第二部 連休前日の勉強会 ・・・あるいは西山幸治のある持病。

 

あるひ、あるとき、あるばしょで。

「ん?」

ふと、幸治は辺りを見回した。

とある川原ではない。とある部屋だ。

きちんと整理された部屋だ。

かわいい人形とか、装飾が女の子っぽいのでここは女性の部屋だろう。

幸治の部屋ではない。自分の部屋すらおぼろげにしか覚えていないが、こんな趣味はなかったはずだ。

壁にかかっているピンクの、ウサギの絵が描かれている時計は五時十分前をさしていた。

幸治は床に座って、床に置かれた机に頬杖を突いていた。

そして、机の上にはノートとか筆記用具などの勉強道具。後はお菓子とジュースがあって、幸治の反対側には・・・「なにきょろきょろしてるのよ! ほら、ここの問題教えてよ」

綾がいた。

つまり、ここは綾の部屋なのだ。

「給食・・・」

「はぁ?」

「仲島先輩は?」

幸治は、自分でも変な質問してると思いつつも、目の前の綾に聞いてみた。

「なにいってんのよ! それは昨日のことでしょ!」

・・・・・・

幸治はしばらく黙考。

確かにさっきまでは川原にいた。

そして今は綾の部屋(らしきところ)にいる。

・・・・・・

いつもの病気だな。

幸治はそう考えて納得した。

「いや、なんでもないや、やっぱり」

幸治ははにかんで言うと、ジュースのストローに口をつけた。

幸治には原因不明の持病があった。

たま〜に、ある一定間の記憶が半日から一日分、完全に失われるのだ。

たとえば、学校にいって教室にいったとする。すると次の瞬間には帰り支度をしているのだ。

タイムスキップでもしたような錯覚におちいるが、人に聞いてみると、その空白の時間、『西山 幸治』は存在していたらしい。

その事を親友と呼べる友人に話してみたら。『突発性記憶喪失症』といわれて笑われたことがあった。

その友人に医者にいけとも何度かいわれたが、幸治本人はぜんぜん気にしていないので、いまだに医者にいっていない。

はっきりいって、かなりの馬鹿か大物か・・・

幸治は口からストローを離すと、気を取り直して聞いた。

「ええと・・・ところで俺の給食はどうなったんだっけ?」

「きゅうしょくぅ・・・?」

幸治の問いに、綾はなぜか軽蔑の色を顔に浮かべた。

「・・・あんたね〜、物覚えが悪いのもほどほどにしなさいよ」

そういう綾の口調にいつもよりも多いとげを感じて幸治はいぶかった。

「俺、なんかした?」

そういう幸治の口調に完全に頭にきたらしく、綾はバンっと激しく机をたたく。

「いいかげんにしなさいよ! あんなに酷いこと言って!」

「え? え?」

「仲島先輩、泣いてたじゃないの!」

「ええっ! じゃあ、俺の給食は?」

最初の疑問がそれかい・・・

「知らないわよ。 そもそも給食のことなんて一っ言も言ってなかったじゃないの!」

「そ、そーなのか?」

「そーよ! かわりにあんな酷いことを・・・」

「そ、そんなに酷いこといったのか? 俺」

「言ったの!」

強い口調で言われて、幸治はふと思い出した。

そういえば、『突発性記憶喪失症』の症状が出たとき、ほとんどの場合、「酷い」とか「凶悪」とか非難されるのだ。

親友には「おまえ、二重人格じゃねえの?」とかいつも言われる。

『突発性記憶喪失症』と同じようにあまり深刻には考えてなかったのだが、こうなっては少し考える必要があるかもしれない。

なにせ幸治の死活問題である、給食案が流れたのだ。

「まったく・・・地獄のような宿題がなければ、あたしの部屋に入れたくないくらいよ!」

やはりこの部屋は綾の部屋で、どうやら幸治は綾に宿題を教えてるところらしい。

・・・なるほど、明日から三連休なのか。

幸治は部屋の中にかけてあるカレンダーを眺めて理解した。

それならば膨大な量の宿題が出ていても不思議ではない。

もっとも、幸治には今日学校にいった記憶がないから、どれだけの宿題が出ているかわからないが。

幸治は再び気を取り直すと、宿題に目をむけた。

「ところで、なにを教えてほしいんだって?」

聞かれて、綾はいまだ不機嫌な顔でプリントを指し示してきた・・・・・

 

 


INDEX

→NEXT STORY
第三部 連休一日目の一人の午後・・・あるいは西山幸治の最大の危機。