第27章「月」
B.「キャプテン」
main character:セシル=ハーヴィ
location:魔導船
突如としてセシル達の目の前に現れたのは、巨大で黄色い “何か” だった。
黄色いのは羽毛のようで、それが小さく身震いすると身体から数枚の黄色い羽が舞い落ちる。
どうやら分類するならば “鳥” のようだが、まるで小山のようにでっぷりと太った大きな鳥で、高さで言うならセシル達の二倍ほど、横で言うなら三、四人ほどの巨体だ。その鳥らしきものは、羽毛の中からぎょろりとした大きな目を眠たげに開き、セシル達を見下ろして言う。
「やあ〜、やあ〜、お初にお目に掛る〜」
先程聞こえた声と同じような、眠たくなるようなのんびりした口調でそれは口上を上げた。
「私の〜、名前はあ〜、デイブ=チョッコ=ボー艦―――」
「・・・デブチョコボ?」名乗りを聞いて、鳥の言葉が終わらぬうちにリディアが呟く。
すると、「あ!」とローザが思い出したように叫んだ。「そうよ、デブチョコボよ! チョコボの森の奥に居ると噂されている、チョコボ達の王!」
「僕も聞いた覚えがある。てっきりあれは、創作だとばかり思っていたけれど・・・」ローザに続くようにギルバートも頷く。
と、デブチョコボと呼ばれた鳥は眠たげな目をほんの少しだけ尖らせて、不機嫌そうに言った。「違う〜、私はあ〜、デイブ=チョッコ=ボー艦長〜」
デブチョコボはそう言うと、ほんの僅か顔を上げた。どうやら胸を張ったつもりらしいが、あまりの巨体に少し身体を揺らした程度にしか見えない。
「私を〜、呼ぶ時はあ〜、 “ボー艦長” かあ〜、キャプテンとお〜」
「ええと、ボー艦長。質問があるんだけど、いいかな?」デブチョコボ―――ボー艦長の言葉を遮り、セシルが尋ねる。
あまりにも間延びした声なので、思わず割り込んでしまったが、しかし今度は機嫌を害した様子はなかった。
どうやら、 “ボー艦長” と呼ばれたことに満足したらしい。「よろしい〜、なんでも〜、聞きたまえ〜」
威厳のある口調のつもりだろうが、間延びしすぎて眠たい声にしか聞こえない。
苦笑しつつセシルはボー艦長に問いかける。「まず初めに、今僕たちが乗ってるのは “魔導船” でいいのかな?」
「その通りだよ〜」肯定され、やっぱりと思いながらセシルが続けて問いかける―――前に、リディアがぽつりと呟く。
「・・・魔導 “船” だったら “艦長” じゃなくて “船長” じゃないの?」
「 “艦長” の方があ〜、格好良いじゃないか〜」
「え、そう?」
「そうだよ〜、どのくらい〜、格好良いかと〜、言うと〜」
「あ、ボー艦長! それよりも聞きたいことがっ!」
「なにかなあ〜?」長い話が始まりそうだったので、慌ててセシルが叫ぶ。
ボー艦長の気が逸れた所で、ロックがこっそりとリディアに耳打ちする。「とりあえず、そういう話は後にしようぜ」
「別にどうしても聞きたいわけじゃないっての。ただちょっと気になったから呟いただけじゃない」ぷいっと気を悪くしたようにロックとは反対の方を向くリディア。
相変わらず嫌われてんなあ、と思いつつ、ロックはセシルの方へと視線を戻す。
どうやら今度は行き先について尋ねたようで、ボー艦長はそれに対してのんびり答えているところだった。「魔導船はあ〜、月に〜、向かってるよ〜」
「何故?」
「何故って〜、言われても〜」困ったように首を傾げ―――た、つもりなのだろう、傍目からでは小さく頭を揺らした程度にしか見えないが。
ともあれ困った様子で、ボー艦長はどう説明しようか考えているようだった。のんびりと。「・・・今更だが、もうちょっと早く応対できんのか?」
ヤンが言う―――と、ボー艦長はそちらに反応する。
「え〜〜? 私は〜、これでも〜、結構頑張って〜、早く〜」
「おい、ヤン。余計なこと言うなと」
「む、すまん。つい」フライヤに窘められ、ヤンは素直に謝る―――が、その一方でリディアが我慢出来なくなったようにローザに言う。
「ローザ、加速魔法は!? 白魔道士なら使えるでしょ!」
「使えるけれど、ちょっと自信ないかな〜って」てへ、と舌を出して彼女は答える。
「どうなっても良いって言うなら試してみるけど」
「よしオッケー! やっちゃえ!」迷いなくGOサインを出すリディアを、慌ててギルバートとセシルが制止する。
「良くないよ! ちょっとリディア落ち着いて!」
「ローザも詠唱しないっ! クノッサス導師に怒られるよ」師の名前を出され、ローザは唱えかけの魔法を中止。
しかしリディアは苛立った様子のまま言い返す。「だってこのままじゃ話を聞き終えるのに日が暮れるじゃない」
「今は〜、宇宙だから〜、日が暮れるも何も〜」
「だあ、うっさい! ちょっと黙ってなさいよ!」
「ええ〜? なんで〜、私怒られてるのかなあ〜?」
「・・・・・・」ぷつん、となにかが切れるような音を聞いた気がして、セシルははっとして叫ぶ。
「やめろリディア! ロック、ギルバート!」
セシルが叫ぶと、割とリディアの傍に居た二人は勘良く察して彼女を取り押さえ、その口を塞ぐ。
高速詠唱を得意とするリディアでも、流石に詠唱無しではまともに魔法を放てない。男二人に取り押さえられてはどうしようもなく、ボー艦長に向かってぶっ放す気満々で高まっていたリディアの魔力は霧散するのを感じ、セシルはほっと胸を撫で下ろす。「とりあえず、ボー艦長からの話は僕が聞くから。他のみんなは休んでいてくれ―――休憩出来る場所くらいあるよね?」
セシルが尋ねると、ボー艦長は寝室のある場所をのんびりと教えてくれた―――