ずり落ちもせず、地面をはっているのとほとんど変わりない。
よく見るとやはり仕掛け、いやテクニックがあった。
幹の表面のわずかに膨らんだ部分―節とか小枝、樹皮のめくれ―などに、伸ばしたからだの頭の方の一部を乗せるか、あるいはひっかけて支え、あとはウロコを樹皮に吸い付かせるように密着させ、強靭なバネをきかせて、からだを上に引き寄せている。
次に引き寄せた胴体の尻尾の方の一部を突起にひっかけ、それを踏み台にして立ち上がる感じで、上体をするすると上へ伸ばしてゆく。
先方に新たな突起を見つけては支える場所を替え、それを繰り返す。
降りるときは逆にその突起に胴体の一部をひっかけて支えにするだけで、要領は同じ。直径2センチほどの細い横枝をわたるときは胴体をやや蛇行してたくみにバランスをとっている。
以上は見ていてナルホドと思った木登りテクニック。独断と偏見があるかもしれず、実はもっと意外な事実が隠されているかもしれない。
ともかくヤマザクラ、ウワミズザクラ、ジシャの三本の木をわたる途中、真っ直ぐ立った幹やツタ、細い枝の渡りと、いくつかある難所らしきところも、拍子抜けするほどあっさりしのいでしまった。
この間、移動距離にして10数メートル。単なる散歩だったのか、獲物はとり逃したのか-は、分からずじまいだった。
アオダイショウはネズミや昆虫、時には木の上の小鳥のヒナや卵なども食べることもある。おとなしい性質で人を襲うことはない。家にすみつくものもあるが、ネズミをとってくれるので"屋敷へび"と呼んで喜ぶ人もいる。
この日見たアオダイショウを屋敷へびと呼ぶには理由がある。以前から何度となく小屋の高床下で日向ぼっこしているのを見ており、屋根裏で脱皮あとの抜け殻をみつけたこともある。
床下のどこかに住みつき、小屋とその周辺をすみ家とするヒメネズミなどを捕らえて食べているようなのである。
惜桜小屋のヤマザクラにアオダイショウが登り、隣り合う三本の木の枝から枝を伝って、また降りて来るまで、じっくり間近で見る機会があった。
見つけた時には、まだヤマザクラの根元付近にいた。
直径20センチ近いサクラの幹にとりついたアオダイショウは、全長が優に1メートルを超えていた。
さてどんなしかけで真っ直ぐに近い、立った幹を登るのか、狙った獲物は何なのか、興味津々見守った。
案に相違し、幹に巻きつくこともなく、長い胴体をくねらせ、やや蛇行する感じで幹の表面を、ゆっくりだが確実に登ってゆく。