がつけば、周囲を何人もののシルヴァ=ファルコムに囲まれていた。
つっても、スライムみたいに分裂したわけじゃない。おそらく、高速移動による残像。目の錯覚。
なんか、見つづけていると目がクラクラするなー。
しっかし、なんつー残像の数だ。これが本当に、人の動きで出来るものかよっ!
「「「「「「「死ね」」」」」」」
シルヴァ=ファルコムの残像が呟いた。
はん。と、俺は笑って。
「やだね」
べーっと舌を出す。
刹那。シルヴァ=ファルコムの残像が全て消えうせ、一瞬と立たないうちに、俺の身体が視認できないほどの高速の一撃に貫かれる。
時間軸をずらすよりも尚早い、そんな人間の感覚すら凌駕するほどの早さ。
俺の身体は四方八方から打ち出される連続攻撃に成すすべもなく翻弄されていく。
シルヴァ=ファルコムの姿すら見えない。時折、陽炎のように残像が浮かぶが、それに気付いた瞬間に掻き消える。
腹を打たれた次の瞬間には、背中を蹴られて。顎を突き上げられた瞬間には、頭を割られる。
攻撃に続く攻撃は、その衝撃と相殺されるように正反対の部位に攻撃されるため、俺の身体は吹っ飛ぶこともない。見る分には、ぼーっと身体を揺らして立っているように見える。まるで、吊るされた操り人形を、子供が操り方も知らずにただ揺らして遊んでいるようだ。
「ぃりゃあああああっ!」
がすっっ!
と、最後にシルヴァ=ファルコムの “隙” が頭部に入って、それがフィニッシュであるようだった。
内側から壊す “隙” を頭に食らえば、脳味噌がぐちゃぐちゃになって即死だろうなー、などと我ながら気分の悪い連想をする。
「・・・・・・・はぁっ、はぁっ―――ふン・・・終わったか」
息を整えて、シルヴァは今殺した “シード=ラインフィー” を見おろして。
「・・・な、に」
愕然と、息を漏らした。
殺したはずの、シード=ラインフィーの姿はすでにそこにはなかったからだ。
・・・いや、まあ、俺はここに居るんだし当たり前といえば、当たり前だけど。
「マトモに食らってたら死んでたな。というか死んだのか。あぁ」
「なっ、貴様・・・・っ!?」
シルヴァが俺を振りかえる。
テーブルの淵に、行儀悪く腰掛けながら俺はそれを見返した。
「貴様ッ・・・今のを受けて生きているというのか!?」
「いや、死んださ。その・・・流星乱舞を受けた俺はな」
にやと、笑う。
“無影” の要領で、俺は一つの仮存在を生み出して、その隙に “時間軸” をズラした。
この時間の中から、俺という存在が消失したことにより、残った仮存在が “シード=ラインフィー” という存在になったために、虚ではなく実となってシルヴァの “流星乱舞” を受けて殺された。
殺された “シード=ラインフィー” は、俺がこの時間軸に戻ってきたため、再び仮存在となって虚となり消えてしまったわけだが。
にしても、自分が殺されるってのはヤな気分だ。例え、仮の―――偽者の存在であったとしても、俺であることには違いない。或いは、俺の運命の中にあった、在る一つの未来なのかもしれないのだし。
「貴様、一体―――」
「殺せるか?」
俺はシルヴァ=ファルコムに笑いかけながら、立ちあがる。
相変わらず、身体中には激痛。体重を支えるだけで足が折れそうだ。
通常のニ十%も動ける自信はない。が、それでも死なない自信は在った。
シルヴァはしばし、俺を睨みつけていたが。しかし。
「・・・ふン。確かに俺では貴様を殺せぬようだ」
感嘆と。
シルヴァ=ファルコムは笑った。
胸中、何を思っているかは解らない。けれど。
「なら、素直に帰してくれ―――俺にはやることがある」
とんだ道草だ。
情報収集のつもりが、なんでこんなことになっちまったんだか。
はぁ、と。嘆息―――と同時に咳き込んで、血を吐いた。
「うげ」
うー。血が足りなくなってきたかな。
なんか、とってもクラクラする。
早く手当てしないと死ぬな―――――・・・・・・
「おい、シード! お前、大丈夫か?」
セイの声が、やけに遠くから聞こえてくる。
大丈夫だ。と、振りかえろうとして足がもつれた。
「あれ?」
景色がぐるりと回った。
気がつけば、天井を見ている。
どん、と視界が揺れた。
「およよ?」
立ちあがろうとして――――
「はじめまして、だな」
目の前に俺が居た。
訂正。イーグ=ファルコムが居た。
「どっちでもいいさ。自分自身に挨拶するなんて意味のない事なんだし」
対して違和感も、疑問もなくしてイーグと向き直った。
目の前の自分自身は、しかし明らかに自分とは違う。
自分と同じ姿をして、自分と同じ存在だと言うのに。
なにがこんなにも違うのか。
「僕は死んだんだ」
僕。とそう言ったのは、俺ではなくて目の前のイーグだった。
そのことに違和感を覚えて見つめると、イーグは照れたように笑って。
「あ―――あぁ、キミは自分のことを “俺” と呼ぶだろ? そこで僕まで “俺” と呼んだら紛らわしい」
確かに。
―――そう言えば、イーグ=ファルコムが表に出ている時、常に ”僕” と言っていた。
そんなどうでもよいことを思い出していると、イーグは「うん」と頷いて、続ける。
「キミも覚えているだろう? ミストとキミがであったあの森で。僕は死んだ―――死んだはずなんだよな」
「ワケわかんねーよ。俺は生きてる」
「キミはね―――けれど、僕は死んだんだ。僕と言うイーグ=ファルコムはな」
一体、コイツは何を言いたいんだろう?
自分は死んだから葬式でもやれというのか。
「シードも―――キミのことじゃナイ―――フロアも死んだと思った。姉さんにも見放された。だから、僕は死んだ―――それ以上、生きていることが出来なくなっちまったんだ」
「それでも、俺は生きている」
「当たり前だ、キミはシード=ラインフィーなんだからな」
「そして、イーグ=ファルコムでもある」
そう言うと、イーグは笑って頭を振った。
「いいや、キミはすでにイーグ=ファルコムじゃない。ミステリア=ウォーフマンと出会ったキミは」
「・・・・・・・?」
「天空八命星は時を操る能力者―――だからこそ、自分の死期すら本能的に理解できる。イーグ=ファルコムは一年前、あの暗い森の中で、木々に看取られて死んだ」
「くどいぜ! 何度も何度も言わせるな! 俺も、お前も生きている!」
「天空八命星は、時を見る。それが故に決定された未来を動かすことはできない―――だからこそ、真流という天敵が生まれた時、自らの滅びの未来を知り、ささやかな仕返しに “真流” の血筋に己の力を干渉し、自ら滅びた」
「俺が、あの森で死ぬ事は決定されていただと? だけど―――」
「君は生きている。・・・神の瞳を持つ少女によって救われた」
「神の瞳?」
「 “運命” を見とおす力を持つ人間のことだよ。天空八命星のように、過去の時を把握してそれから未来を計算するわけではなく、望遠鏡で遠くを見渡すように、直接運命を見るチカラ」
「・・・ミストの、ことか?」
運命を見とおす。
幾つか、思い当たることも在る。
推理。とか馬鹿言ってる中に、確かな真実が含まれていることもある。
そう、そういえば、以前神経衰弱でパーフェクト負けしたって―――ああ、なんか思い出したらムカついてきたっ!
「神の瞳を持つ少女に助けられて、僕はキミとなった。イーグ=ファルコムは死んで、シード=ラインフィーとして生まれ変わった」
「じゃあ、お前は一体なんなんだ!?」
「決まってる。僕はイーグ=ファルコムだ―――正真正銘の天空八命星」
「死んで俺に生まれ変わったんじゃなかったのか!?」
「死んださ。でも、蘇った―――あの二人が、生きていてくれたから」
シード=アルロード。
フロア=ラインフィー。
・・・そうか、つまり。
「お前は亡霊なんだな」
「僕は亡霊なんだ」
・・・
同じ言葉を同時に言って、顔を見合わせる。
―――思わず、笑いがこみ上げてきた。
「流石は同一人物。同じオチを考えてたとわ!」
「いや、オチとか言われるとアレだけど・・・ま、まあそう言うコト」
笑い、そして真顔になってイーグは続けた。
「シード=ラインフィー。キミは、なんのために生きている?」
「・・・・は?」
「僕は、姉さんと・・・そしてあの二人のために蘇った。キミは、ミステリア=ウォーフマンのために生きるのか?」
「馬鹿抜かすなよ」
ふン。
と、鼻で笑う。
冗談じゃナイ、なにが哀しくてミストのために生きなきゃいけないんだか。
「俺は俺のために生きてんだ。誰かのために、なんて疲れる生活はしたくナイね」
「・・・そう。キミは、キミなら――――」
少しだけ、哀しそうに、悔しそうに。
イーグ=ファルコムは呟いた。
「――――キミなら、あの二人を救えたのかもしれないね」
「あら。気が付かれましたか」
目を覚ませば、朝目覚めた時と同じ部屋。
起きあがると、母さ・・・もとい、レティさんが傍らに正座していた。
「ん・・・あれ? 俺は?」
「大変だったんですよ」
と、レティさんはおっとりと笑う。
首を巡らせて、窓を見る。
―――意外と時間は経って居ない。まだ、窓から差し込む日の光は明るくて、時間が過ぎたとしても昼過ぎかそこらだろう。
「もう、ぜんっぜん血が足らなくて、私やライラちゃんの符術が間に合わなければ、バッチシ死んでました」
「はぁ、そりゃどうも・・・」
「いえいえ。別に恩を着せるとか恩着せがましいことを言うつもりはないんですけど」
「はぁ、大丈夫です、あまり恩を感じてないですから」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・いえ、とても助かりました。ありがとうございます。凄く御礼感謝、多謝感激」
俺の言葉に満足したのか、レティさんは「それではごゆっくり〜」と笑顔のまま退室していった。
・・・・・あの人もいい加減、変な人だなぁ。
流石、俺の母親だ。
もしも。
俺が、ここで育っていたら、いったいどうなってたんだろうか。
なんて、想像して笑う。
「・・・なにが可笑しいんだ?」
「あ、パパ♪」
入ってきたシルヴァ=ファルコムは、入ってくるなりにズッコケた。
・・・むぅ、折角息子から親愛表現してやったと言うのに、失礼なヤツだ。
「貴様、頭でも打ったか?」
「誰かの一撃が、脳髄にまで響いたんだよ」
頭をさすって見せる。
―――実際のところ、すでに激痛は消えていた。
というより、正常以上に優良な体調。朝目覚めた時よりも、健康体だ。
これが、符術―――真流 ”天地” のお陰だとしたら、大したものでは在る。
「ふン・・・その調子なら、もはや心配はないな」
「心配? は。自分で殺しかけてて良く言うぜ―――って」
・・・・・・・・あれ?
そーいや、なんで俺は生きてんだ? いや手当てされて生きているのはラッキーだけど。
でも、あの状況なら殺されるのが普通だろうに。
「―――なんで、俺を殺さなかった?」
先刻のレティさんと同じ場所に胡座を掻くシルヴァに、俺はとりあえず尋ねてみる。
質問に、シルヴァはムッと表情を歪ませて、ぼりぼりと頭を掻いた。
「・・・・・貴様が言ったとおりだ。俺には貴様を殺せなかった、ただそれだけだ」
「そりゃ能力の問題だ。俺の身体がもうちょっと持ってくれれば、あのまま逃げ出せたってだけで」
気を失っていた俺を殺すことなんて、赤ん坊だってできる。―――いや無理かもしれないけど、それでもシルヴァ=ファルコムなら、殺すか殺せないかなどと問う意味もないはずだ。
少なくとも、俺の印象では。
「―――真流は、天空八命星を滅ぼすために存在する。そして、この村は真流の村」
「いや、ンなこと唐突に言われても」
「黙って聞け―――遥か昔、天空八命星という強力存在が存在していた時代に、それを滅ぼすために真流が生まれた。真流とは、人の持てる身体能力を十二分に発揮し、超常的な力を発現させる―――言わば、人外に対抗するために生まれた、人内の最強戦闘術」
そして、真流によって天空八命星は滅びた。
だが、天空八命星は最後の秘術を持って、 “真流” の歴史に干渉し、
己達と同じ能力を持つ能力者の存在を “真流” の子孫の中に潜ませた。
―――それが、僕。イーグ=ファルコムという天空八命星。
「天空八命星は、内々にある一つの衝動を抱えている。・・・それは、己の能力を解き放ちたいという渇望。―――この意味、貴様にならばわかるだろう?」
わからない。
―――そう、応えようとして思い当たることが在った。
しかもつい最近―――キンクフォートで、そしてこのテリュートで。そう。
僕に在るのは、殺意の衝動。
敵は殺す。殺して良い―――殺したい。そんな、喉の渇きにも飢えにもにた渇望。でも、アバリチアに居た時にはそんなこと―――
それは僕じゃなくて、キミだったから。
キミは覚えていないかもしれないけれど、一度だけ、僕は僕として現れたことが在る。
その時は僕も記憶が混乱していたんだけど―――ね。・・・へ?
「貴様は、何者だ?」
やれやれ、結局はその質問か。
真っ直ぐに見つめてくる親父に、俺はぱたぱたと煙を追い払うように手を振った。
「何度も言わせるなよ。俺はシード=ラインフィー―――今は、それだけだ」
「ふン。ならば俺の興味はないな。とっととこの村から失せろ」
「言われなくても」
「よーっす、シード君ってば元気か?」
クソ親父が出ていってから暫くして、今度はセイとクレイスが入ってきた。千客万来。
やれやれと思いながら布団を除けて立ちあがる。何時までも、こうしている訳には行かない―――時間がない。
「はーっはっは! なんだかとっても血を吐いたようだなシード=ラインフィー! よって、今日より貴様に “吐血キング” の称号を与えよう! これからも吐血しまくるが良い!」
「さーて、急ぐぞ。とんだ道草だぜ全く」
「・・・ぐぁ、無視するか貴様ー!」
「やかましい」
とりあえず、クレイスの馬鹿を蹴倒して黙らせる。
床に転がったクレイスの身体を思いきり踏みつけていると、セイが軽く咳払い。
「ところでシード君。キミが寝ている間に情報収集して来たんだがね」
「情報収集?」
「ミストの行方。―――なんでも、村の近くの洞窟に怪しい連中が出入りしているのを、村の人間が見てたらしい」
「・・・よく、情報収集に協力してくれたな」
一旦は、殺されかけたのにな。
「村長さんのお墨付き貰ったからな。渋々ながら色々話を聞かせてもらった―――それに、俺は天空八命星ってヤツじゃないし」
「・・・お前も、聞いたのか?」
「詳しくは聞いてないけど、とりあえずどーゆーモンかは聞いた」
「僕も聞いたぞ」
むくり、とセイの足を押しのけて、クレイスが顔を上げる。
ふふん。とか、自棄にムカつく笑みなんぞ浮かべて。
「ふっふ、お前が人外の妖怪だろうと、今まで通り仲良くしてやるから有り難く思いまく―――ぶげっ」
「あーあー、ありがとよ。ありがたすぎて思わず蹴っちまうぜ」
ったく、コイツは。
ま、ちったありがたいって言えばありがたいかな。
思いながら、クレイスを容赦なく蹴ってやる。まあ、これも友情の印とか思っとけ。
「それで、その情報は確かなのかよ」
セイに顔を向けて尋ねてみると、「ああ」と頷いて。
「ちょっと行って見たんだけどな、ザルムのヤツが “感じた” 十中八九間違いないな」
「・・・ちょっと待て、行って見たって・・・・・・よくこんな短時間で行って帰って来れたな。そんなに近いのか?」
外の明るさから見て、まだ2時間と経っていない筈だ。
いくら、ザルムやら瞬間移動やらの移動方法が有るとはいえ、情報収集までして行って帰れるモンなのか?」
すると、セイは「はぁ? 何言ってるんだよお前?」と不思議そうに笑う。
「お前が倒れてから、丸一日経ってるんだぜ」
「・・・は?」
「だから、お前が血ィ吐いて倒れてから一日経っちゃってるの。意味お分かり?」
「・・・・・・・・・・・・て、ことは」
キンクフォートの夜、アイツらがミストを連れ去ってから、丸一日とちょっと俺は眠っていた。
昼頃目覚めて、ジーク王子様やらライザさんと殺しあってキンクフォートから夜までミストを探して西へ西へ。
夜。セイと殴り合ったり、クソ親父の “隙” を食らって朝まで昏倒。この時点で、すでに二日経過。
で、昼、親父と殺しあって吐血して気絶して―――そして、丸一日昏倒。
結論。
すでに、三日過ぎちゃってます。
「ちょっとまてぇぇッ!」
「うわっ・・・な、なんだよお前。びっくりさせんな」
「ってことはなにか!? もう三日経ってるってことか!? ミスト、殺されてるぞオイ!」
「んなにぃぃぃぃっ!?」
がばぁっ、とクレイスも復活して立ちあがる。
「どういうことだシードッ!」
「どういうこともこういうこともあるかよっ! アイツら、三日経てば殺すって言ってたろうが!」
「・・・・・あ」
やっと、思い出したのか、セイが矢鱈と間の抜けた声を出す。
・・・くそったれ。
「じゃ、じゃあ・・・ミストはもう」
ぎり・・・と、歯を強く噛む音。
俺ではなく、クレイスの。
見れば、クレイスの身体が震えていた。俯いて、泣いているのか低くくぐもった呻き声を上げる。
結局、間に合わなかったってコトか?
でも。
「セイ。洞窟まで行ったんだったら、瞬間移動できるだろ」
「―――行くのか?」
「今更、だけどな。それでも決着はつける」
それに。
「それに、まだ―――」
それが、短なる希望に過ぎないコトだと解ってる。
それでも。
「アイツが、死んだって、殺されたって決まったわけじゃない!」
この目で確かめない以上。
諦めたくはない。
「そだよな。うん」
セイは一つ頷いて、に・・・と笑う。
「じゃ、行くとしますか―――クレイス。お前は?」
「・・・・・・・」
セイが尋ねると、クレイスは半ば放心したように口をあけて、泣いていた。
うーむ。やっぱ、イイトコの坊ちゃんには、知り合いが “殺された” って事実は酷だったか?
「駄目だ、クレイスは置いていこうぜ―――ちと不安だが、あの親父に任せておけば大丈夫だろ」
「不安なのに大丈夫とはこれいかに? ・・・にしても、随分と歩み寄りを見せたもんだ。最初は殺す殺さないって言っていたのにな」
「そりゃ、向こうだろ。俺は―――少なくとも “俺” はそんなつもりは毛頭なかった」
セイの手を取って、握り締める。
男の手についてアレコレ言いたくはないが、髪ぼさぼさのくせにこいつの手は結構すべすべしている。
「スターナックル!」とか言って、よく殴ってるくせに、拳ダコなんてできていない。
一度、そのことを言うと「商人は手が命!」とかワケノワカランことを返してきた。ったく、会ってからまだ半年経たず。ミストや、クレイスとだってまだ一年と経っていない。
それなのに、こいつらは全員俺の仲間で、それで無くてはならない存在になってしまった。
―――イーグ=ファルコムにとっての、姉さんやアイツラのように。
「よぉしっ! 行くぜ、テレポート!」
「ちょとまてっ、僕も行くっ」
「「―――へ?」」
いきなり。
クレイスが、俺とセイの手に両手で飛びついてきた。
直後。
ぶんっ、と目の前の情景が掻き消える。
転移する一瞬の合間。
――――――なんとかなるわよ。絶対に。
なんて、アイツの声の幻聴を耳にした気がした―――――・・・・・
★あとがき代わりの設定資料
はぁい。アオイ=ファルコムでーすっ!
今日は、真流についての設定資料だよッ!
「・・・・・お前、本編と印象が違うんだけど」
あれはお客様専用の口調だもん。
お客様には丁寧な敬語を使えとかあさまに言われたんだもん。
―――って、にっ、にいさまっ!?
「・・・・・あ。なんか、その呼ばれ方新鮮」
ふっ・・・・・私に気付かれずに接近するとは、流石は天空八命星!
「いやフツーに歩いてきたけど」
いえっ、誤魔化しても私にはわかるものっ!
あと1歩気付くのが遅ければ、私は天空八命星の餌食に―――きゃー! 助けてとうさまー!
「やかましい―――真流のことについて話すなら、とっととやれっ!」
はぁい。
それじゃあ、営業スマイル(0G)で接客口調で進行しまぁす。
・・・えっと、真流は大きく分けて三つ在るんです。
とうさまが得意とする闘術系「無天」と、かあさまやライラさんが使う秘術系「天地」。
・・・そして、私や今は亡きねえさまが扱う剣術系「飛天」。
「まてまてまてまてっ。姉さんはまだ死んでないぞー」
え? でも、村の中では死んだことになってるし。
ちなみに。にいさま、貴方も死んでます。
「生きてるってば」
ゾンビーにいさま。
「ほざくかっ!」
やかましいです。
「・・・ぐっ」
ふっ、勝利のヴイ。
―――さて、時を操る能力を持つ「天空八命星」を打倒するために生み出された “真流” ですが。
基本的には、相手が能力を使うよりも早く倒すために、 “神速” と “一撃必殺” を基本としています。
とうさまが得意とする “隙” は一撃必殺を特化したもので、その発展形である “流星乱舞” は神速を併せ持つ、真流 無天最強の必殺奥義なんですね。
「神速・・・って、あれ。技を使うまでにやたらと時間かかるじゃねえか」
でも、誰も動きを捉えられませんよ。
天空八命星の能力を使って、逃げ様と思った時には殺されてます♪
「嬉しそうに言うなよ。それに俺は回避したぞ」
・・・・・・そーゆー身も蓋もないことを言わないでください。
ともかく、「流星乱舞」は人間の潜在能力の全てを出し切る究極の連続攻撃なんです。
「はいはい。それで? “無天” が最強の格闘術ってのはわかったけど、ほかの二つは?」
はぁい。「天地」と「飛天」ですね。
かあさまが使う、秘術系「天地」は “符術” と呼ばれる類のもので、攻撃よりも攻撃補佐が主な使い道です。
「天地」の最終奥義である “天地法戒” は天空八命星を結果内に封じて、時に干渉する能力をも抑えます。
かつては、「天地」が敵を封じて「無天」「飛天」がトドメを刺したとかなんとか。
「なるほどな。一方が封じて、一方が滅ぼす―――そんな連携があったのか」
かあさまくらいの術者になると、わざわざ符を使用せずとも色々できるらしいです。
―――それで、「飛天」ですけど。
これは「無天」に武器戦闘―――主に、剣術を加えたものです。
だから、技とか意味的には「無天」と大して代わり映えしないんですよね。
真流飛天の最強奥義である “烈光斬” は一瞬の間隙に、目の前の敵を両断する必殺技ですが、 “流星乱舞” に比べて武器の分だけ破壊力がある代わりに、スピードが劣ります。
「ついでにリーチも武器の分だけ長そうだけどな」
さて、「アオイ=ファルコムの真流講座」は以上です。
みんなー、また会いましょうねー。
「また、があるのか?」
あ。ゾンビーにいさま。つかれたからジュース買って来て。
「だからゾンビ抜かすなッ!」