第19章「バブイルの塔」
AA.「鋼鉄バルナバ」
main character:セリス=シェール
location:バブイルの塔
カインの言うとおり、魔物達はあっさりと全滅した。
ヤンの蹴り、セリスの魔法による援護、そしてキスティスの戦闘指揮が無い状態だったが、その分、敵の数も先程より少ない。
カインの槍を防げる魔物は存在せず、カインが取りこぼした魔物も、ブリットが確実に葬り去った。魔物達の死臭が漂う中、カインは背後を振り返って。
ハ、と笑った。
「なんだ、女同士じゃれあっているのか、お嬢さん?」
「うるさい」カインの嫌味に、セリスは振り向かずに答える。
セリスはシュウを相手に手こずっていた。「ムチを相手にした経験がないのだから仕方がないだろう!」
いいつつ、セリスがシュウに向かって踏み込む―――と、シュウが手にしたムチを放つ。
ムチはまるで生きた蛇のようにうねり、その先についた刃が、通常の剣撃では有り得ない角度でセリスを狙う。仕方なく、セリスは一歩退いて自らの剣―――ドワーフの城で失った剣の代わりに、ジオット王から譲ってもらったドワーフ製の、炎の魔力がこもった “フレイムソード” だ―――で弾く。剣で斬りかかろうとしても、シュウのムチ捌きを前にして、間合いを詰めることすらできない。
かといって魔法で攻撃しようとすれば―――「 “氷の女王シヴァの吐息―――」
「ファイガ」
「ッ!? ―――魔封剣」魔法詠唱無しの疑似魔法が先に飛んでくるため、詠唱中断してそれを魔封剣で防ぐ―――と言った具合に、こちらからの攻撃を完全に潰されていた。
「代わろうか? お嬢さん」
「・・・五月蠅い」
「だったらさっさと倒して見せろ。それともなにか? ガストラの将軍というのは、たかが傭兵一匹相手にできないというのか?」
「ああ、もう! ごちゃごちゃ言うな! 気が散る!」セリスの激昂に、カインは肩を竦めた。
その一方で、シュウは軽く舌打ちする。
“たかが傭兵一匹” と言うカインの言葉が堪に触ったというのもあるが、それよりも。(・・・まさかこうもあっさり魔物の群れが全滅するとはね・・・さすがに私一人でセリスとカイン、それからあのやたら強いゴブリンを相手にするのは不可能だ)
というか、カイン一人でもあっさり殺されるだろう。
それくらいの戦闘能力の差はある。
セリスだって、決して弱い相手ではない。詠唱無しの疑似魔法と、ムチのリーチで機先を制し、なんとか渡り合っているという話だ。そんなシュウの内心の焦りを知ってか知らずか、シュウの後方で観戦していたルゲイエが唐突に高笑いをあげる。
「フェーッフェフェ・・・もしかするとピンチかのう?」
「見りゃ解るでしょう!」
「見て解らんから聞いたんじゃっ!」
「とりあえず黙っててくれない? 非常にムカつくから」
「そう邪険にするない。仕方ないからワシも手伝ってやろうと言うんじゃ」
「アンタの何処に戦闘力がある!?」突っ込むが、しかしルゲイエは平然と。
「戦うのはワシじゃないわい。―――カモォーン! マイラバーマイサン!」
叫ぶなり、ルゲイエの目の前の床がガコン、と音を立てて、大人一人入れるくらいの真四角の穴が開いた。
そしてその穴の中からチャーラーラー♪ と、妙なBGMと一緒に人型の何かがせり上がってくる。
それは人間の形を模してはいたが、その身体は肉の代わりに銀に輝く鋼鉄でできていた。「・・・ええと、それロボット?」
おそるおそるシュウが尋ねると、ルゲイエはフェッフェッフェ、といつもの笑い声をあげる。
「その通り! この天才科学者ルゲイエ様が、ケフカ=パラッツォと言うすンばらしー友の協力を得て心血を注ぎ込み作り上げた人造人間バルナバ! めっちゃ強いぞー」
「・・・イマイチ、信用できないんだけど。なんとなく」そんなシュウの心配を余所に、鋼鉄の人造人間―――バルナバはがっしゃんがっしゃんと歩いてシュウの隣りに並ぶ。その動きも実際の人間とはほど遠いほどにぎこちなく、さらにシュウの不安を倍増させた。
「本当に使えるの? これ?」
「当然じゃ。そこの竜騎士程度ならイッパツよォ」
「・・・ほう」冷たく、聴く者を震え上がらせるような声が響き渡った。
勿論、それはカインの発した声だ。「俺が・・・なんだって?」
「聞こえなかったのかのう? 貴様如きバルナバの敵ではないと言ったんじゃ!」
「・・・そうか、聞き間違いではなかったようだな?」こおぉぉぉぉっ、とカインの背後に青い闘気―――竜気が立ち上る。
カインが放つ必殺の突撃技 “ドラゴンダイブ” の時に全身を覆い尽くす蒼い竜気だ。ちょっと見た目には竜気以外はさきほどと変わらないように見えるが、そんなものが思わず漏れ出すほど、今のカインは激怒していた。「ならばそのガラクタの相手は俺がしてやろう―――ブチ壊してやる」
「ほほう。その言葉、後悔せんとよいがのー」
「それはこちらの台詞だ!」
ドラゴンダイブ
もの凄い勢いで、竜気を身に纏ったカインが、バルナバに向かって突進していく。
本日、最大威力の必殺技だ。
だがしかし―――「マグネットパワー全開じゃ―――」
『・・・ま゛っ』ルゲイエの言葉に応え、バルナバが人間の発音ではありえないような声を出し、その目がビカっと光った。
と、その瞬間、突撃したカインの身体がぐらりと傾く―――「・・・なにっ!?」
バランスを崩し、カインは槍ではなく、肩の辺りからバルナバへと激突した。
「ぐあああっ!?」
想定外の激突に、カインの全身に衝撃が走る。
だが、事はそれだけでは終わらない。「なんだ、これは―――動けん!?」
カインの身体は、バルナバの身体にピッタリとくっついたまま、身動き一つ取れなくなっていた。
そんなカインの身体をバルナバの鋼の腕が抱きしめる。「フェーッフェッフェッ! 磁力の洞窟の話をヒントに装備した超電磁石の威力をみたか!」
「磁力の洞窟・・・・・・! そうか、俺の鎧を磁石で引き付けて・・・・・・!」
「そのとーーーり! そして必殺のバルナバ・ブリーカーじゃッ! 死ねぇ!」カインを抱き潰そうと、抱きしめたバルナバの腕に力がこもる。
みしみしと鎧ごとカインの身体が軋みを上げる。逃げようにもバルナバの腕力に加え、磁力のせいで脱出は不可能だ、「ぐ、ああああああああっ!?」
「バルナバの腕力は鉄をも引き裂く。観念して上下泣き別れになるが良い!」
「『サンダラ』」ずがあああああああんっ!
と、カインごとバルナバに雷撃魔法が直撃した。
そのショックのお陰か、バルナバの腕がゆるみ、磁石の効果が切れる。「くうっ!」
その隙を突いて、カインがバルナバの腕を脱出した。
「オモチャで楽しく遊んでいるところをすまないな」
先程の仕返しなのか、そう嫌味を言ったのはセリスだった。当然、雷撃魔法もセリスの放ったものだ。
「くっ・・・」
「代わろうか? お坊ちゃん」
「黙れ! こいつは俺が―――くっ」言いかけて、カインはがくりと膝を突く。
バルナバに締め付けられたダメージのせいでもあるが、なによりも―――「無理をするな。私の魔法が直撃したんだ、しばらくはまともに動けまい」
言うとおり、セリスのはなった雷撃のせいで、カインの身体は痺れて動けない。
完全な不意打ちでもあったため、魔法に抵抗することもなく、まともに喰らってしまった。痺れどころか、意識を保つのも危ういが―――(くそっ・・・ここで意識を失ったら、あとで何を言われるか―――)
という、プライドのお陰で、なんとか昏倒は免れていた。
「ちょっと待て! 貴女の相手は私だ!」
と、セリスの前にシュウが立ちはだかる。
カインはほぼ戦闘不能だ。ならばここで完全に潰しておきたい。だが、シュウは内心で動揺していた。
先程のセリスの放ったサンダラ―――当然、シュウは見逃したわけではない。疑似魔法を放って、止めようとしたのだが。(・・・私の魔法を無視して魔法を放った・・・!?)
シュウが使うのは詠唱無しの疑似魔法だ。
詠唱が無い分、セリスの使う “真の魔法” よりは威力が劣る。さらにシュウの魔法威力が低い理由がもう一つあった。(・・・私の “シヴァ” はまだ回復しきっていない。普段よりも威力は格段に低くなっている・・・)
SeeD達の使う疑似魔法の根源はG.F―――ガーディアンフォースと呼ばれる力だ。
そのシュウの力―――シヴァは、ドワーフの城でカインに倒されている。
ガーディアンフォースは死ぬことはないが、倒されればしばらくは回復するまで力が使えない。そのため、シュウの魔法の威力も低くなっていたのだが―――(それにしても無傷って事はないでしょう!? だいたい、効かないならなんで最初からそうしなかったの!?)
疑問。
もしもこちらの魔法を無視して、ムチの間合いの外から魔法を連発されれば、シュウには打つ手がない。
だというのにそれをしなかったのは―――「悪いが、じゃれあっている余裕はなくなった―――ブリット、頼めるか?」
「任せろ―――そっちの方は頼んだ」
「ええ」シュウに対してブリットが前に出る。
たかがゴブリン一匹―――なのだが、その戦闘能力は監視カメラ “アイズ” を通して見ているし、何よりもさっきカードキーをセリスに奪われた時に放ったムチの一撃を、あっさり防がれている。
防御特化の剣士なので、こちらも防御に専念すれば対等に渡り合えるだろうが、流石にセリスの相手まではできない。(カインを倒したバルナバの能力が、セリスにも通じることを祈るしかない・・・か)
懸念があるとすれば、カインと違ってセリスは魔法の使い手だ。
そして、機械全般に言えることだが、基本的に電撃に弱い。現に、電撃の魔法一発でバルナバの能力は打ち消された。「ああ、そうだ」
と、セリスは思い出したようにブリットへと言う。
「なるべく傷つけるなよ?」
「解ってる。キスティスが悲しむからな」
「なっ―――」その言葉にシュウは頭に血が昇るのを自覚した。
予想はしていたが、はっきりと言われると頭に来る。「手を抜いていたいうわけか!」
「無傷で降伏してもらいたかっただけだ。・・・劣勢だと解れば素直に投降して貰えると思ったんだがな」カインとブリットが魔物を殲滅した時点で、シュウに勝ち目はないはずだった。
見たところ、キスティスとシュウは気の置けない親友同士のようだった。その親友を殺すのは―――おそらくキスティスは「それが傭兵というものだから」とでも言ってくれるだろうが―――やはり、目覚が悪い。
可能ならば、殺したくないと思っていたが、無傷で捕えられるような相手でもない。だからこそ、カインとブリットが魔物を片づけるのを待っていたのだが。「くっ・・・馬鹿にして!」
「馬鹿にしてなどいない。ただ、一人では本領発揮することはできないだろう?」SeeDは基本的に三人一組のチームで行動する。
チームの連携があってこそ、SeeDの実力は発揮される―――そういう風に訓練されているのだ。「せめて、貴女とキスティスの二人がコンビを組んだなら、私一人では勝ち目はないでしょうね」
「・・・当然だ」憮然と言うシュウに、セリスはくすりと微笑んで、バルナバへと向かった―――
******
「フェーッフェッフェッ・・・なんじゃあ? 今度はお嬢ちゃんが相手をしてくれるのかい!」
ルゲイエの笑い声に、セリスは肩を竦めた。
「人形ならともかく、ロボットいじりは趣味じゃないが」
といって、セリスはまだうずくまったままのカインを見やり、
「どうやらそこの竜騎士様には荷が重いようだしな」
「貴様・・・後で覚えていろ・・・!」
「ふふふっ・・・カインのそういう言葉を聞くのは新鮮だな―――クセになりそうだ」
「・・・・・・っ」何を言っても悦ばせるだけだと気がついたのが、カインはそれきり押し黙る。
「フェッフェッ・・・誰が来ようと同じ事じゃ! 金属を身に着けている限りはな!」
カインのように、全身金属鎧というわけではないが、セリスも金属製の軽鎧を装備している。
だが、セリスはなんでもないことのように、魔法の詠唱をはじめた。「させんわ! バルナバ! マグネットパワー・オン!」
『ま゛っ』バルナバの目が光り、セリスの身体が鎧ごと磁力に引っ張られる。
カインのように跳躍していなかったセリスは、足で床に踏ん張るが、それでも徐々に引き寄せられ、そのままバルナバに捕えられてしまう。「フェーッフェッフェ! どんな魔法を唱えようとしていたか知らんが、その状態で放てば自分も巻き添えに―――」
「『ライブラ』」と、セリスが唱えたのは、敵の情報を読み取る魔法だった。
主な用途は敵の耐久力や弱点を看破するために使う魔法である。「なるほど、ね」
魔法でバルナバの情報を読み取り、セリスはすぐさま次の魔法を詠唱する。
捕えられていながら、全く慌てず動ぜずに、淡々と魔法を唱えるセリスのように、さすがのルゲイエも不安を感じたようだ。さっきよりもややうわずった声で叫ぶ。「な、何をしようとしても無駄じゃ無駄じゃ! 行けぇ、バルナバ・ブリーカーじゃッ!」
と、ルゲイエが命令すると同時に、セリスの魔法が完成する。
「『プチサンダー』」
それは極低威力の雷撃魔法だ。
ちょっと強めの静電気程度の威力しかない魔法とも呼べない魔法。
セリスが放ったそれも、バルナバの頭の上でバチッ、と小さく青白い火花が散っただけだ。「なーんじゃそれはあ!? そんなものでバルナバを止められるとでも思って―――あれ?」
バルナバは止まっていた。
ルゲイエの命令で、セリスの身体を抱き潰すはずが、全く動かない。「な、なんじゃあ!? なにが起きとる!」
「放しなさい」
『ま゛っ』セリスの命令に従い、バルナバがセリスを解放する。
「どっ、どういうことじゃああああああ!?」
喚くルゲイエに、セリスは冷笑を浮かべる。
「ケフカの馬鹿の協力で作ったと言っただろう? ならば、使われているのは私の良く知る技術だ。だから魔法で構造をスキャンして、低威力の雷撃で制御回路に介入して、命令系統を乗っ取った―――それだけだ」
「マイフレンドを知っている!? まさか貴様はガストラの・・・」
「・・・今更気がついたのか」やれやれ、と嘆息して、セリスはブリットとにらみ合っているシュウへと目を向ける。
「それで、どうする? そちらの頼みの綱も、この通りだ。大人しく降伏することをすすめるが」
「・・・・・・っ!」
「徹底抗戦するというのなら、やってやるがな。多少傷つけてでも―――」そう言って、セリスが剣をシュウへ向けたその時だ。
「えええええーーーーいっ! 使えんデク人形などいらんわ! 自爆スイーーーーーーーーッチ!」
「え?」不穏な単語を聞いた気がして、セリスはルゲイエを振り返る。
すると、マッドサイエンティストは、大きな丸い赤いボタンのついた、とっても解りやすいリモコンスイッチを持っていた。「ポチっとな」
躊躇いとかそう言ったものは一切無く、ボタンを押し込む。
その瞬間、セリスのすぐ隣りに居たバルナバが、盛大に爆砕した。
******
「ちいいいいっ! セリスーーーーーーーーーーーッ!」
カインが叫ぶ。
が、叫びながら彼は絶望感を感じ取っていた。爆発は小規模だった。
だが、周囲に破片をはじき飛ばし、爆炎はセリスの身体を一気に呑み込んでいた。魔法で防御でもしない限り、絶対に助からない威力。だが、魔法を唱える余裕など無かった。「・・・くそったれが」
絶望感、そして敗北感がカインの中に広がっていく。
かつて無いほど悔しさを感じるのは、自分のせいで―――自分が無様を演じたせいで、その代わりにセリスが犠牲になったからだ。
もしもあの場に立っていたのがカインだったなら、その跳躍力で助かったかも知れない。セリスだったからこそ・・・・・・まだ身体には痺れが残っている。
しかし、悔しさと怒りがカインの身体を突き動かし、その身を立ち上がらせた。「くそっ・・・セリス―――」
「呼んだか?」
「この仇は―――って、なに!?」声は後ろから。
見れば、そこに炎に包まれたはずのセリスが立っていた。「なんて、バッツの真似―――二番煎じはつまらないか」
苦笑するセリスに、カインは唖然とする。
「なっ・・・なんで生きてる!?」
「生きてちゃ悪いような言い方だな―――なに “切り札” を切っただけだ」アクセラレイター。
セリスの切り札で、残MP全てと引き替えに、時間停止魔法クイックを発動させる能力だ。驚いた表情のままのカインに、セリスはくすくすと笑って。
「なんだ、心配してくれたのか?」
「・・・貴様の心配などしていない。ただ、己の無力さにムカついただけだ」そう言って、彼はルゲイエとシュウを見やり、
「さて・・・セリスに免じて一度だけ降伏勧告してやる。大人しく負けを認めろ。さもなくばさっさと殺すぞ」
カインにはまだダメージが残っている。
それでも、シュウとルゲイエの二人を倒すくらいの余裕はあった。しかし―――
「・・・随分と、騒がしいな」
その場に別の声が響く。
カイン達がやってきたエレベーターとは別のエレベーターから、男が一人姿を現わしていた。
その男は、炎を身に纏っている。その姿を見て、カインが「チッ」と舌打ちした。
「ルビカンテ・・・そう言えば貴様が居たな・・・!」
「知っているのか?」
「・・・ああ。ゴルベーザの配下で最強の男だ。・・・正直、この俺でも1対1でやりあって負ける気はしないが、勝つのは難しいだろうな」セリスの問いに、カインは渋面で応える。
炎を操るルビカンテは、常に炎を身に纏っている。下手に突っ込めば武器が溶け、手痛い火傷を喰らうハメになる。カインの言葉を聞いて、セリスは嘆息する。
「仕方ない、な」
「・・・チッ」セリスの言葉の意味を察して、カインは悔しそうに舌打ちする。
「ブリット! 退くぞ」
言うなり、セリスとカインはエレベーターの方へと駆けだした。
ブリットも身を翻してエレベーターへと向かう。キスティスが乗っていったはずのエレベーターは、いつの間にか戻ってきていた。どうやらキスティスが気を利かせて戻してくれていたらしい。「ま、待て!」
シュウが制止の声をかけるが、それで素直に止まるわけがない。
まずブリットがエレベーターへと滑り込む。
セリスとカインは少し遅れて―――「逃がさん!」
火燕流
エレベーターに向かって駆け出す、カインとセリスの足下に炎が生まれ、それが天井へと向かって噴き上がる―――
「ちいいいいいいっ!」
「きゃっ!?」カインは乱暴にセリスの腰を片手で抱くと、全力で跳躍。
そのままセリスと一緒に、エレベーターの壁に激突する。「ぐう・・・」
「痛たた・・・・・」二人の呻き声を聞きながら、すかさずブリットがエレベーターの降下ボタンを押す。
途端、扉が閉まり、エレベーターは下降していった。だんっ、とシュウは閉じたエレベーターの扉を悔しそうに叩く。
「くそっ、逃げられたか!」
「フェッフェ、まあ命助かっただけでもラッキーじゃないかのう。下手すりゃ殺されてたしワシら」
「・・・というか、このエレベーター操作できないの!? 緊急停止とか」
「そんなんできたら最初っからやっておる」確かにそうだった。
エレベーターを操ることができれば、そもそもカイン達がここまで来ることも無かっただろう。「って、さっき見たいに、ロボットを登場させる仕掛けができるなら、エレベーターくらい・・・」
「別にエレベーターなんぞに興味はなかったからの」
「あほかあああああああああああっ!」思いっきり叫んでから、シュウはルビカンテの方を振り向く。
「こうなったら、エレベーターが戻って来たら追撃して―――・・・ルビカンテ?」
見れば、ルビカンテはその場に膝を突いていた、
シュウが駆け寄ると、彼はなんでもない、とでも言う風に手を挙げて、「少々、外の敵が手強かっただけだ。フゥ・・・やはり侮れぬな・・・」
どうやら、先程の一撃が最後だったらしい。
普段はルビカンテを取り巻く炎も、今は消えてしまっている。「すまない。勝手なことをした」
悔しそうにシュウは言う。
シュウが余計なことを考えず、ドワーフたちの攻撃を無視していれば、おそらく敵はなにもできなかっただろう。だから、シュウが反撃を選択したために、その隙を突かれて塔へ進入されてしまった。それさえなければ、こうしてルビカンテが無理して力を使うこともなかったはずだ。「それは違う」
「え?」
「私でも同じ選択をしたはずだ―――なにより、ゴルベーザ様のために行動してくれたのだろう? ならば、私はなにも文句をいうことはできない」
「ルビカンテ・・・」
「一つ・・・頼みがある」疲労の濃い表情で、しかしルビカンテは力のこもった強い眼差しで、シュウを見つめる。
「勝手な願いだとは思っている。こんな事を私が願う資格もないと解っているつもりだ」
「・・・なんの、話だ」
「それでも・・・頼む、どうか・・・この戦いに決着が着くまででいい。ゴルベーザ様の傍に居てはくれないだろうか」
「傍にって・・・・・・も、元から私はそのつもり・・・だから」顔を赤くして、シュウはぼそぼそと応える。
そんなシュウに、ルゲイエは「フェフェフェ」と笑い。「らぶらぶじゃのー」
「ちっ、違ッ! 私は傭兵として! 雇い主を裏切らないという傭兵の仁義がッ!」
「ひゅーひゅー♪」
「・・・いい加減にしないと、ムチでぶつぞ!」などと喚く二人を見て、ルビカンテはほっとしたような微笑を浮かべていた。
“ゴルベーザの傍に居て欲しい” ―――その言葉を、ルビカンテがどのような想いで吐いたのか・・・
それをシュウが知るのは、もう少しだけ後のことになる―――