第13章「騎士と旅人」
A.「二つの後悔」
main character:インターミッション
location:インターミッション
少年は墓穴を掘り続ける。
固い土を、少年が扱うには少し大きいシャベルを、柄の中間辺りを両手で掴んで穴を掘る。
まだ少年の小さな足すらも入らない程度の穴しか掘れていない。
だというのに、少年はすでに汗だくでまともに呼吸出来ないほどに息を切らせている。
少年は墓穴を掘り続ける。
たった一人で。誰の手も借りず。自分には不似合いな道具を苦労して使って。
大きな大きな穴を、少しずつ少しずつ掘り続ける。
真剣な顔で。悲愴な顔で。厳しい顔で。
少年は墓穴を掘り続ける。
それは自分のこの世で最も大切だった人が入る穴。
少年を今まで育ててくれた人の墓だ。
だから一心不乱に掘り続ける。悲しみを押し殺して。
掘って、掘って、掘って。
しかし土は固く少しずつしか掘れず、使っているシャベルも身の丈に合ったものではない。
掘った量とは裏腹に疲労だけが溜まっていく。
それでも休むことなく少年は掘り続ける。
ガキン、と音が鳴った。
シャベルが埋まっていた石の固まりにぶつかったのだ。
今までにない手応えの不意打ちに、少年はバランスを崩す。
少年はシャベルにしがみついてバランスを保とうとするが、そのシャベルも石の表面を滑って倒れ込んだ。少年ごと。
全身に重い痛みが走る。
疲労困憊の身体の感覚は鈍く、それは明確な痛みではなかったが、その痛みは重さとなって身体にのしかかる。
少年は倒れたまましばらく動かなかった。否、動けなかった。
このまま倒れたままでいたら自分も死んでしまうかもしれない。
そうすれば大好きな養父の元へと行けるだろうか。
そうすれば養父に詫びることができるだろうか。
そうすればこんなに苦しむことも、辛い思いも無かったことにできるのだろうか―――
そう思って、けれども少年は立ち上がる。
腕で身体を支えて身を起こし、膝を立て、足を踏ん張ってよろめきながらも立ち上がる。
身体が重い。再び倒れてしまいたい。そのまま眠ってしまいたい。
そんな想いに駆られたが、少年はその想いを振り払うとシャベルを拾い上げた。
シャベルを立てて、そこへすがりついて身体を支えて一息つく。
―――気を抜いたのがいけなかった。
じわり、と涙がこみ上げてくる。それと同時に心の奥底に押し込めていた悲しみがわき上がってくる。
悲しみも涙も堪えられない。そう感じ取った少年は。
がつん、と。
シャベルの柄に自分の額を叩き付けた。
一度だけではなく、二度、三度、四度・・・・・・数えるのを忘れるほど叩き付けた。
シャベルの柄に血がこびりつくほど叩き付けた後、少年はようやく動きを止めた。
その時にはもう悲しみは引っ込んでいた。涙は、痛みのために溢れていたが。
泣くことは許されない。悲しむことも許されない。
自分にはそんな資格などありはしないのだから。
自分の大好きだった人を見殺しにしてしまった自分にそんな資格は、無い。
だから、少年は―――
******
葬式は村の人達が執り行なってくれた。
何の縁も無い村だった。村を訪れて一ヶ月も経っていない。
宿屋の一件もない山奥の小さな村。けれど暖かな人達の居る村。
その村を訪れた時に父が病気で倒れた。
村人達はすぐに寝床を用意してくれて、交代交代で看病までしてくれた。
しかしそんな村人達の優しさの甲斐もなく、父は死んでしまった。
母が死んだ時と同じ病気で―――母と同じように死んでしまった。
彼は何も出来なかった。
まだ幼い頃、母親の病気に気がつくことすら出来ず、そして今もまた父に対して何も出来なかった。
目の前には壷がある。
粘土を焼いて作られた安物の壷だ。
口には蓋代わりに布で覆われ、紐でくくられている。
その壷の中には彼の父親が入っている。
彼の父親の骨が。
骨壺を眺めていると視界がぼやけた。
無意識のうちに、気がつかぬうちに彼は泣いていた。
嗚咽を押し殺し、しかし涙は堪えることが出来ずに、膝を抱えて泣き続ける。
父が死んでから何度泣いただろう。
ずっとずっと泣いて、泣き続けて。でも涙は未だに枯れることを知らない。
悲しかった。
とても大切な人を失ってしまったことが。
悔しかった。
とても大切な人を失ってしまったことが。
もっと自分は強い人間だと思っていた。
もっと自分は色んなことができるものだと思っていた。
だけど、結局何も出来ずに、母も父も死んでしまった。
それが、悲しくて、悔しくて。
自分が大好きだった両親が死んで、だけど自分なんかが生きていることに意味があるのか解らなくなって。
そんな事を考えている自分が虚しくて。
けれど、彼は―――