第12章「バロン城決戦」
P.「蚊帳の外の人々 -闘いの決着-」
main character:クラウド=ストライフ
location:バロン郊外
バッツがレオに対して反撃開始をしたその頃―――
ロックはバルガスを完全に振り切って、バロンの城の前まで戻ってきていた。
水堀の向こうにそびえ立つ城壁を見上げる。
城壁の上には、さっきまで居たはずの見張りが、何故か居なかった。そのことを不思議に思いながらも、ロックは「チャンス」だと呟きつつ自分の額に手をやり、
(さてと・・・あの女将軍―――セリス=シェールだったか? 居ると良いんだがな)
そう心の中で呟くロックが思い出すのは、セリスとカインに追われ、なし崩しにバロンから逃げ出す羽目になった時。
彼が所属する、シクズスの反帝国組織リターナが、バロンにガストラの将軍が訪れるという情報を手に入れ、その理由を探るべくロックが将軍達よりも一足早くバロンへと派遣された。
手の器用さを活かして、新米の飛空挺技師として城へ潜り込んだ。不真面目に技師として仕事をしながら情報を集め、ただ1つ解ったのは、クリスタルという物の存在。大いなる力を手に入れるための鍵―――ということは解ったが、それがどういう力なのかは解らない。ガストラの将軍達も、その力がどういうものかは解っていないのだろう。とりあえず、ガストラの目的は解った。そして力の正体がわからない以上、バロンに居るのも潮時だと感じていたので、バロンから逃げ出すことは別に構わなかった。だが、バロンから逃げ出す時に、ロックは1つミスを冒した。陽動と、ちょっとした私怨で飛空挺を爆破させ、たのだが、それが裏目に出てセリスに見破られ、追い掛けられる羽目になった。
どういうわけだがカインに追いかけ回されていたクラウドと一緒になって逃げ出し、テラの導きでデビルロードを通ってミシディアへ逃げることができた。が、逃げる時に大切なバンダナをセリスに奪われてしまった。
ひと
大切な、女から貰ったバンダナを―――ミシディアに逃げ込んだ時はバンダナのことは諦めた。
幾ら大切な品だと言っても、命に代えられるものでもない。バンダナ1つで命を賭けることなど、彼女も望んでいないはず―――そう、自分に言い聞かせて。
バロンに戻るつもりはなかった。ミシディアで船を見つけて、なんとかシクズスに戻るつもりだった。それなのにまたバロンに戻ってきてしまったのは―――自分でもよく解らない。
バンダナのために戻ってきたわけではないとは思う。
ただ、セシルを見ているウチに、なんとなく―――なんとなく一緒に行く気になってしまった。人を引き付ける魅力がある―――というわけではないのだと思う。
そういうカリスマのある人間を、ロックは何人か知っている。だが、セシルとはそういう人間達とはタイプが違う。
ただ、なんか見ていると協力したくなる。手助けしたくなる。それはきっと、セシル=ハーヴィという人間が弱い人間で、とても危うい存在だからなのかもしれない。思えば、あのクラウドがセシルに女装させようとしたのも不思議だった。
いつも「興味ない」と呟き、自分の目的以外にはなにも興味なさそうな男が、「面白そうだから女装しろ」などと言ったのには驚いた。二日酔いが吹っ飛ぶくらい驚いた。自分の父を殺された双子も、セシルのために戦うためにバロンまでやってきた。
そしてロック自身、セシルの力になろうとここに居る。(まあ、今はバンダナ取り戻すことを思い出してここに居るわけだが―――しっかし、あの女将軍がいたとして、捨てたりしされてたら意味無いよな・・・)
不安にそう思う。
考えてみれば、向こうにしてみれば敵が身に着けていた小汚いバンダナに過ぎない。
むしろ、捨てられていると思う方が自然だが。「まあ、いっか」
口に出して呟く。捨てられたならそれでも良い。確認するだけでも意味がある、そんな風に感じて。
「・・・さて、と。そいじゃさっさと行きますか」
ロックは懐からフック付のロープを取り出した。
フックに結ばれている丈夫な太目のロープは、ロックが引っ張るとするすると出てくる。普段は服の下で腰に巻き付けるようにして携帯しているロープだ。城壁を乗り越えるには十分の長さがある。
ラ イ タ ー
ロックはロープを服の中から全て出し終えると、次に着火装置を取り出した。フックにはロープとは別に円筒形の小さな筒がくくりつけられている。その尻からは導火線が伸びていた。「―――風は・・・」
着火装置を小脇に抱え、ロックは自分の指を唾で湿らせると、自分の頭の上に掲げた。ひんやりとした風が、右から左へ吹いている。そのことを確認し、ロックは手慣れた手つきで着火装置を操作すると、フックの導火線に火をつけた。しゅぼっ、と音がして、火が導火線を伝っていく。
火がついたのを確認すると、即座に着火装置を地面に落とし、ロープを振り回す。4,5回転させて勢いをつけると、バッツはフックを城壁の方へ向かって思い切り投げつけた!
ロープは勢いよく城壁の上に向かって飛ぶ―――が、ロープを投げて届くほど城の壁は低くない。フックは城壁の高さの半分も超えないうちに失速し―――落ちかけたところで、火が導火線を伝いきり、筒に点火した。
しゅぼっ、と間の抜けた爆発音。それと共に、筒の下から火が噴き出した。その噴射によって、落ちかけていたフックはさらに加速して、軽々と城壁を越えて―――「おっとっ」
フックが城壁を越えた辺りで、ロックが手にしていたロープの端が引っ張られる。
そのまま壁の向こうへと飛んでいこうとするロープを、ロックは両手で掴んで引き留める。―――やがて、火薬が無くなり、噴射が止まるとフックは城壁の淵に落ちた。「よいしょっと」
ロックがさらにロープを引っ張ると、フックが城壁の淵に引っかかる。
体重を掛けて引っ張って、しっかりロープが城壁にくい込んだのを確認すると、足下の着火装置を回収して、「せーのっ!」
掛け声と共に、ロープに体重を預けて、城壁に向かって飛ぶ。
振り子のようにロックは城壁に向かって勢いよく飛ぶ。そのままでは城壁に叩き付けられる―――というところで、バッツの身体は城壁に叩き付けられる事なく、堀の水の中へ突っ込んだ。派手な水飛沫があがり、全身がびしょ濡れになる。だが、水のお陰で勢いが削がれ、壁に激突することは免れた。「・・・くっそ、冷てえ・・・これも全部ポロムのせいだよな。あいつがヘンな事言うから、あのバルガスってやつに追いかけ回されるハメになって・・・!」
ぶつぶつと言いながら、ロックはロープをしっかりと掴み、壁に足をかけ、水の中から身体を引き出す。
「どうせセシル達は魔法か何かで城の中に渡ったんだろうし・・・くそ」
文句を言いながら、ロックはロープをよじ登って行く。
半ばほどまで登ったところで、ロックはなにか聞こえた様な気がして、後ろを振り返る。と、堀の向こうにバルガスの姿があった。その姿を見て、思わずあきれ顔になる。「あいつ、追い掛けて来やがったのか。しつこいヤツだな」
まともに相手しなくて良かった、などと思うロックに、バルガスは何事が怒鳴っているようだったが、距離があるせいか全く聞こえない。罵倒の類だと言うことは容易に想像出来たが。
「・・・そいやクラウドのヤツ無事かね? なんかあのオッサンにやられていたけど」
バルガスの向こう、クラウドとダンカンが戦っている場所へと目を向けるが、少し距離が遠すぎた。豆粒のような2人の姿は辛うじて確認出来たが、ここからでは何がどうなっているのか全く解らない。
「ま、頑張れよ」
とりあえず届かない声援を送ると、ロックは城壁の上に向かって再びロープをよじ登り始めた―――
******
次々と降り注ぐ、魔法の雷撃を信じがたい身のこなしで回避しつつ、ダンカンがクラウドへ接近する!
「くっ・・・」
目の前まで接近を許したダンカンに向かって、クラウドは呻きながらも手にした巨剣を叩き付ける―――が、雷ですら捉えられなかったものを、剣が当たるわけがない。難なく回避されると同時に懐に飛び込まれ、手刀で剣を手から叩き落とされた。
「くうっ・・・!?」
「ハァァァッ! ゆくぞ必殺―――」
メテオストライク
ダンカンの裂帛の気合いと共に、クラウドの身体が持ち上げられる。
先程も喰らった、ダンカンの投げ技だ。クラウドの身体の下にダンカンは潜り込み、上へと突き上げるようにして空に向かって高く飛ぶ。
天に向かって2人は1つの影となって急上昇。
ダンカンの跳躍が頂点まで達した時、クラウドは気持ちいいとすら感じられる浮遊感を味わい―――直後に、ぞっとするような落下感。「ふはははははは! 先程の ”まてりあ” とやらは交換してしまって使えまい! 最早逃げることはできんだろう!」
勝ち誇ったようにダンカンが叫ぶ。
魔法に対して大雑把な理解しかしてないと思えば、きっちり見ているところは見ていたらしい。クラウドはダンカンの投げから逃れようともがくが、先程と同じように力を込めれば込めるほど力が逃げていく。
逃れる術はない―――そう判断すると、クラウドは抗うことを止めた。
身体の力を抜いたクラウドに気がつくと、ダンカンはにやりと笑う。地面はもうすぐそこだ。「ほう、潔い―――」
「いかづちのマテリア!」ダンカンの台詞を遮るようにクラウドが叫ぶ。
その言葉の意味にダンカンがぎくり、とすると同時、クラウドがさらに叫んだ。「 “サンダラ”ッッッッッッッ!」
地面に激突する寸前だった2人の身体に雷撃が直撃した。
その一撃でダンカンの技が解けて、別れ、2人は同じように地面に墜落した!「ぐあっ!」
「うおっ!?」雷撃を受けたため、身体が痺れてまともに受け身も取れない。
強化され、或いは鍛え上げられた肉体を持つ2人だったが、そんな2人でさえもすぐに起きあがれるような軽いダメージではなかった。普通の人間ならば即死だったろう。
だが、2人とも起きあがれないものの、呻き声を上げるだけで意識を失ってすらいない。
「ぐっ・・・技かけられるよりはマシとはいえ・・・!」
最初に起きあがったのはクラウドだった。
額と、服が破けて露出した左腕からは大分出血しているようだったが、クラウドが起きあがった時にはもう止まっているようだった。「・・・ケアル」
クラウドは魔法で自分の身体を癒す。
これはマテリアに寄るものではない、正真正銘の魔法だった。マテリアを使用しない魔法は、初歩的な物しか使えないが、それどもこうした局面では気休め以上の助けとなる。クラウドは先程地面に叩き落とされた剣を拾い上げると、今まで戦っていた相手を見やる。
ダンカンは、地面に大の字になって大きく寝っ転がっていた。その目は痛みを堪えるようにきつく閉じられ、歯が食いしばられていたが、まだ―――「・・・まだ、生きている、か」
呟いて、クラウドは吐息。
「しぶとい・・・」
クラウドのように起きあがることは出来ないようだ。
よく見なくとも全身血まみれで、クラウドよりもケガが酷い。生きているのが不思議なくらいだ。「・・・とどめ、刺しとくか?」
呟いて、迷う。
今ならあっさりと殺すことも出来るだろう。
だが、殺す殺されるような相手でもない―――並の人間なら、二、三度は死んでいるような戦いをやり合ったが、それでも “殺し合いをした” というつもりはなかった。剣を振るっている時は殺すつもりで狙ってはいたが。「・・・・・・・・・」
手にした巨剣とダンカンを見比べ、やがてクラウドは剣を背負った。とどめを刺すことなく。
「―――まあ、ただの人間にしては楽しめた。縁があったら、また相手をしてやるよ」
そう言い残し、クラウドはダンカンに背を向ける。
回復魔法の1つでもかけてやろうとも思ったが―――止める。今にも死にそうな状態だが、なんとなく死ぬことは無いような気がしたし、死んだならそれまでだ。
そんな風に思いつつ、クラウドはバロンの城の方へ向かった―――