第11章「新たな力」
O.「リリス」
main character:セシル=ハーヴィ
location:試練の山
試練の山―――
死した者が現界に執着し続けた為に、世界を巡り命の流れ―――ライフストリームの流れに乗る事が出来なかった魂たちが、不死者となって集う場所。
不死者達は、生者の気配を感じ取れば、迷うことなく襲いかかってくる。まるで、その生命を刈り取れば、自分が完全に生き返るのだと思うように。セシル達が遭遇した、ゾンビとスケルトン。
本来ならば、生者であるセシル達を襲うはずなのだが、パロムたちの友達だという。それは、永い時間アンデッドとなっていたせいで、時間とともに生への執着が薄れ、生前の自我を思い出しつつあるからだった。
*****
「つまり、友達じゃないアンデッドも居るってワケだな?」
心底嫌そうに、ロックが尋ねると、パロムは「おう」と頷いた。
「けれど、そういう方達は山頂に近い場所に居ますから山を登らなければ遭遇することもありませんし、万が一降りてきてもブラス様とアルケス様、それからリリス様が追い払ってくれますわ」
ブラス、アルケスというのは2人(?)のアンデッドの生前の名前だという。
「リリスって? そいつもアンデッドなのか?」
「いえ、リリス様は・・・」
「うん、あたいはアンデッドじゃないな、うん」
「って、誰だッ!?」いきなり聞こえてきた耳慣れない声に、ロックが誰何の声を返す、と近くにあった岩の影から一人の女性が現れた。
長い、ウェーブの掛かったダークグリーンの髪と、髪の毛と同じ色の瞳。ややツリ目がちで、整った顔立ちである為に、どこか険悪そうに見えるが、表情に力が入っていないところを見ると、険悪そうに見える表情が普通の顔つきらしい。
いきなり現れた女性に、ロックはやや唖然としながら、
「お、女・・・?」
「うん、あたいは女だな、うん」ロックの言葉に、いちいち「うん、うん」となにか確認するかのように彼女は頷く。
と、セシルがやや視線をそらしつつ、顔を赤らめて挙手をする。「あの、なんで裸なんですか?」
セシルの言葉通り、彼女は上半身になにも着ていなかった。
胸はバーン! と感嘆符付きで表現されてしまうくらいに豊満であり、腰の辺りは折れてしまいそうなほど細くくびれている。一応、胸は腰まで届くほどの長い髪で半分以上隠されてはいるが、セシルでなくとも赤面して顔を背けるか、あるいはロックのように目を奪われて動けなくなるかのどちらかだろう。「・・・興味ないな」
「変態かお前は」いつものようにどうでも良さそうに肩を竦めるクラウドに、ロックが視線を動かさないままつっこむ。
「うん、実はポロムたちが着ているなんて知らなかったから。やっぱり人間の服なんて着ない方がラクだし。うん」
「けれどリリス様。リリス様も女性なんですから、身だしなみには気をつけて貰わないと」女性―――リリスの答えに、ポロムが口をとがらせ、お姉さんぶって言う。リリスはそれを聞いて、「うん、今度から気をつける、うん」とだけ頷いた。
「・・・って、ちょっと待て。今の言葉はどういう意味だ!?」
思わずセシルはリリスの方に視線を向けて―――さらに顔を真っ赤にする。
そんなセシルをポロムは険悪な表情で、「お馬鹿ですか貴方は。女性たるもの、みだりに他人に肌を見せるモノではないですよ。・・・殿方は見たいのでしょうけど」
「いや、身だしなみが大切なのは僕も賛成。そうじゃなくて、今、人間の服がどうとかって―――」セシルは顔を真っ赤にしながらリリスの身体を眺め、しばらく観察してようやく気づいた。
「下半身が―――」
「うわ。クラウドとは逆のベクトルでの変態がッ!」
「さっきから胸ばっか見てる君には言われたくないよッ! いいから彼女の下半身をみろッ」
「・・・今の言葉、ロイドが聞いたらどんな反応するかなー」等と呟きながら、ロックはリリスの下半身に視線をやって。
「・・・へ?」
興奮していた気分が一気に覚めた。
彼女の下半身も上半身と同じように、何も身に着けてなかった―――が、美しく目を引くような白い二本の足が在るわけではなく。「蛇・・・?」
「彼女も魔物という事か―――アンデッドでは無いようだけど」と、セシルが言うと、彼女は「うん」と頷いて。
「この山にどれくらいの過去かは忘れてしまったが、あたいはこの山に昔から住み着いている半人半蛇の精獣、名を “リリス” と言う。お前達がパロムとポロムにとっての良き人間であるなら、あたいも良き者として在る事にしよう。うん」
そう言って、彼女は表情を変えずに、蛇身をずりずりと引きずってセシル達の前へと来ると、「うん、よろしく、うん」と手を差し伸べる。差し伸べた瞬間、胸を覆っていた緑の髪がずれて、バーン! と感嘆符付きで表現されるような2つの丸い物体がセシル達の前にあらわになる。
「ひあっ?」
握手しようと手を差し出しかけて、リリスの裸身をモロに直視してしまったセシルは、妙な声を上げ―――そのまま後ろ向きに地面に倒れた。倒れる寸前、クラウドの革靴がセシルの後頭部と地面の間に素早く滑り込み、セシルは地面に頭を激突する事だけは免れた、が。
「おい、何をやっとるんじゃセシル。・・・っと、こりゃいかん。完全に上せとる」
「うわ、この兄ちゃん、すんげえ顔が真っ赤だぞ」テラがセシルの様子を見、パロムが嬉しそうにはしゃぎ出す。
パロムの言うとおり、セシルの顔は真っ赤で、まるで長湯をして湯あたりでもしたかのようだった。
セシル自身は完全に気を失っているらしく、パロムが頬を叩いてもなんの反応も示さない。ロックはごくり、とリリスの裸身を改めて見やり、
「すげえ、威力だな・・・」
などとか呟くロックとセシルをポロムが見て、心底呆れたように嘆息しつつ一言。
「・・・・・・不潔、ですわ」