灰色の空

第二章 第一話
決断

自由ハーヴェイ連合 貿易都市ゲーブルセイム

 金属質の冷たい風が、闇に駆ける。それは、心地よく涼しい。路地裏の焚き火と、人々の話し声が、心地よく暖かい。いつもと変わらない、ゲーブルセイムの夜。
 この空の様に気分は晴れないが、それでも居心地が良い。世界随一の大剣使いは、そう思った。彼女の名はクローナ・ティルピッツ。寝ても起きても、SSの身分を捨てた者だ。
 「温かい内に食べぇや。」
 「あ、どうも。」
 ぼんやりと空を眺めていた彼女は、隣にいた中年の男に勧められるまま、食事に手をつけた。随分と美味な代物だ。ドラム缶を叩き切った鍋で火を通した物とは、到底思えない。それもその筈で、街の一流ホテルやレストランから、余った食材を譲り受けて、炊き出したものなのだ。
 しかし彼女にとっては、その詳細はどうでも良くて、温かい食事が嬉しい、というところだった。あの脱走事件から二日、あの子を家に送ってすぐに別れ、その夜は野宿で傷の養生。治癒力の非常な高さも、先天的なものだ。今日は飛行移動を駆使し、夜になって、ようやくこの街。
 だが、こうやって落ち着いてみても、やはり心安らかではない。
 「手が止まっとるぞ。」
 「あ、ええ…。」
 つい、色々と考えてしまうのだ。新しく生活の基盤を確保したいとも思うし、しかし親の事はどうするのか。もう処刑されたのかも知れない。行くべきだろうが、もしそうだとしたら、それを見たら、自分はどうすればいいのか。正直言って、恐怖を感じるのだ。
 迷ったまま、時間だけ過ぎていく。
 「また止まっとる。冷えるぞ。何を考えとるん?」
 「いや…、まあ…。どうして、関わろうとするんですか?」
 「そりゃあ、若くて美人の娘が居たら、男なら誰でも気にも掛けるぞ。」
カカカ、と中年の男は笑った。微妙な作り笑いで雰囲気を合わせるクローナ。そんなもんかな、と思う。
 「まあ、なんだ。こんなところで飯食っとるからには、お前さんも苦労したんだろう。でも、底まで来たら、何もかも無くしたら、あとは今より良くなる以外はないっちゅうのも、よくいう話だ。そう落ち込みなさんなって。な?」
 男は再び、白い歯を見せて笑った。
 考えてみれば、まだ底辺には来ていない事を知る。失って困るものは、間違いなくある。しかし、それを目の前の男に向かって口にする事は、止めた。その代わり、古びたスプーンを働かせる事にした。
 そこかしこで、同じように、食事を取る姿が見える。皆一様に、その風貌は疲れ果てて見える。しかし、その表情に注目したときは、また別の答えが出るだろう。性格の差か、境遇の差か、体力の問題か。そんな事を考えながら、クローナは、最後の一口を呑み込んだ。

 

 「ヴェムさ〜ん、ヴェレイン・アークトゥルスさ〜ん。郵便ですよ〜。」
 「おーす。今行っきまっす。」
 オンボロアパートの一室、その朝は、そんな風に始まった。
 「はいはい?」
 「役所から郵便が来てますよ。」
ひょい、と玄関から顔を出すと、郵便局の若い配達員が立っていた。
 「おいっす。ご苦労さん。」
 「じゃあ、どうも〜。」
簡単な遣り取りで、配達員は次へ、ヴェムは部屋へと別れた。早速、歩きながら封筒を開ける。結構大きな代物だ。入っていた紙切れは三枚。
 「よしゃ、通ったか。」
 旅行者証書は、アガスタ連盟全体に属する国籍証明書とも言える。加盟各国のいずれにも籍を入れない代わり、国境通過の際、当該国民に準じた出入国審査を受ける事が出来、一部の税金を免除され、拳銃までの武器を所持する事が出来る。悪い物ではない。だから国籍を持てない者は大半が取得するのだが、その審査では指紋や顔写真など、各種の捜査資料を取られてしまう。そのため、おかしな事をすれば、たちまち面が割れるという側面もある。そして、どこかの国籍を取得しても、その記録は抹消されない。それに加えて、国家機関による福祉制度などは、殆ど利用する事が出来ない。
 そして、それらのデメリットは、元SSたるヴェムには、気に掛ける程のものではなかったのだ。
 「これで、やっと動けるな。」
 にこにこしながら、彼は口にした。ようやく手にした身分証明書だ。実際にはザル同然の審査でも、これが有るのと無いのでは、人の反応がまったく違う。仕事もだ。もちろん、生粋の現地人に比べれば、相変わらず不利なのは否めない。世知辛い世の中ではある。だがまあ、やむを得まい。
 彼はみすぼらしいソファーに身体を投げ出して、上を見上げた。汚い天井だ。蜘蛛の巣が張っている。
 「記念に、掃除でもするっかな。」
即座に跳ね起きて、上機嫌で彼は言った。入居して三日目の部屋は、随分長いこと空き部屋だったらしく、埃っぽい。
 窓を開け放つ。曇った空も、白く淡い光が充満して、心なしか明るい。
 「ん…?」
 ふと、身体が振動を捉えた。小さく、低く、全体を揺るがす様な振動。地震ではない。すぐに、腹に応える轟音が、東の空から現れた。
 「黒い悪夢…か。」
 砲塔が見える。用途の分からないハッチやら、アンテナや、無数の窓も。空飛ぶ要塞を思わせるそれは、黒い翼を空一杯に広げ、今、頭上を飛び越える。轟然たる重低音の波動。のしかかるように、頭上一杯に広がるくろがねの飛行要塞は、大地がもう一つあるとでも言わんばかりだ。
 先の大戦で、あのような、空中巡洋艦とも言うべき機械が、エルファト軍を鎧袖一触で蹴散らした事は、彼も知っている。あの機体も、戦闘に参加したのだろうか。いずれにせよ、あんな物に集団で襲われたら、メテオでも撃たなければ対抗できない、という気にもなる。
 「そいえば…。」
空を飛ぶと言えば、クローナはどうしてるかな。彼は、そんな事を思った。
 「まいっか。俺が心配してもしゃーない。」
頭を叩きながら、彼は、窓辺に背を向けた。さあ、掃除である。

 一通り埃払いが終わったところで、彼は、何かを叩く様な音を聞いた。振り向く。
 「のわ、雨か。」
慌てて窓締めに掛かる。先ほどまで比較的好天だったのだが…。
 激しいかと思われた雨は、今は細い筋の様に、音もなく降っている。ただでさえ音の減ったゲーブルセイム。こんな雨の日は、不思議な静寂が街を包み込む。
 「廃墟みたいだな…。」
 雨を通して見た街並みは、黒ずんで、疲れて見える。今から何をするかなどは忘れて、窓の外を眺めるヴェム。退廃的な眺めではあるが、同時に彼は、ゆったりとした落ち着きを見出していた。彼は、しばしそれを眺めていた。
 軽く窓枠を叩いてから、彼は体を起こした。
 「さて、買い物行かにゃー。」
どうやら、次の行動が決まった様である。

 食料品を買い込んで、次の日用品店に行く前に、彼はふと立ち止まる。ちょっと空腹。そして目の前には、「喫茶店・ステンドグラス」の看板が見える。迷うことなく、彼は寄り道を決めた。
 「…!」
だが、入ろうとして、後ずさった。何かに驚いた様子。
 「おいおい…。」
慎重に、中の様子を確認する。見知った顔があるのだ。即座に思い出されるのは、ここが通称“S−16”地点だということ。
 「おいおいおい…!」
間違いなさそうだ。予感で心臓が高鳴る。もう一度だけ、確認。
 「…あれ?」
 拍子抜けした様子で、彼は辺りを見回した。ほんの数秒だというのに、居なくなっている。
 ハッと、彼はある可能性に思い当たった。こんなタイミングで消えるのは、自分の気配を察知したからに違いない。察知した上で、このような反応をするという事は、当該人物の素性から察するに、脱走者である自分を消しに来た可能性がある、というのだ。
 一瞬のうちに今の思考を終え、即座に周囲を窺うヴェム。が、特に異状はない。
 「気のせ…。」
 気のせいかと言おうとした瞬間、頭上から、何かが降ってくる動き。エースになる者と敵のエースに喰われる者とを分け違える能力が、咄嗟に体を動かす。それも、買い物袋と傘は確保したままでだ。
 相当の衝撃音を伴って落下してきたのは、人間だった。その人物は、かがんだ状態から、ゆっくりと立ち上がる。
 「捜しましたよ〜…。」
 「…!」
どことなく恨みの籠もった様な声に、一歩だけ後ずさるヴェム。金色の前髪に隠れて、ハッキリとはわからないが、見覚えのある、あまり迫力のあるとは言えない顔立ちだ。
 「…俺を殺しに来たか…?」
 「そうですよ〜…。みんな迷惑したんですからね〜…。」
 推測が全て当たっているなら、逃走は無意味だ。事と次第によっては、抵抗すら無意味となる。
 実に無駄だ。そうだとしたら、そもそも考える事自体が無意味であろう。そんな事を不真面目に考えながら、歩いてくる相手を、ただ待つヴェム。
 相手が目の前まで来たとき、彼は急にニヤリと笑い、その肩を叩いて、言った。
 「お前は正直で良いよな〜、クローナ。嘘がバレバレ。さあ、何があったか、おぢさんに言ってみなさい。」
 「うぅぐ…、ヴェムさんのそういうところが、嫌いなんですよ…。」
俯きながら、相手はそう答えた。ヴェムの予想通り、クローナだった。 「何かあったら“S−16”で会おう。」の言葉は、お互いに覚えていたわけである。

 大きな雨粒が、窓ガラスを叩く。その勢いはいよいよ激しく、店内は閑散としている。二人は、雨の中で立ち話も何だから、と例の喫茶店に入っていた。
 「やっと落ち着いたな。…いや、驚いたよ、ほんと。どしたん?」
 「新聞…、読んでません?」
 「ん、最近読んでない。忙しいし。新聞に出たの?」
 「ええ、まあ…。」
口を濁して、クローナは、紅茶を飲んだ。ふぅ、と一息。一方、どこか様子のおかしいヴェム。
 「…何ですか。」
 「いや…、まあ、な。お前って結構良い体してるよな〜って。」
はぁ、と素っ頓狂な声。突然何を言い出すのか、クローナには理解できない。
 「ほら、そのシャツ、透けてるぞ。」
 「え? あ、もう…。」
頭から大雨を被った二人。ずぶ濡れになった上着を脱いでいたクローナだったが、上着に留まらなかった様だ。見下ろしてみると、確かにヴェムの言う通りかも知れない。やれやれ、と腕組みして誤魔化す。
 「俺もぐしょ濡れだぁ。まあ、何だ。男の場合は見苦しいだけだけど、お前は良いよな。」
 「良くはないですよ。言われなきゃ気付かなかったのに。」
ぬけぬけと言ってのけるヴェムに、クローナはちょっと怒った素振りを見せてみた。
 「気付かなきゃ良いのか?」
 「そういう問題じゃありません。」
 「で、なんでここに居るの?」
うっと詰まるクローナ。自分でネタを振っておいて、突然話題を変えるという行為だ。
 「何ですか、その態度は…。」
 「さあね。で?」
 「…脱走したんですよ。港で。」
 「へえ…。というと?」
 「命令が…。」
 そこで口を噤んで、彼女は頭を振った。僅かの間に、表情は暗く沈んだ色を浮かべている。それは、言うまでもなく、思い出したくない記憶なのである。
 嫌なら言わなくても良い、とヴェムが口にするより先に、クローナは言った。
 「とにかく、もう、嫌だったんです。」
 「そうか…。」
 そこで会話は止み、他に客も少ない店内は、雨音だけが鳴り響く。急に遠い目で、何か考える様な表情を見せる二人。
 次に口を開いたのは、ヴェムだった。
 「ま、俺のアパートに行こうか。狭いけど…、このまんまじゃあ、風邪引きそうだし。」
 「アパートなんて持ってるんですね。」
 「おう。じゃ、行こうぜ。…ああ、風紀的な観点からすれば、外に出る前に、上着を着た方が良いな。」
 口を開きかけて、すぐ閉じるクローナ。代わりに、満面の笑みを浮かべたヴェムを、微妙に睨んでみる。より嬉しそうに笑顔を浮かべるヴェム。
 殴りたくなるが、それは思い留まる。何とも嫌な気分を味わいながら、それでもクローナは、ヴェムに付いていくことにした。

 ほんの数分。ヴェムのアパートまではすぐであった。
 しかし、じゃあ、などと言い残して、彼は日用品を買いに出掛けてしまう。勝手の分からない部屋に放置されて、戸惑うクローナは、そのまま置物の様にヴェムの帰りを待っていた。そしてそれが、彼の爆笑を呼んだことは、想像に難くない。
 やがて日も傾いていく。脱走三日目にして、屋根の下で寝られるのは幸運だと、クローナは思う。しかし…。
 「はぁ…。」
調理の手を休め、遠くを見て溜息。まだ、雨は上がらない。今夜一杯は、降り続けるだろうか。
 「どうした嬢ちゃん。悩み事か〜? うんうん、悩むなら若い内だ。うんうん。」
 「あ、いえ。」
 声の主は、管理人のおじさんだった。食事はアパート全体で出る。下宿屋と言った方が良いのかも知れない。再び、クローナは包丁を握って、野菜を切り分ける。優れた技だ。
 やがて食事も出来上がり、一同揃って夕食を取れば、後は寝るだけ。脱走の顛末など話してから、部屋へ戻る。
 「…。」
 「参ったな…。」
 問題は、その寝る場所だった。アパートは既に満杯で、ヴェムの部屋に入るしかない。ベッドは一つきり。にもかかわらず、人間は二人だ。
 「一緒に寝る?」
 「えぇ〜〜っ。」
案の定、嫌がるクローナ。ヴェムは、深く溜息をついた。
 「何が、えぇ〜〜っ、だよ。ったく。…わかったよ。俺がソファーで寝りゃ良いんだよな。やれやれ…。」
 「あ、良いですか? ありがとう。」
にっこりとクローナは微笑んだ。
 「…。」
 これで全く問題は無いはずなのだが、何か引っ掛かる物を感じるヴェム。何となく、嵌められた様な気がするのだ。しかしまあ、詮索しても面白くないだろう。放置する事にする。
 それはともかくとして、若い男女がすぐそばで寝れば、やる事は一つか。いや、彼は、そこまで関係が進んでいないと考えた。そんな内に睡魔が襲い、深く、深く眠りに落ちていく。
 やがて、アパート全体の灯も落ち、続いて街も闇へと沈んでいった。

 

 「入らないでって言ったじゃないですか!」
 「そんな格好してると思わなかったんだよ! 大体、ここは俺の部屋だぞ!」
 「部屋に誘ったのはそっちです!」
 朝っぱらから、そんな怒声が飛び交う。顔を真っ赤にして、二人は言い合っていた。それも、お互い下着姿で。
 その状況を、ヴェムは、非常に好ましくないと思った。だから、言う。
 「…ったく。お前、メタルハイゲンヒーって知ってるかぁ!?」
 「知りません! 何ですか、それは!」
 「俺も知らんッ!」
 「な…。あむ…っ。」
わけの分からない話術に圧倒され、言葉に詰まるクローナ。それを尻目に、ヴェムは、落ち着いて言った。
 「まったく。じゃあ、俺は外で待ってるから、早めに着替えて出てこいよ。」
 「…わかりましたよ。」
 その返事を聞いてから、ヴェムは寝室を出た。一応、寝室は別室。
 朝食を適当に済ませてから、部屋に戻って、ソファに腰掛け、ヴェムは考えていた。今朝の様なことが毎日あったら堪らないのだ。最初は気軽に泊めたりしたものの、若干強情なところもあるクローナと、ただでさえ狭いこの部屋では、同棲は相当の困難を伴うと明らかになったのだ。
 しかし、まさか追い出してしまうわけにも行かない。しかも、下手な対応を取って、武力に訴える様な事態になったら、負けるのはこっちだ。いや、まさかクローナに限ってそんな事はするまいが、ここは一捻り欲しいところ。
 取り敢えず、仕事を持たせるのが良いだろうか。収入も無しに、住むところも確保できまい。しかし、まだ若干17歳で、14歳からSSに居たなんて人物が、いきなり普通の職場に適応できるか…。ここは基本に戻り、相手の立場に立って考えるべきだろうか。
 「…ん?」
その辺を考えていると、ヴェムは、何か忘れていることがあるように思った。何とも都合良く、目の前の扉が開いて、クローナが現れる。
 「お前…。脱走してきたんだよな…?」
 「そうですよ?」
あまり思い出したくもないといった様子で、クローナは答えた。
 「親御さんはどうした…?」
ぴたりと動きを止め、開いた口を閉じて、彼女は俯いた。どうやら、何も手を打っていないらしい。
 「お前…。」
そんなんで良いのか、と言おうと思って、しかしヴェムは止める。相手の様子を見るだけで、どの様な心境にあるか、わかる。分かり切った批判は、無益な結果をもたらすだろう。追い出す目的で色々考えた結果が、この今に至ったことを、ヴェムは少しだけ後悔した。
 「どうしよう…。」
 「どうしようったって、行かにゃあ仕方ないぜ。よし…。」
そこでヴェムは、机の本棚から、使い込まれた地図帳を引きずり出した。
 「見ろ。アイゼンブルクから、海路で2日は掛かる。出港は昨日の夕方で、つまりまだ陛下の御一行様は海の上だ。」
 「ええ…。」
 「エルファトに無線機器は無いし、念話術が届くのもせいぜい10kmってところだ。つまり、お前が逃げた事は、まだ本国には伝わってない。」
まだ不安げな目で、ヴェムを見るクローナ。
 「だから、お前の親御さんはまだ城で無事な筈だ。ここから城まで大体2000km。半日で1000km飛べるんだろ、お前。ギリギリだけど、急げばまだ間に合うぞ。」
 「…!」
 ヴェムは、非常に簡単な幾何の計算で、クローナの不安を粉砕してみせた。何故、この程度の計算をしなかったのか、クローナ自身が、今は不思議でならない。僅かの時間で、その不安の表情が消えていく。
 代わりに、焦りの表情が見えてくる。今すぐにでも飛んでいきそうな彼女を 「待て。」とヴェムは制した。
 「焦っちゃあ、駄目なんだな。ここに城の見取り図がある。襲撃手順は…。」
 「なんでそんな物持ってるんですか!?」
 「いや、まあ、なんとなく…。」
 城は要塞であり、帝城は皇帝を擁する。その造りは、それ自体が高度な機密事項。たとえSS兵といえども、正規のルートでは見取り図など手に入らない筈だ。それなのに、だ。驚きを隠せないクローナ。
 「まあ、細かい事は良いさ。お前にプレゼント。」
にもかかわらず、あっさりとヴェムは流してみせた。
 「救出方法は自分で考えてくれ。じゃあ、頑張れよ。」
 「え、あ…、はぁ…。」
見取り図を片手に、目をぱちくりさせているクローナ。話の展開が急すぎた様だ。
 「俺には無理だけど、お前なら出来るだろ? 全部上手くいったら、ここへ戻って来いよ。待ってるぜ。」
 「…はい。」
 迷っている暇なんて無かった。迷う理由も無かった。でも、まだ間に合う。私だから、可能性がある。そして、間に合わせてみせる。個人的な事とはいえ、決意を胸に、クローナは空を見た。今日も、灰色の空だ。

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