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 2004年の晩秋、茸と木の実を採りに出かけ、少し奥の雑木林で見つけた熊棚(くまだな)と熊のふん。
 「ナニ、出てきたら"やぁオヤジ"とかなんとか話しかけて、道を譲ってもらうさ」などと、冗談半分に強がってみたものの、緊張ぶりはとうに同行の友人夫妻に、見透かされていたようだ。
 今年は各地で熊の出没騒動が相次いだ。原因はいくつかの要因が重なった複合的なものらしい。
 「熊は森なり」という。まず奥山に、熊が安心して住める、豊かな森が育ってほしい。
 そして、人と動物が多少の緊張関係を保ちながら共存できる、緩衝地帯としての里山が、本来の姿を取り戻すことが大切だ。
 そうすれば、この熊騒動も半減するにちがいない。一朝一夕に望むべくもないことだけれど。
 思えば薪炭が用済みとなった、燃料革命以前の昭和30年代までは、里山、奥山がそれぞれの姿を保っていたような気がする。
 当面は保護、撃退、駆除のバランスを探りながら、手立てを考えることになるのだろう。今は熊の出る危険な森に入る時は、鈴やラジオで自己防衛するのが、森のマナーということかもしれない。
 この日は「熊山騒げ、犬山静まれ」の教訓? 通り、冗談も声高にそそくさとその森から逃げ帰ったのはいうまでもない。
 

熊棚は熊がナラや栗の木にのぼり、枝を手繰り寄せてドングリなどを食べたあと

―日記からこぼれた里山暮らし余話―
里山らいふ