第13章「騎士と旅人」
S.「 “最強” 対 “最強” 」
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character:ベイガン=ウィングバード
location:バロン城・謁見の間(過去)
謁見の間。
昼間は、王に直訴するため詰めかける、貴族や街の有力者達が間断なく出入りする場所だ。だが、草木も眠るような今の時刻では、完全に静まりかえっている。
火が灯る。
間の壁に設置された幾つもの松明が燃え上がり、謁見の間を照らす。
まだ幼い身体を精一杯伸ばし、自分の頭よりも高い松明を灯しているのは少年だった。それなりに身なりの良い服を着て、腰には少年の体格に合った騎士剣が差してある。その剣の柄先は青く塗られ、まだ見習い騎士だということを示していた。松明を灯して振り返れば、他の “立会人” も松明を灯した所だった。
この “決闘” に、ベイガンが立ち会えたのはただの成り行きのようなものだった。立会人の一人だった元近衛兵長であり、現バロン王の教育係でもあった彼の祖父が病に倒れ、代わりにベイガンが呼ばれたのだ。場違いだと自分でも思う。
だが、例え場違いであろうとも、この決闘を見ることはベイガンの為になるとして、祖父が強引に押し出したのだ。
他の立会人は、ベイガンよりもずっと年上で、格上の人間だった。
バロン最大規模の陸兵団を統率する、聖剣エクスカリバーを腰に下げたアーサー=エクスカリバー。
バロン五大軍団最強とも言われる、竜騎士団の長を務める、アーク=ハイウィンド。
バロンの人間ではないが、フォールス六カ国の一つ、ミシディアの長老。いずれも格上どころか、話をしたこともない人達だ。
本当に場違いだと何度も思うが、自分を推してくれた祖父の顔に泥を塗るわけにも行かない。
せめて堂々としていようと、胸を張り、それから謁見の間の中央を見る。
静まりかえり、ぱちぱちと松明のはぜる音だけが響くその場に、二人の男が向かい合っていた。
一人は身なりのいい男だった。
まだ二十歳といっても差し支えない精悍な姿だが、やや色あせた金髪がそれなりの歳を経ていることを示している。
手には白銀の長剣。鍔はない、片刃の剣だ。
不思議なことに、その剣は松明の灯しかない薄暗闇の中で、自分の存在を誇示するかのようにぼんやりと白く光っている。男の名はオーディン。
このバロンの王にして、ロードオブナイト、剣皇などと呼ばれてたたえられる、世界最強を冠する一人。もう一人は、先の男とは対照的に薄汚れた身なりをしていた。
ボサボサの茶色い髪に、ボロボロの旅装束。
肌は焼けているのか、それとも汚れなのか赤茶けていて、路地の隅に座っていれば物乞いと間違えられそうだった。
だが、その瞳は力強く輝いていて、決して物を乞うような人間ではないと見る者に解らせる。彼の名はドルガン=クラウザー。
ファイブル地方出身の旅の剣士。十数年かけて世界を歩き回り、その剣技は神の域とまで言われた、やはり世界最強を冠する一人。ドルガンは片手に鞘を持ち、そこから刀という、フォールスではあまり見ることのない剣を抜きはなつ所だった。
そして、空になった鞘を後ろに捨てる。カン、と鞘が地面に落ちて小気味いい音が響く―――それが、開始の合図となった。
先にしかけたのはドルガンだった。
真っ直ぐに最短距離をオーディンへ向かって走り、勢いの乗った斬撃を叩き付けるように放つ!
それをオーディンは受け止める。 鞘がが跳ねて、もう一つ音を生むよりも速く、金属音が喧しく響く。キン、と言う音は全力の一撃がぶつかったにしては、軽かった。
あっさりとドルガンの刀が弾かれる―――いや、ドルガンの一撃には力が込められていなかったのだ。
様子見の手を抜いた一撃だったわけではない。どころか、最初の一撃でドルガンは決めるつもりだった。瞬斬―――ドルガンの剣術は、無拍子から生み出される無限の動きと、非常識な速度から生み出される高速剣だ。どんな強者でも、最初から集中しようと思っても仕切れるものではない。身体を動かしていくうちに暖まってくるように、集中力も身体を動かし、神経の隅々まで行き渡らせて初めて最高の状態となる。故に無拍子から生み出される高速剣の一撃で、大抵の剣士は終わってしまう。
だが、この相手は違った。
心技体を兼ね揃えた、騎士達の王。
ドルガンの高速の一撃にも遅れることなく反応した―――だから、ドルガンは剣と刀がぶつかる寸前、コンマ1秒にも満たない “瞬間” に、刀から力を抜いて、わざと弾かれた。その理由は、次の動きを生むためだ。弾かれた刀を再び強く握りしめる。ドルガンの手から脱げようとしていた刀は、ドルガンの腕を背後の方へと引っ張る。その力を利用して、ドルガンはその場で回転。巻き打ちを、オーディンに向かって放つ! 高速の連撃に、オーディンは反応しきれない。刀はオーディンの横腹に激突する。刃がついていない峰打ちだが、遠心力を利用した強打だ。普通の人間ならば悶絶してしまうだろう。
「ぐぅ・・・おおおおおおッ!」
「なに・・・!?」だがオーディンは普通の人間ではなかった。
その一撃を耐えきると、構わずドルガンに向かって剣を振り下ろす!「ちいいっ!」
素早くドルガンは、ぐ、とオーディンの身体に叩き付けた刀に力を込めて、その反動でさらに横へ動き、オーディンの一撃を回避する。
「甘い!」
オーディンの剣が床に振り下ろされた。
床に振り下ろされる寸前、オーディンは力を抜く。石床は剣を弾き、剣は上へと跳ねた―――そこでオーディンは再び剣を握りしめ、剣をドルガンめがけて振り上げる。「なろ・・・ッ」
まるで、こう避けると読まれていたかのような下からの追い打ちに、ドルガンは身を反らせて回避する。
剣の切っ先が眼前を通り過ぎようとし―――たところで、ドルガンの目の前で剣が止まった。「え・・・?」
一瞬、場の時が止まったかのように、全ての動きが停止する。
次の瞬間、嫌な予感がしてドルガンは衝動的に後ろへと飛ぶ。同時に。「グングニル!」
柄のない白銀の剣が、ぐぐっと伸びて槍となる。
槍の切っ先は、つい一瞬前までドルガンの頭があった場所を貫いていた。「・・・ちぃ・・・楽しませてくれるじゃねえかよ」
にやり、とドルガンが笑う。
「そちらこそ。まさかあそこから巻き打ちに変化するとはな・・・」
オーディンは打撃を受けた場所を軽く撫でた。
ズキリと痛みが走る。
来ると読めたからこそ、歯を食いしばり、腹筋に力を込めて耐えられた一撃だった。見切れなければ、それこそ悶絶して終わっていたに違いない。「それがなけりゃ、こっちが終わってただろうさ」
腹の痛みがオーディンの反撃をやや鈍くしていたのを、ドルガンは気づいていた。
特に、振り上げた剣を止めた時。あの時、瞬時に槍へと変化させていたのなら、本人の言葉通りに終わっていただろう。「怖いなあ・・・もしかしたら、死ぬかもな。俺」
「ならばやめておくか? 確か妻子が居るのだろう?」
「あんただって似たようなのがいただろう? セシルとか言ったっけか、あの時の子供は」
「私の子供ではないよ。・・・言うなれば、あの子は私の罪であり、罰である」そう言って、オーディンは表情を曇らせる。
それに対してドルガンは―――「隙あり」
「ぬうっ!?」無拍子の動きで、唐突にオーディンの死角へと回り込み、斬りかかる。
それを、オーディンは反射的に辛うじて受け止めた。「ひ、卑怯者!?」
「は。戦いの最中に浸ってるのが悪いんだろうが」驚いた表情のオーディンに対して、ドルガンはにかっと笑う。
それはオーディンの憂鬱を吹き飛ばすような、太陽の笑みだ。「・・・俺も同じだ。妻も子供も居る。この世界に対して罪もある―――だからさ」
正眼。
剣と刀を合わせたまま、ドルガンは真っ直ぐ射抜くようにオーディンの目を見る。「これは、俺の最後の我儘だ。家内やバッツのことも、罪のことさえも今は忘れる。死ぬも生きるも関係ねえ! 俺はお前と戦うことだけを求めて、ここに居る!」
「・・・うむ、そうだな―――」オーディンは頷いて、ドルガンの刀を押し返す。
ドルガンも逆らわずに後ろに退いて、間合いを取った。「決着をつけようか、ドルガン=クラウザー。最初で最後の決着を!」
******
実力伯仲。
ドルガンは “速度”と “技” の剣。
オーディンが “読み”と “力” の剣と、異なる質の剣を持っていたが、互いに己の最大限の力と技を駆使して戦っている。ドルガンの速度と技は、そのことごとくオーディンの読みに潰されたが、一番最初の一撃がまだ残っているらしく、オーディンもドルガンを倒すには至らない。
腹部のダメージと、それを補うように動くために疲労が加速する。次第に目に見えて動きが衰えてきた。
対して、ドルガンの無拍子は、際限なく無限の動きを見せる。だが、動きは変わらずとも、オーディンの攻撃はドルガンの身体を少しずつ斬り刻んでいた。致命傷はなくとも、ダメージは決して軽くない。振るう刀も、速度はともかく、力が伴わない。互いに力も技も出し尽くし、永遠に決着などつかないように思われた―――
******
夜遅くに始まったこの決闘だが、いつの間にか陽が出ているようだった。
一晩保つ松明の炎も貧弱となり、採光用の窓からはぼんやりと光が漏れる。
耳を澄ませば、鳥のさえずりが小さく聞こえてきていた。
何十度目かの剣と刀のぶつかり合いの後、ドルガンは後ろに跳んで間合いを取る。
偶然にも、開始直前の立ち位置で二人は再び向かい合う。だが、当然ながら1度目とは違い、両者とも傷を負っている。
目に見えて傷が多いのはドルガンだった。もともとボロボロだった旅装束は、あちこち崩れそうな程に切り裂かれ、所々肌が露出している。深傷と呼べる傷はないが、細かな傷も積み重ねればそれなりに致命傷となる。長旅に耐える耐水性の頑丈な布の上を血が滑り、ぽたりぽたりと床に落ちた。対してオーディンの方は、ドルガンに比べて圧倒的に傷が少ない。
だが、そのダメージはドルガンよりも重いかもしれない。オーディンの読みをもってしても、ドルガンの動きを全て捌くのは不可能だった。だから、致命傷ではない一撃を選び、それを敢えて身に受けて耐え、反撃に繋ぐしかなかったのだ。殆どが峰打ちだったために、見た目はよく解らないが、シャツを脱げばあちこちに打撲の痕があるだろう。ともあれ、両者とも限界だった。
まだ若く、未熟なベイガンですらそのことははっきりと理解出来る。
だからこそ、次の一撃が最後の一撃だと、その場に居る誰もが感じ取っていた。「・・・最後に、一つ聞きたい」
口を開いたのはオーディンだった。
その声には、重い疲労の響きがある。「ドルガン。お前は何故強くなろうとした―――なにがそこまで強くした?」
「守りたいものができた時に、それを守らなきゃいけない時に、守れる力を持っているためだ」普段なら、ドルガンは茶化してはぐらかしていたかもしれない。
だが、オーディンは今 “最後” と言った。
それは次が最後の一撃になるという意味だけではない。本当に聞く機会がこれで最後になるかもしれないと感じ取っていたからだ。
だからこそ、ドルガンは即答して、尋ね返す。「・・・アンタは?」
「私は単純だよ。誰よりも強くなりたいと思った。強くなれば、なにものにも縛られることはないと思ったからだ」
「ならその思いは叶ったぜ。アンタは誰よりも強い―――この俺が認めてやる」にやり、とドルガンは笑う。
対して、オーディンは苦笑。「そうだな。お前に認められればこれほど確かな事はない―――が、少し足りないな」
オーディンはミストルティンを強く握りしめて構える。
彼の魂に直結しているその神剣は、彼の今の心を表すかのように、白く、強く、輝いた。「ドルガン=クラウザー。お前を倒して、初めて私は “最強” となる!」
「最強の名にこだわりはねえが―――」ひゅっ、とドルガンは刀を振るった。
彼の剣に “型” はない。だらりと刀を下げたまま、「―――俺はアンタを越えたい。アンタに勝てば胸はって息子に自慢できるしな――― “俺はこの世で一番強い男に勝ったんだぞ” ってな!」
その言葉の余韻が消えて。
二人は示し合わせたかのように、同時に口を開く。「「―――その剣は・・・」」
重なる言葉。
それは、互いに最強にして究極の必殺剣―――斬鉄剣を放つための儀式のようなものだった。「―――疾風の剣」
「―――真なる一太刀」緊張感が高まる。
まるで、空気が固形化したかと思うほどに張りつめた緊張感に、二人を見守る者たちは息をすることすら出来ない。「風よりも速く何よりも速く限りなく速くただ速く・・・・・・」
「見るは剣、見切るは理(ことわり)・・・・・・」幾度も剣を交えながら、この必殺剣を二人は互いに使おうとはしなかった。
・・・いや、出来なかった。「斬るよりも速く斬り、抗うよりも速く斬り捨てる―――」
「剣を知り理を知り、剣技剣斬の全てを知る―――」ドルガンの斬鉄剣は、放つ前に動きを止めて集中しなければならない。
その隙を逃すほど、オーディンは甘くない。もしもドルガンが足を止めれば、グングニルの一撃が貫くだろう。対してオーディンの斬鉄剣は斬るべき理を見いだせなければ、技そのものが使えない。
実力互角のドルガン相手に、その理を見いだすことは出来なかった。「究極の速さの前には、あらゆるものが斬られぬことを許されない!」
「理の中に斬れぬ物は存在せぬと見いだせば、我が斬断は必然と成る!」だが、オーディンの疲労は濃く、もはやグングニルによる迎撃は無い。
そして、肉体疲労とは逆に、オーディンの神経はかつてないほどに研ぎ澄まされていた。今ならば、全ての理が見えるほどに。一撃で、一瞬で命を刈り取るほどの威力を秘める必殺剣だ。
ドルガンの一撃が外れれば、オーディンの剣がドルガンの命を断ち切るだろう。
オーディンがドルガンの一撃を見切れなければ、ドルガンの刀がオーディンの命を斬り裂くだろう。その事を、当人達だけではなく、回りで見ているベイガン達にも解った。
だから、叶わぬとしりつつも、その一瞬を見逃すまいと、目を見開いて二人の姿を凝視する。―――予想通り、ベイガンはその一瞬を見逃した。
ベイガンだけではないだろう。その場の誰もが決着の瞬間を見逃した。激しい金属の激突音。
気がつけば、ドルガンがオーディンに接近していた。
だが、その手には剣の姿が見えない。―――そう思った瞬間。カツン―――
二つの音が一つに聞こえた。
硬い物が、硬い物に突き立つ音。
薄明かりの中、音を頼りに目を向ければ、オーディンとドルガンの背後に二つの刃が突き立っていた。
ドルガンの背後には、神剣ミストルティンが。オーディンの背後には、ドルガンの刀の切っ先が。よく見れば、オーディンの手の中に剣はないが、ドルガンは折れた刀の柄を握りしめていた。
しばらく、ベイガンが二度三度と呼吸する間だ、二人は止まったまま動かず。
やがて、ふ、と互いに吐息する。
「俺の―――」
「私の―――」
「「―――負けだな」」同時に自分の負けを認め、二人は同時に奇妙な顔をした。
笑い出したくなるのを堪え、真面目な顔を作ったような顔。「なに馬鹿なことをいってやがる。俺の刀が折れたんだ。剣士として俺の負けだろ」
「剣が折れたのは私の剣が勝っていただけのこと。だいたい、剣士としてというのなら、剣をはじき飛ばされた私の負けだろう」
「折れた剣じゃもう戦えない。けど、アンタはまだ戦えるだろが」
「何度も言わせるな。こういう結果になったのは剣そのものが勝っていただけのこと。もしも同じ剣ならば、お前の一撃は私の剣を命ごと断ち切っていただろうさ」
「戦いに “もしも” はねえ―――だいたい、俺は剣を選ばない。どんな剣だって同じように使いこなす。だから例え、世界最強絶対無敵伝説の剣とか持ってても、結果は変わんねー!」
「やれやれ、何をムキになっているんだ? 私が負けを認めたのだから、それでいいじゃないか。おめでとう、お前は私を超えた―――ああ、悔しいなあ、負けちゃって、私最強じゃないし」
「全然悔しそうじゃねえし、なんだその “負けちゃった” って馬鹿かアンタ!」
「ぬう。馬鹿に馬鹿と言われるのは心外だな―――お前こそ、素直に勝利を喜べ、この大馬鹿者!」
「大をつけやがったな! この超馬鹿者」
「・・・はあ。なんにでも “超” とかつけるのは、頭の悪い証拠だぞ?」
「こ、この野郎。一人でスカしやがって! ここは “ならお前は超々大馬鹿者” とか言うところだろが!」
「ダイナミック大馬鹿者には付き合ってられんな」
「うわ、さらりと言いやがった! しかもダイナミック!」などと、先程まで死ぬか生きるかの決闘をしていた二人とは思えない、喚きあい(喚いていたのは主にドルガンだが)をする二人を、立会人達はぽかーんと眺めていた。
そしてそれは、二人が完全に精魂尽き果て同時に倒れるまで続いていた―――
******
ぎぃいぃいいぃいいいぃいいいいんッ!
激しい金属の激突音が、中庭を響き満たして、昔を思い返していたベイガンは我に返った。
今度も見逃してしまった決着の瞬間。
その結果だけでも確認しようと、ベイガンは二人の姿を見る。「・・・・・・?」
ベイガンの視線の先、中庭の中央にはセシル一人しか立っていなかった。
鞘から剣を抜きはなった、居合いの後の体勢。手にはしっかりと暗黒剣を握りしめている。バッツは何処に―――と、ベイガンが疑問に思った時、どさっという落下音が聞こえた。
音に振り返れば、セシルの真っ正面、大分離れた場所で、バッツが仰向けになって倒れている。
その手には刀の柄が握られているが、切っ先は無い。
かつてオーディンとドルガンの決闘で折られ、鉛で補強していた場所がもう一度同じように折られていた。その切っ先は、倒れたバッツの傍らに落ちている。
「セシルの、勝ちだ―――」
ヤンが呟く。
セシルの斬鉄剣は、バッツの斬鉄剣を凌駕した。
かつてと違うのは、セシルが居合いから斬鉄剣を放った事だ。
居合いによって加速された剣は、バッツの斬鉄剣の速さに叶わずとも、僅かに追いつく。その僅かな速度差が、 “見切り” が “速さ” に打ち勝った理由ではあるが、それを成したのはセシルの今までの修練と、戦いの経験だった。天賦の才を持つバッツと、戦うために己を鍛え上げてきたセシルとの差。
それが、決定的な勝敗の差となった。かつての再現には成らなかった。
ヤンの言うとおり、この決闘はセシルの勝利に終わった―――