第13章「騎士と旅人」
T.「切り開くための力」
main character:バッツ=クラウザー
location:バロン城・中庭

 

 

 フォールスの暗黒騎士―――セシル=ハーヴィという名前に興味を持って、バッツは父の遺言をなんとなく思い出した。

 それまでずっと、忘れていた遺言。
  “この世界がバッツにとって本当に嫌な世界なのか、世界を見て回って確かめろ” ということと “刀をバロン王へ届けて死んだことを伝えてくれ” と言う遺言。

 悲しみに沈んでいたバッツは、なんの目的もなく、ただファイブルの地を転々としていた。
 バッツ自身は意識していなかったが、それは他人との関わりを持ちたくなかったからなのかもしれない。

 バッツは父を助けることが出来なかった。
 それどころか、父が病に冒されていることすら気づくことが出来なかった。ずっと、一番近くにいたというのに。
 だから、また誰かと関わって、そしてまた “気づくことが出来ず” に、助けられないことを恐れていた。

 だが、セシル=ハーヴィの名前は、そんなトラウマを突き崩す力があった。
 父の遺言も後押ししたのかもしれない。

 

 

******

 

 

 初めてセシルと出会った時、彼は砂漠に倒れていた。
 最初はそれが誰だか解らなかった―――だから、名前を聞いた時は驚いた。
 まさかこんな出会い方をするとは夢にも思わなかったし、なによりセシルが想像とは違っていたからだ。

 海を越えて名を轟かせるような男だ。
 もっと、凛々しく強く、凡人とは違うと思わせるような、そんな威厳のある “英雄” を想像していたからだ。

 だが、砂漠で行き倒れていた姿は凛々しいどころか情けなかったし、砂漠の熱で全身火傷になってうんうんと唸ってる姿は弱々しかった。柔和に笑うその表情には、威厳など微塵もない。

 想像とは違っていた。
 だからといって、残念だとは思わなかった。
 むしろほっとしたのかもしれない。セシルが特別ではない、普通の “優しい” 人間だということに。

 

 

******

 

 

 その後、熱病に冒された、セシルの恋人を助けるために、セシルの代わりにダムシアンまで戻ることになった。
 それは、セシルの力になってやりたい、とも思ったが、それだけではなかった。

 かつて父を救えなかったこと。
 ゆえに今度は救いたいと思った。

 すでにバッツの中に、誰かを救えなかったトラウマは消え去っていた。
 それは、セシルの話を聞いていたからかも知れない。
 自分の地位を、国を捨ててまで、セシルは二人の少女を助けた。
 砂漠を越え、レオ=クリストフに立ち向かってまで、助けようとした。

 セシルだったから、バッツは奮い立てたのかもしれない。
 特別な人間ではない、自分と同じ歳の青年が、そこまでできた。だから自分にも出来るはずだと。

 

 

******

 

 

 ダムシアンから戻り、砂漠の光を手に入れてローザを救った後。

 宿泊していた村に魔物の襲撃があった。
 そこでバッツは知ることになる。
 セシル=ハーヴィの強さと厳しさを。優しいだけの男ではないということを。

 魔物を退けた後、バッツは決意する。
 セシルについて行くことを。セシル=ハーヴィという男を見極めるために。或いは、彼がどこまでやれるのかを知るために。

 だから、リディアを守りたいという理由で(勿論、これも本音ではあったが)ファブールまで同行した。

 そして、ファブールでバッツは完璧に打ちのめされる。
 レオ=クリストフに敗北し、リディアに情けを掛けられ―――自分の無力に打ちのめされる。

 それは、かつて父を失った時にも感じた無力感だった。

 結局自分は何も出来ない。何も守れない。
 バッツの中に、父を失った時のトラウマが蘇る。
 だからバッツは故郷へ逃げ帰ろうとした。本当なら、またファイブルを無意味に転々と旅するような生活に戻っていたのかもしれない。

 けれど、セシルが与えてくれた。
 考えることを。自分の剣がどういうものなのかを思い出すことを。

 そして、それを思い出したからこそ、バッツは戻ってきた―――

 

 

******

 

 

 ―――少し、気を失っていたらしい。

 気がつくと青空が見えた。
 それから歓声。
 なにかセシルの名前を呼ぶ声が聞こえる。

 その声を聞きながら、バッツは身を起こす。
 重い。
 まるで、鉛の鎧でも身に着けているんじゃないかと思うほどに、身体が重く、だるい。

「こなくそ・・・・・・っ」

 重く、さらにはあちこちに痛みが走る身体を、何とか起こす。
 立ち上がる。
 と、周囲がざわついた。

「えーと・・・なにがどーなったんだっけ・・・?」
「バッツ、お前が負けたんだ」

 そう言ったのはヤンだった。
 振り返る。
 実況席―――そういえばロックがいなくなったせいか、なにも実況していない―――で、ヤンが立ち上がってこちらを見ている。
 その目は、戦い終わった者に対する労いの気持ちがあった。

「斬鉄剣と斬鉄剣のぶつかり合い、・・・二度とは見れぬと思っていたものを見せてもらいました」

 隣でベイガンも静かに言う。レオはなにも語らずに、黙ったままだ。

「・・・・・・ちょっと待て。なんだそのお疲れ様モードは?」

 バッツは実況席に身体を向けて、刀を振り上げて怒鳴る。

「いっとくが、俺はまだ―――って、うわ、なんか折れてる!? 妙に軽いと思ったら!?」

 ようやく自分の刀が折れていることに気がついて、流石にぎょっとする。
 その様子を見て、ヤンは嘆息。

「バッツ。その折れた剣でまだ戦えると言うつもりか? この勝負は、お前の負け―――」
「来てるぞ、バッツ=クラウザー!」

 ヤンの言葉を遮って、レオの声が飛ぶ。
 その声に突き動かされて、バッツは前に転がった。
 一回転してから体制を立て直し立ち上がると同時に背後を振り返る―――と、セシルが剣を地面に振り下ろしたところだった。

「あ、惜しい」
「惜しいじゃねえ! この卑怯モン!」
「卑怯って・・・いつも君がやってる事だろう?」

 微笑みさえ浮かべつつ、セシルはゆっくりとバッツの方へと身体を向ける。

「バァカ、お前と一緒にするなよ。俺は正々堂々不意をついてるんだ! 卑怯じゃねえ!」
「正々堂々不意をつくっていうのも新しい言葉だなあ」

 などと和やかにやりとりする二人に、ヤンの非難じみた声が上がる。

「セシル! どういうつもりだ!? もう勝負は付いたはずだろう!」
「バッツはそうは思っていないようだけど?」
「馬鹿な! 剣が折られてどうして戦えるというのだ!」
「ならヤン。逆に聞き返すけど、君が剣を折られたからといって、負けを認めるかい?」
「・・・は?」

 セシルの問いの意味がよく解らず、ヤンは唖然とする。

「なんの話だ・・・? 私は剣など使わない・・・」
「剣士が剣を折られれば負けを認めるしかないだろう? でもモンク僧が剣を折られたからと言って、負けにはならない。バッツも同じだよ。彼は剣士じゃない。ただの―――」
「ただの旅人だッ!」

 セシルから受け継がれた言葉は、セシルの背後から。
 いつの間にか、後ろへと回り込んだバッツが、折れた―――短剣よりも尚短い刃をセシルへと突き出す。
 対して、セシルは前に一歩。それだけで、バッツの刀は届かない。

 振り返って、セシルはバッツを見る。

「とはいえ、そこからどうやって勝つつもりだい? 僕は大人しく負けを認めることを推奨するよ?」
「嘘こけ。お前が望んでるのは俺が負けを認める事じゃないだろ」

 折れた刀。
 その使いやすさを確かめるかのように、バッツは刀を軽く振るう。

「まだ見せてもないし、答えてもなかったよな? 俺の剣の答えを!」

 

 

******

 

 

 庭の中央で、セシルとバッツは戦い続ける。

 バッツの折れた刀では、セシルには届かない。
 セシルの剣を受け止めることも出来ない―――必然的に、バッツは逃げ回ることしかできない。

 なんとか攻撃を繰り出そうとするのは解る。
 何度も背面に回り込んだり、懐に飛び込んだりして、短くなってしまった刀を届かせようとするのが解る。
 だが、届かせるほどセシルは甘くない。そもそも、折れていない刀でもセシルには届かなかった。折れた刀では、例え先程のように “無念無想” の境地に至っても届かないだろう。

 それは、誰よりも戦っているバッツ本人が解っているはずだった。
 だというのに、戦うことを止めない。
 どうしてそこまで戦い続けようとするのか、それを見守っている者には解らない。

 だが、バッツの闘志だけは伝わる。
 諦めない強さ。
 その強さに、見る者は期待させられる。

 勝敗は決した戦いに、 “まさか” が起きることを。

 周囲は静まりかえっていた。
 先程のような張りつめた緊張感のせいではなく。
 ただ、バッツ=クラウザーという旅人の “強さ” を最後まで見守るために。

 

 

******

 

 

 ぶんっ!

 空気を切り裂いて、セシルの振り下ろしの一撃がバッツに向かって振り下ろされる。
 それを横に身を反らせて回避―――すると同時に、前に向かって踏み込んだ。

 踏み込むだけで、ズキリと身体が痛む。
 限界は塔の昔に過ぎ去っていた。斬鉄剣のぶつかり合いで負けた時、あれで全てを使い果たしたはずだった。
 だというのに、今まだ身体は動く。
 その事を不思議には思わない。何故ならば、まだ出し切っていないからだ。力は使い果たしても、 “想い” はまだ使い果たしていない。セシルに与えられた “宿題” を、まだその答えを示していない。

 やるべき事、やらなければならない事を、やり遂げていないからこそ、まだ終わるわけにはいかない!

 痛み、重く、最早力が殆ど残されていない、ただ動くだけの身体にムチ打って、バッツはセシルへと肉薄する。

 がら空きの胴に向かって、バッツは刀を突き出そうとして―――

「在れ」

 セシルの一言で動きを止めた。
 その一言で、セシルの腰に今まで無かった黒い鞘が現れる。鞘には、右手に持っていたはずのデスブリンガーが納められていた。

「ちぃっ!」

 バッツは身体の動きを急制動。
 兎に角、逃げようと、後ろに跳ぼうとする―――ところに、セシルが左手で剣を抜きはなつ!

 がしぃぃんっ!

 セシルの居合いの一撃を、バッツは何とか刀の根本で受けることができた。
 左手で放つ、変則的な居合いだ。力も速さも十分でなかったために、バッツの折れた刀でも受けることができた―――が、力なきバッツの身体は、セシルの不十分な技であっても止められない。

「おわぁっ!?」

 デスブリンガーに刀ごと押され、バッツの身体は吹っ飛ぶ。
 そして地面に墜落。

「ぐは・・・っ」

 全身に響く落下の衝撃。
 体中がもう動けないと悲鳴を上げている。

「ちくしょう・・・」

 勝てない。と思い知る。
 やはり自分は無力なのかと情けなくなる。
 敗北感が心を蝕み、気力が無くなっていく。

 負けを認めてしまおう。
 そうすれば楽になれると思った。

(負けた・・・俺の負けだ。もう力も使い果たした―――戦えない)

 心の中で認める。
 そして、そのまま目を閉じて―――・・・

「・・・たまるか」

 目を閉じたのは一瞬だった。
 再び目を見開いて、歯を食いしばる。

「負けて・・・たまるか・・・ッ!」

 刀はまだ握りしめている。
 拳に力を込め、手を地面について、立ち上がろうとする。

「そうだ・・・! 立ち上がれ、バッツ=クラウザー! お前はこの私を下したのだ! ならば立ち上がれるはずだろう!」

 レオの声が聞こえた。
 その声に突き動かされるようにして、バッツは顔を上げる。
 と、目の前に、折れた刀の切っ先があった。

「・・・・・・!」

 それを見た瞬間、バッツの頭に閃きが走った。
 イチかバチかの賭け。

(動け・・・)

 自分の身体に念じる。

(あと少しで良いんだよ! だから動いてくれ、俺の身体!)

 ゆっくりと、身を起こす。
 目の前にある刀の切っ先を手にして立ち上がる。

「う、おおおおおおおおおおおおおっ!」

 意気を吐き、バッツは危なげながらも立ち上がる。

「これで・・・最後だ。これが通じなかったら、俺の負けだぜ・・・」

 セシルを見る。
 バッツが認めた “英雄” は、ボロボロになっているバッツを嘲ることも憐れむこともなく、真っ直ぐに見つめていた。

「ああ・・・最後にしようか、バッツ」
「俺の剣は―――」

 ぎゅっと、バッツは刀を右手に、切っ先を左手に握りしめた。
 切っ先を握った手が少し切れて、血が滴る。

「言ったよな、セシル。俺の剣は誰かを守るためでもなく、倒すための剣じゃないって」
「ああ」
「今、答えるよ。俺の剣は―――!」

 言いながら、バッツが動く。
 セシルに向かって真っ直ぐに突進する。 “神行法” ではない。ただ突進―――しかも、殆ど力尽きているためか、酷く遅い。

「玉砕するつもりか!?」

 ヤンが叫ぶ。
 同時、バッツが手にした刀の切っ先をセシルに向かって投げつける。

「これが君の最後の手段か!?」

 セシルは半ば失望したように叫んで、向かってきた刀の切っ先を弾き返した―――その瞬間。

  “旋風” が巻き起こる!

 

 

******

 

 

 投げつけた刀の切っ先が、セシルに弾かれる瞬間。

 バッツはその瞬間に、極限まで集中力を高めていた。
 極限まで集中力を高めたために、周囲の時間の流れがスローになる―――そう感じられる。

 じれったくなるほど遅く、切っ先がセシルに向かう。
 対して、セシルは飛んできた切っ先を、デスブリンガーで迎撃。
 切っ先とデスブリンガーが合わさり、小さく伸びた金属音を立てて、切っ先が弾かれる。

 弾かれた切っ先を見て、バッツは自分の身体に懇願した。

(―――頼む! これが最後の我儘だ! 動いてくれよ、俺の身体!)

 果たしてバッツの身体は想いに応えた!
 かつてないほどの素早い動きで、切っ先が弾かれた方向へと跳ぶ!
 切っ先の真っ正面に回り込み、バッツは向かってくる切っ先に対して、折れた刀を突き出した。

 くるくると、弾かれ回転してくる切っ先。
 だが、高められた集中力は、その回転すらも見切っていた。
 バッツには、はっきりと回転する切っ先の、折れた面が見えている。
 あとは、それを合わせるだけ。

(いけえ――――――っ!)

 伸ばした刀と、飛んでくる切っ先。
 その折れた面同士が合わさったその瞬間、バッツの腕を伝わって、カチリ、という音が脳裏に響いた。

(俺の剣は―――)

 再び一つとなった刀を手にし、突きだしたままセシルへと猛進する!

「―――俺の剣は “切り開く” ための剣だッ!」

 

 

******

 

 

 セシルは驚愕していた。
 バッツが折れた切っ先を手にした時、それを投げつけて隙を生ませる―――その程度のことしか予測していなかった。
 そして、その通りだったと想った時、バッツに対して失望した。結局、その程度のことしかできなかったのかと。

 だから、次の反応に一瞬だけ遅れた。

 飛んできた切っ先を、無造作に弾いたその時、バッツの姿が目の前から消えた。

 次の瞬間、かすかに聞こえた金属と金属の合わさる音。
 その音を頼りに振り返れば、元の長さを取り戻した刀を手にしたバッツの姿があった。

(刀の切っ先を合わせるなんて―――完全に予測外だ。・・・だけど!)

 だが、セシルはこれが正真正銘の、最後の一撃だと解っていた。
 刀はさっきまでそうだったように、鉛で補強しているわけではない。ただ合わせているだけだ。前に進む慣性でくっついているだけ。
 斬ることはおろか、止まっただけで落ちてしまうだろう。突くことしかできず、その軌道も容易く読める。切っ先をはじき飛ばしたせいで、体勢は崩れているが、なにも剣を使うまでもない。空いた左拳で刀の腹を叩けば、それだけで折れる。

(―――バッツ、君の負けだ・・・)

 セシルが勝利を確信した瞬間、バッツが叫んだ。

「―――俺の剣は “切り開く” ための剣だッ!」

 バッツの叫びに、セシルは動きを止める。
 間違い、ではなかった。
 セシルが想定した “答え” とは若干違っていたが、しかしそれがバッツの見いだした答えならば、それが正解だ。
 元より己の剣など、他人が決めるものではない。
 ただ、あの時のバッツの剣は “間違っている” とセシルが感じただけだ。
 もしも、バッツの見いだした答えが “敵を倒すための剣” だとしても、正解ではあるのだ。

 眼前にバッツの刀が迫る。
 対して、セシルは最後まで戦うことを諦めず、己の剣の答えを見いだしたバッツに敬意を感じながら、決闘を終わらせるべく拳を握りしめた。

「終わりだ、バッツ」

 短く呟いて、突きだされた刀の切っ先を拳で叩く。
 軽いその一撃だけで、刀は再び折れて短くなった。折れた切っ先は、押し出される力を失って、下へと落ちる。
 もはやバッツに打つ手はない。だが―――

「ああ、終わりだぜ、セシル」

 にやり、とバッツが笑う。
 その笑みの意味を理解するよりも速く。

 打撃。

「がっ!?」

 衝撃がセシルの頬を貫いた。
 なんだ、と思ってみれば、バッツの左の拳が見えた。

「拳打―――!?」
「これが俺の最後の力だッ! 受け取れえええええええええッ!」

 打撃。
 打撃、打撃、打撃。
 打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃ッ!

 無数の連打が、セシルの顔面に叩き込まれる。
 それは、一発一発は力のない打撃だが、重ねられれば強打となる。

 その連打をセシルは知っていた。
 かつてカイポの村で出会った、ダンカンという格闘家がバッツに使った技だ。
 その名は―――

 

 爆裂拳

 

「ぐっ・・・は・・・っ」

 無数の連打に叩きのめされ、セシルの身体は後ろへと吹っ飛んだ。

「くっ・・・」

 かなりの痛手だが、ダメージはそれほどではない。
 カイポの村で、バッツの打撃は魔物を打ち倒していたが、やはり力が尽きているのか、威力はそれほどでもなかった。

 だが、起きあがろうとしてセシルは動きを止める。
 目の前に折れた刀が突き出される。
 その刀の向こうでは、バッツがにやりと笑って見下ろしていた。

「俺の、勝ちだな」

 そういって笑うバッツと、目の前に突き出された切っ先を見てセシルは苦笑する。
 それから、軽く深呼吸してから―――意を決したように、呟いた。

「そうだね。君の勝ちだよ、バッツ=クラウザー」

 セシルの言葉を聞いて、バッツはへっと笑う。
 と、セシルに向けられた折れた刀が、セシルの方へと落ちてきた―――が、セシルは慌てずに、首を捻ってそれをかわすと、続いて倒れてきたバッツの身体を抱き止めた。

「・・・やれやれ」

 バッツの身体を抱きながら身を起こす。
 腕の中でバッツは完全に気を失っている。最後の爆裂拳を受けたセシルは気がついていた、バッツは気力のみで立っていると。決着が付いて、気がゆるんだ途端に気を失ったということだった。

 やれやれ、ともう一度だけ呟いて、セシルは苦笑して、心底疲れたように呟いた。

「こいつとは、もう二度とやり合いたくないなあ・・・」

 

 


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