第11章「新たな力」
E.「苦い後悔」
main character:セシル=ハーヴィ
location:ミシディアの村
ロックに連れられて案内された部屋には二人の老人が居た。
その内の一人は、セシルにも見覚えのある老人だ。「・・・あなたは・・・」
かつてバロン飛空挺団 “赤い翼” の長として、ミシディアのクリスタルを奪いに来た時に、クリスタルの前に立ちはだかった老人だった。
他の魔道士は彼のことを長老と呼んでいたことを思い出す。長老の顔を見て、セシルは改めて確信した。
「・・・ここは、やはりミシディアなのか・・・?」
「そうじゃ。ようこそ忌むべき訪問者―――クリスタルを奪い去り、今度は何をしにこの地へ足を踏み入れた?」慇懃な口調で長老がこちらの目的を問いただしてくる。
が、問われてもセシルはどうして自分がここにいるのか解らない。(考えられるのは、リヴァイアサンに遭遇した後、奇跡的に生き延びてここに辿り着いた―――そんなところか・・・)
―――少し違う。
「えっ!?」
心で思っていたことに、否定する声が頭の中に響いてセシルはぎょっとする。
だが、すぐに自分が持っている暗黒剣が言ったのだと理解する。「・・・デスブリンガー? もしかして君が・・・」
思わず口に出して、手に提げていた暗黒剣を軽く持ち上げる。
と、鷹揚な口調で剣は答えた。―――うむ。奇跡などではなく妾の努力の賜じゃ。死ぬほど感謝するが良いぞ。
「いや、死にたくはないけど・・・」
「ちッ!」不意に鋭い舌打ちが響く。
見れば、ミシディアの長老が厳しい表情でこちらを凝視していた―――と思うと、口早に何かを唱え出す。「 “輝く雷光よ! 悪なる者に裁きを与えん―――” 」
「おい!? 室内で魔法を・・・」驚いた顔で長老の隣にいた老人が制止の声を上げる―――が、その声は届かずに、長老の魔法が完成する!
「サンダラ!」
「―――闇よ!」長老がセシルに向かって掌を向けて魔法を放つと同時にセシルは手にしていたデスブリンガーを目の前に掲げていた。
剣を “闇” が覆い、雷撃の魔法は丁度その闇に当たって―――そのまま何事もなかったかのように霧散する。それを、長老は苦々しく睨付けて、「テラ! 暗黒騎士に暗黒剣を持たせるとは・・・どうかしとるぞ!」
「室内で、しかも人間に向かっていきなり中級の攻撃魔法を放つ方がどうかしとる」
「何を言う! この男は我らミシディアの憎むべき敵じゃ!」
「かといって、無抵抗の人間に―――」
「なにが無抵抗か! 今、死にたくはないと言いながら剣を振り上げたじゃろうが! つまり、我らを殺してこの村を脱出すると受け取った!」酷い誤解だ、とセシルは思ったが、被害者にしてみれば加害者の行動に敏感になっても不思議は無いかも知れない。
迂闊というなら、暗黒剣を持って現れた自分自身こそ迂闊なのだろう。―――勿論、セシルがロックに案内されてきたのは戦う為ではない。
リヴァイアサンに襲われてから初めて目を覚まし、いきなりかつて自分が襲ったミシディアで目覚めた時に現れた青年、ロック=コール(話はしたことはなかったが、セシルは彼の名前と顔を知ってはいた)に聞いたところ、彼もまたデビルロードを通ってこの村にたどり着き、ついさっき目覚めたばかりだという。ロックは何日間も昏倒していたらしく、ロックがデビルロードに入った頃は、セシルたちがまだホブス山を越えてファブールを目指していた頃だった。
シドとロイドが投獄され、飛空挺をロックが爆破してくれたお陰で、バロンのファブール侵攻が遅れたという情報はセシルの知らないものだったが、それでもすでに過去の情報で、現時点ではどうでも良いことだった。ただ、ロックがバロンの人間だったということで、どうやら村の人間に快く思われていないらしいということが問題だった。
本当なら、ここがミシディアだと解った時点でセシルは逃げるべきだった。
自分がこの村に対して何をしたかを、苦い悔恨の味とともにはっきりと記憶している以上に、この村の人間もまた恨みや憎しみとともに覚えているだろう。
こうしてベッドに普通に寝かされていたことすら奇跡なのだ。本来なら、簀巻きにされていても―――殺されていてもおかしくはない。しかし、ここで逃げれば自分を助けてくれたロックに対して迷惑がかかるだろうと思った。
同じバロンの人間として、ヘタをすれば殺されてしまうかも知れない。戦場で必要とあれば親友であっても迷わずに切り捨てる覚悟はある。だが、戦場以外の場所では、言葉も交わしたことのない他人であっても見捨てることはできない。ましてや自分を助けてくれた恩人なら当然だ。
だから、せめてセシルはミシディアの人間に自分とロックは無関係だと説明しなければならなかった。それに、もしかしたら向こうも解ってくれるかも知れない。
ミシディアを襲撃したのは自分の意志ではなくバロンに命令されたからであり、今はバロンを打倒する為に戦っているのだと。(・・・なんてのは、まあ、甘い考えだとは思っていたけどさ)
思いながら、セシルは後退。
魔法の第ニ射を放とうとする長老を油断なく見据えながら、自分が入ってきたドアまで後退すると素早くドアを開き。「逃げるよ」
「へ?」きょとんとするロックの腕を掴み、セシルはその言葉通りに部屋の外へ逃げた。
「くそっ!」
自分の魔法が完成するよりも早くにドアを閉められ、長老は魔法を中断させると悔しそうに唸った。
それから、老人とは思えないほどの大きな怒声を上げた。「誰か! バロンの暗黒騎士が逃げた! もう一人バロンの人間も一緒にだ! 二人とも殺してしまえッ!」
「おい。物騒だぞ」
「なにが物騒かッ! テラ、貴様には解らん! あの時、ミシディアに居なかった貴様にはな!」今の悔しさではなく、 “あの時” の悔しさに、長老は眼を血走らせて唇を振るわせて怒鳴る。
「あの時、ワシらがもう少し時間を稼げて居れば・・・! 子供たちさえ人質に取られなければ、むざむざクリスタルを奪われなかった物を・・・」
******
火炎が迫り、雷撃が降り注ぎ、氷塊が眼前を塞ぐ。
攻撃魔法が乱舞する中を、ロックとセシルは必死で逃げ回っていた。「うっわー!? なんか目ぇ覚める前と変わらない展開。つーか、今の方が人数多くてヤバめーっ!?」
長老の館を飛び出したところに飛んできた炎の塊を、素早いステップで回避しつつロックが叫ぶ。
「つーか、なんでオレまで逃げなきゃいけないんだよ!? 無関係だろ!?」
「無関係だよ。でも無関係ってことを説明する前に攻撃されちゃったし―――まー、無関係だって言って納得してくれる確率も低かったけど」
「責任取れぇぇぇっ! オレはまだこんなところで死にたくねえっ!」
「同感。死にたくても死ぬわけにはいかないしね」ふと、こちらに向かって攻撃魔法を仕掛けてくる魔道士の群れを見やり。
「―――それに、殺したいほど僕を憎いと言うのなら、なおさら僕は殺されるわけにはいかない」
「・・・は?」セシルの呟きの意味がわからずに、ロックが困惑する―――が、その言葉の意味を問いただすよりも考える余裕もなく、魔法が次々と迫ってくる。
「剣に秘めたる闇なる力!」
セシルがデスブリンガーを振りかぶり、迫撃する魔法に向かって振り下ろす!
「魔を喰らえ・・・!」
デスブリンガー
振り下ろすと同時、剣の軌跡にいくつものの闇の塊が生まれ、それは飛んできた魔法を吸収すると、一瞬だけ膨張してから陽光の下に消える。
「すげー・・・」
無数の魔法を、剣の一振りで防いだセシルを、ロックがぽかんとして見つめる。
魔法を放った魔道士たちも、自分たちの魔法をあっさりと無効化されたことに動揺していた。追撃の手を休め、畏怖の眼差しでセシルを見る。
そんな中で、ただ一人だけセシルだけがなんでもないかのように、ロックの腕を引いて、さっきと同じ言葉を繰り返す。「逃げるよ」
「って、どこへ!?」
「とりあえず村の外に」
「行かせるかぁっ!」流石に魔道士たちも我に返り、再び魔法を唱えようとする―――よりも早く。
「デスブリンガー」
―――応。
セシルの言葉に、セシルにしか聞こえない声で暗黒剣が応える。
デスブリンガーの刀身が怪しく輝き、それを目にした魔道士たちの心に、例えようのない “恐怖” が忍び込む。「・・・・っ!」
無意味な恐怖に魔道士たちは為す術もなく、唱えかけていた魔法を中断する。
「くっ・・・ダークフォースになど屈するか・・・!」
殆どの魔道士が恐怖に立ちすくむ中、何人かは恐怖を感じながらも気丈にも中断した魔法を再開しようとする。
だが、魔法に必要な魔力が上手く集まらない。魔道士たちが扱う “魔法” の大本は、“魔力” と呼ばれる見えざる力である。
魔力は自然法則からは外れたところにある法則である “魔法” の中でしか意味を為さない力であり、人間は “精神力” で魔力に干渉し、魔法の “知識“ で、魔力を魔法として発現させる。よく誤解されがちだが、 “魔力” というものは人間の中にはない。
繰り返すが、魔力とは見えざる力。世界の何処にでも存在するが、しかし普通の人間には見ることも感じることも出来ない無意味な力だ。その見えざる力を、意志の力で掻き集め、力となすのが魔道士の使う魔法である。ぶっちゃけた話。
精神を集中させることが出来なければ、魔力を集めることも出来ないし、必要以上の魔力が集まらなければ魔法として完成しない。
強大な魔力を持つ魔道士、というのは、つまり強大な魔力を集めることができ、なおかつそれを許容できるキャパシティがある魔道士のことを指す。
魔法に疎いセシルではあるが、その辺りの話はローザから聞いて知っていた。魔法発動を失敗し、魔道士たちがまごまごしている隙にセシルとロックは再び走り出す。
魔道士たちはそれを追いかけるか、それとももう一度魔法を唱え直すか逡巡―――セリス=シェールのように、武器戦闘と魔法を駆使して戦う魔法戦士ならばともかく、普通の魔道士は走りながら魔法を唱えるなどという器用なことは出来ないようだった。「くそっ!」
追いかけようにも、フォールス最強の暗黒騎士相手に、魔道士が肉弾でぶつかってもどうしようもない。
かといって、魔法はデスブリンガーの “恐怖” により発動できず、発動したとしてもセシルのダークフォースに阻まれる。
結局、魔道士たちはセシルを見送ることしか出来ず―――「待てッ!」
魔道士立ちを尻目に、村の外へ逃げ出そうとしていたセシルたちを、幼い声が呼び止める。
同時、ボムッ、と何かが小爆発する音が響き、セシルたちの前に子供に合わせた大きさのロッドを手にした少年が現れた。「ポロム!」
ロックが叫ぶ、と少年は不機嫌そうな顔をして。
「違うよ、オイラはパロム! 超ウルトラ天才魔道士様だってコラ待てーッ!?」
口上を述べるパロムを無視し、セシルとロックは少年の隣を走り抜ける。パロムが怒声を上げるが、子供に構ってる暇はないとばかりにセシルは振り返らずにそのまま村の外へ―――
「ポロム! さっさとしろよ!」
「解ってるわよッ! ―――『テレポ』!」少年の声に応えるように、これまた幼い少女の声がセシルの耳に届いた―――次の瞬間。
「!?」
「なんだ?」走っていたセシルとロックは、軽い目眩のようなものを感じて―――
「・・・これは・・・?」
ふと気がつくと、目の前にさっき通り過ぎたはずのパロムの姿があった。
どういうことかと、思わず足を止めて状況を把握しようとする。「魔法で先回りされた・・・?」
「違う。僕らが戻されたんだ!」ロックの呟きを、周囲を見回しながらセシルが訂正する。
よく見れば、目前だった村の出口はさっきよりも遠くなっている。「そのとおりっ! ま、オイラほどじゃないけどポロムもそこそこの天才魔道士だからな。テレポくらいは朝飯前さ!」
「・・・テレポ?」
「空間跳躍―――空間転移―――呼び方は色々ありますが、黒魔法のデジョンと並ぶ時空系魔法です」少女の声は背後から。
セシルとロックが振り返ると、パロムに良く似た少女が、これまた少女の背丈に合わせた子供用の杖を手にして立っていた。そして、その隣には金髪の青年。「クラウド・・・」
とロックは呟いた。
その表情は唖然。クラウドが追いかけてきたことに驚いたわけではなく、彼が持っている剣を見たからだった。クラウドは手に巨大な剣を持っていた。
巨大、というのも生ぬるい。ざっと見積もっただけでもクラウドの背丈よりもある長い幅広の剣だ。流石に体積はクラウドの方が多いだろうが、材質によってはその重量は持ち手よりも重いだろう。「・・・その剣・・・もしかしてソルジャーか?」
セシルが訝しげに目を細めて言う。
「ソルジャー? 神羅の?」
「ああ。あれほどの巨大な剣をあの身体で使うのはシクズスの魔導戦士でも難しいだろう。セブンスのソルジャーでしか有り得ない」
「そう言えばソルジャーの瞳の色って、確か蒼色で・・・」セシルの言葉に、ロックはまじまじとクラウドを見つめた。
確かにクラウドの瞳は蒼かった。それも、フォールスなどでも普通に見かける碧眼とは少々異なる色。「お前、ソルジャーだったのか!?」
「ああ」あっさりと頷くクラウドに、ロックは冷や汗が流れるのを感じた。
(うっわ〜・・・じゃあ、俺の直感って大的中? 目ぇ覚めた時、冗談でも『敵だ』とか答えてたらマジで死んでたな。俺)
少なくとも、ロックが噂に聞く『ソルジャー』にはそれだけの脅威があった。
神羅が誇る、人間離れした身体能力を持つ強化人間。エイトスの『Seed』と並び、『商品』としての戦闘力は、そこら辺の傭兵なんかとは比べものにならない。単体での戦闘能力は、フォールスの暗黒騎士、シクズスの魔道戦士よりも一歩秀でているとも言われている。(言われているだけで、実際にソルジャーが暗黒騎士や魔道戦士と戦った記録はないけれど)
少なくともセシルは聞いたことがなかった。
なぜなら暗黒騎士を擁するバロンも、魔道戦士を擁するガストラも、共に軍事国家として戦争を繰り返した歴史を持ちながら、しかしそれぞれの地方から出て戦をしたことがない。つまり、戦争を繰り返しながらも一度も身近な敵国―――バロンならばエブラーナ、ガストラならばドマなどを打ち破ることができず、外の世界へ進出することが未だに果たせずにいるということだった。
そしてセブンスの神羅も、ソルジャーはセブンス内の魔物退治に使われるのみで、海外の戦闘に派遣されたことはない。
大海を航海できる大型船が造られるようになり、飛空挺が空を飛び回るようになって未だ十数年。
地方間の交流はあっても、まだ戦争が出来るほど世界は近くなってはいないのだ。「えーと・・・ど、どうしよう」
冷や汗垂らしながら半笑いの表情でロックがセシルを伺う。
「逃がしてくれると嬉しいんだけどなー」
セシルも困ったように半笑いになりながらクラウド―――ではなく、その隣のポロムを見る。
ソルジャーの能力というのも如何ほどか解らないが、こちらにはデスブリンガーもある。ソルジャーが魔晄の力で強化された存在なら、暗黒騎士は暗黒の武具で戦闘力を強化する戦士だ。クラウドの実力にも寄るが、こちらが手にするのは最強の暗黒剣だ。ある程度の実力差ならば相殺できる。(問題はあの少女だ・・・)
セシルにとって、クラウドよりもポロムの魔法の方が厄介だった。
例えクラウドをなんとか退けて逃げても、また魔法で戻されては意味がない。(デスブリンガーの力で “恐怖” を与えるのもなー・・・まだ精神が未成熟な子供にダークフォースの影響を与えれば、ヘタすればトラウマになるかも・・・)
―――お前、妙なところで甘いのぅ。
セシルの思考を読んだのか、デスブリンガーがつっこみを入れてくる。
そうかな? と思いながら、さてどうするかを考える。とりあえず、手っ取り早い手段をとってみた。
「お願いだから逃がしてくれ」
頼んでみる。
クラウドは即答せずに、ちらりと隣のポロムを見やる。と、その視線に気づいたのか気づいていないのか、とにかくポロムは思いっきり首を真横に振った。
「そんなこと許せる訳ないでしょう!」
「まあそうかも知れないけど―――でも僕は許してくれと言っているんじゃない。君たちを殺さない代わりに逃がしてくれと言っているだけなんだ」
「―――!」セシルの言葉の意味を正確に理解して、ポロムの顔に緊張が走る。
対してセシルはなるべく表情から感情を消して、冷たい視線を装ってポロムを見つめる。(―――これで怖がって見逃してくれれば良いけど・・・)
思いながら心の中だけで苦笑。
これではデスブリンガーで恐怖を与えるのと大して変わらないじゃないかと。「―――やっぱり・・・殺すのね・・・」
「え・・・?」緊張した表情のまま、ポロムが呆然と呟く。
少女の顔は蒼白で、しかしその瞳は大きく見開かれてセシルを凝視する。「父様を殺したように、私も、パロムも、村の皆も全部、ぜんぶ殺すつもりなのでしょう・・・」
「!」
「ぜんぶ、ぜんぶ・・・私が見てる大切なもの・・・全部殺して、壊して、燃やして・・・! 私から全部奪い去って!」最後の方は絶叫だった。
少女の絶叫を聞いてセシルはようやく理解する。ちらりと背後を振り返り、パロムの顔を確認して舌打ちする。(そうか! この子はあの時の子供たちか・・・!)
気づかなかった・・・忘れていた―――否、忘れようと努めていた。
仕方ないのだと自分に言い訳して、魔道士を殺したことを。
それも、子供の前で父親を殺してしまったことを!(来ちゃ行けなかった・・・僕はこんな所に来ちゃ行けなかった!)
今更ながらに後悔する。
なりゆきだったとはいえ、自分が再びここに居ることに後悔する。「いやあぁっ! もういやああああっ! 死なないで・・・死んじゃ嫌、イヤなの父様ああああああっ!」
「ポロム!」セシルが赤い翼の隊長として村に強襲を仕掛けた時のことを思い出してしまったのだろうか、ポロムはいきなり錯乱状態に陥り、そのまま絶叫する。そんな双子の片割れの様子に、セシルたちの背後にいたパロムがポロムに駆け寄った。
「ポロム! 大丈夫だってもう誰も死んだりしねーって」
「ウソよ・・・! 死なないって・・・そう言って父様は死んじゃった・・・!」
「大丈夫だっつってんだろ!」半ば怒るように叫び、パロムはポロムを抱きしめる。
そのまま首だけセシルの方を振り向き、「なにぼーっとしてるんだよ?」
「・・・え?」
「いいからさっさといっちまえ! そして二度とこの村に来るなよっ!」
「・・・ああ」パロムに促されるようにしてセシルは頷く。
そしてそのまま村の出口に向かおうとして―――「駄目よッ! 逃がしちゃ駄目! そいつらは絶対また殺すわ! だから先に殺しておかないと!」
いきなりポロムがパロムを突き飛ばして絶叫する。
同時にクラウドが大剣を持って疾走開始。「ちぃっ!」
後ろへ向き直り掛けていたセシルは半身をクラウドに向けた状態のまま、デスブリンガーをクラウドに向ける。
「やるしかないかッ・・・?」
「そういうことだ!」セシルの言葉にクラウドが応えると同時、剣の射程距離に到達したクラウドが、まるで巨剣など手にしていないかのような軽快なステップで跳び上がる。
「喰らえ・・・!」
ブレイバー
跳躍と同時に剣を振り上げ、降下と同時に剣を振り下ろすだけの単純な技だが、ソルジャーの膂力と巨剣の一撃が合わさることによって耐え難い強烈な破壊の一撃と化す!
「デスブリンガー!」
セシルは叫びながら、デスブリンガーの切っ先からダークフォースを解き放つ。
しかしそれはクラウドにではなく、前方の地面に向けてだ。ダークフォースの反動に合わせ、セシルは後方に向かって跳躍。
セシルが回避運動を行った一瞬後に、クラウドの剣が振り下ろされた。ずがあぁっ!
間一髪でセシルは回避成功し、巨剣はセシルの身体を砕かずに、地面をたたき割った。
その威力は地面にヒビを走らせ、周囲に土砂を巻き上げる勢いだ。「ぐわっ!?」
その土砂の直撃を喰らい、ロックが転倒する。
だが、そちらに視線をやる余裕もなく、セシルはクラウドに意識を向ける。「・・・避けたか」
「なんとかね―――噂には聞いていたけど、恐ろしいもんだね。ソルジャーっていうのは」
「俺は1STのソルジャーだからな。この程度はなんでもない」
「へえ、1ST。確かソルジャーの最高ランクだったっけ・・・? なるほど、つまりソルジャーっていうのは―――・・・」にやり、とセシルは笑って見せた。
「―――その程度のものなんだね」