大学受験地理マニアの青春サイト 地理の疑問とジオゴロフィー
おすすめ記事 1月1日 1999年大晦日 12月26日 ☆疑問、議論、および回答への不満は右まで→ 掲示板へ
1月21日 テラロッサの分布
センター試験の問題を見ていて、ふと思ったのですが、世界中に石灰岩地域があるのに、石灰岩が風化したテラロッサという土壌は地中海地方だけしか聞きませんね。日本の石灰岩が風化した土壌もテラロッサというのですか? それとも特有の気候条件があって初めてテラロッサという土壌ができるのですか? (オナペットクラウンさんより)
お答え うんと厳密に言うと、地中海性気候以外の気候下では「もどき」ができることが多いようです。
初登場、オナペットクラウンさんが出された疑問です。このハンドル名は、拙オナ・ページをペットとして愛玩してくれるクラウンさんという意味なのか、それとも、拙オナ・ページのペットになって皆に愛玩してもらいたいクラウンさんという意味なのか、どちらかしらん? という疑問が生じましたが、それはさておき、オナペットクラウンさん、今後ともよろしくお願いします。
さて、今日の疑問は、入試レベルではそれほど気にする必要ないようです。というのも、入試では、「地中海地方にみられる石灰岩が風化した土壌を何というか」という問い方で出されることが多いからです。「地中海地方」と限定せず、「温暖湿潤地方で、石灰岩がとけたあとに( )という赤橙色の土壌が残る。(95年近畿大)」というかたちで「テラロッサ」を答えさせたり、「温暖湿潤な( )地域にできるテラロッサ(95年専修大)」というかたちで「石灰岩」を答えさせることも稀にありますが、この場合も解答に迷うことはないでしょう。「秋吉台のドリーネの窪地には( )という土壌がみられ・・・」というように、地中海地方以外の石灰岩地域で問われることはまずありません。あったとしても、その場合は臨機応変に対応し、「秋吉台はカルスト地形で有名だから、恐らく、テラロッサを答えてほしいのだろう」と出題者の気持ちを推し量ることは容易です。
日頃の私は、「入試で高得点をとるための理解で十分!」をモットーにしています。したがって、ある若者がやってきて、「ブラジル高原のテラローシャ(テラロッシャ)と南ヨーロッパのテラロッサを混同しないために、『ヨーロッパだからテラロッサ』とか、『コーヒーだからテラローシャ』とか、覚えておけば間違えないですよ。」と教えてくれると、「なるほど。促音の『ッ』や長音の『ー』に注目して区別するわけか。すばらしい! さっそくジオゴロに加えておこうっと。」なんて張り切っちゃいますが、今日の疑問のような小難しいことに関しては、「地中海地方以外でも石灰岩が風化した土壌をテラロッサというんだろうなあ。地中海地方だけに限定すれば近畿大学や専修大学の問題に対応できないもんね。」ぐらいに理解し、それで満足しておりました。(目前に受験を控えている人は、ここまででOKです。以下は、マニアの疑問コーナーとなります。)
しかし、今日のオナペットクラウンさんの疑問は、入試に対応するためという近視眼的・実利的な欲求からではなく、真理・真実を知りたいという純粋素朴純情な欲求から発したものと思われます。そこで、調べました。
帝国書院の教科書の中に、上記2大学の「温暖湿潤地方で・・・」「温暖湿潤な地域にできる・・・」というのとだいたい同じ言い方がありました。それは、「温暖で湿潤な地方の石灰岩地域に分布するテラロッサ」というものです。「ふむふむ。ということは、日本の石灰岩地域のやつもテラロッサと言っていいのだな。」と納得しかかったが、念には念を入れて、「手持ちで関連本はないかいな。」と書棚を眺めたところ、ありました、ありました。漆原和子編『カルスト』(大明堂、1996年)であります。その中にあった説明を、3ヶ所引用しておきます。私は、今から○十年前の大学入試で化学の試験を受けたとき、選択形式だったので記号を適当にちりばめておいたら偶然満点だった、「運は強いが化学に弱い」という人間です。したがって、以下の引用中、「陽イオン交換容量」云々の説明はさっぱりわかりません。そこを読み飛ばして得た結論は、「地中海性気候以外の地域でも、条件さえ整えばテラロッサは生成されうるが、実際には、そういうことは稀であり、普通は『テラロッサもどき』が分布するにすぎない。」というものです。このようなお答えで、よろしいでしょうか?
☆「暗赤色土」の説明の中の一節 |
ペドロジスト懇談会土壌命名委員会では石灰岩母材の暗赤色土をテラロッサ様 土と呼ぶ。テラロッサ様土は、南西諸島では、最終間氷期か、それより古い隆起 サンゴ礁上に分布する。(中略)しかし、乾燥した長い夏を伴う地中海性気候下 で生成されるテラロッサは、陽イオン交換容量が高く、とくに遊離のカルシウム 含量が高い。したがって、暗赤色土、すなわちテラロッサ様土をテラロッサと同 一視できない。 |
☆「テラロッサ」の説明の中の一節 |
石灰岩の溶食された残渣を母材とする重埴土で、地中海性気候下に分布する赤 色の強い土壌である。(中略) モンスーン気候下の日本では、短期間に溶脱、 洗脱が進むので、石灰岩を母材とする土壌でも陽イオン交換容量は低く、赤色土 ・黄色土的特色が強くなる。 |
☆「ラテライト性土壌」の説明の中の一節 |
湿潤熱帯の石灰岩地域に分布する若い石灰岩土壌は、他の母材から生成された 土壌より塩基に富むが、温帯にくらべ、短期間に風化が進行し、塩基の溶脱が進 む。湿潤熱帯の熟成した石灰岩から生成した土壌は酸性になり、石灰岩地域とい えどもラテライト性土壌の特性を持つようになる。 |
1月14日 先進国の大都市のスラム
疑問1.日本の大都市の問題で、選択肢の中の「都市周辺部にスラムが形成されている」という文章が誤りだそうですが、先進国の大都市にもスラムが見られるんじゃありませんか? 日本ではスラムが形成されないんですか?
お答え 都市と都心。一字違いで大違い!
いよいよ明日は待ちに待ったセンター試験ですね。気分うきうきでしょう! うきうきできる人は安心です。 これから、ハードルを一つ一つ越えていって、いよいよ大学生さまになれるんです! 今まで模試をたくさん受けてきましたが、模試なんてなんぼできても駄目ですね。なぜかというと、模試は合格資料にはなりませんからね。でも、これからの試験は違います! 実力を発揮すれば合格に直結です。実力をみせつけてやりましょう!
ただし、自信過剰や、知識に頼りすぎは禁物です。問題をよく読んで、しっかり考え、出題者の要求する答えを導いて下さい。知識は考える材料にすぎません。モノをいっぱい知っていても、問題をよく読まなければだめですよ。うきうきするのはいいが、うかれすぎてもいけません。
さて、ご質問の件ですが、ご指摘のとおり、先進国の大都市にもスラムがみられます。しかし、先進国の場合、スラムが形成されるのは、都心周辺部であって、都市周辺部ではありません。「都市周辺部にスラムが形成される」という文章は、現在の発展途上国の大都市にみられる都市問題の説明です。発展途上国の大都市では、農村からの貧困層の大量流入により、都市内のあちこちにスラムが形成され、特に周辺部には広大なスラムが形成されている場合が多いのです。一方、先進国の大都市では、人口(特に中高所得者層)や産業が郊外へ移動しているので、早い時期から市街地化の進んだ都心周辺部(=インナーシティ)には低所得者層が取り残され、商店街なども活気がなくなって、地区全体が衰退するという現象がみられました。これをインナーシティ問題と言います。先進国の大都市でスラムが形成されるとすればそこに形成されているのです。インナーシティのスラム化はアメリカ・イギリスの大都市で顕著にみられますが、日本の大都市でもみられます。現在は、活気を取り戻すための再開発が盛んに行われています。
なお、先進国大都市の郊外住宅地には中高所得者層が住むことになるので、そこはスラムにはなりません。日本でも、郊外の住宅地には、高い金を出して狭いながらも新しい住宅を買ったり借りたりして、中または高所得者がいっぱい住んでいますよ。住民に対して、「お前んとこは狭いからスラムだ。高い金を出してスラムに住むなんて馬鹿じゃねぇの!」なんて言えば怒られると思いますよ。
スラムは「不良住宅地区」と訳します。かつては「貧民窟」という過激な訳語が使われていました。
疑問2.都心と都市は違うのですか?
お答え 一字違いで大違い! 上と関連しているので同時掲載します。
都市の中心部が都心です。大都市は、中心から外側に向かって、都心(CBDと都心商店街)→漸移地帯(なんでもありのゴミゴミ地帯。副都心があるのはここ)→住宅地区→郊外(住宅開発や工場進出などが見られ、農地と市街地が混在。衛星都市があるのはここ)というように変わっていきます。都市と都心は一字違いなので注意!
1月13日 対日貿易額
中国は日本への輸出も日本からの輸入も多く対日貿易額の順位が上位ですが、それはなぜですか? また、アジアNIEsの4か国(地域)や準NIEsのやマレーシア、タイから日本への輸出入が少ないのはなぜですか?
お答え 中国が多いのは当たり前。NIEs・準NIEsは、日本への輸出は少ないが日本からの輸入は多いよ!
以下、説明がややこしいので、疑問提示者のK君以外の人は読む気にもならないと思いますが、そういう人も気が向いたら読んで下さい。今日の疑問には事実誤認も含まれていますので、実際に統計にあたってみましょう。対日貿易額を、日本への輸出、日本からの輸入、その合計、の3つに分け、対日輸出入金額(単位:億ドル)の多い順(1997年)に並べてみたのが、次の表です。
日本からの輸入額 |
日本への輸出額 |
対日貿易合計額 |
|
1位 |
アメリカ 117 |
アメリカ 76 |
アメリカ 193 |
2位 |
台湾 28 |
中国 42 |
中国 64 |
3位 |
ホンコン 27 |
インドネシア 15 |
韓国 41 |
4位 |
韓国 26 |
韓国 15 |
台湾 40 |
5位 |
中国 22 |
オーストラリア 15 |
ドイツ 30 |
6位 |
シンガポール 20 |
ドイツ 12 |
ホンコン 30 |
7位 |
ドイツ 18 |
アラブ首長国 12 |
マレーシア 27 |
8位 |
タイ 15 |
サウジアラビア 12 |
シンガポール 26 |
9位 |
マレーシア 15 |
マレーシア 11 |
インドネシア 25 |
10位 |
イギリス 14 |
カナダ 10 |
タイ 24 |
11位 |
インドネシア 10 |
タイ 10 |
オーストラリア 23 |
まず、表の右端の合計金額の順位をみてみましょう。
一般に、貿易は、経済的に密接な関係にあり、かつ、距離的にも近い国との間で盛んに行われます。日本の場合、それに該当する国は、環太平洋諸国(アメリカ・カナダ・オーストラリア、および、東アジア・東南アジア諸国)です。その順位は、相手国の経済力・経済規模などに関係します。この場合は貿易の話ですから、経済規模を表すものとして、その国の貿易金額をとりあげてみます。上の表で、合計金額の上位国のうち、環太平洋諸国について、各国の貿易総額(単位は億ドル)順に並べると、次のようになります。
@アメリカ(1588) Aホンコン(397) B中国(325) Cシンガポール(257) D韓国(281) E台湾(237) Fマレーシア(158) Gオーストラリア(129) Hタイ(120) Iインドネシア(95)
どうですか? アメリカは貿易総額がダントツに多く、対日貿易額もダントツです。他の国はそれに比べれば、貿易総額・対日貿易額ともに、どんぐりの背比べ的ですが、貿易金額の多い中国は対日貿易額も多めで、貿易総額の少ないマレーシア・オーストラリア・タイ・インドネシアは対日貿易額も少なめであることがわかります。「中国が多いのは当たり前だな」って思うでしょう。
マニアックに表を検討すれば、ホンコン・シンガポールが貿易総額に比べて対日貿易額が少ないめであることに気づきます。対日貿易に比べ貿易総額は多いのは、ホンコンの場合、中国との貿易がかなり多いためであり、シンガポールの場合はマレーシアなど近隣諸国との貿易が比較的多いからです。また、マレーシア・タイは、シンガポールとほぼ同額なんだから、経済力から考えれば、むしろ多いと考えるべきかもしれません。
次に、輸出と輸入に分けて順位を検討します。
日本からの輸入では、中国はむしろ少なめですね。中国以外では、アメリカ・ドイツを除くと、アジアNIEsが20〜30億ドル、次いで準NIEsのマレーシア・タイが15億ドルと続いています。これは、まさに、工業化の進展度合いと関係していますね。他方、日本への輸出では、アジアNIEsと準NIEsは少なめで、日本の主な一次産品輸入先となっている国々(インドネシア・オーストラリア・中東産油国)の健闘が目立ちます。マレーシア・タイは準NIEsであるとともに日本の一次産品輸入先でもあるから、かなり健闘しています。
一般に、東アジア・東南アジアの輸出指向型工業化を進めてきた国々では、工業化の進展とともに、日本から高度な技術を必要とする部品やそれを組み立てるための機械などを多く輸入するようになるので、日本からの輸入額が増えます。ところが、組み立てた製品の多くは日本ではなく欧米先進国(主にアメリカ)に向けて輸出するため、対日輸出額はそれほど増えないのであります。だから、これらの国は、日本からの輸入額は多いが、日本への輸出額はあまり多くないのです。アジアNIEs・準NIEsの国々と日米の関係をみると、、輸入では、日本からの輸入額がアメリカからの輸入額より多く、輸出では、アメリカへの輸出が日本への輸出より多い。そのため、対日貿易では赤字、対米貿易では黒字になっています。
中国は、GNP/人は少ないが、国が大きいから合計の経済規模は大きく、貿易総額も多い。日本との経済的関係も良好で、距離的にも近いから、日本との貿易額が多いのは当たり前である。NIEs・準NIEsと違うのは、対日貿易黒字になっていることで、日本からの輸入はやや少なめではある。しかし、工場で使う機械などを日本からたくさん輸入して工業化に努めている点はNIEsなどと同じであるから、特に少ないというわけではない。一方、日本への輸出はかなり多く、これは、比較的価格の安い機械類や、衣類・魚介類・原油を日本へ多く輸出しているからである。輸出・輸入においてアメリカより日本を上位の相手国としているが、中米貿易が中日貿易ほどふるわない背景には、中国の人権問題に対するアメリカ政界の批判が強く、これが障害となって両国がやや冷えた関係にあるという事情もある。まっ、こうしたことがらがいろいろ重なって、日中貿易はきわめて盛んになっており、日本の貿易相手国としては、アメリカに次いで上位に位置するのです。今後もどんどん増えていくでしょうね。
1月12日 集落の新旧と地形との関係
地形図の問題を解いていたら、「宅地開発の進む新興住宅地であること」の理由の1つとして、「河口近くの低地に位置すること」があげられていました。「河口近くの低地に位置すること」と「宅地開発の進む新興住宅地であること」とは関係がないと思うんですが、どう関係するのですか。
お答え 古くからの集落は自然堤防の上。後背湿地なら新しい集落。
河口近くの低地ということは、地形的には三角州ですね。三角州や自然堤防帯など、沖積平野の低湿地では、一般に、古くからある集落は、洪水の被害を受けにくい微高地(自然堤防の上など)に立地しています。ところが、土木技術が進歩して、大型機械を使い低湿地に盛土をしたり、あるいは、河川に強固な堤防を築き排水路も整備したりすることが可能になると、後背湿地などの低湿地も宅地として開発されるようになります。河口近くの三角州には顕著な自然堤防が形成されず、全体的に低湿なので、かつては集落が立地しないのが普通だったのですが、現在では、どんどん宅地化が進んでいるのであります。
新興住宅地の開発が盛んに行われるようになった高度経済成長期以後は、土木技術が進歩し大型機械が盛んに使われるようになった時期です(同時に、大型機械を使いにくい部分で手抜き工事が盛んに行われるようになった時期でもありますが)。
一般論で言うと、乏水地(扇状地・洪積台地)では、古くからの集落は湧水など飲み水の得られる場所(扇状地なら扇端、洪積台地なら台地の縁の崖下)に立地し、飲料水の得にくい扇央や台地の上に立地している集落は、深い井戸を掘る技術が登場したり水道を引くことが可能になって以後のものであるから、新しいのです。他方、豊水地(低湿地)では、古くからの集落は洪水の被害を受けにくい微高地(自然堤防の上など)に立地し、後背湿地などの低湿地に立地している集落は新しいのであります。
1月10日 ラトソルのラテライト化って何じゃい!(1月7日分続報)
私は、こじつけ説明が得意なので、ときどきいい加減なことも言ってしまいます。こじつけ説明は素人をだませても専門家はだませませんね。筆がすべったこじつけ説明は、1月7日の最後の部分です。この箇所に関して、新進気鋭のスペシャリストのエ・スケ氏がまたまたいいアドバイスをくれましたので、紹介します(一部改変)。巷の定説に「優秀な学者(仕事師)はスケベである」というのがありますが、エ・スケ氏も単なる「Knight of スケベ」ではなかったのであります。なお、この定説は、古いタイプの人間(男女問わず)が自分のスケベを美化するための俗説にすぎません。いまどきそれを信じて、優秀な学者(仕事師)だと世間に思われたいためにスケベを実行に移すと、セクハラ人間としてフォーカスされてお縄になること必定ですので注意。
なお、今日の記事はマニアックなので、受験生は読まなくてもいいです。
こじつけ説明:裸になった土地の表面は太陽熱のため地温が50℃までも上昇し、ラトソルの分布地域なので土壌のラテライト化も進み、
エ・スケ氏のアドバイス
ラテライト化は、雨季と乾季の両方があってこそ鉄・アルミ成分が集積しておこる現象であるから、人為的に裸地化された土地では、直射日光に起因する、さらなるラテライト化はあり得ないといえます。 「太陽熱(直射日光)により、ラトソルの風化が促進される」であれば正解です!
こじつけ説明:降雨時には土壌侵食により表土も失われて、結果として、植生の回復が不能となり、
エ・スケ氏のアドバイス
スコールでは、直径30mmもの雨滴のため、土壌深の浅い(数cm程度)熱帯の土壌は、遮蔽物(つまり樹木)が無いと空中に飛散し、移動します。スコールは一過性のものなので、大陸の平地では土壌の流出までは至らぬ事が多いそうですが(インドネシアの島嶼のように傾斜地に分布するものであれば、単にスコールでも流出するそうです)、雨季の豪雨では土壌の空中飛散(いわゆる掘り返し)→継続的降雨による土壌流出で、母岩が露出し、植生回復が不能となることが、熱帯における土壌流出プロセスの定説です。
母岩露出→熱帯の直射日光による母岩風化→砂→流出
植生が無いため有機物が混じらない↑
と、熱帯の自然環境は、温帯と比べると、とてもデリケートなバランスの上に成り立っているのですね。
私の疑問と反省
「ラテライト化は、雨季と乾季の両方があってこそ鉄・アルミ成分が集積しておこる」「人為的に裸地化された土地では、直射日光に起因するさらなるラテライト化はあり得ない」に関して → サバナ気候のように乾季・雨季のある地域なら人為的に裸地化された土地でもラテライト化のような現象があり得るのではなかろうか?
「スコールは一過性のものなので、大陸の平地では土壌の流出までは至らぬことが多い」に関して → 「降雨時には土壌侵食により」という表現では、「降雨による土壌流出で」=「雨といっしょに流れていってしまうので」というように受け取られてしまいますね。傾斜地以外では、「流出(=流れ去る)」以外の過程を経て表土が失われることが多いのだから、土壌侵食イコール土壌流出ではないことを但し書きする必要がありました。「土壌劣化」という表現がいいかもしれませんね。なお、ブラジル北東部のカーチンガ地域はAfではなくAwなので、降雨も一過性のスコールではないように思いますが、どうなんだろう?
なお、地図帳で調べたら、ブラジル高原のカーチンガ地域の土壌は、ラトソルにしている地図帳と、栗色土・褐色土にしている地図帳とがありました。また、植生は、「熱帯低木林」にしている地図帳と「有棘灌木林」にしている地図帳とがありました。これらは、おおざっぱに言えばサバナ(熱帯草原)の仲間ではありますが、景観的に草原とはいいがたいので区別してあるのだと思います。
土壌はまじめに勉強しようとするとなかなか難しい分野ですね。今後、専門家のアドバイスがあったり、私自身でも調べがつき次第、公開します。ネットは楽しいですね。「井の中の蛙」的勉強で気がつかなかったことや、わからなかったことも、専門家を得たとたんに、いい加減であることが暴露され、また疑問も一挙に解決してしまいます。「オナページをもってよかった」とつくづく思いました。
1月7日 ブラジル高原のBS
ケッペンの気候区分図を見ると、ブラジル高原のAw地域の中にちょこっとBSが分布していることに気づきました。このBSの成因は、砂漠化のためと考えられますが、それでいいんでしょうか? サヘルの場合は、もともと亜熱帯高圧帯の影響で乾季があるわけだから、砂漠化によってBWやBSの分布域が拡大することも考えられますが、ブラジル高原の場合はAwといっても多雨地域なので、砂漠化によってBSが出現するとは考えにくいのですが。。。
お答え 砂漠化(Desertification)は不毛地化のことで、BW(またはB)気候化ではありません。
これも、地理好きのSスケ君の疑問です。この疑問にはいろいろな誤解が含まれています。
誤解の第一。ブラジル高原のBSは砂漠化のためではありません。昔からBSです。カーチンガという植生名を聞いたことがあると思いますが、それはこの付近に見られるサバナの植生の一種で、とげのあるサボテン系の低木からなる灌木林のことです。気候区はAwだけでなくBSもあるが、植生はサバナです。
ブラジル高原のAwは、南半球なので、熱帯収束帯が南下する1月頃が雨季になり、それが北上する7月頃が乾季になりますが、ここのBS分布地域は、高原の内陸部に位置するため、雨季の1月頃にも海洋からの水分があまり供給されず、それほど多く雨が降らないのです。同じような例は、メセタと呼ばれる台地の広がるイベリア高原にも見られ、周囲はCsなのに一部にBSが見られます。イベリア高原のBSは、帝国書院の地図帳には描かれていませんが、二宮書店の地図帳には描かれています。
という具合に説明するのが普通ですが、恐らくSスケ君は不満でしょう。「イベリア高原の方はそれでもいいが、ブラジルの方は、もっと内陸側がAwになっているじゃないか。そこに比べれば、ここのBS地域は海に近いから水分が供給されないってのは変ですよ。」と言うに決まっています。それに対しては、次のように説明できます。もっと内陸側は、アマゾン盆地からパンパの平原に至るまで、セルバ・グランチャコ・パンパを結ぶ地域が、ずっと低地になっています。低地が続いているということは、海洋からの風を遮る山地がないのだから、海の湿気が内陸まで入り込みやすいのです。ところが、ブラジル高原東部には、なだらかではあるが、海からの湿気を遮る山地があります。だから、雨季にもあまり雨が降らないのです。
この説明で、たいていの人は納得しますが、Sスケ君の場合は、まだ合点がいかないかもしれません。ならば、別の説明をしましょう。地図帳で、世界の降水量の図、および、気圧と風向きの図が載っているページ(ケッペンの気候区分図のページの前か後のページ)を開いて、熱帯収束帯の動きを調べて下さい。雨季の1月、アマゾン盆地中央部では、熱帯収束帯が南緯20度付近まで南下しており、内陸部でもかなりの降水が見られます。ところが、東の海洋上では、熱帯収束帯がほとんど南下しておらず、赤道付近に位置しています。海に近いブラジル高原東部でも事情は同じで、この時期、熱帯収束帯がそこまで南下していませんね。したがって、熱帯収束帯が大きく南下する内陸部に比べて、南下してこない東部は雨が少ないのです。
Sスケ君、恐らくいわく「なるほど。でも、熱帯収束帯が、場所によって大きく南下するところとあまり南下しないところがあるのはなぜなんですか?」私いわく「おいおい、そこまでつっこむなよ」と。答えられないのも悔しいので、お得意のこじつけ説明をします。私の素人考えは以下です。「海洋上では季節による気温の差が小さいので、気圧の季節差も小さいが、大陸上では気温差が大きいので気圧の差も大きくなるのだ。したがって、大陸上または、近くに大きな大陸がある場合は、大洋上よりも、熱帯収束帯の南北移動幅が大きくなるのだ。」 この素人考えは、1999年12月16日の「今日の疑問」でも述べましたので、そちらも参照して下さい。
誤解の第二。「砂漠化=BW気候化」と考える誤解。これは致命傷的誤解でしょう。
砂漠化が進めば乾燥気候になるというのは理屈ではありえます。植生が失われるため、植物の蒸発散作用(その結果としての、気温を和らげる働き)がなくなり、日中や夏季(熱帯なら一年中)の気温が上昇します。その結果、土壌中の水分がどんどん蒸発して失われ、土地が乾燥してしまえば、そこから蒸発する水分がなくなるわけだから、大気中の水分も少なくなり、降水量が少なくなります。気温が上昇して降水量が少なくなれば、乾燥気候になりやすいわけです。あるいは、アマゾンなどの熱帯林破壊が地球温暖化の一因となり、温暖化すれば内陸部では水分の蒸発が進んで云々の類の説明もできるでしょう。
上記のメカニズムによってB気候でないところがB気候になれば、それはもちろん砂漠化が進行したことになるのですが、砂漠化とはそれだけを言うのではありません。むしろ、B気候になるまでに至らない砂漠化が普通です。砂漠化とは、普通の定義では、土地のもつ植生回復能力が失われ土地が不毛地化することを指します。砂漠または砂漠状態になるわけであって、湿潤気候が乾燥気候になることとイコールではありません。
Sスケ君の疑問の中には、正しい理解も含まれています。ブラジル北東部の半乾燥地域において砂漠化が進行していること、これは事実です。
その原因はサヘルと同様、人為による植生の破壊に起因します。ブラジル北東部においても、カーチンガを焼き払って行う粗放的な焼畑耕作が広範に見られます。カーチンガの灌木を伐採して牧場の周囲に柵にしたり、燃料(家事用だけでなく製鉄や陶器製造などにも大量に使用するそうです)にも使っています。いったん植生が破壊されると、裸になった土地の表面は太陽熱のため地温が50℃までも上昇し、ラトソルの分布地域なので土壌のラテライト化も進み、また降雨時には土壌侵食により表土も失われて、結果として、植生の回復が不能となり、砂漠化が著しく進行しているのであります。
1月6日 マールと爆裂火口
マールと爆裂火口の違いは?
お答え 「おまるのマール」では不十分ですね。
これは、地理マニアと言っていいほど地理好きなSスケ君 (エスちゅアリーなどでおなじみの「King of Night」だったか「Knight of スケベ」だったかのエ・スケ氏とは別人) の質問です。一般には、「マール=爆裂火口」とか、「爆裂火口に水がたまったものがマール」という説明で十分ですが、Sスケ君は「この説明は厳密性に欠け、不正確なのではないか? と疑問を抱いたのでしょう。ことわざや人生訓の大好きな私は、この疑問を受けたとき、「本当の勉強は教科書や参考書の説明を疑うところから始まる」という至言を思い出してしまいました。
マールは、水蒸気爆発などによって生じたほぼ円形の凹地で、周囲に顕著な火山体をもっておらず、火口だけが凹地になっているもの。一方、爆裂火口は、短期間の爆発によって火口付近が吹っ飛んでできた凹地。これらの説明からわかるように、マールの凹地は、爆発によってできたものだから爆裂火口です。したがって、マールは、「爆裂火口だけがあって周囲に顕著な火山体をもたない火山」ということになります。
さらに、爆裂火口のないマールはないが、爆裂火口はマール以外の火山にも見られるということにもなります。たとえば、カルデラにも、爆裂火口をもつものがあります。カルデラは、火山地域に見られる直径2km以上の巨大な凹地で、周囲に外輪山をもつものです。その巨大な凹地は、多くの場合、陥没によってできたもので、これを陥没カルデラと呼びます。火砕流などで多量のマグマが一挙に噴出すると、火口の下が空洞になるので、噴出直後に山頂付近が陥没してしてしまうのです。ところが、ほかに、爆発によって山頂付近が吹っ飛んでできるカルデラもあり、これを爆発カルデラと呼びます。カルデラの成因はほかにもあるが、専門家になるのでなければ、この2つを知っておけば十分でしょう。日本のカルデラは多くが陥没カルデラで、阿蘇が代表例です。爆発カルデラの例としては、磐梯山があります。この山は、1888年(明治21)年の大爆発によって、山体が破壊され、カルデラが形成されました。爆発カルデラは、火口付近が吹っ飛んでできた凹地だから、爆裂火口をもっているわけです。
以上の説明でよろしいでしょうか? 「ハゲがなければ禿頭はできないが、ハゲは禿頭以外にも見られる。たとえば、禿山。」「ニキビがなければニキビ面(づら)とはいわないが、ニキビは顔以外にもできることがある。」みたいなもんです。と説明すればよいか? ますますわからなくなるかしらん? なお、マールの例としては、男鹿半島の一の目潟、伊豆大島の波浮(はぶ)港、鹿児島県の山川港があります。これらの例のように、マールは、一般に、凹地に水がたまって湖や湾になっていることが多いので、ジオゴロでは、「おまるのマール」と覚えます。おまるにおしっこがたまるように、マールには水がたまるのであります。
1月1日 バザールの屋根つき街路
都市の街路形態のところで、テヘランの「迷路状の市街」の図を見て気づいたのですが、屋根つきの道というのがありました。屋根つきの道があるのは何か深い意味があるのでしょうか? これは単に、日本でいう商店街のバリケードのことなんでしょうか?
お答え バリケード? アーケードの言い間違いですよね。
愉快愉快! 西アジアの歴史的都市は、主として防御のために、周囲を城壁で囲まれているだけでなく、街路が迷路状になっていることを、毎年しゃべっているのに、屋根つき街路については、とんと気がつきませんでした。毎年同じことのくり返しのこの稼業でも、ときに、観察力の鋭い若いみなさんにこうした新発見を教えてもらったり、自分でも発見することがあるので、あきませんね。故西堀栄三郎氏(探検家にして学者・企画家)いわく、「向上心があればあきることはない」という名言もあります(『西堀かるた』より)。私の場合、「今日の発見」コーナーのジオゴロが、ささやかな向上心であります。
屋根つき街路はバザール(市場=商店街。ペルシャ語。アラビア語ではスークと言うらしい)の街路です。イスラム都市のバザールは、屋根つきの細い街路に面して同業者の商店が建ち並ぶ、というかたちをとるのが普通らしいです。おっしゃるとおり、商店街のアーケードですね。手持ちの本を引っぱり出して、西アジアのイスラム都市におけるバザールの写真をいくつか見てみましたが、ほとんどが、かなり立派なつくりのアーケードです。広い通りに面した歩道上だけのアーケードや、豪雪地帯の北陸に昔からある雁木(がんぎ)と呼ばれるアーケード、亭仔脚(ていしきゃく)とか言ったと思うが雨の多い台湾に昔からあるアーケードなどを、庇(ひさし)型アーケードとか開放的アーケードと言うとすれば、ここイスラム都市のアーケードは、街路が狭く街路全面がアーケードに覆われているので、屋根型アーケードとか閉鎖的アーケードということになりそうですね。それでも、日の光を入れて明かりを取るためでしょうか、天井のところどころに、丸い穴があけてありました。なお、その本は、西アジア史研究家の友人が書いているのでおつきあいで購入したものの、今までほとんど使うことがなく、書棚の飾りでしかなかったものですが、この疑問のおかげで、日の目を見、役に立ちました。無駄だとかくだらんとかと思うことでも、いつ役に立つかわかりませんから、馬鹿にできませんね。
アーケードがあるのは、乾燥地域でも、ときには雨が降る(短時間ではあるが集中豪雨的になることすらある)からでしょうか? 砂塵よけのためなんでしょうか? 中東の乾燥地域は気温の日較差が大きく、日中はきわめて高温になり夜間は冷え込むから、壁の厚い立派なアーケードで熱を遮るためなんでしょうか? 日中の強い日差しを遮って客が昼でもたむろできるようにしたんでしょうか? それとも防備かな? 街路の出入り口さえかためれば、商店街全体が要塞のようになる感じにも見えます。屋根は円くアーチ型になっているものが多く、その上を歩くというわけにはいかないように見えるから、屋根づたいに攻撃されにくそうです。などなど、いろいろ想像はできますが、この点、私は不明で、理由は定かではありません。今後、気をつけて調べるつもりです。アーケードの地理、アーケードの歴史もおもしろそうですね。ネットで検索すれば、いろんな都市のアーケードの写真が入手できるかもしれません。時間に余裕ができた暁に調べてみるといいでしょう。いや、それよりも、実際にバザールに行って、イスラム商人にひやかされながら買い物を楽しみたいですね。