座頭市といえば、当然のことながら勝新太郎演ずる、ドラマシリーズが浮かんでくる。手にした仕込み杖で、悪人どもをばったばったと薙ぎ倒す―あの痛快時代劇である。

 諏訪湖の森の座頭の市さんは、そんなにかっこいいことはない。
 愛嬌もいまいちだ。
まあ見方によっては個性的な魅力の持ち主といえなくもない。
 正式な名前は盲蜘蛛(めくらぐも)、別称 座頭虫(ざとうむし)。
  目が退化してしまったのか、四対八本の足のうち、一段と長い二番目の足二本を杖がわりに前方へ伸ばし、まさぐりながら慎重に歩く姿から"座頭"を連想してのネーミングらしい。
  体長せいぜい七ミリほどだが、足の長さはその六倍を超え、糸のように細く長いため、アシダカグモともよばれている。一見して軟弱に見えるけれど、強いあごを持った肉食。小さなバッタなど食べてしまう。
 姿が蜘蛛に似てクモの名前もついているけれど種類は別。もちろん糸もださないし、ネットもはらない。

  毎年つゆに入ったころ姿を見せ、秋遅くまでいる。
  小屋の森に通うようになって初めてお目にかかったけれど、これだけいくつもの名前を持ち、"座頭"などとしゃれた愛称までついているのだから、意外と広く知られた存在なのかもしれない。
  デッキにずかずか平気で上がりこんでくるけれど、刺すでも食いつくでもない。  はじめは宇宙人のような姿になじめなかったが、害がないと知って、そのうち慣れてきた。 
 とはいえ心象のよいヒーロー"座頭"の名前がついていなかったら、きっといまだに毛嫌いしていた―というあたりが本音かもしれない。
 

―日記からこぼれた里山暮らし余話―
里山らいふ