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  里山に咲くコアジサイが、こんなにもきれいで、こんなにもよい香りを放っているとは、ついぞ知らなかった。
 つゆのさ中の六月下旬、山の中腹にある鹿道(しかみち=獣道)を歩いていて、なんとなく甘い香りが漂ってきた。それが数メートル先のコアジサイの群落が発散しているものであることは、すぐにわかった。
 数十本のコアジサイが、両側から迫るように咲く場所にさしかかると、それはほのかに匂うなどという程度ではない、強烈ともいえる甘い蜜の芳香だった。
 改めて花に目をやると、これがまたハッとするほど美しい。
 どこかの小説の題名ではないが、限りなく透明に近いブルー。白でもない、青でもない、透き通った淡いブルーの細かな無数の花が、夏の木漏れ日を浴びている。
 この鹿道は頂上に向かう近道として、ときおり使っている。
  このアジサイの花も、毎年つゆの季節には同じように目にしてきたはずだけれど、花がこれほど美しいと感じたことも、これほどの芳香を味わったことも、かつて一度もなかった。
 野山の花は、その年の気候によって、開花の時が微妙にずれる。花が最も輝きを増す見ごろに、タイミングよく出会うのは本当に難しい。
 この日は運良く、ドンピシャリの、まさにその真っ盛りに遭遇したようなのだ。
 健康づくりもあって、山みちを積極的に歩き初めて何年にもなる。
 同じコースをたどっても毎年、いや毎回といってよいほど新しい発見があるのは、ひとつには定まらない気候のいたずらがあるからだ。
 おかげさまで、山みちの散歩はいつも新鮮で、興趣がつきない。


―日記からこぼれた里山暮らし余話―
里山らいふ