第12章「バロン城決戦」
N.「 “
俺はただの旅人だぜ?”」
main character:バッツ=クラウザー
location:バロン城内

 

 眼前にはつい先日、自分を容赦なく打ち倒した “世界最強” とまで言われる男の1人。
 その姿を見て、バッツ=クラウザーは心の底から歓喜した。

「ふっふっふ・・・ここで会ったが百万年! レオ=クリストフ・・・お前の相手はこの俺だーっ!」

 やたらと嬉しそうな顔をしながら、バッツがセシル達の前に出る。
 だが、レオは冷めた表情でバッツを一瞥すると、冷たく言い放った。

「・・・貴様には興味ない」
「なんだとっ!」
「ファブールで貴様の器の底は知れた。最早、戦う意味もない―――私が今、戦いたいと思っているのは・・・セシル=ハーヴィ、貴殿だ」
「・・・え、僕?」

 レオに指名されて、バッツが憤る後ろでセシルがきょとんとする。
 そんな反応に、レオは小さく頷いて。

「ああ。ファブールで、私は貴殿の闇の力の前に恐怖し、なにもすることが出来なかった。・・・戦って敗れるのならまだしも、戦わずして敗れることは戦士として恥だ。ガストラ帝国の将軍として、なにより私の矜恃のためにも、この恥は消さなければならない。そのためには、セシル=ハーヴィ―――貴殿に打ち勝つしかない!」
「待てこの野郎」

 セシルと戦いたいというレオに対して、バッツが不機嫌そうな声を上げながら、セシルを見るレオの視線を遮るようにして、バッツが割り込む。

「よくわからんが―――アンタがセシルに借りがあるよーに、俺にだってアンタに借りが在る! つか、俺を無視するなーッ!」
「どけ、邪魔だ」
「うっわ、冷てーッ!?」

 辛辣なレオの一言に、バッツはがくーっと肩を落とす。
 が、すぐに後ろのセシルを振り返って。

「・・・あちらさんはやる気満々のようで御座いますが、セシルさんはどうお考えでしょうか?」
「なにその妙な丁寧語」

 セシルは苦笑してから、ふむ、と首をかしげて。

「相手はあのレオ=クリストフだ。はっきり言って、僕1人じゃ勝てる自信はないね。だからここは一致団結して、みんなで戦おう!」

 ぐっ、と拳を握りしめて、セシルがサワヤカに言い放つ。
 そんなセシルの言に、後ろでパロムがぽつりと呟いた。

「それって卑怯じゃん」
「馬鹿、ポロム! そういう本当のこと言っちゃダメ!」
「えー、でもさー」
「大体、セシルさんは元から卑怯者でしょ! 今更何を言ってるの!」
「おお、そう言えば。オイラたちの村に攻めてきた時も奇襲だったしな」
「しかもよく嘘つきですし。嘘つきは卑怯者の始まりです」
「あと、女装なんかして純情な男を騙したりして―――あ、そーいやロック兄ちゃん大丈夫かな」
「・・・って、女装はやりたくてやったわけじゃない!」

 双子の勝手な言い合いに、未だ女装したままのセシルが怒鳴る。
 と、バッツがなにかに気がついたようにレオの方を再び見やり。

「そー言えば、アンタ、よくこれがセシルだって解ったな」
「他にセシル=ハーヴィらしい人物が見えなかった。単純な消去法だ」
「いや、もしかしたらここにはセシルが来てなかったって可能性も」
「私が話に聞いたセシル=ハーヴィという男は、こういう時に前に出ぬ男ではない」
「・・・どういう話を聞いて居るか少し怖いなあ」

 苦笑して、冗談めかしてセシルが言う。
 つい最近、バッツに出会うまで自分の評価など殆ど気にしていなかった。

 カインと並んで、バロン最強の剣などとご大層な呼ばれ方をしているのは知っていたが、それはあくまでも “最強の槍” たるカインと並べると、なんとなく収まりがよいから、とかそんな感じで、カイン=ハイウィンドのついでに評価されているのだと思っていた。

 だから、海を越えた向こうからやってきた人間が、自分の事をどう聞いているのかと想像するだけでむずがゆくなる。

「さて、御託は終わりにしよう。―――来い」

 レオはクリスタルの剣を抜きはなつ!

「全員でかかってきても構わんぞ!」
「俺が相手だって言ってるだろ!」

 レオの挑発に応えるような、バッツの声はレオの真横から。
 いつの間にか、レオの左手―――武器の持っていない方に回り込んでいたバッツは、そのままレオに向かって斬りかかろうとして―――

「のあっ!?」

 寸前で、足を止める。
 ―――見れば、バッツの眼前にレオの拳が突き出されていた。
 そのまま突っ込んでいれば、その豪腕によってカウンターで吹っ飛ばされていただろう。

「馬鹿な! バッツの動きを見切ったじゃと!?」

 フライヤが驚愕の声を上げる。
 レオは無感動のまま、バッツの方を見ようともせずに淡々と続けた。

「言っただろう、バッツ=クラウザー。貴様の底は知れた。もはやその動きすら、この私には通用しない!」
「にゃろう・・・」

 素早く後ろに跳んで間合いを取りつつ、バッツは悔しそうに呻く。
 そんなバッツに対し、レオはセシルの方を向きながらも、しかしぽつりと呟いた。

「・・・ “あの時” のバッツ=クラウザーならば、私の敵になりうるが、な」

 あの時、というのはダムシアンで、暴走したセシルがローザと相打ちになり、ゴルベーザ達がクリスタルを奪おうとした直前に、それを阻止したバッツの事だ。
 あのバッツは、バッツ=クラウザーでありながら、今この場にいるバッツ=クラウザーではなかった。そのことを、レオは感じ取っていた。

 だが、そのことを当人であるバッツは全く覚えていないようだった。

「・・・わけのわからねえことを・・・!」

 苛立ち混じりに呟きつつ、再びバッツは始動する。
 こちらを見ていないレオに向かって突進し、そのまま斬りかかる―――と、見せかけて上に飛ぶ。

「くらいやがれっ!」

 真上からの鋭い一撃。
 だが、その一撃もレオ=クリストフには通用しない。

「遅い!」
「!?」

 剣がレオに振り下ろされるよりも速く、レオの無色透明なクリスタルソードがバッツの刀を打ち払う。
 強引に弾かれ、バッツは剣ごと吹っ飛んだ。

「どわあああっ!?」
「おおっと」

 丁度セシルの方へと吹っ飛ばされたバッツの身体を、セシルは上手く抱き止めた。

「どうしたんだよ、バッツ。随分と不調じゃないか?」
「うるせえよ!」

 抱き止めたセシルの腕の中から強引に飛び出して、バッツは地面に降り立つ。
 くっそ、と悔しそうな声を出す。

「っかしいなー。この前はもうちょっと、こう、簡単に・・・」

 バッツが不思議そうに眉根を寄せる。
 確かにバッツは、カイポの村でレオをその身のこなしで圧倒した。
 ダムシアンでも、敗れたとはいえ、レオの挑発に乗るまではレオ=クリストフを一方的に攻めていた。
 それが、いきなり通用しなくなっている。

「言っただろう、器の底が知れたと」

 レオが淡々と言う。

「バッツ=クラウザー。確かに貴様の身のこなしは瞠目に値する。 “無拍子” をそこまで使いこなす男を、私はドルガン=クラウザー以外に知らない―――いや、ドルガン以上の使い手かも知れぬ」

 無拍子―――

 1つの動作から次の動作へと移る準備―――つまり予備動作というものを限りなく小さくして動く秘技である。

 例えば、高くジャンプしようとする時、まずは膝を軽く曲げてから勢いよく跳び上がる。この “膝を曲げる” という動作が予備動作に当たる。無拍子とは、その “膝を曲げる” という動作を極々小さくして、一瞬にして高く跳び上がるという体術である。

 限りなく無駄な動きをゼロにした体術の奥義と言ってもいい。
 この無拍子は、武の道を究めようとした武術かが、長年の修練と経験の果てに手に入れると言われている―――が、バッツ=クラウザーはそれを才能だけで使いこなす。

 本来必要な予備動作を無くして動く、その動きを常人が見切ることはほぼ不可能。
 ・・・不可能、なはずなのだが。

「だが、弱い」
「弱いがどーしたああっ!」

 バッツは真っ向からレオに向かって突進する!
 すぐにレオの剣の射程内に入った―――直後、バッツの姿が掻き消える。
 少なくとも、レオにはそう見えたはずだった。

「貰った!」

 バッツの姿は、レオの右手にあった。
 先刻とは逆。バッツはレオに向かって直進しながら、いきなり真横に飛んだのだ。速度を全く殺すことなく。物理的にあり得ない動きだが、それ故に目の前のレオには、バッツの姿が急に消えたように見えたはずだった。

 しかし―――

「言っただろう――― “遅い” と」
「なにっ!?」

 レオの死角から斬りかかろうとしたバッツの眼前に、クリスタルの剣が突き付けられていた。

「バッツの動きが、完全に見きられとる!?」

 フライヤが驚愕の声を上げる。
 バッツは歯ぎしりしながら、動きを止め、またバックステップしてレオと間合いを取ろうとする―――が、二度と許すほどレオは甘くなかった!

「雑魚は引っ込んでいろ―――貴様、は私の敵ではない!」

 レオの剣が真っ白に輝く。
 その光に、バッツは見覚えがあった。

「こ、この技は―――」
「覚えているだろう、バッツ=クラウザー! ダムシアンで貴様を打ち倒した、私の必殺技―――」

 

 ショック!

 

 轟ッ!

 レオのクリスタルソードから噴き出された、真っ白き衝撃波が、容赦なくバッツを打ちのめす。
 ダムシアンで、バッツが死を覚悟したあの時と同じように、バッツの身体はつむじ風に翻弄される木の葉のよう軽やかに吹っ飛び、一番近くにあった壁に叩き付けられる!

「がっ・・・ふっ・・・・・・!」

 壁に叩き付けられ、バッツはずるりと壁に背をこすり滑らせるようにして地面に倒れ込んだ。
 レオはそちらのほうを軽く一瞥すると、すぐに興味なさそうにセシルの方を向いた。

「さあ、邪魔者は失せた次は―――」
「次は、ないよ」

 に、と静かに笑いながらセシルがレオの言葉を打ち消す。
 なに、とレオが呟くと同時に、その声があがる。

「その、とおりだ・・・ッ」

 その声に、レオは思わず振り返る。
 今、自分の必倒の技で打ち倒した男の方を。

「次は・・・ねえんだよ・・・ッ。あんたの相手は、俺で最後だ・・・!」

 そこには、よろめきながらも立ち上がる―――

「な・・・何故だ? 何故、立ち上がれる」
「ンなの、決まってるだろが・・・! 俺は・・・俺は、これ以上負けられねえからだ!」

 バッツ=クラウザーの姿があった。

 衝撃波に巻き込まれたせいか、全身ズタボロだった。普通の服よりは頑丈な旅装束はあちこちが、長い旅の傷跡以上にすり切れ、壁に叩き付けられた時に出来たのか、服からはみ出た肌には無数の擦過傷が見える。
 全身を打ち据えられて痛みで力が入らないのか、父の形見である刀を杖のようにしてなんとか立っているという状態だ。

 しかし、奇跡的に致命傷は受けていないようだった。

「負けられない、だと・・・? それは、私に対する言葉か?」

 レオの問いに、しかしバッツは「へっ」と笑って否定する。

「自惚れるなよレオ=クリストフ! お前なんかに勝とうが負けようがンなことはどうでもいいのさ!」
「なんだと・・・」
「弱っちいヤツがいるんだ・・・」

 レオのやや憤った声を無視して、バッツは続けた。

「そいつは・・・そいつらは砂漠の真ん中で行き倒れるような弱っちいヤツらでさ。俺は、ほんの気まぐれで手助けしてやってさ・・・そいつらは俺よりもずっと弱くて―――でも、だけど」

 言いながら、バッツはセシルの方を見る。

「・・・まあ、そいつらの1人でセシルとか言うヤツはただの馬鹿だからどうでもいいんだが」
「おい」
「でも、もう1人の女の子は凄く弱いくせに、だけど一度も俺に弱音を吐かなかった」

 バッツの脳裏に浮かぶのは緑の髪の毛の少女。
 バッツよりも幼くて、バッツよりも小さくて、バッツよりも弱っちい―――だけど、バッツが敵わないと感じた少女。

「親が死んで、色んな人が死んで、一番大好きだった友達が連れ去られてッ! でもッ、それでも、俺に対して弱音を吐かなかった! それどころか、俺の事を気遣ってくれたッ! そんなことッ!」

 そこでバッツは杖にしていた刀を振り上げる。
 危なげながらも、ちゃんと二本の足で地面を踏みしめ、立つ。

「情けねえだろうがよッ、兄貴として! だから俺は負けられねえッ! なによりも誰よりもリディアのヤツに負けられねえ! だって、そうだろうがよ! このまんまじゃ、あいつともう一度会った時、恥ずかしくって兄貴だなんて名乗れねえッ」

 そのバッツの叫びに、苦笑しながらセシルが呟く。

「・・・このまんまでなくても、十分、恥ずかしいと思うけどな。というか君たちエセ兄妹だろうに」
「エセでもニセでも兄妹だッ! ・・・ほら、あれだ、義兄妹?」
「うわあ、難しいこと単語を知ってるね。馬鹿なのに」
「馬鹿とかいうなーッ!」
「君だって、さっき僕のことを馬鹿って言っただろーッ!」

 バッツとセシルが怒鳴り合う。
 そんな様子を黙ってみていたレオが冷たい目でバッツを見やり、剣を向ける。

「成程。ダムシアンの時よりは少々しぶとくなったようだ―――が、それならば、今度こそ完全に息の根を止めるまで!」
「できねえよッ!」
「抜かせ―――」

 剣の切っ先をバッツへと向け、再びその剣が真っ白に輝く。
 そしてもう一度放たれる必倒剣!

 

 ショック!

 

 ごがあああああああっ!

 真っ白き閃光が衝撃波となって、城の石床を削りながらバッツへと向かう。
 だが、レオが必殺の一撃を放った時、すでにその場にバッツの姿はなかった。

「当たるかそんなの!」
「当たるとは思って居ない!」
「え」

 バッツはまたレオの横に居た。
 正確には、さっきまでバッツの居た方を向いていたレオと、セシルたちの間に挟まれるような位置に。
 そして、そのバッツの眼前には、レオの拳が―――剣を持った右腕と交差するようにして、真横に突き出されたレオの左拳があった。

「吹き飛べ―――」

 

 ショック!

 

 レオの拳が真っ白に輝き、そこから拳の形に衝撃波が放たれる。
 拳の衝撃波は、あっさりとバッツをブン殴り吹っ飛ばした。

「ぐっはあああああっ!?」
「はい、お帰り」

 またもや自分の方へと飛んできたバッツを、セシルが受け止める。
 衝撃力の一撃に、一瞬バッツは目を白黒させて混乱していたものの、すぐに我に返るとセシルの腕の中から抜け出た。

「く、くそ・・・なんか全然、俺の剣が通じねえッ」
「まあ、相手は世界最強の1人だからね。奇襲はそう何度も通じやしないよ。・・・それよりも」

 ふと、思い出したようにセシルがバッツに尋ねた。

「君がフォールスを出る前に、僕が宿題を出したよね? 君の剣がどういう剣か―――・・・答えは、解ったのかい?」
「・・・・・・」

 セシルの問いに、バッツは応えない。

「バッツ」
「・・・うるせえなあ」

 答えを催促するセシルに、バッツは面倒そうに声を出す。

「解らなかったら戻ってこねえよ!」
「じゃあ、もう一つ質問だ。言ったよね? レオ=クリストフを倒すには殺すしかないと。君に、あの男を殺せるか? ガストラ帝国最強の男を―――そして、君が人を殺すことが出来るのか?」
「殺さねえよ」

 セシルの二つめの問いに、バッツは即答した。
 さらに続けて口に出す。

「でも負けねえ」
「それでは勝てないと言っただろう」
「でも負けねえ。だって、俺はよ?」

 バッツはセシルを振り返った。
 その顔に、にやり、とした笑みを浮かべて。

「俺はただの旅人だぜ? 誰かを殺すの殺されるの、そんなのは性にあわねえよ」

 バッツの言葉を、セシルは聞いてからしばらく黙っていたが。
 やがて、ぷっ、と噴き出す。

「くっ・・・くくくっ・・・くはっ、あははははははははっ!」

 噴き出した後、堪えきれずにセシルはそのまま爆笑する。
 いきなり笑い出したセシルを、バッツは怪訝そうにみやり。

「なんだよ。そんなに可笑しいこと言ったかよ、俺?」
「・・・くくくっ、い、いいや? たださ。ただ―――あまりにも・・・」
「あまりにも?」
「―――いや、止めておこう。今はそんな場合じゃない」

 説明しかけてセシルは止めた。バッツは「あぁ?」と不機嫌そうな声を出す。

「なんだよそれ! 気になるじゃんか!」
「気が向いたら教えるよ。それよりも、バッツ。君はあのレオ=クリストフに負けないって言ったよね?」
「おう」
「1人で?」
「ばっか、1人で勝つから “俺は” 負けねえって言ったんだよ。みんなでやったら “俺たち” だろが」
「まあ、そうだけど―――なら、この場は任せて良いね?」
「おう、いいぜ」

 バッツは軽い調子で頷く。
 そんなバッツに、セシルはまたも噴き出しそうになって―――しかしなんとか堪え、他の仲間達を振り返る。

「そう言うわけだよ。だから、ここはバッツに任せて先に進もう」

 そう宣言して、セシルは前に出る。
 バッツの隣をすり抜け、レオに向かって―――その後ろの扉に向かって無造作に歩みを進める。

「私を侮辱するのかセシル=ハーヴィ!」

 セシルの前にレオ=クリストフが立ち塞がる―――が、それすらも無視するようにして、セシルはそのまま歩みを進める。
 先程まで無表情に近かったレオの表情が真っ赤になり、目を大きく見開く。それはまるで鬼のような怒りの形相だった。

 鬼の形相で、レオは手にした剣を振り上げてセシルに振り降ろそうとする―――が、

「・・・危ないよ」

 セシルの一言で、レオの動きが止まった。
 否。止まったわけではない。ただ、剣の目標が変わった。
 セシルに振り下ろされようとしていた剣は、空中で停止し、その剣に向かって刀が振り下ろされる!

 きぃんっ。と、固い物同士が激突する、甲高い音が響く。

「ちっ! これでもダメかよ!」
「邪魔をするな、バッツ=クラウザー!」

 バッツの刀を受け止め、レオが怒鳴る。
 だが、バッツはにやりと笑って。

「あんたの相手は俺だって言っただろうが!」
「そういうこと」

 バッツの言葉を肯定するようなセシルの声は、レオの後ろから。
 すでにセシルは謁見の間へと続く扉へと辿り着いていた。セシルだけではない、フライヤや双子達、他の仲間も扉に辿り着いていた。

「一言忠告しておくよ、レオ=クリストフ―――あなたは、バッツには勝てない。何故なら、そこに居るのは、ダムシアンでのバッツ=クラウザーじゃない。カイポの村で、君を圧倒したバッツ=クラウザーだからだ」
「どういう、意味だ」
「そのままの意味だよ。勝てなかっただろう? ガストラ最強の将軍が」

 カイポの村で、レオは相対したバッツにハリセンで殴られるだけ殴られただけだった。
 そんな侮辱的な出来事を思い出したのか、レオは身体を震わせて怒鳴る。

「あの時は戦おうとしなかっただけだ! もしあのまま戦っていれば―――」
「どうなるか、なんて今更解らないさ」

 レオの言葉を遮り、セシルは扉を開ける―――と、素早くその中へ身を滑り込ませる。

「待て―――」
「おっと。良いのかよ? 俺は騎士道精神なんてないからな。容赦なく後ろからバッサリいっちゃうぜ?」
「貴様に人は殺せまい!」
「殺せないけどさ。でも、あんたなら二、三回斬ったって死にはしねえだろ」

 そんなやりとりをしているうちに、最早セシルだけでなく、フライヤたちまで扉の向こうへと消えてしまった。
 仕方なく、レオはバッツへと向き直る。―――その表情に怒りを込めて。

「すぐに片づけて、あの男を追い掛けるとしよう」
「残念だがそれは無理だ。セシルが言っただろう、あんたじゃ俺に勝てないって」

 にや、と笑いながら、バッツはちっ、と舌打ちして。

「ものすごく残念な話なんだけどさ。あの馬鹿と出会って短い間だが、あいつが言ったことで間違っていたことがねえんだよな」

 そんなことを言いながら、バッツは刀を肩に担ぐような格好で持つ。
 バッツの剣に「型」と言うものは存在しない。0から一瞬で次の行動を起こせるバッツに、型という物は必要ないのだ。

「だけどさっさと片をつけるってのは大賛成だ。あの馬鹿を放っておくと危なっかしいからな。さっさと追い掛けねえとさ」
「その言葉・・・すぐに悔やむことになる・・・」

 レオはクリスタルの剣を真っ直ぐにバッツへと向ける。

 そして、バッツとレオ、3度目の戦いが始まった―――

 

 


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