第16章「一ヶ月」
Q.「君が好きだと叫びたい!(13)」
main character:ろう・ふぁみりあ
location:いんたあみっしょん
太陽が頂点から西へ、僅かに傾いた頃。
バロンの街の中央を南から北へとブチ抜く、大通りのド真ん中に兵士達が整列していた。
その数は、しかしさほど多くはない。
中程度の街を一つ占領する事が出来るかどうかと言った程度の兵力。とてもではないが、バロンの城と城下町を守りきれるだけの兵力には見えない。それでもこれが、現状、バロンに存在する全兵力であった。
先の戦争―――主にはファブール攻城戦と、バロンでの対エブラーナ、対ファブール・ダムシアン連合軍との戦いに置いて、兵士達の半数近くが失われていた。その上、特に甚大な被害を被ったダムシアンに対して、その復興のために兵士を無償で貸し与えている。さらにはバロン領内の何十とある街や村には、魔物や盗賊に備えて、何人かの兵士を常駐させなければならない。ついでに付け加えると、最近その中でも野盗の被害が多い村に、城詰めの兵士を半数ほど派遣している。兵士の数が足りないのも仕方ない。
「・・・まあ、こんなものか」
居並ぶ兵士達の前で、セシルは可もなく不可もなくと言った風に感想を漏らす。
その隣では、ベイガンがひたすら不機嫌そうな表情で、「こんなものか、ではございません。解っていたつもりですが、この緊急招集で集まった兵士を見て思わず愕然としましたぞ! もし、ここに敵が攻め込んできたならば、我らは抵抗らしい抵抗も出来ずに敗れるでしょうな!」
「まあ、相手の規模にも寄るけどね―――けど、敵って? 何処にいるんだい?」
「ぬ・・・」問い返され、ベイガンは言葉に詰まる。
現状、バロンの敵となる勢力がフォールスに存在しないのも事実であった。
フォールス六国の内、エブラーナを除く他の四国はバロンとの同盟を結び直したばかりだ。しかも、ダムシアンを除いた国はセシルに対して恩義がある(トロイアは微妙だが)。ダムシアンにしても、ギルバートが居る限り暴走することはないだろう。エブラーナも、ゴルベーザの攻撃により城は廃墟と化し、忍者達もエブラーナの地に潜伏したまま姿を消したとカインから聞いている。またバロンにまで攻め込む余力はないはずだ。
そしてゴルベーザもまた姿を消した。少なくとも、ここのところゴルベーザの部隊らしき目撃情報すらない。バロンの “赤い翼” を使っているのならば、それなりに目立つはずなのだが。
なんにせよ、今のところはフォールスは平和だった。バロンに攻め込んでくるような勢力も見あたらない。セシルの意地が悪い問いかけに、ベイガンが詰まるのも仕方がないというものだ。
「しかしセシル、一体兵士を集めてなにをする気なんだい?」
竪琴を背に負った旅装束姿のギルバートが問う。
一応、ダムシアンの王子として、彼はバロンとダムシアンを日単位で行き来している毎日を送っていた。その時は当然、王族としての正装だったのだが、セシルが街で兵士達を招集したと聞いて、着替えて街に出てきたのだ。王子曰く、「実は堅苦しい服装は苦手でね。こっちのほうが着慣れているんだよ」とのこと。ちなみにセシルも一般庶民の労働者が着るような、安物のシャツとズボンという私服姿である。その理由はギルバートと似たようなものだ。二人並んでみても、王や王子であるようには全く見えない。そのことも、ベイガンが不機嫌になっている理由の一つだった。
「そもそも、王たる者が護衛も付けずにそんな格好で街に出るのもどうかと思うが・・・」
などとぶつぶつ呟いたのは、ギルバートの護衛としてついてきたフライヤだった。ネズミ族の女性は別に蔑んでいるというわけではなく、愛用の槍を肩に担いだまま呆れたようにセシルを見やる。
セシルは苦笑して―――いや、照れを隠すように笑って、
「ちょっと捕まえなければ行けない人が居てね。しかも今日の陽が落ちる前に」
「人?」
「ま、まさか・・・」不機嫌な表情をしていたベイガンが、さらに表情を険しくする。彼はセシルが何の用事で街へ来たか知っていた。そこから導きだされる結論は―――
「ま、まさか、そのために兵士を集めたわけではありますまいな!」
「実はそうなんだけど」ふらっ・・・
いきなり、ベイガンの身体が泳いで―――そのまま地面に倒れる。「ベ、ベイガン・・・?」
流石にそのリアクションは予想していなかったのか、セシルは唖然とした様子で倒れたベイガンを見る。
「う、うう・・・ひ、一人の女性を捕まえるために兵士を集める王・・・・・・」
「な、なんで倒れたまま泣いてるのさ?」
「これが泣かずに居られましょうかッ!」がばあっ、と立ち上がり、ベイガンはセシルに顔を突き付ける。
「ああ! ああ! なんと情けない話でしょうか! 一人の女性を兵士を動員してまで追いかけ回すとは―――この鬼畜王ーーーーーーーッ!」
「こ、近衛兵長に罵倒されたー! 僕、王様なのに!」
「こ、ここここここ、こうなればこのベイガン=ウィングバード、この手で王を殺し自刃して―――」
風神脚
ずごしゃああっ!
風を纏った蹴りが、ベイガンを悲鳴上げる間も与えずに吹っ飛ばす。「ふっ―――」
近衛兵長を容赦なく蹴り飛ばした男は、なにやらやり遂げた表情で額の汗を拭うとセシルに向き直った。
「よく言った、セシル」
「ヤ、ヤン・・・?」
「そのなりふり構わない心意気、確かに伝わったッ!」
「ちょ、ヤン・・・? なんか雰囲気違うとゆーか」そういえば前にもこんな事あったような気がするなーとセシルが思っていると、ヤンは勝手に語り始める。
「良いか、セシル。愛とは手に入れるものではない―――奪うものだッ!」
「なんかローザが言いそうな台詞だけど・・・・・・もしかして、憑かれている」
「疲れてなど居ないッ! そ、それは確かにウチの家内はアグレッシブと言うか、たまにはもう少し癒しを欲しいと願うこともあるが、夫婦生活はすこぶる良好だッ!」
「・・・・・・」
「だが、まあ、人生の先達として一言教えておこう。いいか? 愛を奪うときには徹底的にだ!」
「て、てってー的?」
「そう! 躊躇わず、躊躇せず、完膚無きまでに相手を打ちのめす!」
「それ、恋愛の話だよね?」セシルが問うが、ヤンは聞かずに、何故か遠い目をして。
「私にはそれができなかった・・・」
「は?」
「結婚前の話だ。互いの全てを出し尽くして殴り合い―――私が勝利した」
「それ、前にも聞いたけど殴り合ってる時点でなにか色々違ってる気がするんだけどさ」
「しかし私は家内にとどめをさすことが出来なかった―――」
「駄目だろさしちゃ!?」セシルがツッコむと、そこは聞いていたのがヤンはくわわわっと目を見開いて。
「いや! 最初に上下関係を叩き込むことは必要だ! 良いか? それが出来なかったために、私は新婚時代に毎日毎日、包丁とフライパンの恐怖に怯えるハメに・・・・・・」
「あの、ゴメン、素直に情けないとか思って良い?」
「痛いんだぞアレ!」確かに痛いだろうが、しかし調理器具に怯えるモンク僧長というのはどんなものだろうかとその場の全員が思った。
「ともかく! 私はお前に全面的に協力しよう! そして、私では叶わなかった亭主関白の夢を―――」
「・・・もしかしてヤン、不幸なのかい?」
「そっ、そんなことがあるはずないだろう! 私は家内と結ばれて幸せだぞ! 本当だ! 本当なんだぞ!」必死で喚くヤンに、セシルはちょっとだけ視界の端が滲んだ。
「おーーーい、セシルーーーー」
呼ぶ声に、セシルは振り返る。
するとロックが駆け寄ってくるところだった。「ざーっと、聞き込みしてきたけどよ、ここを渡って東の方へと逃げた様子はねえな」
「ま、そうだろうね。この通りを渡ろうと思えば割と目立つし、東の高級地のほうが人が少ない上に道が整理されているから隠れにくい。逃げ回るとすれば、やはり西側か」うん、と頷いて、セシルは兵士達を振り返る。
ちなみにベイガンは結構、良いところに蹴りが入ったらしく、倒れたまま動かない。「それでは作戦を伝える!」
セシルの格好は王様どころが、身分のある格好とは言い難い。
しかし、その凛とした声音は、不思議と人を従わせる響きを持っていた。
訳も解らずに街中に集められた兵士達は、セシルの声で自分たちがバロンの兵士であるということを思いだし、背筋を伸ばし、全員がセシルへと注目する。「作戦は西街区に逃亡・潜伏している対象の捕縛! 対象の名前は―――」
一拍おいてから、セシルはその名を告げる。
「―――ローザ=ファレル!」
******
はい!
ここで唐突ですが、ろう・ふぁみりあです。「アシスタントのティナ=ブランフォードです」
え、呼んでませんよ?
「ライオットソード!」
ぎえええええええええええええええっ。
「はい、ろう・ふぁみりあが何故かいきなりダウンしたのでこれからは私が進めます。
さて、セシルやロックの言葉の中に、『高級地』だの『西街区』だの聞き慣れない単語が出てきましたが、
今回はその説明をしたいと思いまぁす♪(人気獲得のために可愛くぶりっこ・・・のつもりらしい)」
「はい、これがFFIFにおけるバロンの地図になるわけですが―――って、へぼ・・・」
わ、悪かったですね・・・
「あ。生きてた」
生きてちゃ悪いような言い方を・・・
だいたい、貴女バロンのこと知らないでしょう? 私抜きでどう説明するつもりだったんですか?「地図があればなんとかなると思っていたんだけど・・・・・・」
しくしく。
ええと、大まかに言うとバロンの街は二つの地区に別れています。
上の地図で、高級住宅地とか書かれているのが東街区。主に、高位の騎士や貴族達が住んでいるところです。他にも貴族御用達の高級店が建ち並んだりもしますが、今回は関係ないので無視。「今回の部隊となるのが西側ね。・・・えらく簡略されてるけれども」
一般の人間が住んでいるのが西街区。
ただ、昔は貴族も庶民も関係なく、同じ所にごっちゃに住んでいたんですが、徐々に貴族は東側に移り住み、一般庶民は西側に追いやられて今の形になったという設定。「・・・あれ? ローザやカインの家も西にあるけど―――って、ローザの家大きくない?」
ファレル家は実は割と古い時代からある名家だったりします。落ちぶれていますが。当たり前のように貴族達が東に移る中で、ファレル家だけはそのまま先祖代々伝わる屋敷を守ることを選択したと。実は、バロンの街では一番古い建物かもしれません。
「カインの家も?」
ハイウィンドの家は、実は歴史が浅いのでそれほど古くはありません。
「あと、この初心者の館って・・・ゲームの?」
この世界、外は魔物が居るんで、ホイホイ外には出れないんですよ。だから成人して、それなりに戦闘能力を持った人間か、護衛を雇った人間でないと、バロンでは街の外に出る許可がおりません。で、外へ行っても大丈夫かどうかは、この初心者の館で訓練や講習を受けて判断されます。ちなみに護衛を雇う場合でも、簡単な講習を受けなければなりません。
「黒い線が出口でしょ? 初心者の館がその近辺にあるのはそのため―――あら? そういえば、街の真ん中の上下に大きな門があるけど・・・」
実はこの南門が正門です。普通、外から来た旅商人なんかはこちらを使いますが、街に出入りするたびに厳重な検問があります。そのため、この正門から出入りするのは時間が掛かります。
「なるほど、この小さな出入り口の方は、簡単に出入りできるんだ?」
一応、門番は居ますけどね。許可証を見せれば即出れます。ただ、車が通れるほど広くはないので、行商人は正門にまわらざるを得ないと。
「ふうん。・・・あれ? それは南門の話よね? 北門は?」
こちらにも一応兵士は居ますが、非常事態以外では解放されています。
「へー・・・でもそれなら北門から自由に出入りできちゃうんじゃない?」
北の方は、城の周りまで外壁が続いているので大丈夫ですよ。
・・・・・・でないと、クラウドさんとダンカンさん、どうやって街の外に出たのかって話ですな。「あ。セシルの育った教会ってここね。いつの間にか孤児院じゃなくなってたという」
いらんことは言わないでください!
「このスラム街、旧市街ってカッコ書きされているけど・・・」
さっきも言ったとおり、昔は貴族も庶民もごっちゃになって住んでいたんですよ。
それが、貴族達が東に移り始め、庶民達が西に追い立てられた結果、建物が取り壊されたり新たに立てられたりで、割と混沌としたり。「その成れの果てがこのスラム街?」
はい。
ちなみに、一番広いのが北西にあるこのスラム街ですが、こういった混沌とした地区は、実は南西部や、高級住宅地にも存在します。
建物と建物に囲まれて隠されるようにして。少しずつ少しずつ整理されては来ていますが、それでもこの北西部にあるスラム街は、一般の人間が下手に踏み込むと、迷いこんで出れなくなります。少年時代に住んでいたセシルでさえ、中心部は不案内だったりします。
「ええと、説明しなければならないのはこんなとこかしらね?」
一応、今回は。
ああ、そうだ。最後に一つだけ?「うん?」
この地図ですが、話の展開と都合によっては変化すると思いますので、予めご了承下さい。
「おい」
だ、だって仕方ないじゃないですが!
これを描いたのが、昨日と一昨日の二日間だけですよ!「・・・ふ、二日間もかけてこんなの・・・」
と、とにかくこれからも頑張りますので、よろしくです。
「私も頑張るから。・・・多分、読者が応援してくれればきっと出番も―――」
いや、それはありませんが。
「ライオットソーーーーーーーーーーーーーーードッ!」
にゃええええええええええええええええええええええええッッッッッ!?!?!???!?!?