第8章「ファブール城攻防戦」
A.「三柱の運命神」
main character:インターミッション
location:インターミッション

 

 フォールス地方の神は、大きく分けて四つ。

 宿業と豊穣を司る大地の神。
 物語と音楽を司る月と太陽の神。
 旅と未来を司る風の神。

 

 フォールス地方には二つの宗教国家が存在する。

 モンク僧たちの国、ファブール。
 八人の女性神官によって治められているトロイア。

 ファブールは風の神を、トロイアは大地の神を信仰している。
 太陽と月の神を信仰しているのは主に砂漠の民―――ダムシアンやカイポの民が主に信仰しているが、トロイアやファブール以外の国は国教というものはなく、信仰は自由とされている。
 魔道国家ミシディアの民―――つまり、魔道士たちは基本的に無神論者である。

 フォールス地方では全体的に信仰が薄く、例えば子供が産まれる時、或いは作物の豊作を願う時には大地の神に祈り、旅に出る時には風の神に旅の無事を祈り、戦に出る時は鉄の神に祈る、程度の信仰心である。

 

 フォールスの神は人を導くわけではない。
 自然現象の中に存在し、現象そのものが神であり、それは人間を見守り、時折ほんの少し、ほんの少しだけ力を分け与えてくれる、そういった存在。
 ゆえに固有名詞を持たない。大地は大地でしかなく、風は風でしかないからだ。

 風の神を信仰するモンク僧や、大地の神を信仰するトロイアの神官は、修行を積むことによって神と通じ合い、神の力を分け与えて貰う力―――いや、資格を持つことができる。
 神に通ずる力―――それら神通力を得た人間は、トロイア、ファーブル合わせてもほんの数人で、その神通力を得ることこそがトロイアでは八人の女性神官に、ファーブルではモンク僧兵長にそれぞれなることの条件の一つになっている。

 

 

○宿業と豊穣を司る大地の神

 あらゆる生物は大地に生まれ、天寿を全うし、大地に眠る。それゆえ人の宿業を司り、また大地にある全ての豊穣―――植物だけではなく、生物の発展も含まれる―――を見守る神。
 フォールスでは最もポピュラーな神でもある。

 バロン北西に位置する、森と湖の国―――宗教国家トロイアが、この神を信仰している。
 トロイアの女性神官たちは、一年のうちの何ヶ月かを人里を離れた森の中で過ごし、森と同調することによって大地の神と対話し、神通の力を得る。
 大地の神の神通の力とは “運命” 。
 万物の流れ行く先。因と果。すなわち運命そのものを見る力である。

 

○物語と音楽を司る月と太陽の神

 太陽と月という二面性を持つ神。太陽の神は男性の姿。月の神は女性の姿をしている。
 世界を劇場とするのなら、世界にすむ生物の一日は物語で、その物語は一部と二部、前半と後半、始まりと終わりに別れる。太陽は日の始まりの部を明るく照らし出し、月は日の終わりの部を悄然と映して幕を閉じる。

 主にダムシアンの民が信仰している神ではあるが、別にダムシアンの国教というわけではない。
 初代のダムシアン王が、竪琴の音色で凶悪なモンスターを退けたという伝説から、ダムシアン出身の吟遊詩人や踊り手、語り部、物書きが多く、それらが物語を司る神を信仰しているというだけである。

 それらの中には月と太陽の神と通じる力を持つものも存在し、例えばダムシアンの王子ギルバートもその一人である。
 月と太陽の神の神通の力とは “魅了” 。
 奏でられる音色や、踊りの動き、或いは語られる物語を聞き観することによって、様々な感情を引き出す。ある時は眠りに誘い、ある時は魅了し、またある時はその者のもつ潜在的な力を湧き上がらせる。

 

○旅と未来を司る風の神

 風とは旅の導―――未来の導。旅の先に風は吹き、それは先へと促す追い風であったり、或いは向かい風という困難な障害であったり、時には横風となって旅の進路を変えようとする。追い風の勢いに任せて突っ走り、向かい風に負けて来た道を戻り、横風に行き先を迷う―――しかして、その旅の先、風の果てにはどんな形であろうとも、たった一つの未来が訪れる。

 風の強い高地帯であるファブールの民が信仰する神である。
 ファブールの民は風を信じ、風に負けぬように心身を鍛え抜く。世界各地に存在する、“精神とは強き肉体に宿る物”、と唱え掲げるモンク僧の一派が、ファブールの風の僧たちだった。
 ファブールのモンク僧たちは厳しい自然の中に身を置き、追い風の中を駆け抜け、向かい風に真っ向から立ち向かうことによって、風そのものである神と対話をする。そして、神と心を通じ合わせその神通の力を得たモンク僧だけが、ファブールのモンク僧兵長として認められる資格を持つ。
 風の神の神通の力とは “疾風” 。
 いついかなる時にも己の風を吹かす、風そのものが神の神通力である。だが、ファブールの元モンク僧兵長であった先王が死去してからは、現モンク僧兵長であるヤン=ファン=ライデンのみが風の神通力の使い手である。

 

○大魔道士ミンウ

 神ではないが、ミシディアでは神と同等以上に崇められている存在。
 古の昔。
 まだバロンもエブラーナも国そのものが無く、唯一ミシディアのみがあった、遥かな古の時代に存在した大魔道士。
 死後も魂だけとなって存在し続け、フォールスの地を守護している。

 フォールスの人間は、他の地域のように魔道書を読み解いたり、マテリアの力を借りたりと後天的に魔道を得るのではなく、産まれついた時の素養で魔法を使えるようになる。その理由は、フォールスを守護しているミンウが、フォールスの地に生まれ落ちた生命に魔道の祝福を与えているからと言われている。

 

 

 ―――以上のように、「大地」「月と太陽」「風」の神には形は違えど、本質的には同じものを司っている。
 その本質とは「運命」。
 故に、フォールスの三神を指して「三柱の運命神」と呼ぶこともある。

 


INDEX

NEXT STORY