第15章「信じる心」
S.「空中決戦2」
main character:ロック=コール
location:トロイアの森上空

 

 

「ヤン殿! 隊長達を!」
「わかっている!」

 マッシュが吹っ飛ばされたせいで、守り手のいなくなったセシル達に魔物が群がる。
 そこへ、ヤンが一足飛びに飛び込んで、自慢の蹴りで群れを蹴散らす!
 その様子を見て、ロイドは操舵輪を握りしめて、ほっと溜息を吐く―――が、実はそんな余裕は存在しなかった。

「ロイド! 後ろじゃ!」
「!?」

 魔物を巨大な木槌で追い払っていたシドの警告が飛ぶ。
 言葉通りに振り返れば、鳥型の魔物が、ロイドの頭の皮を剥ごうと、その鋭い爪を突き出していた。

「伏せろッ!」

 シドとは別の方向から飛んできた声に、ロイドは反射的に頭を下げる。舵輪に頭突きをするように勢いよく頭を下げたそのすぐ上を、巨大な質量を持った鋼が、もの凄い勢いで通り過ぎ、魔物を斬り飛ばす。

「リックモッドさん・・・」

 魔物から救ってもらった男の名を呟いて、ロイドは今度こそ安堵したように呟いた。
 対し、リックモッドは渋い顔で。

「こっちの方にも魔物が集まって来やがったな・・・」
「奴ら、ロイドを―――というより操舵を潰せば、こっちが墜ちると気づいたようだゾイ。ワシ一人ではこれ以上は・・・!」
「リックモッドさん、頼みます」
「解ってる・・・が!」

 リックモッドは状況を見回す。
 マッシュはマグと一対一で相対し、そのマッシュの代わりにヤンがセシル達を守っている。ロックはセリスを庇うようにしてラグと短剣を構え合う。そして―――

「それでは私の相手は誰になるのでしょう?」

 長い槍を手にしたドグが、悠然とリックモッドに近づいてくる。
 対し、リックモッドは長さこそ及ばないものの、質量では圧倒的に上回る大剣を構え―――

「おおっと、あんたの相手は俺がやってやるぜ」

 そのリックモッドの前に、赤い鎧の男が割り込んでくる。

「ギルガメッシュ! てめえ、今まで何処でサボっていやがった!」
「うるせー、雑魚相手だなんて面倒なことやってられっか! あとそれと、呼び捨てにするんじゃねえ! てめえは俺の部下だろうが!」
「俺を部下扱いするんだったら、もう少し団長らしくしやがれ!」

 いつものようにケンカを始める二人。
 だが、それを続ける余裕は無い。

「リックモッドさん!」
「ちいっ!」

 ロイドの声に我に返る。
 みれば、数体の魔物がリックモッドに襲いかかるところだった。
 同時に、ロイドに他の魔物が肉薄するが、それはシドが迎え撃つ。

「へっ、ぎゃあぎゃあ喚いてねえで、真面目に戦えよ!」
「テメエがっ、言うなっ、よっ!」

 ギルガメッシュの軽口に、リックモッドは剣を振り回しながら怒りの声を返す。
 と、それまで黙っていたドグがギルガメッシュに向かって声を発した。

「―――貴方が私のお相手を? 赤い鎧・・・良い趣味とは言えませんね」
「趣味が悪いから戦いたくねえってか?」
「いいえ。相手と立ちはだかるのならば、決して退かぬのが我らメーガス三姉妹の掟」
「ほう・・・女のくせになかなか良い度胸だぜ」
「いや嘘ですが」
「嘘なのかよ!?」
「でもまあ、退くつもりがないというのは本当ですが」

 そう言って、ドグは槍を構える。
 腰を落として長身を低くかがめ、槍は水平に。

「 “最強” たるカイン=ハイウィンドとは行かずとも、そこらの竜騎士には引けを取らない自負があります―――剣を相手にするならば、尚のこと負けるつもりはありません」

 ドグはギルガメッシュが手にしているエクスカリバーを、見て呟く。
 リーチの長い槍に対して、リーチの短い剣は相性が悪い。ある程度技量の差がなければ、剣士が槍使いに勝つことは難しいだろう。

「バァカ、俺をそこら辺の竜騎士や剣士と一緒にすんなよ。こちとら天下無敵のギルガメッシュ様だ! 言っておくが、リーチの差なんざハンデにもなりゃしねえ」

 自身満々に怒鳴り返すギルガメッシュ。
 実際のところ、彼にとっての一番のハンデは射程などではなかった。
 エクスカリバー。選ばれし者にしか使えない聖剣は、選ばれぬ者であるギルガメッシュが振るっても、ただの鈍器にしかならない。
 それを踏まえた上で、しかしギルガメッシュは吠える。

「泣き喚いて許しを乞うまでブッ叩いてやんぜ!」

 

 

******

 

「・・・手こずっているわねー」

 エンタープライズから少し離れた空中に浮かびバルバリシアは戦局を眺める。

 現在魔物達は気絶しているセシル達と、操舵しているロイドに狙いをつけている。
 だが、セシル達はヤンが守り、ロイドもシドとリックモッドが守っていた。
 二人に守られているロイドに比べ、ヤンは一人で動かないセシル達や、非戦闘員であるギルバートとファスを守っている。しかしモンク僧として修行を積み、洗練されたその蹴りは、いとも容易く魔物達を文字通りに蹴散らしていく。むしろ、リックモッドたちに比べ、ヤンの方が余裕があるくらいだった。

 バルバリシアの忠実な部下であるメーガス三姉妹は、普段のコンビネーションを封じ、分散して戦っている。
 長女であるマグがキレたためであるが、特に問題は無いようにバルバリシアには思えた。

 長女マグにはマッシュが。
 次女ドグにはギルガメッシュが。
 三女ラグにはロックが。

 それぞれ相対しているが、打撃主体のマッシュの攻撃は、マグの太った身体に急襲され、通じない。必殺技であるオーラキャノンも弾かれてしまい、マッシュに為す術は無いようだった。
 槍使いのドグは、剣士であるギルガメッシュに対しては有利だろう。
 そして、ラグの相手であるロックは、ラグの機敏な動きに翻弄されている。

「問題はない―――とは言っても、さっさと終わらせるに限るわね―――」

 言いかけて、彼女は動きを止める。
 ふと、口元には微笑。それから、まるで恋人を迎え入れるような身体を開いて、大仰にくるりと背後を振り返る。

「―――と、思ったんだけど、行かせてはくれないわよね?」
「当然だ」

 バルバリシアが振り返ったその先には、先程飛空艇から落ちたはずの青い竜騎士が居た。
 自分の相棒である飛竜アベルの背に乗って、カイン=ハイウィンドはもう一つの相棒である銀の槍を手にしている。
 それは、飛竜の激減により、近年では殆ど見られなくなった、本来の竜騎士の姿。

「空中戦で私に勝つつもり?」
「愚問だな。空中戦こそが、竜騎士の領分。―――空中戦で竜騎士に勝てると思うなよ!」
「それは私の台詞! ドラゴンライダー風情が、風使いにかなうと思って?」

 バルバリシアの髪の毛が蠢き、伸びる。
 それに対して、アベルが「シャギャァッ」と獣の咆吼を上げた―――

 

 

 


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