第11章「新たな力」
B .「ミシディア」
main character:ロック=コール
location:ミシディアの村
伸ばした手。
届かなかった手。
掴めなかった手。
落ちていくことを引き留めることも出来ず、ただ彼は絶叫することしかできなかった―――
******
「―――ッ!」
跳ね起きる。
彼は夢の中の自分のように絶叫する事はなく、ただじっと押し黙り今見ていた悪夢を反芻する。
が、確かに見ていた悪夢は、しかし具体的に思い出すことは出来なかった。けれど、彼は夢を思い出さなくとも知っていた。
何故なら今見ていた悪夢は、現実で起こった事実なのだから。「・・・レイチェル・・・」
その名を呟いて吐息する。
指折り数えてみれば、もう五年も昔の話になる。
かつての自分の恋人を “失った” 時の悪夢だ。トレジャーハンターとして、とある洞窟に彼女を連れて入った時のこと。
その時の自分は、若いとはいえいくつかのクエストを成功させて、少しばかり名の上がってきた頃だった。その頃の自分には怖いものなど何もなく、どんな罠が待ち受ける古代の迷宮でも、どんなに奥深い人知の及ばぬ神秘の洞窟だろうと、なんだってクリアーできると思っていた――――――まだまだ自分が青臭いことにすら気がつかない、ただの若造だった。彼女をお宝の眠る洞窟へと連れて行ったのは、彼女が行きたいと言い出したからだった。
自分がどんな所でどんな冒険を繰り広げているのか―――それを知りたいからと、せがまれて、最初は危険だからと断っていたが、けれど愛しい彼女の願いを無下には出来ず、また自分の格好良いところを見せたいという馬鹿げた想いもあった。そして少しばかり調子づいていたい自分は、危険なことがあっても自分が守ってやればよい―――そんな風に考え、彼女を連れてちょっとした洞窟へと入っていった。
そこは人の手など殆ど入っていない天然の洞窟であり、だから当然どこぞの王様だとか大盗賊だとかが財宝を隠した、とかそう言う事も何にもなく、本当に単なる洞窟だった。ただ、その洞窟には暗闇の中で光を発する珍しい虫が居て、洞窟の闇の中にその虫が光りながら飛び回る光景は中々に美しく、そんな光景を見せてやりたかった。
さらに、その洞窟の一番奥には彼が事前に置いていた彼女へのプレゼント―――小さなオルゴールを隠してあり、幻想的な光景を見せた後にプレゼントを渡してそれから―――「・・・・・・ッ」
その先を思い返す気にはなれなかった。
結局、彼女には見せたかった光景も、プレゼントも渡すことが出来ずに、洞窟の中に掛かっていた古ぼけた吊り橋を渡ろうとした時に、その吊り橋が壊れ、地底の奥底へと落ちていってしまったのだから。「初めてだな―――こんなの」
彼女を失って、それからその時の悪夢を夢に見続けたと言えば、実はそうでもなかった。
彼―――ロック=コールにとって夢とは、眠って見るものではなく、起きて見る物だ。・・・と、考えているからというわけだからかどうなのか、彼は寝て夢を見ることがほとんど無い。しかし夢で悪夢に魘されることはなかったが、だからといって大切な者を失った事実を忘れられることはない。夢を起きている時に追い求めているロック=コールは、起きている間ずっと悪夢につきまとわれた。彼女を失ってからこの五年間、一日たりとももその時の瞬間を忘れることはできなかった。
例え、その彼女が吊り橋から落ちて、けれど記憶を失っただけで一命は取り留めていたとしても。
ロックにとっては、彼女を失ってしまった瞬間には違いなく、そしてもう二度と取り戻しのつかない―――悪夢、だった。
「夢、見たのはやっぱり・・・アイツの姿を―――って」
今まで少し寝ぼけていたらしい。
だんだんと頭がはっきりしてきて、眠っていた直前までの記憶が蘇る。「ええと、確か俺はバロンで―――逃げ出す駄賃に飛空挺を破壊したはいいけど、その直後にカイン=ハイウィンドに追い回されて追いつめられそうになったところで、あの、へんなツンツン頭が―――」
ぶつぶつと呟く。
わざわざ声に出して呟くのは、自分が言った言葉を自分の耳で聞く方が頭の中で整理しやすいからだった。「―――でもって、ヘンなジジイが白い建物の中に逃げこんで俺もそれについてって、そしてその中で」
それは何とも奇妙な体験だった。
上か下かも解らない。歩いているのかと待っているのかも解らない。自分がロック=コールなのかも解らない。
なにも解らなくなる、なんともあやふやな空間。そこへの道を開いた老人は、デビルロード、などと言っていたが。
「確かに、見たよな・・・レイチェル・・・」
そのデビルロードで、ロックはかつての自分の恋人の姿を見た。
記憶を失う前と同様に、こちらに向かってほほえみかけてくれる彼女に、反射的にロックはその名を呼び、手を伸ばそうとして――――――ええいっ! 世話の焼ける!
などという声と一緒に、後頭部に打撃。
多分、殴ったのはデビルロードへ導いた老人で、手にしていた杖で殴りつけてきたのだろう。
ともあれ、その一撃でロックは意識を失って―――「・・・で、ここはどこだよ」
辺りを見回す。
木造の普通の部屋だ。
ベッドがあり、机があるだけの後は何もない片づけられた部屋。
生活感がなにも無いところを見ると、宿屋かなにかなのかも知れない。思いながら老人に殴られた後頭部を撫でてみる―――が、痛みもなくこぶが出来ている様子もない。
「んー・・・」
どうしたもんかと、ベッドに腰掛けたまま悩む。
少し黙って耳を澄ませてみると、部屋の外―――というか建物の外からは人間の音が聞こえてきた。
人が歩く足音、駆ける足音、人と人が話し合う会話の音・・・ロックはベッドから降りると、部屋に一つだけあった窓に近寄って外を見る―――と、外では
「なんだ、こりゃ」
窓の外では、思った通り人がいた。
だが、その格好が普通ではなく、誰もが黒か白いローブを羽織っている。
黒いローブの人の殆どはとんがり帽子を、表情が見えないほどに目深に被り、白いローブの人はローブのフードを被っていた。「黒魔道士に・・・白魔道士・・・?」
少し自信なさげにロックが呟く。
黒魔道士、白魔道士という存在を、ロックが知ったのはフォールスに来てからだった。
彼の故郷であるシクズスには、そもそも「魔法」と言うものが存在しない。
ガストラ帝国では、「魔導」として研究されているが、一般の人間にとって魔法とは遙か昔に失われた過去の遺物でしかなかった。だから、「魔法」という名前だけはしっていても、それがどういうものか具体的には知らず、また「黒魔道士」「白魔道士」と区別されることも、バロン軍の二つの魔道士団を見て知った。
聞いた話では、ファイブル地方では白と黒の魔法からさらに分けて、「時魔道士」などという魔道士も居るらしい。
知ってはいたが、それでも白昼堂々ローブ姿の連中が陽の下をうろうろしているのは、奇妙を通り越して不気味だった。魔道士と言えば、滅多に外に出ることはなく、薄暗い研究室で魔法の研究に没頭しているという姿しか思い浮かばない。例外的にローザ=ファレルという破天荒な白魔道士が居るが、バロンにいたその他の魔道士は白と黒を問わず、いつも研究室に閉じ篭もっていて、あまり目にしたことはない。時折、食堂で姿を見かけたくらいだろうか。
「なんなんだ、ここ・・・」
魔道士以外に目を向ければ、いくつかの木造の平屋が見えた。
おそらく、ロックが居る建物も似たようなものだろう―――どうやら、ここは魔道士たちの村かなにかであるらしかった。「おい、ポロム待てよー!」
と、声が響いてそちらに目を向ければ、二人の子供が駆けてくるところだった。
他の魔道士のようなローブではなく、普通の子供服にマントをくくりつけたような服を着ている。
二人のウチ、一人がマントを風になびかせて駆け、もう一人がその後ろからのんびり早足で追いかけてくる。「もうパロム、遅いわよ! クラウドさんが待っているのに・・・」
ポロムと呼ばれた先行していた子供が、後ろの子供をパロムと呼んで急かす。
似たような名前に、よくよく見れば顔立ちもよく似ている。ポロムは女の子で、パロムは男の子、と言う程度の顔の違いだ。きっと兄妹だろう。双子かも知れない。などと、ロックが窓の外から二人の子供を眺めていると、パロムの方がこちらに気がついた。「お」と口を開けてこちらと目が合うと、口早に何かを言い―――
ぼむっ。
と、不意に煙を立てて消えてしまった。
「な、なんだ・・・?」
「おい、兄ちゃん。ようやくお目覚めかい?」
「のわっ!?」不意に後ろから聞こえてきた声に、ロックは驚いて後ろを振り返る。
と、そこには先程消えた子供がにやりと笑って居た。「な、なんだお前!?」
思わずロックが叫ぶと、パロムは「ちっちっちっ・・・」と指を振って、
「なってない。なってねえなあ、兄ちゃん。他人に名前を尋ねる時は、自分の名前から名乗るべきだぜ?」
「名前なんか聞いてねえよ。お前はなんなんだって聞いてんだ」
「あ、そー来るか。上手い切り返しだな兄ちゃん。こいつぁ、オイラも一本獲られちまったぜ」てへっ、と自分の額を叩く子供に、ロックは困惑する。
そんなロックの前で、パロムはその場で一回転。マントがなびき、ふわりと浮かび上がる。そのマントがパロムの背中に落ち着くのを待って、パロムはロックに指を突きつけた。「オイラはパロム! ミシディアの天才魔道士パロム様とはオイラのことだ!」
「魔道士・・・って、さ、今のは魔法か?」
「そ。デジョンって言う魔法さ! 修得が難しい時空系の魔法だけど、それを使いこなしている辺りオイラってば天才―――」
「パロム! 長老の許可なく、勝手に魔法を使っちゃいけないっていつも言ってるでしょう!」パロムの口上を遮って、もう一人の子供―――ポロムが、勢いよくドアを開けて部屋に飛び込んでくる。
その後ろには、見覚えのあるツンツン頭が立っていた。それを見て、パロムは「け」と吐き捨てて、
「なんだい。クラウド兄ちゃんの前だから良い子ぶっちゃってさあ! ポロムだってこの前、隠れん坊した時にサイトロ使ったじゃんかよ! あれ、ズルすぎだぞ!」
指摘されてポロムは「う」と唸るが、すぐに言い返す、
「あれはっ、パロムが先にデジョンを使って絶対にのぼれっこない屋根の上なんかに隠れるからでしょ! 先に魔法を使ったのはそっちじゃない!」
「でもお前が使ったことには変わらないだろうがよ!」
「あーん、クラウドさーん、パロムったら酷いんですよ! 鬼ごっこしても隠れん坊してもいっつも魔法つかうんだから! この前なんて、ブリザドで攻撃されたんですよー! 酷いと思いませんか? 思いますよね!」
「あああーっ! 馬鹿ポロムー! いっつも困るとクラウド兄ちゃんに泣き付いてさ!」
「ひ、ひどい・・・ひっく・・・馬鹿だなんて・・・そんなこといわなくっても良いのに・・・・・・」ひっくひっくと、ポロムが両手で顔を覆って泣き出した。
それを見て、パロムはますます不機嫌そうに口をへの字に曲げて、「またこれだよ。クラウド兄ちゃん、騙されるなよー。これっていつものうそな」
「・・・サイレス」
「・・・っ!」鳴き声混じりにポロムが何事か呟くと、パロムの言葉が止まった。
パロムは口をぱくぱくと開け閉めして、何事か言いたそうにしているが言葉は出ない。
後にはただ、ポロムの鳴き声だけが響き渡る。「私、長老様の言いつけを守るようにパロムに注意しただけなのに・・・ぐすっ・・・酷い言いがかりされて、おまけに馬鹿だなんて―――この前のテスト、パロムの方が点数悪かったくせに・・・」
パロムがむきーっと顔を真っ赤にして怒り、なにか怒鳴ろうとしているようだが、やはり声は出ない。
「解った。ポロム、パロムには俺が後で言って置くから―――パロムを連れて少し外で遊んできてくれないか?」
「はーい! ・・・ほら、パロム、クラウドさんは忙しいんですからね、邪魔にならないように外で遊ぶわよ!」
「・・・・・・」いきなり満面の笑顔で頷くと、ポロムは黙ったままのパロムの手を強引に引っ張って部屋を出て行く。
ロックはそれを見送り、金髪の青年に目を向ける。「・・・人気者だなあ」
「外の人間が珍しいだけだろう―――で、ようやくお目覚めか」覚めた視線で相手が言い、ロックは苦笑する。
「さっきの子供にも同じ事言われたな。そんなに寝てたのか、俺」
「ああ。―――で、お前は何者だ? 俺の敵か?」
「敵か味方も解らずに助けてくれたのかよ?」そう言えば、同じように追いかけられていたから成り行きで一緒に逃げ回ったが。
思い返してみれば互いの事は何も知らなかった。ロックの言葉に答えるように、クラウドは肩を竦めて、
「助けたのは俺じゃない」
「そいやそうだっけ?」というかむしろ見捨てられ駆けたような記憶すらある。
ロックを助けてくれたのは、テラ、とか名乗った老人だったか。「自己紹介がまだだったな。俺はロック、ロック=コールだ。バロンの飛空挺技師見習いをやってた」
「そうか」頷いて、しかしクラウドはそれ以上は何も言わない。
しばらくまったが、それ以上何も言う気はないらしいことに気がついてロックは声を上げる。「おいおいおい、こっちだって名乗ったんだ。そっちも名乗れよ」
「名乗る必要があるか?」
「知らない人と知り合ったらまず自己紹介。世界の常識だぞ」
「・・・クラウドだ」
「名前はさっき聞いた。あんたは何者だ? そして何でカイン=ハイウィンドに追われた?」
「答える必要はない」そっけなく言い捨てて、クラウドはさっきから変わらない覚めた瞳向けてきて、
「俺が興味があるのは、お前が敵かどうかって事だ。敵じゃないなら勝手にどうとでもすればいい」
「・・・敵なら」「殺す」即答だった。
思わず冷や汗が流れる。「・・・えっと、敵じゃありません」
「証拠は」
「証拠ぉ!? ンなもんあるかー!」
「なら殺す」
「ちょっと待てぇぇええっ!」不意にクラウドの殺気がこちらに向けられて、ロックは後ろに下がった。
クラウドは武器らしいものを持っていない―――が、無手でもこちらを殺せる力はあるように思えた。「5秒でいいか?」
「短ッ! じゃなくてっ、俺がお前の敵って証拠でもあるのかよ!」
「無いな」
「なら殺すなよ!? 死んだら人生オシマイなんだぞ!? 輪廻転生して次の人生は大金持ちで二枚目な勝ち組になるなんて夢は夢でしかないんだぞ!」
「なにを言っているか良く解らんが・・・なら、全部話せ。お前は何者だ? 何故、追われていた?」クラウドの詰問に、ロックは逡巡する。
飛空挺を爆破したことに気づかれて追われた、というのは簡単だが、何故爆破したとか言われれば―――(最悪、マジで洗いざらい喋らなきゃいけなくなるな・・・)
正直、自分が密偵であるということを言うのは避けたい。
ミストの時とは相手が違う。あの時は村人相手で、自分の正体をバラしてもあまり問題は無かったが、しかし目の前の相手の正体はよくわからない。カイン=ハイウィンドには追われていたが、セリス=シェールはロックを追っていた。つまり、バロンと敵対している人間ではあるだろうが、ガストラと敵対関係にあるかどうかは解らない。「・・・アンタが何者か言うのが先だろ。俺が何者かどうか、喋るかどうかはアンタの正体次第だ」
「そうか」すっ・・・っと、クラウドの目が細められる。
来るッ! と思い、ロックは身構えた。だが―――「なら好きにしろ」
いきなりクラウドから殺気が消える。
てっきり襲いかかってくるとばかり思っていたロックは、拍子抜けした声を漏らした。「へ?」
「味方かどうかは解らんが、敵では無さそうだ―――敵なら、自分のことを適当に誤魔化して答えるだろう?」
「・・・どうかな。敵だからなにも言えなかったのかも知れないぜ?」
「どのみち、バロンに追いかけられて居たことは確かだ。なら、今の時点では敵じゃない―――立場的にも、実力でもな」そう言い捨てて、クラウドは部屋を出て行く。
なんにしろ、ロックのことは別にどうでも良い存在だと認識したらしい。
そのことにムカつかないでもなかったが、「・・・まあ、助かったってことか」
ほっと、一息をつく。
******
「お」
外に出ると、パロムがこちらの姿を見つけて声を上げる。
パロムの他に、ポロムとクラウドも居る。パロムは自分の頭と同じくらいのボールを抱えていた。どうやらボール遊びをしていたらしい。こちらの姿を認めてクラウドが視線を向ける、先程、部屋に入ってきた時と同じ冷めた視線。正直、あんまり関わり合いになりた相手ではないが、もう一人のテラという老人の姿が見えない以上、なんにせよこの青年から色々と話を聞くしかない。
とりあえず両手を上げて敵意の無いことを示してから、クラウドに声をかける。「よう。あのさ、ちょっと聞きたいんだけど―――」
「興味ないな」
「いや、アンタに興味なくてもこっちは色々と―――なんせ、現状把握も出来て無くてさ、一体、ここは何処なんだ?」
「ここはミシディアだぜ!」答えたのはクラウドではなくパロムだった。
その答えは半ば予想していたものでもあった。ここがフォールスならば、魔道士だらけの村など、魔道国家ミシディア以外には考えられない。
だが、そのミシディアは、バロンとは海を隔てた場所にある。「デビルロード・・・ってやつで、俺たちはここまで来た。ってことでいいのか?」
「そうだ」クラウドは頷く。
それを聞いて、ロックは「そうか」としか答えられなかった。(まあ、移動手段がどうであれここに居るってことで―――別にもうバロンに戻る気はないし、どうでもいいっちゃどうでも良いんだけど・・・)
「ああ、それで俺ってどれくらい寝てたんだ?」
「そうだな・・・」クラウドが面倒そうに思い返そうとしたその時―――
「なんだ、あれは・・・!」
村の魔道士たちがざわつき、囁き逢う声が聞こえた。
「なに、あれ・・・!」
ポロムも驚いてある方向をみる。
ロックもつられてそちらを見れば―――「なんだ、ありゃ・・・?」
光の柱だ。
天まで届く光の柱が、遙か彼方に突き立っていた。
昼間だというのに、その柱は太陽光に負けることなく、逆に昼間の明るさを切り裂くように強く、強く、そびえ立つ。
現在位置が把握できていないロックは、そちらに何があるのか解らなかったが―――「バロンの方角・・・なにがあった・・・!?」
クラウドがそう呟くのが聞こえた。
「凄い魔力を感じる・・・それも、今までに感じたことのない ”質” の魔力・・・」
こくり、と喉を鳴らしてパロムが呟く。
その場の誰もが知り得ないことだったが、それはリディアがリヴァイアサンを還す為に開いた幻界への扉だった。
パロムが感じているのは、そこから流れ込んでくる幻界の魔力。だが、現界と幻界の繋がりはパロムが生まれるずっと前に断たれてしまっている、彼女が幻界の魔力を知らないのも当然だった。「・・・」
無言でクラウドが、柱に背を向けて駆けだした。
「クラウドの兄ちゃん、何処に行くんだ?」
「テラに話を聞いてくる! お前たちはそこでじっとしていろ!」そう言い残してクラウドは走り去る。
追いかけようとしたポロムは、クラウドの置き台詞につんのめるようにして断念。と。
「消えた・・・」
程なくして、光の柱は消えてしまった。
「な、なんだったんだ・・・ありゃ」
ロックが呆然と呟く。
その脇をすり抜けて、パロムが柱の在った方角へ向かって走り出した。「お、おい、何処に行くんだ?」
「ちょっと海岸まで。少しでも近くに行けばなんかあるかもしれないだろ?」近くに海岸があるらしい。
子供らしい浅はかな考えだとロックは思った。
なんにせよ今の光の柱は、ロックの遠近感が確かならば、子供の足でちょっと行けるような距離に立っていたわけではない。「パロム! クラウドさんはじっとしていろって・・・!」
「えー! オイラ、なにも聞こえなーい!」
「パロム!」耳を塞いで逃げ出すパロムを、ポロムが追いかける。
「おーい!」
と、ロックが声をかけるが、二人の耳には届かない。
なんとなく周囲を見回せば、他の魔道士たちはただ呆然と光の柱のあった方角を見たまま動かないで居る。二人の子供が村を出て行ったことにすら気づいていないようだった。魔道士ではないロックには解らなかったが、どうやら今の光の柱は魔道士たちにとってとてつもないものだったらしい。
「・・・しょうがねえなあ・・・」
立ちすくんだままの魔道士立ちから視線を反らし、子供たちが駆けだしていった方向―――光の柱が立っていた方向へ目を向けると、ロックは二人の子供を追いかけて駆けだした―――