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いい旅をするための6つのStep道楽者コラム目次

 


 

道楽者コラム 第4話


大阪で飲み歩く(おっちゃんに囲まれて)

 大阪の立ち飲み屋、一杯飲み屋は、東京などで居酒屋に行き慣れている人であっても、その一種独特の雰囲気には驚かされる。むろん、大阪人にとっては当たり前の光景であっても、東京育ちで信州に住んでいる私には、別の国にいるような気にすらなる。大阪人に「なに言うてる!」と怒られそうだが、率直な感想である。

 まず、たいていの飲み屋に気軽に入れるようになった私でも、大阪でおっちゃんたちがたむろしている飲み屋というのはさすがに躊躇する。関東の人間がまず考えるのは、一見客に対するおっちゃんたちや店の人の目が怖いということだ。初めて訪れた鮨屋で、カウンターに常連さんが三人、四人といて店の主人とおしゃべりしているところに入っていくと、話が一瞬とぎれ、一瞥されることがある。これは結構バツが悪いものであり、結構こういう経験をしている。

 ところが大阪の立ち飲み屋では、まずこういう経験はない。すなわち、店にとっては一見も常連もへったくれもないのである。ある意味、無関心を装うという大阪人独特の気遣いなのであろう。縄張り意識よりも、「まあ、一緒に飲もうか」という意識の方が強いということなのだろう。

京橋の立ち飲み店 だからといって、「こういう店初めてなんです」などというヤボなことは言わないほうがよい。この手の店の人はかなり忙しい。カウンターに陣取ってから何を注文するか長考することはよくない。大阪人はイラチと言われるほどせっかちなので、席に着くか着かないかのうちに注文を入れる人も多い。店の人も、こちらが「どっこいしょ」を言う前に「何にします?」と聞いてくる。

 そこで私の場合は、席に着くと同時に何を飲むか瞬時に決める。そして、飲みたいものと「どて煮」をとりあえず頼んでおく。どて煮は大阪名物で、牛モツを串に刺して煮込んだ物でたいがいのお店にはある。これを頼んでおき、それからおもむろに店のなかに張ってあるメニューを眺める。大阪の立ち飲み屋や一杯飲み屋は、驚くほどたくさんのメニューが居並んでいる。注文の前にメニューを見てしまうと、かなり悩んでしまい、イラチの店の人を余計に苛つかせることになるので、この手を使っている。

 飲み屋のなかには、テーブルのうえにあらかじめ小鉢を用意し、客の注文に応じてそこからサッとだしてくれる店もある。また、串カツを出している店のなかには、カウンターに置かれたタッパに揚がった順からどんどん並べていくというところもある。客はあえて注文せずとも、勝手に串カツを手にとって食べている。店側は客の食べた串の数で勘定を計算するので問題はない。時間がたてば冷めてしまうが、そんなときは遠慮なく「これ温めて」と申し出ればよい。もう一度油通しをしてくれる。
 
 大阪の立ち飲み事情もだんだん変わりつつあるが、おっちゃんたちがたむろしている店は、例外なく若い女性の姿はない。ごく時々カップルがいるくらいで、女性にとって決して居心地のいい場所ではないのだろう。ただし、時々やってくるおばちゃんは、おっちゃんに負けず劣らぬすごいキャラクターの人が目立つ。身も心もどっぷりと大阪人にひたるのなら、あえてこういう店に飛び込んでみるというのも面白い。