第8章「ファブール城攻防戦」
S.「“神父”」
main
character:セシル=ハービィ
location:ファブール城
夜が明けた。
その日もまた静かだった。
森の奥からバロン軍が現れる気配は見せず、時は一刻一刻と過ぎていく。昼頃、セシルは城門の上に立って森の方を眺めていた。
「静かだな・・・」
「ああ。けどまー、静かなのは良いことだ。なにせゆっくり休めるからな」セシルについて外に出たバッツが背伸びしながら言う。
天へと両手を伸ばした状態のまま、顔だけをこちらに向けて。「そうだろ、セシル?」
「・・・気づいているのか・・・」
「なんとなくな―――身体、まだ本調子じゃない・・・いや、かなりキツいんだろ?」
「まあね」セシルは誤魔化すこともせずにあっさりと言った。
その表情には苦笑めいた微笑が浮かんでいる。(なんとなく、か)
バッツがセシルの状態に気が付いたのは、倫理的な理由からではないだろう。
ただ、なんとなく。
しかし、なんとなく、という理由はバッツにとってなによりも相応しい理由に感じられた。
少なくとも、複雑な理論を振りかざして理由を付けるのは、バッツ=クラウザーというキャラクターではない。「正直、かなりキツいな・・・先日のようにフルパワーでダークフォースを使うことは出来そうもない―――ちょっと計算以上に無理をさせすぎた、僕の身体も・・・シャドーブレイドも」
セシルは黒い暗黒の鎧姿だった。
兜は頭に付けずに、腕と腰で挟むようにして持っている。
と、兜を持っていない方の手で、腰の鞘に収まっている剣を抜いた。―――ヒビが入っていた。
「良い剣なんだけど・・・これはもう、使えないな」
「だからもう一本、剣をさしてるのか」バッツの視線の先。セシルの腰にはシャドーブレイドの黒い鞘の他に、それとは対照的な白銀色の鞘に収まった剣がある。
「ヤンが、暗黒の武具がしまってあった倉庫で見つけ出してくれた剣だ。業物、というわけではないけど」
「武器ってのは選ぶもんじゃない。武器の使い方を選ぶもんだ―――どんな武器だって、使い様はある。親父の口癖だ」
「剣聖ドルガン=クラウザーか・・・そんなに、強かったのか?」
「強かった」過去形でセシルが尋ねると、過去形でバッツは応えてから。
いや、と首を横に振った。「・・・どうなんだろうな。実際にどれだけ強かったのか・・・俺はまだ小さかったから良くわかんねぇ。それでも、親父が負けたところなんて一度も見たこと無かった。たったの一度も―――最後まで」
何かを思い出したのだろう。
バッツの手が、強く強く握られて震える。「親父が言うにはただ一度、バロン王オーディンにだけには負けたって言うらしいけどな」
しかし、ダムシアンへの道中で、同行したテラに聞いたところによると “引き分け” だったとも。
負けたのか引き分けだったのか、事実はまだわからないが、どちらかと言うなら “引き分け” であるとバッツは思っている。「親父が絶対無敗の男って信じてるわけじゃないけどさ。親父の負ける所なんて想像も付かないな」
それだけ、バッツの中でドルガン=クラウザーの存在は大きいと言うところだろう。
それを見て、セシルは果たして、と自分を省みる。
自分に親と呼べる人間は居ない。育ての親である神父はすでに彼自身が信じる神の御許へと召されているし、本当の両親は何処の誰なのか生きているのかどうかすら解らない。
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―――彼を育ててくれた神父というのは、一般には知られていないマイナーな宗教の一派であり、フォールスの一般的な宗教―――三柱の運命神の信者からしてみれば、邪教と呼ばれるものだ。かといって、別に五本の腕と三本の角を生やした半人半獣の邪神像を崇め奉り、なおかつ人の子供を生け贄に捧げるようなことはしなかったが。
実はセシルは自分を育ててくれた神父の名前を知らない。
セシルが物心ついて、神父が天に召されるまで、彼は自ら自分の名前を口に出すことは無かったし、年に数度ほど尋ねてくる彼の知人は彼のことを “神父” と呼んだ。幼かった頃は、それが彼の名前だと思ったのだが、成長して物事を知る内に “神父” というのは人の名前ではないと知った。
そのことを知って、セシルは彼に彼の名前を尋ねたが、彼は首を横に振って。「私には名前などないのだよ。名前はすでに彼の者へ捧げてしまった・・・」
“彼の者” とは、彼が自分の奉ずる神を呼ぶときに使う単語だった。
彼は自分の信じる者を神とは呼ばない。思えば、神父と名乗っているくせに、彼は「おお、神よ!」と自分の信仰対象に嘆いて見せたり、或いは祈りを捧げることはなかった。だから、ひょっとすると彼は神父ではなかったのかもしれない。 “神父” と名乗り、神父のような服装を常に着好んでいたが、もしかすると、それは彼なりのジョークだったのかもしれないと、セシルは今になって思う。赤ん坊だったセシルを拾ったのはバロン王オーディンだった。
それが何故、神父へ預けたのかセシルは知らない。王と神父の繋がりも解らない。彼が生きている間に、ごく僅かだが路地裏にある朽ち果てた彼の教会へ、何人か知人が尋ねてきたことがあったが、少なくともセシルの知る限りではその中に王の姿はなかった。
ただ、神父から自分を拾ってくれたのはバロン王だと言うことだけ教わった。それから、自分になにか在ったときはバロン王を頼れ、とも。神父は年老いていた。
実際の年齢は解らない。ただ、バロン王とは親と子供くらいの年齢の開きはあるとセシルは思っている。下手をすればもっとかも知れない。水の中に石灰を混ぜたような、血の気の無い濁った白い肌はしわくちゃで、いつ死んでもおかしくないような顔をしていた。それはセシルの一番古い記憶から、彼が死んだときの記憶を比べてみても全く変わらず、しかしその二つの記憶には五年以上の時間の経過があったはずだった。彼は死にそうな顔をしながら、結局、何年も生き延びた―――不死ではないかと思ったときもあった。何度も何度も咳をして倒れても、医者を呼ぼうとせず、また呼ぶことも許さずにベッドに寝込んでいた。けれど、朝になると、いつもいつもの死にそうな白濁した色の表情で寝室から出てきて、セシルに「おはよう」と言った。「おはよう」と朝の挨拶をするのは、彼にとって何かしら重大な儀式であったのかも知れない。少なくとも、セシルは「おはよう」と言われなかった日を思い出すことが出来ない。夕方になると、突然倒れて寝込むことがあったので「おやすみなさい」と呼ばれたことは殆ど記憶にないが。そうだったから、彼が死ぬときもセシルは平静で居られた。
いつものことだ―――そう思うことが出来た。苦しそうに呻いて寝込んでいても、明日になれば「おはよう」と言ってくれる。
そう思っていた。
ただ、その時に違和感を感じたのは、彼がセシルを自分の部屋から追い出さなかったことだ。
普段は自分が倒れると、苦しんでいる姿を見せたくないのか、彼はセシルが彼の部屋に留まることを許さない。看病もさせない。無理にでもしようとすると、いつもベッドに立てかけてある愛用のステッキを振り回す―――実際は、振り回そうとして身体が動かずにベッドから転がり落ちるだけだが。
セシルという少年は、自分の育ての親に対して従順だった。良い意味でも悪い意味でも。
いつも寝込んでばかりで、セシルに親らしいことはなにもしなかったが、それでもセシルは自分を育ててくれた年老いた “神父“ の事が好きだった。だから、彼に嫌われたくなかったから、セシルは心配に心を痛めながらも、彼の言うとおりにした。―――その日、神父は朝、ベッドから起きなかった。
朝食に顔を出さない神父に、セシルが彼の部屋に訪れると、いつものように「おはよう」と彼は言い「食欲がない」と言って、そのまま寝てしまった。セシルは特に気にせず―――食卓に顔を出しても、彼は「食欲がない」と朝食を食べないことが多かった―――1人だけで朝食をとった。それから昼頃に2回彼の元へと訪れたが、彼はずっと眠ったままだった。
夕方、部屋に入ってみると、入る直前に酷い咳の音が聞こえた。
入ってみると、彼のベッドは赤く染まっていて―――それは彼自身が吐いた血だった―――セシルは慌てて、咳と吐血を繰り返す彼の背中をさすり、咳の発作が収まると、すぐさま赤く染まった毛布とベッドのシーツを変えて、彼を着替えさせた。これも初めてではなかった。頻繁にあることではなかったが。「セシル・・・こっちにおいで・・・」
息も絶え絶えに、苦しそうにベッドに横たわる神父が呼んだ。
セシルはいつものように部屋を出ようとしていたところで、いつもなら早く外に出なければ、彼に力のない声で叱られるところだった。だから、呼ばれたのは気のせいではないのかと思ったが、振り向くと彼は視線をこちらに向けていた。
セシルが彼の元へ行くと、彼は満足そうに微笑んで、口を開いた。
それは、セシルが彼から伝えられ、受け継いだ言葉だ。「人は、死ぬと言うことを知らなければならない―――」
ただ、それだけを呟くと、ふと彼は何かを―――セシルではない、なにかを見つめ上げた。
月だったのだと思う。
その日、空は曇っていて月は見えなかったが―――そもそも、神父の部屋には窓がなかったが―――それでも、神父はその瞬間、月を見上げていたのだろう。
この世界の夜空に浮かぶ二つの月。その二つの月の一方に、彼が “彼の者“ と呼ぶ存在が、遙か昔に地上から月まで続く塔を用いて昇っていったと言う。だから、彼は月を見たのだろう。最後の瞬間。それが、彼、神父には相応しい最後だったから。そして彼は、瞳を閉じた。
見えるはずのない月をはっきりと見た後、彼は瞳を閉じて安らかに眠った。
先ほどまで苦しそうだったのが嘘のように、静かに眠っていた。
だからセシルは安心して、彼を起こさないように注意して静かに部屋を出た。それが。
永遠の眠りだと気が付いたのは、その翌日だった―――(結局、僕はちゃんと彼の最後を看取ることは出来なかった。それどころか、僕は彼の事を何も知らない。名前も、どういう人物かも)
バロン王オーディンに聞けば、彼の正体の一端は解るかも知れなかった。
けれど、セシルはそれをしなかった。
彼は自分のことを、セシルに伝えることはなかった。ならばそれが彼の意志なのだろうとセシルは思っている。彼、神父がセシルに伝え、残してくれたのはたった一つだけだ。
たった一つの言葉だけ―――
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「―――それだけで、十分」
「ん? なにが」
「・・・あ。・・・いや、なんでもない」口に出すつもりはないが、ついでてしまったらしい。
怪訝そうな表情を見せるバッツにひらひらと片手を振って、それから森の方を見る。
森は、さっきまでと全く変わらずに静かだった。(―――なんて思った次の瞬間に、森の中からバロン兵たちが飛び出してきたりして)
冗談交じりに思う。
が、やはり森は依然として静かだ。
特に根拠はないが、今日は戦闘は無いだろうとセシルは思った。
理由はない。ただの勘―――バッツ=クラウザー流に言えば “なんとなく” だ。「バッツ、行こう。今の内に今後の方針を定めておきたい」
「おう」“なんとなく” 森の方を眺めていたバッツは、セシルに言われて頷く。
と、二人揃って城門を後にした。
「バロンは明日、総攻撃を仕掛けてくると予想される」
昨日と同じ会議室で、セシルはそう宣言した。
その言葉で、会議室に集まった者たちがざわりと騒ぎを立てる。
昨日は、セシルたちだけが集まったが、今はそれに加えてラモン王を初めとする国の重鎮たちも会議室に詰めている。そのせいか、少しだけ狭く感じられた。「その猛攻を受けきることが出来れば―――・・・」
言葉の最後を響かせて、セシルは含みを持たせる。
勿体振った言い方だが、それなりに効果はある。「―――・・・僕たちの、勝ちだ」
会議室が、先ほどよりも強いざわめきで満たされていた。
バッツとフライヤ、それからヤンも驚いたような顔をしている。
ただ、ギルバートだけが解っていたのだろう、平然としていた。二流の扇動者のような気分になりながら、セシルはざわめきが収まるのを待つ。
最初は驚きに満ちていた会議室だったが、しかし次第に落ち着きを取り戻す―――それに従って、拝聴者たちは驚きから猜疑へと表情を転じていく。それはそうだろう。絶望的な兵力差を、セシル一人でひっくり返したとはいえ、バロン軍はまだ森の向こうに大軍団を潜ませている―――上手いやり方、だとセシルは思った。人間という者は、知っているものよりも知らないもの、目に見えるものよりも目に見えないものに対して不安を抱く。森で隠してしまえば、こちらの不安は増すばかりだ。特に、初日にバロンの大軍勢を見せつけられた後では。
初日に撃退して、向こうの戦意は下がり、こちらの戦意は上昇している―――が、時間が経ってしまえば昂ぶっていた気持ちは冷め、怯えていた心も落ち着きを取り戻す。今日か明日、どちらでも総攻撃を仕掛けてくれば、それを受けきることが出来るかどうか―――・・・(正直、勝算は五割だな)
それも、なんとか五割と言ったところである。
戦力差は如何ともしがたく、それに次は初戦では姿を現さなかったゴルベーザやガストラの将軍たちも出てくるだろう。
だから、せめて気持ちの面で負けるわけにはいかなかった。だからこそ、セシルは「明日を乗り切れば勝つ」と宣言したのだ。「・・・バロンに勝つ、と? どうやってかね」
そう、質問してきたのはラモン王だった。
セシルは頷いて。「援軍が来ます」
「援軍? ダムシアンからか」
「いえ」と、セシルはそこで会議室の壁に添え付けてある大きな黒板に、白いチョークで三つの横楕円を描く。
三つの円は等間隔に、左下から右上に描かれている。その一番右の円の中にファブール、と書いて、真ん中の円にバロンと書いた。そして最後の円にはエブラーナと書く。「エブラーナ・・・?」
誰かが呟くのを聞きながら、セシルは『バロン』から『ファブール』まで矢印線を引く。
「現在、バロンは過半数以上の兵力を持ってファブールに侵攻して来ています。つまり、バロンの城の兵力は少ない」
言いながら、セシルは『エブラーナ』から『バロン』へと線を引いた。
「エブラーナは情報戦を得意とする、忍者の国です。すでにそのことは掴んでいる事でしょう。ならば、明日にはバロンへ攻め入ると思われます。兵力の少ない所を狙って」
「だが、エブラーナとバロンは停戦中だ。むざむざそれを破って侵攻するものかね」
「バロンはここに攻め込む以前に、すでにミシディア、ダムシアンを襲撃してクリスタルを奪っています。そのことを見過ごし、なおかつ絶好のチャンスに仕掛けないことはありえません」(それに、エブラーナ王なら絶対に兵を動かすはずだ)
セシルは確信していた。
バロン王オーディンと、エブラーナ王エドワードは、旧知の仲で親友同士だとも聞く。だからこそ、長年争っていたバロン、エブラーナ間の停戦が実現した。そしてエブラーナ王エドワードの人となりは聞き知っている。曰く、敵に対しては非情だが、仲間に対しては限りなく情に厚い男だと。(ならば、エブラーナ王としてもオーディン王の友人としても、この状態を見過ごすはずはない)
「エブラーナがバロンを攻めるなら、結果的にバロンはファブールから兵を引かざるを得ません」
「それが『援軍』というわけか・・・」先ほどまで猜疑心が渦巻いていた会議室は、今や安堵と喜びに満たされていた。
バロンに勝てる。その思いが、拝聴者に明るいものとなって降り注ぐ。正直、セシルにしてみればそれは勝利とは思えない。
相手が撤退するだけで、追い返す訳じゃない―――こちらの負けとは言わないが、良くて引き分けと言うところだろう。
だいたい、その “引き分け” も、明日以降を乗り切れればの話だ。しかし、セシルの剣、シャドーブレイドはもはや使いものにはならない。決して楽観できる状況ではないのだ。
会議室から出て、セシルは1人だった。
1人、割り当てられた自分の部屋―――ファブールに来る寸前に倒れたときと、初戦で倒れたときに、ずっと寝込んでいた部屋だ―――に居た。
ベッドに腰掛けて、これからの事を思う。会議の終わりには皆、明るい表情で部屋を出て行った。
ただ、ギルバートとラモン王だけが、なにか気がかりでもあるのか、ぎこちない表情を浮かべていた。(勝てると思わなければ、勝てるものも勝てなくなる)
そのことをセシルは知っていた。
だからこそ、セシルは勝機があることを皆に知らせたのだが、あの二人には逆効果だったかも知れない。
あえてセシルが勝機を伝えて鼓舞した意味をに気が付いてしまったのだろう。
明日の戦いは、苦しいものになるだろうと。(決戦はきっと明日―――)
相手が森の奥に引っ込んでいる以上、直接相手に対して小細工はし難い。
戦場となるだろう、草原への小細工は初日にやった。もう一回同じ事を仕掛けても、効果は薄いだろう。
セシルの暗黒剣は使えない。と、すれば・・・(真っ向からぶつかり合うしかない、か)
初日の戦闘でバロン軍はいくらか数を減らしている。
だが、それでもこちらよりは数が多い。戦力差は気合いと気持ちでカバーするしかない。(・・・いっそのこと、城内に引き込むか?)
バロンの兵士は殆どが剣か槍を装備している。
対して、ファブールのモンク僧は殆どが、通称 “爪” と呼ばれる鉄のかぎ爪を装備しただけの素手。
屋外ならともかく、狭い場内なら素手の方が動きやすいことは明白だ。ローザたちを含む、民間人は城の地下のシェルターに避難している。その入り口はよっぽどの事がなければ見つからないだろうし、城内で戦うのはこちらにメリットはあってもデメリットはないように思われる・(・・・いや、駄目だな)
城内の、例えば通路のような狭い場所では、集団の数よりも個々の突破力がモノを言う。
バロンの兵士に比べて、モンク僧兵の方が有利には違いない。だが、個人能力で言うなら、向こうには比類無き豪傑が存在する。
レオ=クリストフとカイン=ハイウィンド。そして、セリス=シェール。
この三人に対抗できるのは、セシルとバッツ、それからヤンくらいだろうか。だが、セシルはまだ本調子ではないし、本調子であってもレオやカインを押さえられるか疑問が残る。バッツの戦闘スタイルは、その俊敏さを活かして、相手の死角から死角へ滑り込んで攻撃を仕掛ける奇襲攻撃だ。だが、狭い場所ではその死角も制限される上に、バッツの俊敏さが活かせない。結局、まともに実力を発揮できるのはヤンくらいなものだ。集団で見ればこちらが有利だが、個の戦闘力を比べれば、こっちが圧倒的に不利だ。だいたい、城内に引き入れてしまえば、下手をするとそのまま一気に喉元まで食らいつかれる可能性もある。
選択の一つとして頭に置いては置こうと思うが、あまり有用ではないと結論を付けた。(やっぱり、野戦しかないか・・・)
まともにぶつかり合って、勝てるかどうか解らない。
セシル=ハーヴィの恐怖が、まだ消えていないならなんとかなるかもしれない。
だが、それでも勝率は五分五分と言ったところだ。(野戦では数で負け、城内戦では個々の突破力で後れを取る・・・これは、参ったな)
門を堅く閉めて籠城することも考えた。
だが、相手にはカイン=ハイウィンドと、その愛竜アベルが居る。城門攻略と同時に、カインが門を飛び越えて牽制仕掛けてきたならば、カインの相手をしている内に容易く門を破られてしまうだろう。「・・・やはり、どう考えても真っ向からぶつかり合うしかないか・・・?」
結局、結論はそこへと戻った。
だが、結局その選択は意味をなさないものとなる。
神ならぬ身のセシルには、未だわかりようはずもなかったが・・・・・・
一方、そのころ・・・・・・
「フシュルルル・・・・・お呼びですか、ゴルベーザ様・・・」
「スカルミリョーネか・・・傷はどうだ」
「フシュ、フシュルルル・・・・・・もはや朽ち果てた子の身、私には傷も痛みも意味を為しませぬ・・・」
「そうであったな―――さて、それではかねてからの予定通りに働いて貰うぞ、スカルミリョーネ」
「御意に。この身この力、ゴルベーザ様の御為に―――」