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いい旅をするための6つのStep道楽者コラム目次

 



 

道楽者コラム 第10話


知らないまちで飲むこと

  このコラムに酒の話題が多いのを承知のうえで、今回もまた旅先での酒について語ってみたい。何しろ、ふだんから酒を飲むのが好きなタチなので、旅先となると余計酒を飲むのが楽しみとなってくる。昼酒は後からきいてくるので、最近ではあまり昼間から酒を飲むことは慎んでいるが、夜の一杯となればそれは真剣なものである(笑)。

 その真剣さのひとつが、どこで、何を、どのように飲むか、ということである。そのなかでも「どこで」すなわち飲食店の選択は極めて重要なポイントとなる。旅先の印象をすべて決定づけてしまいかねないからだ。

 鹿児島にある有名な郷土料理の店では、注文を取って芋焼酎のお湯割りが出てきたのはよいが、その後長時間にわたってなしのつぶてにされた。この店にはお通しがなかったので、ただひたすら芋焼酎を飲んで待っているしかなかったのである。料理を頼んで時間がかかるというのはよくある話だが、それならせめて「お時間がかかりますが」の一言くらいほしい。北海道釧路市にある炉端焼きの店は、焼き物に時間がかかるからと先に刺身はいかがかと勧められた。これがおもてなしというものであり、売り上げのアップにもつながっていく。

 一方で、予備知識なく跳び込んだ店で、思いがけないような楽しい思いをしたことも数多い。私の経験からすると、るるぶやまっぷるといったガイドブックで紹介されている店は、当たり外れが多い。北海道小樽市の有名鮨屋で、私より後に注文した常連の握りが先に出され、内心激怒したこともあるが、こういう店は極端としても決して珍しくはない。もちろん、ガイドブックに出ている店がすべて悪いわけではなく、美味しかったり、いい雰囲気だった店だってある。

看板などからも店の雰囲気を読む(東京で) 予備知識なく跳び込む店というのは、私の場合で言えばたいがい一杯飲み屋とか大衆酒場、そんなところが多い。当然、ガイドブックなんか目もくれないような店ばかりである。そういう店は地元の人だけを相手に商売をしており、観光客の気配すらない。だからこそ、本当の意味でその土地の雰囲気とか、人々とかを感じることができるのである。そして、たいがい安いというのが嬉しい。

 もちろん、この手の店はピンからキリまであり、なかにはとんでもない店というのもあるだろう。ただ、旅道楽を重ねているうちに、この手の店を嗅ぎ分ける嗅覚が研ぎ澄まされてきているためか、ほとんど外れを引いたことがない。案外、自分の住んでいるまちで飲んだ時に「しまった」と後悔するような店に遭遇してしまうケースが多々ある。

 どんな店ならよいだろうか、と言われても、こればかりは自分の第六感に頼るだけなので何とも言いようがない。ひたすら自分の嗅覚を信じるしかない。私自身、店の前で入ろうかどうしようか躊躇して、またさまよい歩いてから店の前にきて考えて―という経験は何度もある。さすがに最初の一杯目の店は事前にチェックしたところから行くことにしているが、そのあとの流れはまさに「酔った勢い」。私にとって旅先の酒は、自分の嗅覚を研ぎ澄ましていく修練の場でもあるのだ。