第14章「土のクリスタル」
AG.「信じられぬ敵」
main character:セシル=ハーヴィ
location:磁力の洞窟・前
「―――しつこい奴だ」
セシルは嘆息しつつ、剣を握る手に力を込める。
「・・・光よ」
呟きと共に、デスブリンガーが光の聖剣ライトブリンガーへと変化する。同時、セシルの身体にも白銀の防具が装着された。
『フシュルル・・・・・・褒め言葉と・・・・・・・受け取って・・・・・・置こう』
のろまな口調でスカルミリョーネが笑う。
ローブを纏っていた時も快活とは言えなかったが、それでも口調ははっきりしていた。
完全なバケモノとなったせいで、人間の言葉を操るのが難しいのかもしれないと、セシルは思った。「まさか、燃やし尽くしても殺せないとはね」
『灰に・・・なろうとも・・・私は滅びぬ・・・・・・私は・・・不滅・・・』
「しかしその身体、一体何処にしまっておいたんだ? ローブでは隠せやしないだろう?」セシルはスカルミリョーネの肉体を見上げて尋ねる。
ローブを纏っていた時は、老人のように背中を丸めていたこともあって、セシルよりも頭二つ分以上低い小男だった。
だが、今腐臭を放ってそびえ立つ巨体は、セシルの倍以上の体格だ。『この身は・・・ゾンビ達の・・・肉体を・・・重ね合わせ・・・作られたもの・・・・・・』
「成程ね。つまり君は、合体させたその巨体に乗り移っているというワケか」頷いて、セシルは聖剣をスカルミリョーネへと向ける。
つまりゴーストのようなものか、とセシルは推測する―――が。―――違うな・・・
否定の意志が剣から伝わってくる。
(・・・エニシェル・・・?)
―――あれはゴーストなどという生易しいものではない。単なるゴーストならば、妾の炎の魔法で燃え尽きていたはず)
(じゃあ、何だって言うんだ?)
―――リッチ・・・
(・・・・・・お金持ち?)
―――阿呆! 高位の魔道士が、肉体という枷を捨てて、魔力のみの存在へと昇華したモノ。それがリッチ!
(ゴーストとどう違うのかよく解らないけど・・・それで、倒す方法は?)
―――今は無い。
(今は無いって・・・それ、どういう意味だよ)
―――それはな・・・・・・おっと、来たぞ。
(来たって・・・? うわっ!?)
エニシェルの警告にセシルは気がつく。
スカルミリョーネが巨大な手を振り回して来るのを。「うわわわわっ!」
ぶるんっ!
腐肉の破片を撒き散らしながら、巨大な腕がセシルに向かって振り下ろされる。
横っ飛びで地面に飛び込んで、そのまま転がって回避すると、次の攻撃に備えて素早く立ち上がる―――が、追撃はなかった。「・・・・・・?」
どうしたのかとセシルが見れば、スカルミリョーネの巨体がぐらりと崩れ落ちるところだった。
「はい・・・?」
困惑するセシルの目の前で、スカルミリョーネは崩れかけた体制を立て直そうと、振り回した腕を地面について身体を支えようとする―――が、間に合わずにそのまま尻餅をつく。
もしかして、誰か攻撃を加えたのかと、セシルが周囲を見回すが、そんな様子はなかった。誰もセシルと同じように呆然としている。つまり。
「自分で勝手に転んだだけ・・・?」
「まー、見るからにバランス悪そうだしな。手ぇついてなきゃ倒れちまうんだろ」セシルの呟きに、ロックが解説を入れる。
確かに、さっきまで両手両足を地面に付けて身体を支えていた。ゾンビを重ね合わせたと言っていたが、スカルミリョーネの造形の才能はあまり無いようだった。尻餅をついたまま、なんとか起きあがろうともがいて―――さらにバランスを崩すスカルミリョーネ。
そんな様子を眺めつつ、セシルは自分の剣に尋ねる。(・・・それで? どうして倒せないって?)
―――リッチというのは、魔力のみの存在というのは話したな? つまり、魔力ある限り滅ぶことはない。逆に言えば―――
(魔力が尽きれば滅ぶ、と?)
―――その通り。そして貴様には相手の魔力を直接削る方法はなかろう。
黒魔法の使い手ならば、相手の魔力に直接攻撃する手段もある。
だが、セシルは白魔法はわずかに使えるようになったが、黒魔法は使えない。(成程。なら、テラしか倒せないってワケか。でも・・・)
セシルはヤンに後ろに庇われているテラを見る。
すでに瞑想は止めていて、ロッドを手にしていつでも魔法を撃てる準備をしているが、魔力は完全ではないはずだった。スカルミリョーネの魔力がどれほどかは解らないが、今のテラにスカルミリョーネの魔力を削りきるほどの力があるとは思えない。(今の僕たちには倒せない。納得したよ・・・でも、1つ疑問があるんだけど)
セシルはじたばたもがくスカルミリョーネを眺めて首を傾げる。
(魔力だけの存在になったって言ったけど、どうしてあんな不格好な姿になってるんだ?)
―――効率の問題。リッチにとって、魔力は自分の生命そのものだからな。
いちいち魔力を消費して物理的に干渉するよりは、術でアンデッドを支配した方が燃費が少ないというわけだ。(いまいち良く解らないんだけど)
―――魔力で運動エネルギーを・・・例えば、そこら辺に落ちている石ころ1つを魔力だけで動かそうとすると、莫大なエネルギーを使ってしまう。
それよりは、アンデッドや人形を操って石を蹴るなり拾うなりした方が、魔力の消耗を押さえられる。(え、でも、石動かすより、ゾンビ動かす方が大変だと思うけど)
―――魔力とは方向性のない無意味なエネルギーだ。そのエネルギーに意味を与えてやることで魔法となる。
そしてゾンビを操る術はあるが、石を動かす術はない。まあ、実際は重力魔法の応用で簡単にできるかもしれないが、それはともかく。
で、魔法ではなく魔力だけで強引に石を動かすには、魔力を直接石にぶつけておはじきのように弾いて動かすしかない。
それがどれだけ効率の悪い行為か、魔法初心者の貴様にも解るだろう。(なんとなく)
―――今のは簡単な例え話で、実際はもっと複雑な説明になるのだが・・・
まあ精神のみの存在に昇華した存在には、それなりの苦労があるのだ。(あ。もしかしてエニシェルが普段は “人形” に宿っているのは・・・・・・)
―――妾をリッチなどという死人臭い連中と一緒にするな。妾が人形に宿っておるのは単なる趣味だぞ!
(はいはい、そうですか―――ところで)
長々と会話し終わって、セシルは目の前でもがいている巨体を見る。
何度も何度も起きあがろうと試みているのだが、余程バランスが悪いらしく、全く起きあがれそうにない。
起きあがろうとしては倒れ、起きあがろうとしては倒れ、そういう風に暴れるごとに、周囲に腐肉の破片が飛び散っていく。腐臭が周囲に立ちこめ、誰もが顔をしかめている。鼻を押さえる者も少なくない。「これ、どうしようか?」
燃やしてしまいたい気分だが、周囲は森だ。
洞窟前は少し開けて居るが、これだけの巨体が燃え上がって、その熱さにのたうち回ろうものなら、森火事になることは免れないだろう。「放っておけばどうだ? どのみち、今の私達にはどうにも出来ん相手だ」
そう言ったのはテラだった。
彼もエニシェルと同じように、相手がリッチであり、今のセシル達では完全に滅ぼすことは出来ないと気づいていたらしい。テラの意見に、セシルは少し考えて。
「・・・確かに、そうだな。じゃあ、トロイア城まで撤収するとしよう」
そう宣言して、セシルはメイシーナを振り返る。
彼女は、さきほどロックに庇われた状態のまま、地面に尻餅をついて倒れていた。
ちなみにロックは早々に離れ、縛られたロイド達を解放していた。「よろしいですか、メイシーナ神官」
「え・・・?」いきなり話を振られ、メイシーナは呆けた返事を返す。
セシルはもう一度繰り返した。「トロイア城まで撤収しても宜しいですか?」
「・・・す、好きにすればよろしいでしょう。私にはもうなんの力もありません・・・」怒りのためか頬を赤らめて、しかし出てきた言葉は存外素直なものだった。
なにか違和感を感じてセシルが見つめていると、メイシーナはチラチラとあらぬ方向を見ていたりする。視線を追えば。「―――しっかし間抜けだよなあ。なんであっさり捕まってるんだよ」
「だから、王子人質に取られたらどうしようもないだろうが! お前がここにいたら、同じように縛られてたさ!」
「いやー、逃げるね、俺は。1人で」
「うっわ、最低」
「馬鹿、逃げて助け出すチャンスを伺うに決まってるだろ」などと、ロイドと雑談するロックの姿があった。
それを赤らめた表情で―――どうやら怒りのためではないらしい―――見つめるメイシーナ。「・・・・・・ときめいてしまったようですね」
「おわっ!?」いきなり気配もなく背後に現れたファーナに、セシルは驚いて飛び退く。
彼女は聖女の微笑みを浮かべて、メイシーナを暖かく見守り、「自分の身を、間一髪のところで救ってくれた青年―――ときめいてしまっても仕方ありません。いえ! むしろときめかなければ乙女じゃありません!」
「・・・言っちゃ何だけど、乙女って歳にも見えないけどなあ・・・」
「ちなみに、メイシーナ神官は私達の母と幼馴染なんです。独身ですけど」
「いや、そんな個人情報は要らないし」はあ、と、セシルは嘆息。
横目で、まだもがいているスカルミリョーネを見つつ。「まあ、今回も死にかけたけど何とかなったし。最後はグダグダだったけど。とりあえず、トロイアの城に戻って―――待ってればカインが来るかな」
呟きながら、セシルはライトブリンガーを納めようとしたその時―――
『・・・・・・立てぬ・・・・・・』
ぽつりと呟いて、スカルミリョーネがもがくのを止める。
『フシュルル・・・・・・ならば・・・・・・仕方在るまい・・・・・・・』
スカルミリョーネの雰囲気が変るのを察して、セシルは剣を握り直して、身構える。
「ファス! ファーナ! 下がって!」
セシルの警告に従って、姉妹はセシルの後ろに退く。
他の者たちも、セシルの警告の声に緊張を感じて、それぞれ戦闘態勢を取る。
皆がスカルミリョーネに対して構えたその後、『・・・・・・出でよ・・・・・・私の・・・・・・可愛い・・・・・・息子達よ・・・・・・』
ぼこっ。ぼこぼこぼこぼこぼこぼこ・・・・・・
と、以前と同じように土の中からゾンビが現れる。
それは次々と、数を増やしていく―――「ワンパターンだな・・・ッ」
舌打ちして、セシルは近くに現れたゾンビをライトブリンガーで斬り伏せる。
聖剣の一撃に、かりそめの生命を与えられたアンデッドは、容易く崩れ去った。「ヤン! 蹴散らすぞ」
「応!」
「リックモッドさん達はトロイアの兵士達を守ってください!」
「おう、わかっ―――」
「馬鹿にするな!」セシルの指示に、トロイア兵の1人が憤慨して叫ぶ。
腰から剣を引き抜き、一体のゾンビへと肉薄する!「ゾンビごとき、私達だって―――えっ!?」
突きだした細身の剣は、ずぶりとゾンビの肩に貫いて―――止まる。
だが、ゾンビの動きは止まらない。ゾンビは顔をトロイア兵の方へと向けると、そのドロドロと腐った腕を振り上げる。「くっ・・・そんな・・・抜けない・・・!」
「剣を放せって!」リックモッドがトロイア兵の襟首を掴んで後ろに引き倒す。
剣を肩に食い込ませたまま殴りかけたゾンビの腕は空を切る―――そのゾンビに、リックモッドは大剣の一撃を叩き込んだ。重量のある一撃に、ゾンビの身体は四散する。「こいつらは動きはトロいが、厄介なほどタフなんだよ。あんた達の非力な攻撃じゃ通用しねえ」
リックモッドの説明に、トロイア兵は引き倒されて地面に座り込んだ状態のまま、リックモッドを睨み上げる。
「私達が弱いと・・・?」
「そうは言ってねえよ。ただ・・・そうだな、セシルなら “相性が悪い” とでも言うだろうさ。ゾンビには、俺みたいに渾身の一撃で相手を叩き潰す方法が効果的ってだけだ。場合によっちゃ、あんた達みたいに素早さを生かした戦法の方が通用する敵もいるだろうしな」
「しかし・・・!」納得できないのか―――というよりは、納得したくないのか、悔しそうに睨んでくる女兵士に、リックモッドは嘆息する。
「ハッキリ言われなきゃ理解できないなら前言撤回してやるよ。お前らは弱い。弱いから、せめて足手まといにならないように引っ込んでろ!」
「く・・・!」涙を目の端に滲ませて、それでも彼女はリックモッドの指示に従って、後方に下がる。それを確認して、リックモッドは群がってくるゾンビの群れに意識を向けた。そんな彼の背中に、女兵士の呟きが届く。
「いつか・・・・・・いつか、お前よりも強くなってやる・・・・・・」
「ああ。そりゃ楽しみだ」本当に楽しそうに笑い、リックモッドは迫り来るゾンビに向かって、巨大な剣を叩き付けた―――
******
戦闘は、完全にセシル達の優勢だった。ゾンビの数が減るだけで、誰も味方は傷つくことすらない。
セシルとヤンの攻撃が、確実にゾンビの数を減らしていく。
マッシュやトロイア兵達も牽制して、迫るゾンビたちをリックモッドとギルガメッシュが薙ぎ払う。
ロックはひたすら逃げ回っていただけだが、それでも囮の役目にはなっていた。「おうりゃ! ・・・っと、あと少しかあ?」
ギルガメッシュが、聖剣エクスカリバーを振り回して、ゾンビの頭を吹っ飛ばして言う。
いかに聖剣といえど、剣に選ばれた使い手でなければ、単なるナマクラにしかならない。負の生命で動くアンデッドには絶大な力を誇るはずの聖なる力も、効果を発揮していないようだった。
それでも、鈍器代わりにはなるようで、リックモッドにも勝るとも劣らない膂力から振り回される一撃は、ゾンビの肉体を容易く打ち砕いていた。「そのようだ―――もっとも、これ以上増えなければの話だけどな!」
リックモッドも振り回した大剣で、ゾンビを数体まとめて吹き飛ばして状況を見る。
今、ギルガメッシュとリックモッドが打ち倒したゾンビで、彼らの周囲に居るゾンビは終わりのようだった。
後は、セシルとヤンが相手しているものだけだが、それももう数えるほどしかない。「―――これで、終わりだ!」
程なくして、セシルの一撃が最後の一体を滅ぼした。
『フシュルルル・・・・・・これでは足りぬか・・・・・・ならば・・・・・・奥の手を・・・・・・・』
ゾンビが全滅したことを知ったのだろう。
未だ倒れて動けないスカルミリョーネが、不気味な笑い声を上げる。
その様子に、セシルは不吉なものを感じた。「ヤン! 一気に行くぞ! あのデカブツを倒す!」
今のセシル達では、スカルミリョーネを完全に倒すことはできない。
だが、その肉体を滅ぼすことは出来る。(洞窟の中で身体を燃やしてから復活するまでタイムラグがあった。なら、一旦倒してしまえば、しばらく復活することはないはず・・・)
この場では倒す手段はなくとも、準備を整えれば倒すことは難しくはない。
今はテラしか魔法の使い手が居ないが、バロンにも黒魔道士はいる。なにより、ミシディアに協力を求めることもできる。セシルは剣を握り直して、スカルミリョーネへと突進する。
それと合わせるように、ヤンも突撃開始した。だが―――『させぬ!』
スカルミリョーネが叫ぶ。
その途端、セシルとヤンの目の前の地面から何かが一体ずつ出現する!
だが、二人は速度をゆるめずに己の一撃を振るう。「邪魔だッ!」
「滅べッ!」セシルの斬撃が、ヤンの蹴りが、目の前に現れたゾンビをあっさり粉砕する―――はずだった。
しかし、次の瞬間、二人は驚愕する。「・・・うわっ!?」
セシルの剣は目の前に現れたゾンビが持つ剣に受け止められ、逆に打ち払われてセシルの手から弾かれる。
「セシルッ!」
ヤンの相手はヤンの一撃で容易く吹っ飛んだ―――が、さっきまで相手にしていたゾンビとは違う手応えを感じていた。
だが、それよりも、セシルの剣が打ち払われたことに驚き、ヤンはセシルを振り返る。そして、もう一度驚いた。「・・・ば・・・・・・か・・・な・・・?」
「・・・セシル?」セシルが動きを止めて、目の前のゾンビを信じられないものを見るような目で凝視していた。
のみならず、ヤンが驚いたのは、一生見ることはないと思っていたセシル=ハーヴィを目にしてしまったからだ。「ウソだ・・・・・・そんな・・・・・・」
泣きそうな、震える声で、セシルが呟く。
それを見て、ヤンは愕然とする。他の仲間達も同じ思いに違いないと思いながら。
セシルが・・・あの、セシル=ハーヴィが “恐怖” していた。
顔を青ざめさせて、目の前のゾンビに恐怖して身を震わせている。セシルの目の前に立っていたのは、今まで土の中から出てきたゾンビとは違っていた。
普通のゾンビのように身体が腐っていない。身なりも土で汚れ、少しばかり破れていたが、それなりに上等なちゃんとしたものを身に着けていた。一見すると、普通の人間のように見えるが、しかし血の気が引いて真っ白な肌からは生気が全く感じられない。何より、普通の人間は土の中から生えては来ない。
手には青白く輝く剣。普通の鋼でできた剣ではない。魔法金属とも呼ばれるミスリルの剣。(確かに・・・普通のゾンビよりは比べものにもならないようだが、しかし何故、セシルはあんなに恐れている・・・!?)
ヤンが怪訝に思っていると―――
「なんでだ・・・?」
「まさか・・・そんな・・・!」
「ウソだろ、おい・・・!」セシルと同じ、震える呟きが後ろから聞こえてきた。
ヤンは振り返る。呟いたのは、リックモッドとロイド―――バロン出身の二人と、ギルバートだった。「なんだよ、なにそんなにビビってんだ?」
きょとんとしてギルガメッシュが、呆然とするリックモッドに問う。
「って、お前解らないのか!? 一応、陸兵団長だったはずだろが!」
「今もそのはずだけどな。つか、てめえは俺の部下だろーが! もっと敬え!」
「うるせえこの馬鹿!」ボカスカボカスカ、といきなりケンカを始める二人。
それは放っておいて、ヤンはギルバートに尋ねる。「アレがなにか知っているのか!? 何故、セシルはあんなにも怯えている!」
「君は・・・見たことがないのか・・・僕は一度だけ謁見したことがある・・・」
「謁見・・・? ―――まさか!」ギルバートの言葉にハッとなり、ヤンはセシルを振り返る。
セシルの顔色はまだ良くはなかったが、ある程度の冷静さは取り戻せたようだった。「―――そう。これは・・・この御方は・・・」
泣き出しそうな気持ちで言葉を吐く。
その名は、セシルにとって―――いや、バロンの騎士にとって特別な名前だった。「ロードオブナイト―――バロン王オーディン・・・・・・」