第18回:らせんのあやとり 創作と伝承
(2025年9月号:通巻767号)4,5,6月号は現代創作作品、7,8月号は伝承作品の多面体構造の立体あやとり作品をご紹介してきました。今回は同じ立体構造でも「らせん」に注目することにしました。らせんの創作作品もシシドユキオさんが素晴らしい手順をいくつも発表されています。また、ダイナミックな手順の伝承作品も知られています。この両者を比較してご紹介しました。手順は全く異なるのですが、完成形だけを見るとどちらの手順で取ったのかわかりません。
螺旋(I)
螺旋(I):シシドユキオ 螺旋(I):シシドユキオ シシドユキオさんの創作作品「螺旋(I)」です。断面が三角形の筒に1本の長い糸が巻き付いた構造です。同じものを別視点から見た写真を並べました。印象がかなり異なるのではないでしょうか。
螺旋(II)
螺旋(II):シシドユキオ 螺旋(II):シシドユキオ 同じくシシドユキオさんの「螺旋(II)」です。今度は断面が四角形になっています。頑張って断面を正方形にしたいのですが、そうなるように糸を支えるのはかなりむつかしいです。
螺旋の五角錐
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螺旋の五角錐:シシドユキオ 螺旋(II)を縦にして、二重になっていた小指で押さえていた糸を分けて5本にして片側を絞ったかたちです。いろいろなあやとり作品の片側を絞って縦にした「東京タワー」とか「スカイツリー」と名付けられた作品を見かけますが、1981年に発表されているこのシシドユキオさんの「螺旋の五角錐」が特に素晴らしいと思っています。
アタヌアの家
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アタヌアの家(マルケサス諸島) シシドさんの作品は、普通に「人差し指の構え」から始めてそれぞれの輪の糸を取ってゆくという典型的なあやとりの手順の組み合わせで取ることができるのですが、この「アタヌアの家」はそれとはまったく異なる手順で作ります。極めて合理的な手順ですがこの完成形ならではの手順です。最初に片手の手首に糸を巻き付けて(その巻き数が完成形のらせんの巻き数になる)、続いて左右の手を横切る糸を手の甲に巻き付けて準備する、という操作をします。
この手順のおかげで、三角柱の断面の三角形の大きさが比較的均一な出来上がりになります。シシドさんの手法だと、どうしても中央が細くて両手に近い側が太くなりがちです。これはこれで美しいと思うのですが…
螺旋、アタヌアの家を両手で取ってみる
「螺旋」を両手で取る アタヌアの家を両手で取る シシドさんの「螺旋(I)」「螺旋(II)」はいずれも巻き数を増やす操作を片手のみで行います。シシドさんはこれらの作品の手順の記載の後で、「巻き数を増やす操作を両手で行ったらどうなるでしょう?」となぞかけしています。それをやってみたのが上の左の図です。同じことを「アタヌアの家」でもやってみたのが上右図です。中央が交差か絡みかの違いになりました。
二重螺旋
二重螺旋:シシドユキオ 二重螺旋:シシドユキオ これは完成写真しか載せられませんでしたが、シシドさんの「二重螺旋」です。
おまけ:二重の「アタヌアの家」
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二重の「アタヌアの家」 ちょっとだけ長さの違う2本の紐を使って二重の「アタヌアの家」を取ってみました。最初はこれをこの回の最後に掲載する目玉の作品にしようかと思ったのですが、ちょっと詰め込みすぎでやや違和感があったのでやめました。
参考文献
- あやとりマンダラ(1) 宍戸行夫 日本あやとり協会会報(SFAJ)No.7, p.3(1981.6)
2025.11.02
2025.11.02 公開
2025.11.02 更新
長谷川 浩(あそびをせんとや)
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