第16章「一ヶ月」
AG.「君が好きだと叫びたい!(29)」
main character:セシル=ハーヴィ
location:バロン城下町・西区

 

「あれって―――」

 セシルが見上げた先、空の向こうから飛来してきた “それ” をみてバッツが呟く。
 翼持つモノ―――その正体は。

「飛竜じゃねえか―――ってことは・・・」
「ああ」

 セシルが頷く。
 このバロンに飛竜は一頭しか存在せず、またその背に乗れる人間も一人しか居ない。

「セシル!」

 飛竜の上から、カイン=ハイウィンドが顔を出した。
 彼がセシルの姿を見つけると、彼の乗る飛竜―――アベルがその場にホバリング。
 セシルが居るのは建物と建物に挟まれた狭い路地だ。亜竜である飛竜は、本物の竜に比べれば体躯は小さい。だが、その翼は広げると、身体の二倍三倍も面積がある。狭い路地に舞い降りる、などという事はできない。

 建物の上で宙に浮いている飛竜を見て、バッツは納得したように呟く。

「そっか、あいつに見晴らせて居たって事か。今までのことも・・・だから、ローザ達の行動が読めたってワケだ」

 種さえ解ればなんのことはないと、バッツが言うと、セシルは肯定するかのようににこりと微笑んで。
 デスブリンガーをその手に出現させる。
 「うん?」 と、その行動にバッツが首を傾げる目の前で、セシルはデスブリンガーの切っ先を空へ―――カインとアベルへと向けて。

 

 デスブリンガー

 

 いきなりダークフォースを撃ち放った!

「お、おい!?」

 突然の暴挙に、バッツが混乱して声を上げる。
 だからと言って、放たれた力は止まらない。
 黒き闇は一条のエネルギーとなって、飛竜に迫る―――が、寸前でアベルはその一撃を回避する。ちっ、とセシルは舌打ち。

「・・・狙いが甘かったか・・・」
「え、なんか、かなりマジで落とす気だったのか、今の」
「当然だろ」

 バッツの問いにはさっくり答え、セシルは暗黒剣を構え直す。
 その表情はすでに微笑みはなく、かなりマジだった。

「なんのつもりだッ、セシルッ!」

 上空から抗議の声が降ってきた。やや怒鳴り声のように聞こえるのは、こちらに声を届かせるために張り上げているせいだろう。
 セシルはそれを半目で睨み上げ、

「今朝のことッ! 忘れたとは言わせないぞッ!」

 空にいるカインに届くように、怒鳴り声を上げる。
 今朝―――竜騎士団長がせいで、バロンの王様は自分の国の牢屋に入れられるハメになりましたとさ。ちゃんちゃん♪

「・・・・・・」

 セシルの怒鳴り声に対して、カインは何も応えず。
 やがて、アベルがばっさばっさと翼を動かし、この場を離れていこうと―――

「逃がすかこの裏切り者おおおおおおおおおおっ!」

 

 デスブリンガー

 

 さっきと同等の力が飛竜に迫る。が。

 

 竜剣

 

 アベルの背の上から槍が突き出され、そこから青い闘気が迸る!
 青い力は黒い力を一瞬だけ押し戻し―――だが、すぐに押し返される。

「竜気なんかで、暗黒騎士のダークフォースを押し返せると思うなあっ!」

 セシルの言葉の通り、青い竜気は抵抗らしい抵抗にもならず、黒いダークフォースに押されていく。
 だが、そこに―――

「アベルッ!」
「シャギャアアアアアアアアッ!」

 カインの声に応えるように、アベルが一声鳴くと、迫るダークフォースに向かって炎を噴き出した!

 

 ファイアブレス

 

 カインの竜剣と、アベルのドラゴンブレス。
 青と赤、二つの色が混ざり合った一つの力は、強大な黒を押し返すッ!

 

 ドラゴンブレイク

 

「なぁっ!?」

 その合体技に、一番戸惑ったのはセシルだった。
 それはセシルの知らない技だった。かといって、別にカインがセシルに隠していたわけではない。
 つまり、たった今、咄嗟に編み出した―――というか思いついた技だった。

 いきなりの合体技に呆気にとられたせいで、ダークフォースが互角にまで押し返される。
 そのことに気がついて、我に返ると、セシルはさらにダークフォースの力を強めた。

「!?」

 セシルが気合いを入れた瞬間、あっさりとダークフォースはカイン達の力を押し返す。
 だが、黒が青と赤を蹴散らした後、その場にカインとアベルの姿は無かった。

「・・・逃がしたか」
「逃がしたかって・・・・・・あいつ、なにやったんだ?」
「かいつまんではなすと、あいつのせいで僕は牢屋に入れられるハメになった。王様なのに」
「・・・あー、そういや今朝、兵士達が騒がしかったけど・・・」

 そこまで言って、あれ? とバッツは首を傾げる。

「じゃあ、別にあいつにローザたちを見晴らせていたとかそう言うことはなくて」
「当たり前だよ。ていうか、いつ僕がカインと連絡とったんだい?」
「それは・・・俺らに気づかれないように」
「なんで気づかれないようにしなきゃいけないのさ」
「あー・・・」

 言われてみればそうだった。

「でも、それならどうしてこうまで、ローザたちの行動を読めるんだよ?」
「あっちの選択肢が限られているからだよ。 “街の外には逃げない” という厳しい条件がある。しかもローザのことは僕が一番良く知っているし、セリスはこの街は不案内だ。だったら、彼女がどうしようとするかくらいは解るよ」
「こうやって旧街区を逃げるのも解っていたって?」
「まあ、選択肢の一つとしては考えられた」
「選択肢の一つって・・・別の選択肢もあったんじゃないのか?」

 バッツが言うと、セシルは「へえ」と驚いてみせる。

「よく気がついたね」
「そこまで説明されたら馬鹿でも解るっての」
「ああ、確かに」
「・・・・・・なんか、今ひっかかったぞ」

 不機嫌そうに睨んでくるバッツは無視。

「旧街区に逃げ込まず、別の場所へ逃げるという可能性もあった―――そうだな、例えばもう一度 “金の車輪亭” に隠れるとかね」
「そしたらどうした?」
「どうもしないよ。そこで追い込むだけだよ」
「へ?」
「言っただろ、選択肢は少ないって。だったら、彼女たちがどんな選択をしても言いように、対処方を考えるのは難しい事じゃない。早い話が、もしも予想とは違う方向へローザ達が進んだのなら、そっちの方へ軌道修正すればいいだけだよ」
「ええと・・・」

 バッツが首を傾げ、少し悩んだ後―――手を挙げる。

「すまん、よく解らなかったんだが」
「はいはい。まあ、そんな話は置いておいて」

 と、セシルはもう一度空を見上げる。

「どうやら今度は来たようだ」

 え? と、バッツがセシルの視線を追えば、
 空飛ぶ黒いチョコボが、ふんわりとこちらに降りてくるところだった―――

 

 

 


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