第14章「土のクリスタル」
AC.「ファスの望み」
main character:セシル=ハーヴィ
location:磁力の洞窟

 

「―――それで、如何しますか?」

 エニシェル達のドタバタコントで少しゆるんだ後。
 弛緩した雰囲気を引き締めるように、真面目な顔をしてファーナがセシルに問いかける。
 彼女は胸のクリスタルをぎゅっと抱きしめて、

「私はこのクリスタルをトロイアヘ戻すつもりはありません。もし、どうしてもこれが必要というのなら、私を倒しなさい」
「お姉ちゃん!?」

 ファスが驚いたような声を上げるが、姉はそれには答えず、セシルを真っ直ぐ見つめたまま。
 どうしたものかなと、セシルは嘆息して告げる。

「貴女1人で僕たちと戦うつもりですか?」
「お姉ちゃん、無理っ! お姉ちゃん1人でせしるたちに敵うわけがないっ!」

 ファスがヒステリックに喚くが、そんな妹の頭を彼女は微笑みながら優しく撫でる。

「大丈夫、お姉ちゃんは負けないから」
「その根拠は、そのクリスタルですか?」

 セシルの問いに、ファーナは表情を引き締めて頷く。

「ええ。私はクリスタルから力を引き出す方法を知っています。その力はあなた達もご存じでしょう?」

 元々磁力を帯びていたとはいえ、この磁力の洞窟の磁力を増大させ、金属を使用不能にするほどの力。
 その脅威は、セシルは嫌と言うほど知っている。

(あれがなければ、もう少しラクだったろうしなあ)

 薄々解っていたことだが、強磁力を発生させたのはアストスではなくファーナだったのだろう。
 石になる直前、最後の力を振り絞ってクリスタルの力を発動させたに違いない。

「・・・1つ、疑問なんですが。貴女はどうして、クリスタルの力を解除したのですか?」

 磁力が弱まらなければ、セシル達はあのままアストスによって全滅していただろう。
 セシルが問うと、ファーナは哀しそうに俯く。

「よく覚えていません・・・ただ、目が覚める前―――石化が解ける前に、ファスの歌声が聞こえたのは覚えています」

 石化していたファーナには、周囲の状況など解るはずもない。
 だが、ギルバートの魔力のこもった竪琴に乗せたファスの歌声が、ファーナに届いた。
 その歌声でファスの危機を知ったのか、それともただ懐かしい声を聞いただけのせいなのか、ともかく無意識のうちにクリスタルの力を解除してしまったのだろう。

「・・・彼には、結果として酷い事をしてしまいました・・・」

 ファーナはもう動かないアストスの骸を振り向いて、瞳の端に涙をにじませる。
 彼女自身が行ったとおり、ファーナは結果としてアストスを裏切ってしまった。その事実が、彼女に悲しみの影を落とす。

「成程。ファスの歌が届いたから―――か」

 セシルは嘆息する。
 それは苛立ちと自嘲の入り交じった感情のこもった吐息だ。
 その事を自覚しつつ、セシルは続けた。

「・・・だったら、もう少しファスの事を考えてやれば良かったんだ」
「え・・・?」
「ロック!」
「あいよっ!」

 セシルの言葉の意味がわからなかったのだろう。
 きょとんとするファーナ。その死角から、何時の間に移動したのかロックが躍りかかる。
 ロックは右手を開き、すくい上げるようなアッパーで、ファーナが抱え持っているクリスタルを下から突き上げる。

「きゃっ!?」

 戦士でもないファーナには、その奇襲に抗するどころか反応することすら出来なかった。
 クリスタルはファーナの腕の中からあっさりとはじき飛ばされ、その衝撃でファーナは尻餅をついた。

「おねえちゃん!」

 倒れたファーナにファスが駆け寄る。
 それを見やりつつ、ロックは落ちてきたクリスタルをキャッチすると、セシルの方へと放り投げる。
 セシルはそれを受け取って、ロックに親指を突き出した。

「ナイス、ロック」
「ま、これくらいなら朝飯前だ」
「流石は盗賊」
「トレジャーハンターだっつーのっ!」
「冗談だよ。そんなに怒るなよ―――ああ、でも少し心配してた」
「何が?」
「いや、君が美人様の味方をしやしないかと」
「・・・・・・」

 セシルの言葉に、ロックはしばし無言で考え込み。

「はっ!? しまった!?」
「・・・おい」
「冗談だ。いくらなんでもそこまで女好きじゃねえぞ。どこぞの砂漠の王様だったらともかく―――なあ、マッシュ」
「どうして、そこで俺に振るんだよ!」

 何故か不機嫌そうに怒鳴るマッシュに、ロックは笑い、セシルは首を傾げる。

「・・・ひ、卑怯者ッ!」

 尻餅をついたままの状態で、ファーナがセシルを睨み上げてくる。
 対して、セシルはにやりと笑い返した。

「卑怯だと思うことしか出来ないのなら貴女の負けだ、ファーナ=エルラメント」
「返しなさい! それは人間の手には余るモノなのよ!」
「貴女も人間だろうに」
「私は、トロイアのように自分たちの利益のために使ったりはしない」
「でもさっきは僕たち相手に使おうとしたんだよね?」
「う・・・」

 セシルの指摘に、ファーナは言葉を詰まらせるが、すぐに頭を振って言い返す。

「それは、仕方なく・・・そうしなければ守れなかったから!」
「―――トロイアだって、どうして仕方なかったと言い切れない?」
「え・・・?」

 セシルに言われ、ファーナは困惑する。

「さっきマッシュが言ってただろう? 神の力だろうが、クリスタルだろうが、国が豊かになったのには変わりないと。荒れ地をどんなに開墾しても実りのなかった君達の先祖が、神にすがるのではなく、もっと具体的なクリスタルの力にすがってしまったのも仕方ないとは思えないか?」
「で、でも・・・それは、マリア様の意志に反する―――」
「たった1人の人間の意志に従って、飢え続けるのが正しいことなのか?」
「それは―――」

 セシルの言葉に打ちのめされ、ファーナは苦しそうに表情を歪めた。
 そんな姉を見て、耐えきれなくなったようにファスが叫ぶ。

「せしるっ、ひどいっ!」
「って、おい、セシル。お前、さっきと言ってることが違わないか?」

 ロックも眉をひそめてセシルに言う。

「いいや。さっき、僕は彼女の気持ちも解るって言っただけだよ。何も肯定したわけじゃない」
「そ、そーいえばそうだったかな・・・」
「ファーナ。君の身体の傷からして、この磁力の洞窟に逃げ込むまで、クリスタルの力は使わなかったのだろうね―――聖女マリアの意志に従って、不毛の大地を開墾し続けた君達の祖先のように―――けれど、クリスタルを守るためにクリスタルの力を使って磁力を強化し、そして今も “仕方なく” 力を使おうとした―――君達の祖先が明日も見えない開墾に疲れ果て、 “仕方なく” クリスタルの力で土地を豊かにしたように」

 セシルの言葉の一句一句に、ファーナの身体がびくりと震える。
 そんな彼女に、セシルは容赦なくとどめをさす。

「結局、君は、君が否定した祖先達と、何も変らない―――」
「せしるっ!」

 ファーナの傍に居たファスが、姉から離れてセシルに詰め寄る。

「そんな言い方ってひどいっ! お姉ちゃんは―――」
「はい」
「・・・え?」

 ファスの言葉を遮って、セシルは彼女に自分が持っていた者を差し出した。
 思わず、差し出されたそれを受け取るファス。

「これ・・・え? これ・・・?」

 手にしたモノを見て、ファスは眼を白黒させた。
 黄土色の淡い光を帯びる結晶。土のクリスタル。
 困惑するファスに、セシルは優しく笑いかける。

「君が決めろ、ファス」
「えっ・・・?」
「ここで僕が何を言ってクリスタルを奪い去っても、君の姉さんは納得しないだろう? そうしたらまた似たようなことになる」
「えっ・・・? えっ・・・?」
「だから君が決めろ、ファス。そのクリスタルをファーナに託すべきなのか、どうなのかを」

 そう言って、セシルは一歩後ろへと下がる。
 ファスはクリスタルを抱えたまま、呆然と立ちつくした―――

 

 

******

 

 

 腕の中の結晶を見る。
 それは、ファスの小さな腕では少し窮屈そうに収まっていた。
 柔らかな黄土色の光をたたえ、ほんのりと暖かいような気もする。

(・・・せしるが・・・どうして、私に・・・?)

 訳が解らない。
 せっかく手に入れたモノなのに、わざわざ自分に渡す理由が解らなかった。
 だってファスは姉のことが大好きなのだから。姉の望むことならなんでもしてあげたい―――姉が望むクリスタルを渡すのは当然のことだ。

「お、おい、セシル! お前は馬鹿か?」

 声に、クリスタルに向けていた視線をあげると、慌てたようにロックがセシルの方を掴んで、揺らしていた。

「ファスに渡したら、大好きな美人様に渡すに決まってるだろうが!」
「あー、そうかも」
「そうかもじゃねえだろ!」
「まあ、その時はその時さ。そうなったらそうなったらで―――」
「力づくで奪い返すのか?」

 力づく、という単語にファスはびくりとする。
 もしもこれを姉に渡してしまえば、セシル達は姉と戦うのだろう。
 セシル達は強い。けれど、クリスタルの力の強さも知っている。どちらが勝つかは解らないが、どちらも傷つくのは間違いない。

(それは、いや・・・ぜったいに、ぜったいに、ぜったいに、ぜーったいにやだ!)

 心の中で何度も絶対を繰り返して、拒絶する。
 そして気がつく。
 クリスタルをセシルに返してしまえば、姉に力はない。戦いは起こらない。

(そうか、だからセシルは私に渡したんだ)

 ファスがどちらも傷つくことを望まずに、セシルにクリスタルを返すと踏んで。
 そこまで考えて、ファスは決めた。セシルに返すべきだと。
 姉を裏切る形になってしまうが、姉が傷つくよりはマシだ。嫌われてしまうかも知れない。それはとてもとても、夕食にファスの嫌いな苦い野菜が入ってるよりももっと嫌なことだけど、姉が無事で居てくれることの方が良い。

 だから、ファスはセシルにクリスタルをさしだそうとして―――

「そんなことしないよ」
「「えっ?」」

 セシルの言葉に、ファスとロックの声が重なった。

「それじゃ脅迫だ。ファスは僕たちにクリスタルを渡すしかなくなる―――それじゃ、彼女だって納得できないだろう?」
「ちょっと待て。じゃあ、ファスがファーナさんにクリスタルを渡したら、お前はどうする気だ!?」
「どうにかする」
「お前なっ!」
「最初にどうにかしろって言ったのは君だろう?」
「さっきはさっき! 今は今だろ! 状況が違う!」

 喚くロックを眺めながら、ファスはまた混乱する。
 セシルの考えが解らない。セシルはクリスタルが必要ないんだろうか?
 そんなはずはない。だって、クリスタルを手に入れるために、こんな所まで来て、命がけでダークエルフと戦ったのだから。

「ファス」
「は、はいっ!」

 セシルの考えを考えていると、突然、セシルに名前を呼ばれて、ファスは反射的に背筋を伸ばして返事を返す。
 そんなファスの様子を、彼は苦笑して。

「そんなに難しく考える必要はないよ。君が望むようにすればいい」
「わたしが・・・望む・・・?」
「そう。僕はそのクリスタルを求めてここまで来た。ファーナはクリスタルを人の手の届かない所へやるためにここにいる。じゃあ―――君は何のためにここにいる?」
「わたしは・・・わたしが、ここにいる理由・・・?」

 問われてファスは思い返す。
 そんなことは考えるまでもない。
 姉がどうなったのか、その真実を知りたかったからだ。

 姉がクリスタルを奪ったダークエルフを追って、この磁力の洞窟まで行って、殺されたと聞いた。
 だけどファスは認めたくなかった。大好きな姉が死んでしまったなどと。
 だから、本当に姉は死んでしまったのか、自分の目で確かめるために―――真実を知るためにここにいる。

 そして真実を知った今、ファスが望む事は―――

「ファス・・・」

 姉が妹の名前を呼ぶ。
 大好きな姉の声に、ファスは振り返る。
 姉は、ファスに優しく微笑みかけた。

「ファスは私にそれを渡してくれるわよね? 私の言ったこと、解るでしょう? それはね、人間が使ってはいけない力。本来あるべき自然の流れを歪めて、ヘタをすれば大地に負担をかけてしまう―――」
「うん、知ってる」

 ファスは頷く。
 その頷きに、ファーナはきょとんとする。

「え・・・?」
「ずっとずっと、わたしは知ってた。トロイアの大地が、森が、川が・・・歪んでいることを。わたしはずっと怖かったから」

 それは本能的な怯え。
 人が闇を怖がるように、命の流れを見ることの出来るファスは、自然の流れの歪みも感じてしまっていた。
 だが、トロイアを出た事のないファスは、歪みのない自然と言うものを知らなかった。だから、歪みを歪みと感じず、ただ漠然と本能的に “自然ではない” ことに恐れていた。

(だから、わたしはずっと家の中にいた)

 そんなファスが、今は普通に外に出られるようになったのは、単なる “慣れ” だ。
 子供の頃は闇の中には化け物が居ると考えて怯えても、成長と共にそんなものは居ないと、闇を恐れなくなるように。
 トロイアの自然の流れの歪みが、歪んでいても恐れるべきものではないとファスは気がついた。

(それを気がつかせてくれたのはお姉ちゃん)

 姉はいつもファスのことを気遣ってくれていた。
 いつも、外に遊びに行こうと誘ってくれた。
 だから、ファスは外へ踏み出す勇気を持つことができた。

「解ってる。きっと、お姉ちゃんは正しいことをしているって。お姉ちゃんのいうとおり、これは人が持っていてはいけないものだって解る・・・」

 ファスの言葉に、ファーナは嬉しそうに笑って手を伸ばす。

「有り難う、ファス。さあ、それを私に―――」
「お姉ちゃん」

 ファスは姉に申し訳なさそうに困ったような顔をして、微笑んだ。

「ごめんね」

 そう言って、ファスは身を翻す。
 ファーナの伸ばした手は空を掴む。

「ファス・・・っ!?」

 困惑と驚愕の滲んだ、悲鳴じみた声がファーナの口から漏れる。
 だが、ファスは振り返ることなくセシルの元まで進むと、クリスタルを差し出した。

「はい、せしる」
「僕に渡していいのかい?」

 問われ、ファスはクリスタルを引っ込める。
 それから、少しふくれた顔でセシルを睨んだ。

「・・・怒るよ?」
「なんかもう怒ってる気がするけどなあ」

 困ったように苦笑しつつ、再び差し出されたクリスタルをセシルは受け取る。
 それを見て、ファスの後ろでファーナが信じられないという表情で呟いた。

「どうして・・・ファス・・・?」
「・・・・・・せしるは、やっぱりズルイね」

 姉の呟きには答えず、ファスは責めるようにセシルに言う。

「公明正大に配慮したつもりだけど?」
「嘘つき。せしるは解ってたんだ。わたしがせしるに返すって事」
「僕には予知能力なんてないけどな」
「ヒキョー者」

 そう言って、ファスはクスクスと笑う。

「―――って、しか言えないからわたしの負けだよね?」

 さっきセシルがファーナに言ったことを覚えていたのだろう。
 セシルは答えずに、肩を竦める。

「ファス!」

 ファーナの鋭い声に、ファスは振り返った。
 姉は、哀しそうな表情でこちらをみていた。まだ半ば呆然としているのか、すぐには言葉が出てこない。

「どうして・・・?」

 ぽつりと呟いた声には、やはりまだ混乱が伺えた。

「解ってくれたんでしょう・・・? それなのに、どうして・・・?」
「・・・・・・」

 姉の疑問には答えず、ファスは姉に近寄ると、その斬られて裂けた衣服と、その下にある傷を撫でる。
 純白の絹のように美しかった姉の肌は、もう塞がってはいるが、醜い傷跡がいくつもあった。
 クリスタルを奪って逃走する時、兵士に斬られたものだろう。魔物に襲われたものもあるかも知れない。

「傷・・・いっぱいだね・・・」
「こんな傷・・・痛くなんてない―――それよりも、どうして!?」

 まるで、身体の傷よりも、妹に裏切られたことの方が痛いとでも言うかのように彼女は叫ぶ。

「どうでも・・・よかったから」

 ファスは姉の叫びに答える。

「お姉ちゃんがお話ししてくれたマリア様のお話、好きだった。トロイアは神様の恩恵で豊かなんだって、誇らしそうに言うお姉ちゃんが言うから、わたしもこの国が好きになれた。でもね、本当はそんなことどうでも良かったの」
「ファス・・・?」

 戸惑う姉に、ファスはすがりつくように抱きつく。
 そのまま、姉の身体に顔を埋めて―――嗚咽する。

「・・・わたしっ、お姉ちゃんが居れば良かったの! お姉ちゃんが微笑んでいてくれればそれで良かった! お姉ちゃんが無事で幸せで居てくれること、それがわたしのなによりの望みだから・・・・・・っ!」

 泣きじゃくられ、ファーナは先程とは別の意味で呆然とする。
 そんな姉に、ファスは泣き叫び続けた。

「クリスタルを渡したら、お姉ちゃんはまた傷ついちゃう! 例え、せしるが戦わなくたって、外には兵士が一杯いるっ! クリスタルの力を使って無事だったとしても、お姉ちゃんはどっかいっちゃうもんっ!」
「ファス・・・私は―――」
「わたしっ、いやぁっ! お姉ちゃんがいなくなって、1人で泣くのはもういやだあっ! どこにもいかないでえええっ! うわああああああああああああああっ!」

 妹の慟哭に、呆然としていたファーナの瞳に涙が溢れる。
 気づかなかった―――気づかされた。
 今まで、自分の事しか考えていなかった自分に。正しいことをしているつもりだった―――そして、それは正しいことだと妹も認めてくれた。けれど、それはたった1人の大切な妹を哀しませる事だと、今の今まで気がつかなかった。

 涙が、零れる。

 姉が居なくなって、ファスはどれだけ泣いたのだろう。
 それを想像するだけで、心が千切れるような想いをファーナは感じた。
 崇拝する聖女マリアの意志を全うするためなら、自分はどうなってもいいと思ってた。死んだって悔やむどころか、本望とさえ思っていた。しかし。

(私は酔っていただけ。聖女だなんてもてはやされて、マリア様の意志を継ぐのだと身勝手な使命を燃やして―――その結果、ファスがこんなに泣くなんて考えもしなかった)

「ごめん・・・ごめん、なさい・・・ファス・・・・・・ごめん・・・・・・っ!」

 妹の身体を抱きしめ、ファーナは嗚咽する。
 姉に抱きしめられて、ファスはさらにさらに強く泣き声を上げた――――――

 

 

******

 

 

「・・・ほんと、ズルイ奴だな、お前って」

 泣き合う姉妹から目を反らし、ロックがセシルを肘で小突く。
 セシルは苦笑を返し、

「なんか罵倒されっぱなしじゃないか、僕。これはイジメだろう」
「回りくどいことしやがって。最初から素直に言えばいいのによ」
「それじゃ反発するだけだよ。自分で気がついてくれなきゃ意味がない―――それに」

 セシルは笑う―――それは、さっきまでとは違う、少し自嘲めいたものだった。

「実は僕も人のこと言えない。ファーナと同じ事を、僕はしたんだから」

 

 ―――私、知ってるもの。セシルは正しいことをしてるって。そのためにセシルはいつも危険な目に会うんだって、知ってるから。

 

 本当に、神様が居るとしたらひねくれ者に違いないと、また思う。
 泣く姉妹を見て、セシルは嫌が応にも思い出していた。
 砂漠の村で、とても愛しい人が自分の腕の中で泣き叫んだことを。

 

 ―――だから謝らないで。・・・だけど、死なないで。私は、たったそれだけでいいから・・・

 

「本当に・・・ズルイ奴だな、僕は」

 セシルは自嘲し、嘆息した―――

 

 


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