第19章「バブイルの塔」
W.「守護者」
main character:ブリット
location:バブイルの塔

 

 

 時は少しだけ遡る。

 バッツが倒れ、クラウドがセフィロスに単身で立ち向かっていた頃。
 カイン達もまた、魔物の群れを相手に戦っていた。

 セフィロスが走り去った時に、ついでにという感じで斬り飛ばしていった魔物の数の比ではない。
 この塔内に居る魔物達が全て集まってきていると言われても納得してしまいそうなほどの魔物の群れが、カイン達を取り囲んでいた。

 

 ドラゴンダイブ

 

 高く飛び上がったカインの一撃が、床を這っている岩のように硬い皮膚を持つ四本足の魔物を粉砕する。
 さらにその一撃は、竜騎士の扱う “竜気” を伴い、衝撃波となって周囲の魔物達をなぎ倒した。

 だが、中には倒されずに堪えきる魔物もいる。
 その中の一匹、ヒョウのような魔物―――クアールが攻撃を終えたばかりのカインに肉薄する。その鋭い牙と爪で、カインの喉元を引き裂かんとしたその瞬間―――

 

 風神脚

 

 ヤンの蹴りがクアールの頭部を蹴り割った。
 頭を砕かれたクアールの身体は、そのまま砲弾のように吹っ飛んで、何体かの魔物を巻き込んでいく。

「危ないところだったな」
「余計なことを・・・」

 ニッ、と笑ってみせるヤンに、カインは渋面を作って自分の腰を見せる。
 いつの間にか、片手が腰に差してある剣の柄を掴んでいた。もしもヤンの迎撃が遅れていれば、その一撃が魔物の首を斬り飛ばしていただろう。

「そう言うな。敵の数が多い、ここは協力しなければな」

 ヤンの言葉に対し、カインが何か言おうと口を開きかけた刹那―――二人は同時にその場を飛び退く。一瞬だけ遅れて、二人がいた場所に青白い炎が吹き上がった。

「この攻撃・・・」
「―――キマイラか!」

 二人が振り向いた先、様々な動物のパーツを悪趣味につなぎ合わせた、合成獣とも呼ばれる獣―――キマイラが居た。
 今の青白い炎はそのキマイラの特殊能力である。

「チッ、獣如きが竜に敵うと―――むっ!?」

 カインがキマイラに向かおうとした時、視界の端に黒い影が見えた。
 それを目にした瞬間、カインの身体が強ばる。

(以前にも感じたこの不快な感じは―――)

 動きの鈍い身体を無理矢理動かし、そちらを見れば黒く巨大なトカゲが居た。そのぎょろりとした大きな目は、睨付けた者を徐々に石化させていく力を持つ。

(バルバリシアに使われたのと同じ能力か―――だが)

 ズダンッ。

 多少の身体の強ばり等、どうとでもないと言わんばかりにカインは跳躍する。
 それは、普段に比べれば半分以下の力であったが。

 

 ドラゴンダイブ

 

 それでも黒トカゲは逃げる間もなく、カインの槍に串刺しにされる。
 魔物が絶命すると同時、石化も解けて身体が軽くなる。

「何度も同じ手にかかるほど間抜けではない」

 無感動にそう言い捨てて、魔物の死骸から槍を引き抜く。
 と。

「いかんッ! セリス!」

 ヤンの叫び声。
 見れば、先程のキマイラが、魔法詠唱に集中しているセリスへと突撃するところだった。
 そのヤンはと言えば、カインと同じように別の魔物の相手をしていて、キマイラを止めることが出来ない。

 狙われたセリスは、魔法に集中しているせいか、瞳をまで閉ざしている。
 このままではキマイラの餌食だ―――が、そのセリスを守るように、小さな影が立ちはだかった。

「ブリット、頼む!」

 ヤンの声に、フードを身に纏ったゴブリンの剣士はこくりと頷くと、剣を構えてキマイラを迎え撃つ。
 キマイラは、合成された三つの首―――獅子、鹿、鷹の三つの頭で威嚇の声を上げ、まずはブリットに飛びかかる。馬の前足がブリットの剣を蹴り飛ばすと、剣はあっさりとブリットの手から離れた。キマイラは、そのままブリットの小さな身体を吹き飛ばそうと突進する―――だが。

 

 ゴブリンパンチ

 

 剣を持っていなかった、もう一方の手から繰り出される連打が、キマイラの突進を押しとどめる。
 小柄な割に、一発一発に力あるその連打に、キマイラの突進が止まる。魔物は警戒するように、ブリットから間合いを取ろうと後に退き―――途端。

 

 円月斬

 

 さっき、ブリットの手から蹴り飛ばされた筈の剣が、キマイラの鷹の頭を斬り落としていた。
 その剣の柄には細い紐がくくりつけられていて、その紐はブリットの手へと続いている。
 ゴブリンであるブリットの手足は短い。そのリーチの差を埋めるためのギミックだ。
 紐、とは言ったが、それはただの紐ではない。幻獣たちの毛で編まれた紐で、生半可な事で切れたりはしない。

「―――巡れ」

 

 円月殺法

 

 キマイラの首を斬り堕とした剣はそのまま止まらずに、大きく弧を描く。
 ブリット自身も一回転し、剣の軌道は円となって次撃となる。
 一撃目よりもさらに勢いの乗った斬撃が、キマイラの二つ目の首を斬り飛ばす。

「GAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」

 二本の首を失い、瀕死のキマイラにとどめを差そうとしたところで、横手から別の魔物が襲いかかってきた―――が。

「―――甘い」

 ブリットが少し手首を返しただけで、剣の軌道が変わる。
 円を描く事は変わらず、しかし角度を変えた一撃がその魔物を迎撃―――して、その流れのままキマイラに最後の一撃を見舞う。

「フン・・・ゴブリンにしてはやるようだ」

 二体の魔物を高速で串刺しにしつつ、カインがブリットの技を見て呟く。
 珍しく、カインにしては素直な賞賛の言葉だった。魔物では最弱の部類であるゴブリンがそれだけ戦えるとは思っていなかったようだ。

(あの動き―――ベイガンと同じく防御特化型というわけか)

 今の技、己の身体を軸に円を描くようにして敵を斬り裂く技だ。
 円が真円に近いほど、威力も速度も最大限発揮できる。円が崩れれば、その分だけ力が分散してしまうためだ。
 故に自らが立ち止まった状態でなければ使い辛い―――身動き取れない何かを守るための技というわけだ。例えば、魔法詠唱に集中している魔道士を守るため。

 飛び込まれれば豪腕唸り、中距離では月を描く刃が敵を斬り裂く。
 バッツと戦った時のように、自らが仕掛けるのではなく、守護者として護りにつくのがブリットの本当のスタイルなのだろう。

「そうね。確かにこんなに強いゴブリンは初めてよ―――ホント、ここに来てから驚かされっぱなしだわ」

 ムチを振るって、他の魔物達を牽制していたキスティスが、苦笑する。
 と、先程ブリットが斬り飛ばしたキマイラの獅子の頭が近くに転がっているのを見て、隙を見て素早く拾い上げる。

「驚かされっぱなしってのも癪だから、私も一芸披露しようかしら」

 冗談めかして言うと、獅子の頭が光に変わる。
 光は手のひらサイズの長方形―――早い話、カードの形に変化すると、キスティスはそれを手に取り軽く口付けする。
 そのカードには、青白い炎―――先程、ヤンとカインを襲った炎に良く似たものが描かれている。

「GYUUUUUUUUUUUUUU!」

 そんなにキスティスに対して、複数の魔物が襲いかかってくる。
 だが、彼女は特に慌てずに、そのカードを頭上高くに掲げた!

 

 ブレイズ

 

 すると、キスティスの周囲を守るように蒼い炎が吹き上がり、魔物達を迎撃する。
 それはキマイラが放ったものと同じ炎。炎は魔物達を迎撃するには至らなかったが、怯ませることはできたようだ。そこへヤンの蹴りが的確に魔物達の急所を打ち抜く。

「今のは・・・!」
「俗に青魔法と呼ばれる魔法よ。魔物達の能力を解析し、扱う魔法―――」

 驚きを見せるヤンに、それを満足そうに微笑んで答えるキスティス。
 ふと、彼女は魔法詠唱を続けているセリスに目をやり、

「―――そろそろね。カイン=ハイウィンド! 退きなさい」
「退くだと!? 馬鹿なことを―――」
「素直に聞いておいた方が良いわよ? 無様に氷付けになりたくなかったら、ね」

 クスクスと笑いながらキスティスが言う。
 カインはそれに対して反論しようとしたが―――ふと、キスティスの近くにいるセリスの存在に気づいて舌打ちすると、槍の刃とは反対の石突きで魔物を打ち抜き、他の魔物のと一緒に吹っ飛ばすと、跳躍してキスティスたちの元へ下がる。次の瞬間。

「 “・・・氷の女王シヴァに従うは氷河の槍持つ氷乙女達・・・・・・猛り狂う愚か者に凍れる慈悲の静寂を―――” 」

 すっ・・・と、それまで閉ざされていたセリスの瞳が開かれる。
 その瞳には感情の光は無く、見られれば心の奥底まで凍り付かされるような限りなく冷たい瞳だ。

『GYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!』

 前に出ていたカインとヤンが下がったせいだろうか。
 ここぞとばかりに魔物達が攻勢に出る。
 が、セリスはそれら魔物達を冷たく見渡すと、静かに呟いた。

「『ブリザガ』」

 ずざざざざざざざざざざざざざざざざっっっ!

 唐突にセリス達の周囲に無数の氷の槍―――それもカインが扱っている槍の十倍の太さはある巨大な槍だ―――が出現し、それが一斉に魔物達へと飛んでいく。
 巨大な槍だ。
 小型の魔物は槍に押しつぶされ、中型の魔物は断ち切られ、大型の魔物は串刺しにされた。

 しかし魔物達からは悲鳴が上がらない。血がしぶき、肉片が飛び散る―――などということもない。
 何故なら、魔物達は潰され、断たれ、貫かれた瞬間に、一瞬で完全凍結していたからだ。

「―――ふう」

 一仕事終えたセリスが息を吐く。
 その表情には先程までの冷酷さはなく、普段の凛とした女戦士のそれだった。

「最大威力で魔法を放つなんて久しぶりね」
「・・・とんでもない威力ねえ」

 SeeDの使う疑似魔法との威力の差を見せつけられ、呆れたようにキスティスが呟く。
 氷付けの魔物達が取り囲む中だ。一気に気温は下がり、キスティスは体中を強ばらせ寒そうに身を竦めている。
 ふと、ヤンを振り向いて、

「・・・寒くないのかしら?」

 ヤンの服装―――というかなんというか―――は、上半身裸の格好だ。
 しかし、彼は寒がる素振り一つしない。

「鍛えているからな」

 キスティスは知らないが、ヤンの祖国であるファブールは北の高地に位置するため、一年中寒く厳しい地域だ。
 そこでもヤンは四六時中変わらぬ格好で生活している。

「フッ・・・馬鹿は風邪を引かぬというからな」

 カインが嘲笑するが、対してヤンは肩を竦めただけだった。
 それを見たセリスが小首を傾げ、

「あんなことを言われているけれど?」
「学がないのは承知しているからな。頭悪いのなんだの言われたところで、今更腹も立たん。・・・この拳と蹴りを馬鹿にされたのなら怒りもするがな」

 

 

******

 

 

 はぁーい。唐突でゴメンナサイ。
 お話の途中ですが、 “いきなりいんたーみっしょん” のお時間です。
 どもです、作者のろう・ふぁみりあです。

「アシスタントのティナ=ブランフォードでーす。・・・って、なに “いきなりいんたーみっしょん” って」

 物語の途中にも拘わらず、普段は章の頭に持ってくるインターミッションを割り込ませるコーナーの事で・・・

「そこら辺は名前からして解るけど。私が聞きたいのは、今回はなんでインターミッションを唐突に挿入したかってことよ」

 いえ、以前のコメントにあったんですが、『セリスさんはガ系の魔法を使えないんですかー』みたいな拍手コメントがあったんですよ。
 で、えふいふラジオだかで取り上げた時は、たしか後日いんたーみっしょんでやるとかやらないとか言っておいて、なんだかんだでまだ答えてなかったような気がするので。

 ・・・いや、本当に次のインターミッション辺りでやるつもりだったんですよ?
 ただ今回、丁度セリスさんがガ系魔法使ったので丁度良いかな、と。

「はいはい。言い訳はよいから―――それで、質問に答えるも何も、ブリザガつかってるじゃないセリス」

 もちろんです。ていうか、FFIFの設定では基本的にファイア使える人はファイガまでちゃんと使えますよー。

「そーなの? ・・・そりゃ私も使えるけれど。でも、パロムなんかファイラ使っただけで力尽きてなかった?」

 それは子供だから仕方ありません。

「・・・どういうこと?」

 ええと、順をおって説明しますが。
 ラ系やガ系の魔法は、FFIFではファイアなどの元になる魔法をレベルアップした魔法―――ではなく、その違いは単なる威力の差だったりします。

「? それ、どう違うの?」

 ファイアを例に例えると、ファイアは弱火で、ファイラは中火、ファイガが強火って感じですかね。

「ガスコンロ?」

 そう考えれば解りやすいかも。
 早い話、加減の問題なんですよね。基本となるファイアは威力はMPの消費も少なく、扱いやすい。最大火力のファイガは威力は高いけれど、MPの消費も大きくて制御も難しい。

 ほら、料理なんかでも強火だと焦げ付きやすいじゃないですか。あんな感じあんな感じ。

「いや、私、料理したことないし・・・・・・そう言えば、なんか普通に “MP” ってゲーム用語使ってるけど、物語的にどうなのよそれ」

 ・・・MPってなんの略だと思ってるんですか?

「マジックポイント」

 違います。メンタルパワーです。イコール精神力。
 魔道士に取って重要なのが、このMPと魔力の二つ。

「MPが精神力・・・って、じゃあ魔力ってなに? 精神力とどう違うのよ?」

 魔法というのは、精神力を糧にして発動させる力なのですが、その “発動させる力” が魔力だったりします。
 精神力を魔法に変換させることのできる技量とでも申しましょうか。

 例えば100の精神力を持っていても、その精神力を魔法という力に変換させる能力―――つまりは魔力が10しかなければ、10程度の魔法しか使えません。
 逆に、精神力が50しか無くても、魔力が50あれば、50もの威力の魔法を使えます。但し、一発撃っただけでガス欠になりますが。

「なるほどー・・・つまり、パロムの場合、魔力は高いけれどMPが低いから、中級魔法のファイラを使っただけで力尽きちゃったわけね」

 いえす。
 基本的には、魔力が高い人はそれなりにMPも高いんですが、まだ幼いパロムさんは、持って生まれた高い魔力にMPが追いついていない状態だったりします。だからそんな状態で最大魔力であるファイガを使えば、MPすっからかん―――どころか、MPが足りずに魔法発動すらしません。

 ちなみに、実はその逆がローザさん。
 彼女は魔力が低い割に精神力が馬鹿高いです。低い魔力なのに、高い精神力を強引に注ぎ込んで魔法威力を高めようとするから失敗が多い。ぶっちゃけ、水道の蛇口を全開にしてホースの口を小さく潰して花に水をやる感じ。口が小さいと土を抉るじゃないですか。あんなん。

「でも、自分に対してはちゃんと使えるのよね」

 そりゃ、自分自身にはちゃんと加減しますし。
 なんにせよローザさんが最も苦手なのがその “加減” 。だから誰か別の人がローザさんのMPを制御して上げればかなり強力な魔法を使うことができるかもしれません。

「そういえば、私と一緒に合体魔法とか使ってたっけ」

 ・・・ホブス山のあれですか?
 でもあれ結局、敵味方無差別に・・・・・・

「それはともかく、要点をまとめると、魔力が高ければ高いほど強力な魔法を使えるけれど、それに比例して消費するMPも多くなる、と」

 はい。で、ラ系、ガ系魔法は、単なる威力の加減にしか過ぎません。繰り返すようですが、ファイアが持っている魔力の10分の1程度の威力で放つだとすると、ファイガは魔力全開の最大火力と言うことになります。だからガ系の魔法ばかり使っていると、すぐにMPが尽きてしまいます。

「だからセリスは、普段ガ系の魔法を使わないって事? すぐにガス欠になるから」

 それも一つの理由ではありますが、、もう一つは初級、中級魔法(ラ系魔法)の方が扱いやすいということ。
 普通の魔道士は威力そこそこMP消費もそこそこのラ系魔法を使いますが、セリスさんのような魔法剣士は、威力が低くても扱いやすい初級魔法を剣と織り交ぜて使います。

「ガ系の魔法を使わないのは、扱いにくいから?」

 それと、接近戦で使ったら自分も巻き込まれるからですね。
 というわけで、セリスさんがガ系の魔法を使わないのはそういう理由ってことで。

「でもリディアなんかフツーにゴルベーザにファイガ使ってたけど?」

 リディアさんは特別。
 彼女は魔力、MP共にかなり高いんで。普通の人がファイア使う感覚でファイガ使えます。

「ああ、つまりアレね? “今のはメラゾーマではない。メラだ” とかそんなの」

 それにはちょっと足りないかも。
 FF8に出てくる魔女さん辺りならそういうのもアリかも・・・・・・

「もしかして、FF8のラスボスが使うって言うアポカリプスって、実は彼女にしてみればただのアルテマとか!?」

 いや、究極魔法を “ただの” とか言われても・・・・・・

 

 


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