第12章「バロン城決戦」
G.「大人と子供」
main character:セシル=ハーヴィ
location:バロン城下町

 

 

 セシルの姿を認めた瞬間、バルガスは呆けたような顔をしてセシルの前に跪いて。
 胸に手をやって、まるで求婚でもするかのようなポーズでセシルを見上げる。これで真っ赤な赤い花束でもあれば完璧だ。

「ああ・・・・・・美しいお嬢さん、お名前は・・・?」
「は?」
「「ぶはっ!?」」

 恭しく尋ねるバルガスに、セシルは困惑する。
 ロックとパロムが同時に噴き出して、そのまま地面に転がって、文字通りに笑い転げる。

「わはははははははははははっ! 美しい! 美しいってよ!」
「あはははははははははははっ! よ、良かったなセシ・・・じゃなくて、ルシセねーちゃん! ぎゃははははははははははっ!」
「も、もう、2人とも、そんなに笑ったら失礼ですわよ。・・・・ぷくく」

 笑い転げる2人をポロムが窘めようとするが、全く効果はない。
 むしろ、ポロム自身も笑いを堪えるのに必死で、しかもほとんど堪え切れていなかった。

「・・・なんだあ?」

 事情を知らないマッシュは訳が解らないと言った顔で笑う3人と、困惑から憮然へと表情の変えたセシルを見やる。

「おお、ルシセさんと仰るのですか。なんと素敵な名前の響きだろう! その音はまるで天上に住むと言われる天女たちの言葉のようだ・・・」
「ええっと・・・」

 バルガスの恍惚とした台詞に、セシルは再び困惑する。
 さてさて、どうしたモンかなと。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

 バルガスの肩越しに向こうを見れば、ロックとパロムはもう笑い声を立てていなかった。
 というか可笑しすぎて息ができていない状態だ。放置すればそのまま窒息して死んでしまうんではないかとセシルは思った。

 なんにせよ妙な状況だ。
 その妙な状況を打破すべく、セシルはコホンと咳払いすると、真実を口に出して。

「あのね、言って置くけれど僕は男―――」
「『サイレス』!」
「―――ッ!?」

 ポロムの沈黙魔法に、セシルの言葉が失われる。
 バルガスはきょとんとして。

「男・・・?」
「実はですね」

 とことこと、ポロムがセシルとバルガスの間に入って、バルガスに向かってにっこり笑って一礼する。

「ルシセお姉様にはもうお相手に男の人が居るんですよ」
「なにっ!? ・・・いや、しかしそれも当然か! 私ならずとも、こんなに素敵な女性を放っておく男がいるとは思えない・・・!」

 くっ、と悔しそうに言いながらも、しかし納得したように一人ごちる。

「しかし、一体誰だ? その羨ましいやつは・・・」
「はい。あちらのロックさんという方ですわ」
「・・・へ?」

 ポロムの答えに、笑い転げていたロックの動きがぴたりと止まる。
 そんなロックをバルガスがくるりと振り返り、

「・・・成程。なにをさっきから笑い転げていると思っていたら―――そういうことか」
「え? いやその。そういうことって・・・?」
「とぼけるな! 自分という恋人がすでにいるのに、この私がルシセさんに心奪われるのを見て面白ろ可笑しく笑っていたんだろう!」
「いや、確かに面白かったが―――ハッ」

 失言。と思ったがもう遅い。
 バルガスの目が険悪に歪み、ロックを強く強くにらみ据える。

「やはりな―――」
「いやまて嘘だ誤解だ笑っていません!」
「問答無用! くらえっ! 私が独自に編み出した、オリジナル必殺技!」

 ごうッ!
 と、ダンカンと同じような金の光がバルガスの全身を覆う。
 ただし、その光はダンカンのものよりも幾分か弱かったが。

「うわ、なんかやばい?」

 バルガスの様子に、ロックはバロンの街の方へ身を翻し、そのまま逃げようとする。
 だが、それよりも早く、バルガスがロックに向かって掌を突き出した!

 

 連風燕略拳

 

 バルガスの掌からロックへ向けて突風が巻き起こる!
 丁度ロックが身を翻しかけたところに風のあおりを受けて、ロックはそのままバランスを崩して。

「おわっ!?」

 転ぶ。

「おわああああああああああっ!?」

 しかも転んだまま、坂道をごろごろと転げ落ちていく。
 それをみやり、バルガスはちぃっ! と鋭く舌打ち。

「矢張りまだ威力が弱いか・・・もっと改良しなくてはな」

 などと1人ごちてから、マッシュを振り返る。

「マッシュ。用事が出来た。あとは任せる」
「え? 任せるって・・・」

 きょとんとするマッシュをバルガスは無視。
 彼は、ちらりと困惑したままのセシルの方を見やると、大げさな態度で顔を背けた。

「くっ・・・そんな目で見ないでください! 確かにあの男はあなたの愛した男なのでしょう! しかし、だからこそ私は許せないのです! ルシセさんの愛を受けた男が、あんな・・・あんな・・・人の純情をあざ笑うようなクズなどとは」
「いや・・・えっと・・・?」
「なにもいわないで頂きたい! あなたが愛した人を悪く言われて良い気分はしないでしょう。しかし、あなたの愛を得るその資格があの男にあるかどうか、それを試す権利が私にはあるはずです! なぜなら私もあなたを愛してしまった1人だから―――」

 訳が解りません。
 セシルが困惑の極みで、何も言えないでいると「ではっ!」とか後ろを振り返らないまま手を挙げて、そのままロックを追いかけて坂道を駆け下りていく。

「・・・・・・なんなんだ、あの人・・・?」
「・・・・・・いつもは、もう少しマトモな人なんだがなあ」

 呟くセシルに、フォローのつもりかマッシュが返す。
 続けて、彼はバルガスの背中に向かって大声で叫ぶ。

「後は任せるって、なにを任されるんですか、バルガスさーーーーーーーーーんっ!」

 勿論、返事は来なかった。

 

 

******

 

 

「で、ルシセねーちゃん。こんなところでなにやってんだよ? 城に向かったんじゃないのか?」

 とりあえずバルガスとロックのことは放っておいて、パロムが尋ねる。
 "セシルにーちゃん"、ではなく"ルシセねーちゃん"と呼んでいるのは、マッシュがいるせいなのだろうか。

 そんなことを思いながらセシルは「ああ」と頷いて。

「行ったんだけどね。城の中には入れなかった―――跳ね橋が上がってて」

 流石に堀を泳いでいくわけにも行かない。
 仕方ないので、一旦街に戻るしかないと思っていたところにロック達が追いついてきたわけだった。

「城の中が騒がしい。何かが攻めてきたことは間違いないんだけど・・・・・・」
「じゃあ、こんなところでのんびりとしているわけには行きませんわね。早く行かないと」
「いや。ミシディアに戻る」

 ポロムが城へ向かおうとするのを押しとどめて、セシルは帰還を宣言する。
 えっ、と双子が同時に声を上げる。

「何故ですか、ここまで来て!」
「言っただろう。今回は偵察が目的だって。まさかこういう事態は想定していなかったから、なにも用意していない。ここはミシディアに戻って準備してからこないと」

 セシルの説明に、双子は納得のいかないような顔をする。
 マッシュは他人事だと思っているのか、それとも状況が理解出来ないのか、ともあれなにも口を出さない。

「パロム・・・」
「・・・ポロム」

 双子は互いの名を呼んで、顔を見合わせてなにかの合図のように頷き会うと、セシルに向かって同時に叫んだ。

「「うそつきー!」」
「へ?」
「セシルさんは嘘を吐いています! こういう事態は想定していなかった? こういう事態もあり得ると思ったからこそ、あれほどに私達を連れて行くことを固く拒んだのでしょうに!」
「それはセシルにーちゃんにとって正しいことなのか? もしかしたら命をかけて戦っているかもしれない仲間を見捨てて、逃げ帰るのがセシル=ハーヴィの正しいことなのかよ!?」
「それは・・・―――でも、僕1人が行ってもどうにもならないだろう?」

 セシルの言い訳がましい弁解に、双子は動きを合わせて「「はあ・・・」」と大げさに溜息を吐く。

「ロック兄ちゃんから聞いてるぜ? 自分を置いて、オイラたちは先にミシディアに戻れって言ったんだろ? それは、にーちゃん1人でもなにかできるって思ったから、城へ向かったって事だろ? そうでなけりゃ、オイラたちと一緒に行くか、あるいはミシディアに戻ろうとするはずだ」
「今だって、本当はどうにかして城の中へ行ける方法がないかと模索していたのでしょう! でも、そこに私達が来てしまったから仕方なくミシディアに戻ろることを選択した。私達を戦争に参加させたくないために!」
「オイラたちだって戦争なんかしたくないし、見たくもない。だけど、にーちゃんが1人で戦おうとするのに、黙ってなんていられない!」
「私達は子供ですが、それでも何かが出来る力があると信じています。少なくとも、私はセシルさんの傷を癒すことが出来ますし、パロムは攻撃魔法が使えます。その力は微々たるものかもしれませんが―――」
「それでも戦える時、戦わなきゃ行けない時に戦えないのはもう嫌なんだ! オイラたちは、そんな後悔をもうしたくはない!」
「あなたが正しきことと思うように、これが私達の正しきことでもあるのです。人を殺すことが正しいというわけではなく、今、戦う事が正しきことだと信じるからこそ、今この場に私達は在るのです!」

 双子は真剣な目をしてセシルを真っ直ぐに見上げてくる。
 そんな2人を見やり、セシルは諦めたように吐息して―――しかし、頑なに首を横に振る。

「・・・ダメだ。もし、このまま戦いに参加して、君たちが傷つくようなことがあれば、僕はきっと後悔してしまう」
「けれど、ここでミシディアに戻っても、あなたはきっと後悔するのでしょうね。もしも今、戦っているのがあなたの仲間で、そして負けてしまったのなら」
「・・・・・・」
「私達はこのままなにもせずにミシディアに戻ってしまえば後悔する。あなたはどちらにしろ後悔する―――なら、後悔の少ない方を選ぶべきではないでしょうか?」

 ポロムに言われてセシルは二の句が告げない。
 ポロムの言うことはいちいち最もだった。もし、今戦っているのがヤンたちだったならここでミシディアに戻ったなら後悔するだろう。
 しかし、かといって双子を戦場へ連れて行くことは出来ない。

「・・・・・・なにをやっておるんじゃ?」

 セシルが考え込んでいると、不意に声。
 見れば、いつのまにかテラがチョコボに乗って来ていた。

「テラのじーちゃん! 一体、今まで何やってたんだよ?」
「お主らのように若くないのでな。チョコボ屋からチョコボを借りて追ってきたんじゃよ・・・そう言えば、クラウドはどうした? ロックはさっきすれ違ったが・・・?」

 テラがそんなことを言いながらチョコボを降りる、と、チョコボはスッタカタッカとバロンの街の方へと戻っていってしまった。

「クラウド様は・・・星になられたのですわ」
「・・・ポロム。お前って、けっこー酷いな」

 悲しそうに目を伏せて言うポロムに、少し唖然としてパロムがつっこむ。
 訳が解らずに首をかしげるテラに、セシルが

「・・・テラ。頼みがある」
「なんじゃ?」
「この双子を―――」
「『サイレス』!」
「―――!?」

 沈黙の魔法に、セシルの言葉が消える。
 さっきまで悲しそうな表情をしていたポロムが、パロムと一緒にセシルの前に立ち、とても嬉しそうな笑顔を浮かべて。

「テラ様、これからバロンの城に乗り込みますけれど、準備は宜しいでしょうか?」
「ふむ。準備は特にしとらんかったが、まあそうなるとは思っとった」
「心の準備が出来てるなら十分だぜ―――オイラたち魔道士にとってはな」
「そういうことですね。さあ、参りましょう!」

 物言えぬセシルを放っておいて、双子がテラの手を引っ張ってバロンの城の方へ向かおうとする。

「――――――ッ! ―――ッ!」
「セシルが何かいいたそうだが」
「気にしないでください。いつもの病気です」
「―――ッ!」
「・・・そんな病気、持っておったかのう」

 とぼけたようにテラが呟く、とセシルは双子とテラの前に回り込む。
 道をふさいで、首を横に振る。

 ―――ダメだ! 城には行かせない!

 と、声なき声で叫ぶが・・・

「『デジョン』!」

 いきなりセシルの目の前の視界が切り替わる。
 目の前に双子とテラが居たはずなのに、いつのまにかマッシュ1人が立っていた。

「さー、いこーぜー」
「ッ!」

 パロムの声に振り返ると、何故か双子達は後ろにいる。
 それがパロムの使った魔法の結果だとは、考えなくても解った。

 舌打ちして、セシルは再び双子達の前に立ちはだかろうとするが―――

「やめておけ、セシル。お主の負けじゃ」

 テラの言葉に動きが止まる。
 それから、テラはごにょごにょと呪文を唱え、

「―――『エスナ』」
「・・・・っ。あ、あー・・・・・・声が出る・・・」

 状態回復の魔法で、セシルの沈黙が解かれた。
 自分が声を出せることを確認するセシルに、テラは諭すようにゆっくりとした声で、

「セシル、お主の気持ちも解る―――が、双子の気持ちも解ってやれ」
「・・・・・・ッ」
「この双子は普通の子供よりも・・・いや、そこいらの大人よりも強い。力も、心も。それは解って居るじゃろう」

 どうやらテラは最初から解っていたようだった。
 セシルと双子のやりとりを直接聞いてはいないものの、それでも雰囲気から察したのだろう。

「力があるから連れて行けないんだ! 無力なら守ってやればいい。でも戦えるなら戦わなきゃ―――殺さなければ殺される。戦場って言うのはそういうものだろう! どんなに背伸びしたって2人はまだ子供だ。そんな子供に殺し合いをさせるのは、大人にとってなによりも重い罪だろう!」
「・・・解って居らんな」

 やれやれ、とテラは肩を竦める。
 そんなテラの仕草に、セシルは訝しげに眉をひそめた。

「解ってない・・・って、なにが?」
「双子の気持ちじゃよ。この2人は自分に力があるから戦いたいと言っているわけではない。お主の力になりたいから―――お主を心配するからこそ、力になりたいとそう言っているのだ」
「べ、別に私はそんなこと思ってません!」

 テラの言葉に、ポロムが反応する。
 だが、照れたように赤く染めた頬が、テラの言葉が図星だと言っていた。

「お前はそんな双子の純粋な思いを踏みにじっているだけだぞ」
「・・・だけど・・・それでも―――」
「それにここでミシディアに戻ってどうする? お主は魔道士達に戦わせたくはないのだろう? ならば、ここを好機と見て一気に城へ攻め込むのが最良の選択だとは思わぬか?」
「・・・っ」

 それはセシルも解っていた。
 だからこそ、単身でも城へ乗り込もうとした。

 テラの言うことはもっともだった。
 しかしそれでもセシルは、まだ子供に “殺し合い” に参加させることに抵抗を感じる。

「・・・だけど」
「セシルさん。少しかがんでくださいな」
「え・・・?」

 いきなりポロムに言われて見下ろせば、彼女は後ろに両手を回してにこにこと笑いながらこちらを見上げていた。

「・・・こう?」

 ポロムがなにをしたいのか解らず、しかしセシルは言われたとおりに膝を折ってかがみ込む。
 にこにことポロムは笑い、そのまま。

「えいっ!」
「うわっ!?」

 いきなり突き出されたナイフに、セシルは反射的にのけぞった。
 どうやら後ろに手を回していたのは、手にしたナイフを隠すためだったらしい。
 セシルは屈み込んだ姿勢のままのけぞり、そのままどしんと尻餅をつく。

「ポ、ポロム・・・なにを・・・」

 声がかすれる。
 ポロムの今の一撃は、完全にセシルの首元を狙っていた。
 反射的にセシルがのけぞらなければ、ナイフはセシルの首に突き刺さっていただろう。

「・・・こ・・・これが、わたしっ・・・私の覚悟です・・・っ」

 言われて、セシルは思い出す。
 バロンに来る前―――まだ今朝のことだ―――どうしてもついてくると駄々をこねる双子に、セシルは短剣を渡して「人を殺せる覚悟があるなら、僕を殺してみろ」と言った。

「こ、これでも、まだ覚悟が足りないと言いますか?」

 ぽとり、とポロムの手からナイフが落ちた。
 しかし、ポロムはナイフが落ちたことにも気がつかずに、まだナイフを手にしているつもりで握っている。

 ポロムの声は震えていた。
 いや、体中震えている。表情には笑みを張り付かせたまま、ふるふると全身を震わせている。よく見れば、うっすらと脂汗まで浮かべていた。ポロム自身にも解っているのだろう。今のが、もしもセシルが避けなければ、確実にセシルの命を奪い去っていたことを。

 人の命―――それも短い付き合いとはいえ、知り合った者の命を奪ってしまったかもしれないという恐怖に震えながらも、それでも覚悟を示したのだ。セシルの提示した方法で。

(覚悟が足りないのは・・・足りなかったのは、僕の方か・・・)

 テラの言うとおり、自分の負けだと認めて嘆息する。
 解っていたつもりだったが、しかし解っていなかったようだった。

(この子たちは・・・僕たち大人が思っているよりもずっと強い・・・)

 ―――2人とも、私が心配しなければならないほど弱くはないけれど、だけどそれでも私は心配で・・・・・・

 試練の山でリリスが言っていた言葉が思い出される。
 大人の心配が必要であるほど、子供達は弱くない。
 けれど、それでも心配してしまうのは。

(それはやっぱり僕が大人で、彼らが子供だからなんだろうな)

 強さ弱さは関係なく。
 子供を大人が守ろうとするのは人間として自然なことで。

 そんなことを思いながら、セシルは諦めたように小さく頷いた。

「解ったよ、パロム、ポロム。すまないけれど、君たちの力を貸してくれるかい?」

 セシルが言うと、双子の表情がぱあっと輝く。

「へっ! 仕方ねえなあ! セシルにーちゃんは頼りねーから手伝ってやるぜ!」
「パロム! いくら本当のことでもセシルさんに失礼でしょ!」
「・・・ポロム、君の言っていることも十分失礼だよ・・・?」

 苦笑いしながらセシルが言うと、ポロムは首をかしげて「え? なにがですか?」とよく解っていない返事を返してくる。

(そんなに僕は頼りないかなあ・・・・・・)

 まあ、考えてみれば双子に出会ったのは海に落ちてミシディアの砂浜に打ち上げられていたからだし、その後試練の山でもリリスの姿を見て鼻血を出してブッ倒れた。しかも今は、女装までしている。

(・・・ううっ、なんか頼りないというか、情けないというか・・・)

 双子に出会ってからのことをいくつか思い出して、セシルは暗い気分になる。
 と、そんなセシルに今まで黙っていたマッシュが声を掛けた。

「なあ、あんた」
「え?」
「セシルって―――」
「さあっ! 早く城へ向かいましょう! ぐずぐずしていると機を逃しますわ!」
「そうそうそうそう! セシ―――じゃなくてルシセねーちゃん、早く早く!」

 マッシュの疑問を誤魔化そうとするかのように、双子が声を張り上げる。
 そんな双子の行為に、セシルはヤケクソになって叫んだ。

「そうですわね! さあ、早く行きましてよ!」

 パロムとテラがぶっ、と噴き出してそのまま爆笑する。
 ポロムも小さな身体を小刻みに震わせて笑いを堪えていた。
 ただ1人、事情を知らないマッシュだけがきょとんとする。

 そんな4人を放っておいて、セシルは早歩きでバロンの城へと向かった―――

 


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