―日記からこぼれた里山暮らし余話―
里山らいふ

 ノウサギは惜桜小屋の森の大切な住人である。
 まだ出会ったことはない。いつかはキツネやテンから逃げまくる苦労話など、直接聞いてみたいと思っている。
 今は亡き名ハンターのKさんは、この小屋の周辺には三匹のノウサギがいるといっていたけれど、新雪に残された足跡も時折見られる程度だし、フンの置き土産も僅かしかなく、"孤影"が濃いものだった。

 
ところが3日にキノコのほだ木を伏せていて驚いた。

 驚いた一つ目はこういうことである。 
 写真の青い線で囲った付近に、ノウサギのフンがいっぱい転がっている【写真右上】。一番多いところでは1.5メートル四方に48個も確認された。
まるで溜めフンである。タヌキやカモシカの溜めフンは見たことはあっても、ノウサギのそれなど聞いたこともない。
 中には溶けて崩れかけたようなフンもあるが、ほとんどはしっかりしたムスビ状で、鈍い金色をした新しいフンに見える。
 フンがかたまって見つかった場所は、写真のようにヒノキ林だが枝打ちして見通しもよく、笹がまばらに生えている。
 ここまできて『信州のけものたち』(両角徹郎、両角源美著)を開いたら、こんな記述があった。
 「ササ原へ集まったたくさんのノウサギが、赤ションをふりまきながら10平方ぐらいのところの雪を縦横無尽に踏み荒らしてある。これはノウサギの生殖行動と関係がある・・・」
 「赤ションは発情期のメスが生殖器から分泌する液(中略)で、ノウサギのオスを数百メートルも離れたところから引き寄せる」
 「冬は食物となるササの葉のあるところへ出てくる」
 これからすると、小屋の森に住むメスの赤ションに誘われて、近隣の林から大勢の雄ノウサギがやってきて、食料となるササが茂ったこの場所で宴を開いたあと―と推測されるけれど、さて真相は?。

 もうひとつは、大きなフンに混じって、
その半分くらいの大きさのフンがいくつもあること【写真右下】。直径を計ってみると、大きい方の普通のサイズは18ミリ、小さいのは12ミリ。6ミリの差だけれど、高さも違うので体積では三分の一以下になる。
 おとなのノウサギでも時に小さいフンを出すことがあるのか、あるいはこどものノウサギがまじっているのか。
 『山の動物 民俗記』(長沢武著)にこんなことが書いてある。
 「ノウサギの出産は年に二回ある。一回目は四月ころ、二回目は夏の終わりころ、一回に二匹前後を産み落とす」
 「子ウサギは生まれたときにはもう全身褐色の毛に覆われ、目も開いていて、すぐ走ることができる。これは逃げることのみを唯一の武器として神様が与えてくれた本能・・・」
 少しだけ早い気もするけれど、子ウサギがいてもおかしくはない。

 ともかく、小屋の森の周辺には、それなりの数のノウサギが住んでいる?ようなのでホッとしている。
 

手を触れてはありません。こうしたフンの集まりが何ヵ所も見られる。

並び替えてあります。

※写真は三枚ともクリックすれば拡大されます