第8章「ファブール城攻防戦」
F.「二人の好敵手」
main character:セシル=ハーヴィ
location:ファブール城・物置

「どこ行ってたんだよ?」

 部屋の中に入ると、バッツが疑問をぶつけてくる。セシルは苦笑のみで何も答えない。
 ───暗い部屋の中(部屋を出る際に、外の明かりで室内を見回してみれば、大小さまざまな箱が乱雑に積み上げられた物置だった)で一息をついた後、外に出て食堂に入ってみたが、そこには誰もいなかった。厨房を覗いてみるとヤンの女房であるホーリンが、リディアやティナと一緒に洗い物をしているところだった。
「他の連中? みんな宛われた部屋にいっちまったよ?」
 洗い物の手を止めて、ホーリンが説明してくれた。食堂を出て、教わった部屋の中は広めの客室だった。質素なファブールでは、煌びやかな装飾品など置いていないが、今朝まで寝かされていた場所よりも良い部屋ではある。
 二人部屋のようで、バッツと同室らしい。

「それよりもバッツ。君はどうする?」
「どうするって?」
「もうすぐバロンとファブールの戦争になる。だが君は───」
「おっと。それ以上は言うなよセシル=ハーヴィ。ここまで首を突っ込んだんだ、今更抜けるわけにはいかねえよ。それに、一度関わったなら最後まで関わり通せ、死んだ親父の口癖だ」

 バッツの軽口に、セシルは一瞬だけ気遣うような視線を向ける、がすぐに微笑むと、バッツの手を取った。

「・・・ありがとう。当てにさせて貰う」
「うわやめろって。照れるだろ───つーか、本音は別にフォールスとかどうでも良くて、リディアを守りたいだけなんだからよ」

 照れくさそうにセシルの手を振り払うバッツ。ふと、セシルに尋ねた。

「そーいやリディアたちはどうするんだ? 戦争には」
「女性を戦に巻き込みたくはないな。・・・ガストラのセリス将軍に聞かれたら怒られそうだけど」

 苦笑。男女無差別のシクズス地方とは違い、フォールスでは未だに男性優位の意識が強い。唯一の例外は、このファブールから遙か西にある女性が治める宗教国家トロイアくらいなものだ。セシル自身も、女性をないがしろにするつもりはないが、しかし女性が剣を持って戦うのは感心しないと思う。戦うのは男の仕事だ。

「けどそんなこと言ってられるか? 絶対的に不利なんだろ? 戦力は多ければ多いほど良い」
「意外な言葉を吐くもんだ。カイポの村で僕を怒鳴りつけた君はどこに行ったんだ?」

 カイポの村で。魔物たちから逃げようとする村人に、戦えと言ったセシルをバッツは責めた。そのことを指摘されてバッツは顔を渋く歪める。

「あれは・・・いやしつこいな、お前も。結局、お前の方が正しかったってことだろ?」
「結果的にね。リディアとギルバートの二人が居てくれたからこそ、被害が最小限で済んだ。ギルバートが村人たちに力を与えて、リディアが魔物を退けてくれなかったら、何人か死人が出ていたろうさ」
「それだよ。カイポの村じゃリディアやティナ、あのローザってあんたの恋人の力すら借りたってのに、どうして今回は」
「戦争だからだよ」

 セシルは吐息。

「相手は人間だ。彼女たちに人殺しをさせたくない」
「あ・・・」

 ようやく気づいてバッツは舌打ちをする。

(また、俺は考えが及ばなかったな)

 カイポの村の時は、相手は魔物だった。
 だが今度は人間だ。魔物を殺すのとは意味合いが全く違ってくる。

「確かに、そうだよな」
「人殺しは兵士の役目だ。・・・バッツ、君も」
「言ったろ。俺はリディアを守りたいだけなんだ。あいつを守るためなら人だって・・・殺せる」
「人を殺した経験は?」
「・・・二度ほど」
「言い方が足りなかったな。君が自分の意志で、自分の剣で人を殺した経験は?」
「なんでお前はそう鋭いんだよ?」

 苦笑混じりにバッツは毒づく。
 二度、人を殺したというのは、厳密にはバッツが手をかけたわけじゃない。
 一度目は自分の父親であるドルガン=クラウザー。彼のすぐそばに居ながらも、彼の病に気づくことができず、彼を助けることができなかった。
 二度目はギルバートの恋人であるアンナという女性。彼女はバッツの目の前で、自分の恋人を救うために犠牲になった。このときもすぐそばに居たのに、バッツにはなにもできなかった。

「一度もない」
「だろうね」
「そういうこと、わかるのか?」
「なんとなく。君の攻撃には殺意が見えない。相手の息の根を止めようとする必殺の意志が見えない。それはレオ将軍の時やダンカン氏と戦ったときにも感じたし、それどころか君は魔物に対しても殺そうという意志が薄い」
「待てよ。レオ=クリストフやあのおっさんとやり合ったときは、元から殺しあいをする気なんてなかったし、それに俺は魔物を・・・殺したぞ」
「人を殺せる人間は、たとえ殺す気がなくても一撃に殺意がまとう。それに君は魔物を殺したんじゃない。剣で斬ったら結果的に死んだだけだ。殺したのはバッツ=クラウザーではなく、君が持つ剣に過ぎない。・・・もう少し簡潔に言おう。君には殺気がない。───レオ将軍があのとき引いたのは、君の言葉に動かされたというのもあるけど、毒気を抜かれたせいもある。それはそうだろうさ、真剣を突きつけられて、それでも君はレオ将軍に対して殺意を向けなかった。君はさっき殺し合いをやる気はなかった、と言ったけれどレオ=クリストフにとっては殺し合いのつもりだったろう」

 セシルはさて、と改めるように呟き。

「もう一度聞く。もうすぐ戦争が始まる。バッツ、君はどうする?」

 バッツは言葉に詰まる。すぐには返事ができなかった。

(悩むことじゃない。答えは決まってる)

 だが、その答えを口に出すのには躊躇いがある。
 迷いではなく躊躇い。脳裏に霞むのはバッツが「殺した」二人の人間。
 思い返す、そして不安を感じる。自分は、今度は守ることができるのかと。

「俺は───戦う」

 躊躇いながらもバッツは答えを口にした。
 セシルはそうか、と短く呟いて。

「・・・レオ=クリストフは君は僕と一緒に行動していると知っている。次の戦争で出てくるだろう。正直、あれに対抗できるのは君しかいない。だから言っておく───レオ=クリストフは殺せ。あれは真性の軍人だ、殺さなければ勝てない」
「物騒だな」
「腑抜けたことを言うなよ。戦争っていうのは物騒なんだ───もう一度言うぞ。レオ=クリストフは殺さない限り立ち向かってくる。殺さない限り君の勝ちはない。それができないのなら───」

 セシルの言葉を遮るようにバッツは「へっ」と笑う。顎を上げ、皮肉げに半眼で見下ろすようにセシルを見返して、

「戦うなって? 俺はお前の為に戦うわけじゃない。勝手にやらせてもらう」
「・・・死ぬなよ」
「お前こそ。そんな身体で生き残れるのか?」

 バッツの言葉に、セシルは驚いて目を見開く。

「気づいてたのか?」

 ローザに気づかれたことも驚いたが、あれは白魔道士だったからだと納得できる。だが、まさかバッツが気づいているとは思わなかった。だがバッツはこともなげに

「身体の動きを見てりゃ大体解るさ。───カイポの村で、暗黒剣を使ってからだろ、ヤバいのは」
「・・・どうやら本気で僕は演技が下手らしいね。誰にも気づかれていない自信はあったんだけど」
「まあ、気づいてるのは俺とあんたの彼女とティナくらいか?」
「ティナもか」
「つか気づいてないのか? ティナのやつ、時々お前の方を心配そうに見てたんだぜ?」
「・・・・・・全然、気がつかなかった」

 今朝からローザがこちらを気にしているのは感じ取れたが。
 まさかティナにまで心配されてるとは思わなかった。

「気遣わせたくないんだけどな・・・」
「無茶するからだ。・・・今度の戦争、お前は戦うなよ。後ろで俺たちに命令してくれればいい。赤い翼のセシル=ハーヴィの真価は、剣の腕よりも統率能力にあるんだろ?」
「そういうわけにもいかないな。レオ=クリストフは君に任せるけれど、もう一人───アイツだけは僕にしか止められない」
「誰だ?」

 バッツの問いに、セシルは不敵な笑みを浮かべた。

「───カイン=ハイウィンド。フォールス最強の槍」

 

 

 

 

 

 リディアとティナは廊下を挟んだ真向かいの部屋にいた。
 二つあるベッドの一つにティナが腰掛け、その膝の上にリディアをのせてお喋りをしていた。

「あ、バッツお兄ちゃんにセシル、どうしたの?」
「いやちょっと話しておきたいことがあってな」
「・・・・・・」

 二人が赴くとリディアは笑顔で出迎えティナの膝の上から飛び降りる。バッツが来室の目的を伝えると、リディアはふぅんと可愛らしく首をかしげる。ティナはセシルの姿を見て一瞬だけ表情をかげらせ、しかし無表情無言で迎えた。

(・・・本当だ。気づかれてる)

 確信してセシルはティナに向けて愛想笑いを浮かべる。ティナはつられたように思わず口元をほころばせかけて───すぐに横を向いた。

「あははー、セシルってばティナに嫌われてるー」

 なぜだか嬉しそうにはしゃぐリディアに、セシルは苦笑。
 だがむしろティナの方が慌てた様子で首を横に振る。

「ち、違うっ、別に私はセシルのことを嫌いとかそういうっ!」
「じゃあ、セシルのこと好きなんだ」
「え、えっ?」

 かあっ、と真っ赤に顔を染めるティナ。「あ、赤くなったー♪」とまたリディアが囃し立てて、ティナはさらに赤面。

「・・・リディアのおもちゃだな」

 バッツが言うと、うんっ、と大きく頷いてリディアはティナに抱きついた。

「ティナはリディアのだもんっ。セシルなんかにはあげなーいっ!」

 んべーっ、とリディアはセシルに舌をだす。
 ちょっと困ったように眉を寄せて、セシルはバッツに向かって聞く。

「最近気づいたんだけど、僕ってリディアに嫌われてないか?」
「そーかぁ?」

 にやにやと笑いながらバッツはとぼけた返事を返すと、バッツはもう一つのベッドの方に腰掛ける。と、リディアはティナから離れてバッツの膝の上に飛び乗った。バッツの顔の方へと振り向くと、二人の瞳が合う。リディアは楽しそうに嬉しそうに「えへへー」と笑うと、バッツはその緑の髪の毛を優しく撫でてやる。リディアはくすぐったそうに、まるで子猫のように目を細めて身震いをする。
 そんな二人の様子を、セシルとティナはなんとなく眺め続けて、
 ふと、バッツが二人の視線に気づいた。「お」と声を上げて、

「なんだよ? うらやましいのか?」
「いや、なんかやっぱり本当の兄妹みたいだなって」
「ははは、あそこの根暗騎士が独りで寂しそうに羨ましがってるぞー」
「わあ本当だ。これ以上、見せつけるのはカワイソーかなあ」
「気にすることないさ。羨ま死ぬくらい俺たちのパチ兄妹愛を見せつけてやろうぜ!」
「うん、偽お兄ちゃん」
「いい返事だぞ、嘘妹」

 二人はとても仲良く楽しそうだった。

「とりあえず、根暗騎士ってのは訂正して欲しいんだけど」
「ふ、正直に言えよセシル」
「なにを」
「そんなことよりも俺たちのラブラブ兄妹パワァが羨ましいんだろう」
「いや根暗騎士のほうがどうかと」
「いいかいリディア。あれが孤独人間の強がりというやつなんだぜ?」
「うんっ、一つお勉強になったぁ!」
「ははははは、リディアは賢いなあ」

 とりあえず、この馬鹿兄妹をどうしたもんかとセシルが悩んでいると、ティナがベッドから立ち上がる。そっ、とセシルの傍らに寄り添うようにたつと、その腕に自分の腕をからみつける。

「ティナ? なにを・・・」
「・・・ラブラブ兄妹パワァには、ラブラブ男女パワァで対抗すればいいと思う」
「ラブラブ男女パワァって、なんかえらく生々しいなあオイ」

 バッツの発言を無視して、セシルは困ったように笑みを引きつらせてティナを見やる。

「えーと、ちょっとティナなんかあの二人に妙な形で毒されてないか?」
「大丈夫。近親愛なんて真の愛に比べれば」
「・・・むしろローザに毒されてるのか」

 なんとなく悟りきった表情で、セシルは諦めモード。
 ティナはぎゅっ、と強くセシルの腕を抱きしめてバッツたちに見せつけるような視線を送る。
 対してリディアは焦ったような表情でバッツを振り返った、

「どうしようお兄ちゃん。ティナったらヤル気だよ!」
「リディア、こーゆー状況でそういう台詞は色々アレなので気を付けろ」
「色々アレってなに?」
「・・・大人になれば解ることだ」
「ううっ、お兄ちゃんがリディアを子供だっていじめる・・・リディア早く大人になりたいよー」
「セシル! 敵は仲間割れを始めたわ! 攻めるなら今がチャンス!」
「いや本気でローザ見たいな───」
「あーあー! ちょっとなにしてるのーっ!」

 噂をすれば影だった。
 振り返ればヤツが居る。
 廊下でセシルとティナの二人を驚いた顔で指さしているのはローザだった。

「セシルが不倫してるーッ!」
「違うーっ」
「くっ、ばれちゃったわねセシル! かくなる上は二人で手に手を取って海越えてファイブルの地で家族四人で末永く暮らしましょう」
「どうしてそう話が飛躍するんだっ。・・・って、四人?」

 なんとなく疑問に思ってセシルは怪訝そうに呟く。呟いてから大後悔。ティナはかぁーっと再び顔を真っ赤にして恥ずかしそうに首を横に振る。

「セ、セシルのえっちっ」

 恥ずかしがりながらティナはどんっ、とセシルを突き飛ばした。不意打ちにセシルは突き飛ばされて───それをローザが抱き留める。それを見てティナの表情が一気に冷めた。

「あ」
「ほーっほっほ! ぬかったわねティナ! 自らセシルをこの私に差し出すとわっ!」
「ローザ、その台詞と笑い方すごく悪役っぽい。それからあんまりティナの前で暴走しないでくれるか? なんか君の悪影響でティナがどんどんおかしく・・・」
「セシル・・・セシルが私のことを心配してくれてる。・・・これってもしかしなくても愛!?」
「・・・ほら、あーゆー風に」

 胸元で両手を組み合わせて、なにかどこか遠いところを見上げて瞳をうるうると乙女チックモードでぶつぶつと呟くティナを指さしてセシルは嘆息。
 むう、とローザは困ったように唸って、

「心配され度だったら負けてないわ! 熱病にかかって倒れた私を、セシルは心配して薬をとってきてくれたんだからっ!」
「いや取って来たのは俺───」
「サイレス!」
「んぐっ!? ───っ! ───っ!?」

 なにかを言いかけたバッツの口を、ローザの放った沈黙魔法がふさぐっ! ついでに呼吸までも止めてバッツは息苦しそうにもがいた。

「お、お兄ちゃんお兄ちゃん!? いや、バッツお兄ちゃん息をしてないーっ!」
「ロ、ローザ! 早く魔法を解くんだ! 本気でバッツが死ぬっ!」
「あらっ!? どーして沈黙魔法で息が止まるの? おかしいわねー」
「のんきに言ってる場合かぁぁぁっ! 早く───」
「・・・エスナ」

 と、状態回復の魔法をかけたのはローザではなくリディアでもなく、ティナだった。

「ぜーはーぜーは・・・うわ、呼吸ができないってマジで怖いわ。死んだ親父の顔をむっちゃリアルに思い浮かんだぜ」

 あははー、とバッツは笑い飛ばす。
 よく笑えるもんだとセシルは呆れ、ティナは嘆息。リディアは気遣うようにバッツを見てからローザを睨んだ!

「お姉ちゃん!」
「え、えと・・・あらー、失敗しちゃったみたい。てへっ♪」
「てへじゃないよっ! お兄ちゃん死んじゃう所だったんだから!」
「あ。私なんだか急用を思い出したかもしれないわっ! それじゃっ!」

 言い捨てて、ローザは素早く逃げ出した。

「もう・・・っ!」
「いやいやリディア、ありゃ口出した俺も悪いし、ティナも悪ノリしすぎたんだよな」
「・・・うん」

 笑うバッツに、ティナも軽く頷いた。
 それでもリディアは納得のいかない顔をしていたが、

「悪いね、バッツ。彼女も悪気があるわけじゃないんだけど・・・いやだからこそタチが悪いよーな気も・・・」
「セシル、それ以上言うとてめえの恋人の墓穴掘ることになるからやめとけよ」
「うん、そうだね」

 と、セシルは苦笑。それから、部屋から出ようとして。

「セシル、ローザを追いかけるの?」

 ティナが問いで呼び止めた。
 セシルはふりかえらず、あらぬ方向を見てなんとなく頷いて、

「まあ、ね」
「私が行くからセシルは待ってて」
「え?」
「いいから。ね?」

 ティナはセシルに強引に頷かせると、部屋を出る。
 部屋を出てすぐに立ち止まった。部屋の外にはファブールの人間が集まっていた。今の騒ぎを何事かと野次馬に来たのだろう。かなり恥ずかしく思いながら、ティナは野次馬の中を突っ切った。

 

 

 

 

 

 ファブールの城は普通の城に比べて低い城だ。簡単に説明すれば、正四方型の四つの頂点に四つの塔がたち、塔と塔を分厚い城壁が繋げている。その城壁の内側に外庭を挟んでファブールの城が建てられている。ちなみに高さは低いが、面積の大きさで言えばフォールスでは最大級の大きさだ。なにせ城の中に街があるのだから。ファブールという国ができた頃、寒波や魔物たちから住民たちを守るために城の中に街があるという奇妙な形になったという。

 ───野次馬は恥ずかしかったが、人が集まっていることには利点があった。ローザの逃げていった先を人に尋ねることができたことだ。
 そのお陰で、ティナはローザの足跡をたやすく掴むことができた。
 城の外。外庭に出たティナは周囲を見回す。聞いた話では外に出たというが、まさか城壁の外にまでは出ていないだろう。念のために城壁の門を守る門番に尋ねてみたが、ローザらしき女性どころかネコ一匹出ていってはいないという。
 城壁づたいに外庭をぐるりと回ってみる。
 時刻はもはや夕方だ。西の空が赤く染まって、影が東の方向へと長く延びる。外庭を一周してみたがローザは見あたらない。どこに行ったのかと、もう一度庭を回ろうとして。
 ふと気づいた。
 夕方の影は東の方向へと長く延びている。四つの塔の内、南西にある塔の影が延びて、東側の城壁へと影が映る。その影の一番上、塔の形の影になにかがちょこんと乗っかって歪になっていた。

「まさか・・・」

 そう思いながら振り返って塔を仰いでみる。
 そこに、白いローブをはためかせて塔の天辺に座っているのは───

「・・・見つけた」

 ティナは小さく笑うと、意識を集中させた───

 


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