第27章「月」
C.「魔導船」
main character:セシル=ハーヴィ
location:魔導船

 

 ―――目を覚ます。

 と、見慣れない天井が見えた。

「・・・・・・・・・」

 あれ? と思いつつ、すぐに状況を把握する。

「・・・ああ、そっか。魔導船の中だっけ・・・」

 ぼんやりとリディアは呟く。
 段々に意識を覚醒させていき、身を起こそうとして―――

「・・・!?」

 身体が動かない。
 金縛り、と言うわけではなく、なにかに身体―――胸や足をを拘束されている。
 予想外の状態に焦りを感じて、なんとか動く首を横に向ける、と。

「すぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」

 そこには穏やかな寝息を立てるローザの姿があった。
 ローザはしっかりとリディアに抱きつくようにして眠り、足まで絡めて眠っている。

「なんでローザが・・・!?」

 軽く混乱。
 今、リディア達が眠っているのは、一人用のベッドだった。
 それも普通のベッドではなく、イモ虫のような形をしたカプセル型のベッドだ。ベッドの内側は暖かく柔らかな素材で、それに包まれるようにして寝るようだ。寝袋をそのままベッドにしたような感じと言えば解りやすいかも知れない。

 丁度、成人男性一人分を収納出来る程度のスペースで、女性二人ならなんとかギリギリ入らないこともない。

「ちょっ、ローザ! 離れて・・・っ!」
「ん〜・・・せしるぅ〜・・・」

 リディアが拘束から逃れようとローザの身体を押す―――が、逆にローザはさらに強く抱きしめてくる。
 雷撃魔法の一つでも唱えようかとも思ったが、野郎共相手ならともかく、女性に向かって放つのは躊躇われた。

(まあ、寝惚けているだけだろうし、目を覚ましてさえくれれば―――)

「何を騒いでいるんだい?」

 ふと、男性の声が聞こえ、顔を上へと向けるとベッドを覗き込むギルバートと目があった。
 ギルバートはしっかりと抱き合って眠る(ように見える)ローザとリディアの姿を見て、しばし硬直した後―――

「えっと、ごめんっ、邪魔してっ!」
「ちょっと待てぇっ! 何邪魔って!? 何を勘違いしてんのよーーーーー!」

 絶叫。
 すると、流石に目を覚ましたらしく、ローザがぼんやりと目を開けた。
 とろんとした半眼ですぐ目の前にあるリディアの横顔を見つめると、ぽつりと呟いた。

「・・・リディロザ?」
「何の略でどういう意味か解らないし知りたくもないけど、起きたんならとっとと離れろーーーーーーーーっ!」

 目が覚めてから二度目の絶叫をしながら。
 どこか心の冷めた部分で(最近、こういうの多くない?)と思ってみたり。

 

 

******

 

 

「ていうか、なんで人のベッドに入り込んだりしたのよ!」

 ベッドルームを出て、セシル達が居るはずのホールへ向いながらリディアが文句を言う。
 するとローザは「うふふ」と笑いながら、

「独り寝は寂しくて♪」
「・・・ぶっ。アホかアンタは」

 素で吹きつつ、リディアは心底イヤそうな表情でローザと距離を取る。

「しかし妙なベッドだったな・・・意外と寝心地は良かったが」

 歩きながら軽く伸びをしながらヤンが言うと、それにクラウドが反応する。

「・・・そうか。そう言えばフォールスでは見あたらないな」
「クラウドはああいうベッドは初めてじゃないのか?」

 マッシュが尋ねると、それにギルバートが「ああ」と声を上げた。

「そう言えばセブンスはフォールスとは比べものにならないくらい技術が発達しているんだよね」

 この魔導船も、フォールスよりもどちらかというとセブンスの技術に近いのかも知れない。
 そんなことを考えながらギルバートが問いかけると、クラウドは頷きを返す。

「セブンスでも一般的ではないが、神羅にはああいうのもあった―――まあ、寝心地はこちらの方が良いみたいだがな」
「やはりこの魔導船、シクズスやセブンス、エイトスなどと同等以上の技術が使われているということか・・・」

 クラウドの言葉を受けて、フライヤが呟く。
 と、そんな風に話しているうちに、目的の場所へとたどり着く。

「あ、おはよう」

 リディア達が寝室を出て、デブチョコボ―――もとい、ボー艦長が現れたホールへと戻ると、セシルが穏やかに微笑んで声をかけてきた。
 ホールにはセシルと巨大に太ったチョコボ―――ボー艦長だけではなく、ロックの姿もあった。

 セシルは自分一人でボー艦長の話を聞くと言ったのだが、それにはロックも付き合った。
 ギルバートも一緒に聞くと言ったが、それはフライヤに止められた。ここ数日、セシルも割と忙しかったのだが、ギルバートはフォールス各地を飛び回り、セシル以上に休む暇がない状況だったという。

「話は終わった―――って、月デカっ!?」

 リディアが問いかけつつ、なにげにモニターの方を見れば、昨日見た時とは比べものにならないくらいに月が大きく、モニター一杯に広がっていた。

「・・・おー、もうすぐ月に到着するってさー」

 やや力無い声でロックが呟く。
 モニターは月の他にはずっと変わらない漆黒の宇宙を映しているだけで、今が昼か夜かも解らないが、少なくともリディア達は一晩程度は眠っていたはずだった。
 そんな長い間、ボー艦長ののんびりとした言葉を聞き続けていれば憔悴もするだろう。

「とは言っても、あと数時間はかかるらしいけどね。その間にボー艦長が教えてくれたことをかいつまんで説明するよ」

 ロックとは対照的に、セシルの方はリディア達が眠る前とは様子が全く変わらない。
 寝起きはひたすら悪いが、徹夜は全然平気という矛盾しているようなしていないような体質の持ち主である。

「まず、この魔導船はあの月に住む民――― “セトラ” と呼ばれる人々によって作られたものらしい」
「セトラというのは聞き覚えがある」

 ヤンが自分の記憶をたぐり、思い出しながら呟く。

「確か・・・ドワーフの王が言っていた。かつて “アルテマの塔” と呼ばれていたバブイルの塔を作ったのはセトラの民であり、ドワーフ達の守っていた闇のクリスタルもそのセトラから預けられたのだと」
「じゃあ、やっぱりこの魔導船って、バブイルの塔と同じ技術が使われているんだ」

 ギルバートの言葉にセシルは頷く。

「そう。そして、この魔導船を起動させるにはそのセトラの血を引いていれば良いらしい」
「じゃあセシルはそのセトラの民って事!?」

 捨て子だったセシルは出自が解らない。
 それが解ろうとしていることにローザは興奮して叫ぶ―――が、対してセシルは苦笑を返す。

「いや、遙か昔にセトラの民は地上に残る者と月に昇った者との二つに分かれたらしい。それで、地上に残ったセトラの民は他の人間と結ばれ・・・―――まあ、つまり混血児が生まれて、それが子々孫々と続いていけば」
「つまり、かなり薄まっているだろうけど、 “セトラの民の血を引く者” なんてそこら中に居てもおかしくないって事?」

 リディアが要約すると、セシルは頷く。

「ロックやリディアは違うようだけど、僕以外の誰かが起動出来たとしても不思議じゃない」
「・・・そうなの。せっかくセシルの生まれがわかるかもーって思ったのに」

 残念そうにローザが肩を落とすが、セシルは苦笑を浮かべたまま、

「今更、両親の事が解ってもなあ・・・」
「あら! ご両親は大事よ? だって私、『お義父様、お義母様、ふつつか者ですがよろしくお願い致します』とか言いたいもの!」
「・・・なにそれ?」
「エブラーナとかじゃ、結婚相手の両親に向かってこういうらしいわ! キャシーから聞いたの」
「・・・まあ、それはさておいて」

 さらっと流してセシルは話を続ける。

「で、この魔導船っていうのは世界各地に存在して、しかも様々なバリエーションがあるらしい」
「バリエーション?」
「そう。戦闘用とか探査用とか。僕らが今乗っているこの魔導船は人や物資を運ぶ “移送用” で、その名前が―――」

 そこでセシルは一息。
 それから、ややあってその名を呟く。

「―――名前は “ダームディア” 」
「・・・聞き覚えある名前だな」
「って、それゴルベーザの・・・・・・!」

 ヤンとリディアは知っている。それはゴルベーザが持つ、 “転移” の能力を持った暗黒剣の名前だった。
 セシルもカインあたりから聞いていたようだ。

「この魔導船と、ゴルベーザの暗黒剣。同じ名前なのはおそらく偶然じゃない」
「そこに、ゴルベーザの正体が隠されている・・・?」

 ギルバートの呟きに、セシルは頷くと月を映しているモニターへ視線を向ける。

「・・・魔導船の名前は基本的に “神剣” の名前から付けられるらしい。この魔導船もダームディアという名の神剣から名付けられた―――ボー艦長もそれ以上のことは知らないらしい」
「その謎の答えは月にある、と?」
「さてね」

 セシルはモニターの月を眺めながら苦笑する。
 あとしばらくすれば、この魔導船はセトラの民が住むという “月” へと辿り着く―――・・・

 

 


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